酔っ払いの治し方
「毎年、試練の時に王族が激励の言葉を送るのが習わしでな。今年は、去年の卒業生ということもあって私達が来たのだ。」
「試練の日は一週間ほど続きますので少し早めに来たのですが、案の定襲われ結局何日かしか余裕を持てませんでしたね。ティア元気でしょうか…」
命を狙われていることを心配しているんだろうな。
ラヴィの家で襲われたなんてことは心配させるだけなので今言う必要はないだろう。
必要ならティアが自分で言うだろうしな。
それに、俺も全力を持って守る所存だ。
「元気すぎるくらい元気ですよ。あの行動力の凄さは感服ものですね。」
「変わらないみたいだな。」
「コータさんとティアの出会いとか聞いてみたいですね。」
はあ?いやいや、あれは人に言えるようなものではない。
いや、多少誤魔化せばいいのか。うん。
「そうですね。まだ俺がこの街に来たばかりの頃、道もよくわからなくて迷子になってしまったんですよ。その時にちょうど近道をしていたティアと出会い頭にぶつかってしまいまして。時間がなかった俺が感激のあまり手を握りしめたのが出会いでしたね。」
色々と真実を混ぜながら誤魔化してみた。
真実の中に嘘を混ぜるとそれっぽく聞こえるのは道理だよな。
ティアはチンピラに絡まれていたがそれすら説明するときに気を使わないといけなそうだったし、抱き締めたなんてもっと言えない。
「駄目だな、王族や貴族に嘘をつくならもっと巧妙な嘘をつかないとバレバレだぞ?」
「そうですね。全て嘘ではないようですが、肝心な部分が嘘のようですね。嘘をつくとき妙に臨場感を持たせようと急に身振り手振りが大きくなったり、声の抑揚が大きくなったりする癖があるようですね。」
な、なんだと⁈今まで誰にも言われたことないのに…
俺が元から分かりやすいのかこの二人が特別なのか…
王族の怖さの一端を知った気がする。
「あ、着いたみたいですね!」
「運のいい奴め。まあ、変わらないんだがな。」
「今日の夜にでもティアに聞けばいい話ですからね。今日の夜は久し振りに夜更かしも良いかもしれません。」
どっちにしろ変わらなかったみたいだ。
ティアが住んでいるお屋敷には行ったことはないが、姉妹なんだし滞在するなら同じところに決まってるよな。
なんたる不覚…
「俺の尊厳を守ってくれ、ティア。」
「この話ってそんな話なのか?」
「面白そうですね。」
もう俺にはティアに祈りを捧げるしかなかった。
まあ、なんだかんだこのことを知っている人は多々いるので、今更一人二人増えたところでどうもないんだけどな。
「では、俺は冒険者ギルドに用がありますのでこれで。また後日会いそうですのでまたその時にでも。」
「ああ、その時までに根掘り葉掘り聞いといてやるからな。」
「私をからかった代償は高くつきますからね?」
くそっ!
何故か予想よりグロウまで長かったのだ。そのせいで余計な情報を与えてしまったではないか!
次会った時、他人のふりをしようなどと失礼なことを考えてしまわなくもなかった。
確認するために門番さんが扉を開いたので冒険者カードを見せて降りる。
「はい、大丈夫…ってお前、王族関係者だった、んですか?」
「いやいや、たまたま雇われただけだよ。グロウまでの補充要員だ。ほら、騎士が兵士引っ張りに来ただろ?」
「なるほどな。お前も運がいいのか悪いのかだな。よし、行っていいぞ。」
この門番さんもよく俺なんかの顔覚えてるよな。
俺みたいな平凡顔、実際俺の前に現れても覚えている自信ないぞ。
「ああ、ありがとう。」
よし、まずは冒険者ギルドでガレスと取引だな。クリフがいればあの話も進めればいいわけなんだが、そういや早めにクリフと話しないといけないな。
試練の後ってどんな予定になっているのか知らないのをすっかり忘れていた。俺自身の予定なのにな。
そのあとは特に用事はないんだが、少しくらい長くなりそうだからちょうどいいだろ。
とーうちゃーく!
「なんで俺って冒険者やってるのにこんな久々感あるんだろうな。光太七不思議の一つだな。」
冒険者なのに冒険をしない。でも、どこかからお金が湧いてくる。ってな。
なんだろう。こう考えてみると、俺ってイレギュラーが多いんじゃないか?
