毎日コツコツ大事!
「明日にはグロウに戻ることになったけどアルゴスはどうする?」
謝罪を済ませた後は、お互いに昨日、一昨日とどんなことがあったのか少しだけ話したり、その度にですわ、ですわ。ですわ!と罵られ…あっ、違った。
あり得ない、異常、理解不能などと言われはしたが、ちょっと契約者の空間に水場が欲しかったからアールブの森を離れたところから転写したとか、その為に一通り空を飛んだとか、エマにハイオークの肉なら腐るほどあるから献上したりとか、他にもあったが同じようなことを語っただけである。
それに転写の件に関しては、俺でさえ異常という言葉を使わないといけないほどの速度を出していたことや、魔物の森全体+αを転写したなんてLV.1ではあり得ないことは伏せて話したにも関わらずだ。
それで今は戻ってきたのだが、既に二時間程経過しているので早い期間とは言えない。
俺は早ければ明日戻ることにした。なので、アルゴスにどうするのか聞いている次第である。
契約しているのでいつでも呼び出せるわけだし、アルゴスがどうするにしても異論はないんだけどな。
「おいは特に拠点があるわけではないかんな。今まで通り気の赴くまま旅をしていると思うんだぞ。」
「そうか。じゃあ明日で少しの間お別れってことになるのか。なんだか短かったはずなのにアルゴスと出会ってからとても長く感じるな。」
「それはコウタのやること為すことが悉く濃いせいなんだぞ。精霊のおいから見ても驚かされることが多々あったかんな。人族の中でコウタが目立たないなんてことは、要塞亀を倒すより困難なはずなんだぞ。」
その喩えは洒落になってないからやめてほしい。
それに、
「そんなのロックタートルが弱いのがいけないんだろ?もう昨日のレベリングで色々試したから、弱点も難点も粗方理解出来てしまっているからな。うんうん、だから困難なのは当たり前なんだよ。」
「それを他の人の前で言わない方がいいんだぞ。コウタはもう少し加減を覚えた方がいいと思うんだぞ。」
耳が痛いが、そういう忠告ほど受け取っておくべきだよな。
ちょっとだけ納得しきれなくはあるが。
「でも、予想以上に終わるの早かったんだぞ。最低でもあと二、三日はいるものと思っていたかんな。」
「本当はあと四日ほど篭っているつもりだったんだけど、目標レベルを大きく上回ったんだよな。」
正確にはその予定なんだが。
軽く計算しただけでまだレベルを上げているわけではない。あとでクオに経験値マットを貰いに行かなければ。
「それに、あまり一気にレベルを上げ過ぎるのは怖いからな。このままだと下手したらいつのまにか1000の大台を、なんてことになりかねないような気がするんだ。うまく力をコントロール出来ないなんてことにはなりたくないんだよ。」
「コウタの場合、一概にないとも言えないから反応に困るんだぞ。」
実はこれが一番の理由だったりする。
初めて神化した時、少し体を動かすだけであの理不尽な破壊の嵐が起こることに内心少し恐怖していた。
もし身近な誰かに思わぬ形で怪我をさせてしまうのではないか、本当にそうなったとして怪我で済むのか、このままだと魔王ルート一直線なのではないか、と。
実際、そのレベル帯の時の完璧な動きができなくてもまだいい。そうできることに越したことはないが、今回みたいにレベルが急激に上がることもあるだろうからな。
なので、いきなり上げ過ぎるのではなく、慣らす期間を設けようと思ったのだ。ある程度まともに扱えるくらいまでは。
まあ、たった数日でいきなりレベルを四百も上げようとしている奴が何を言っているのかと思うかもしれないが。
「今後は少しずつ上げていくことを意識した方がいいかもしれないな。」
「普通はそうなんだぞ。」
毎日コツコツ大事!