ディファードに来てから正規ルートに乗った記憶が一度もないんだが…
まあ、異世界に来ている時点で正規ルートではないのかもしれないな。
「えーっと、サシャはどこだ?あ、いたいた。」
なんかサシャのところだけ空いている。
まあ、どこも列をなす程並んでいるわけではないが、サシャのところは屈強な男たちが睨み合って牽制しあっている。アホらし。
そんなアホどもは放っておいてズカズカと営業スマイル全開のサシャのところへ。
「暇そうだな。」
「ええ、お陰様で。それで本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ガレスに話があってな。それにクリフがいるならあいつも。」
もうクリフさんなんて他人行儀には流石に呼ばないよな。
まあ年上なんだから敬意を込めてクリフさんでもいいんだろうけど、あいつがクリフって呼べって言ってたからな。
あいつと言っている時点でどうなのかって話だけどな。
「ギルドマスターはいつも通りあそこで呑んだくれていますよ。クリフさんは何やらギルドマスターと話があるようなのでもうじき来ると思います。」
「分かった。じゃあ俺はあの呑んだくれウンコ野郎をギルマス室まで連れて行くから、クリフが来たらそこに通してもらえるか?」
「はい、分かりました。」
駆け出しの話なのに通るのは異常だと思うのは俺だけだろうか?
これはロアの記憶改ざんがあったとはいえ、初日から暴れすぎたのかもしれないな。その後も色々あったし。
他には目もくれずウンコ野郎の元へ。
うわぁ、完全に酔っ払ってるじゃないか。なんだか魔法を使ってまで治してやりたくないな。
ブツブツと言っている言葉を聞く限り、まだ俺が押し付けた負債を完済しきれてないようだ。まあ、自業自得なので特に思うところはない。
よし、いいこと思いついた。これで治るかは分からないが物は試しだな。
「おい、ガレス!そんなこと言ったらまたアイリ達に絞められるぞ⁈ババァなんてまた命知らずな…」
「はっ⁈お、俺は一言もそんな」
顔から血の気がサァーっと引くように青くなっていくガレス。
おっ、酒が抜けたみたいだ。と思ったのもつかの間、ガレスの言葉が遮られる。
「誰がババァだってぇ!いいどきょわっ⁈」
「今日はやめてくれ。どこから現れたんだよ、まったく。」
どこから現れたのかアイリが超速でガレスに拳を叩き込もうとしたので耳を取り押さえる。
え?日本語がおかしいって?
いや、俺は事実しか言っていないので言葉の変えようがない。
まさかアイリが近くに居たとは誤算だったな。
「ひゃっ⁈そ、そろそろ離しなさいよ!」
「おお、悪い悪い。久々でつい堪能してしまった。」
「変態!」
変態とは失礼だな。
俺はエルフの耳触りを堪能していただけで、決して美少女を堪能していたわけではないのだ。
何を言っているんだ俺は…
「それはともかく、今ガレスに伸びられると困るんだよ。ほら、これやるから大人しくしててくれ。」
「ふんっ、しょうがないわね。ガレス、次言ったら丸焦げにして時計塔に吊るすからね!」
言ってないのに不憫な奴だな。
因みに、俺がアイリにやったのはまだまだ在庫が大量にあるコラっちの欠片、ではなくアルゴスのエメラルドの方だ。
エメラルドの方がエルフには似合いそうだったので、五センチくらいに球状にカットしたものを供物として捧げた。
ガレスの命と交換なのだが、大分色をつけての交換になってしまったな。
「ほら、ギルマス室に移動するぞ。ちょっと儲け話を持って来てやった。」
「ほ、本当か⁈今すぐ行く!」
俺にとっては厄介払いでも、今のガレスにとっては天啓に近しいものだろうからな。ルンルンなようだ。
ただ、感情を表すのに胸筋をピクピクさせる癖は治ってないみたいだ。
今度、ダボダボの服を嫌がらせのように送りつけてみるのもいいかもしれないな。
服がピチピチすぎるのも問題だと思うのだ。
覚えてない方のために
サシャは光太が冒険者ギルドに行った時にいつも対応してもらう受付嬢です