それにアルゴスの言うように、貴族なんかは別かもしれないが冒険者は自分の狩った魔物でレベル上げをしているのだからコツコツせざるを得ないというのもあるのだろうが。
俺のような、客観的に見てジェノサイドを起こしているような狩り方ができる冒険者は極少ないだろうからな。
「理解はしているんだけどな。それでもうそろそろ夕食にするか?」
「おいもお腹空いたんだぞ。今日はパーっと豪華にいくんだぞ!」
言えない。もうそろそろハイオークの肉に飽きてきているなんて言えない。さっきエマに野菜とか牛系の魔物の肉とか分けてきてもらったなんて、嬉々としてハイオークを捌いているアルゴスを見ていたら言えなくなってしまった。
だって仕方ないと思う。四食か五食連続ハイオーク祭りなのだ。
すごく美味しいのだが、流石に飽きてしまってもおかしくないと思う。これは贅沢な悩みなのだろうか?
だとしてもストレージを見たくない今の心境を変えることはできないだろうが。
ちょっと冒険者ギルドに押し付けることも視野に入れた方がいいのかもしれない。
「ふぅ、ご馳走さま。もうお腹いっぱいだ。」
結局耐えきれず貰ってきた食材を出したのは言うまでもないだろう。
あると分かっていて我慢しなければならないとは地獄そのものだと思う。無いのなら我慢せざるを得ないのでまだ耐えられていたと思うのだが。
「んしょっと。また少し席を外すけど今度はすぐ戻ってくるから。」
「おいはもう少し食べてるからゆっくりしてきていいんだぞ。」
「ああ、分かった。」
まあ、明日にはグロウに戻るのでゆっくりしても同じなんだけどな。
そういえば、篭る期間が短すぎてクオたちと一緒にいられないのが、あまり精神的苦痛として追い詰められたりはしなかったな。
なんかお泊りに行って、少し会えなかったみたいな感覚だ。
「『テレポート』」
暗いな。
「『ライト』。クオ達はまだ夕食中みたいだな。戻ってくるまでアレを作って時間を潰すか。」
アレとは遠話ブレスレット(巨大)である。
アルゴスとは別行動になるので必要だろうと思ったからだ。
俺からは強制召喚できるわけなんだが、アルゴスからは連絡手段がないのだ。
それに俺からの場合も、わざわざ召喚までするほどのことでは無いことだってあるだろう。
そんな時のためのブレスレットだ。もちろん俺用のは俺に合わせた大きさだ。
「ってアルゴス用の糸が足りないな。というか、ワイヤーとかの方がいいような気もするな。」
みんなに配っても有り余っているコラっち宝石コレクションに穴を通して珠数のような感じをイメージして作っていたのだが、いかんせんアルゴスの腕は体に見合う大きさをしているので糸が足りない。
流石に大きくなり過ぎるので、糸を撚り合わせて太くするか、ロープか何かにする必要があるので思っている以上に糸を消費すると思うのだ。
どうしようか…
「あ、そうだ。俺天才だな、うんうん。」
もう自分の閃きに惚れ惚れするね。
今から糸やロープを買いに行くのも面倒なのでアルゴスには俺と同じ大きさのブレスレットで我慢してもらおう。
え?何が天才なのかわからないって?
そんなの決まっているじゃないか。
「俺にはブレスレットだけど、アルゴスには指輪にちょうど良さそうだよな、これ。」
どうだ、天才だろ?
少し大きめにはしているが、もし入らなくても精霊は大きさを変えられるとか言ってたからな。
もし入らなければ。使うときは面倒でもそうしてもらおう。
なんだか、アルゴスにやるアクセサリーで四苦八苦するのは嫌なのだ。
どうせ苦労するならクオやレティ、リルにプレゼントするもので頑張りたい。
「どうするの?もう自分で天才とか言っちゃって手がつけられないんだよ。」
「男にプレゼントを用意しているみたい。」
「あんなに宝石をあしらって、本当に男になのかしら?」
声が聞こえた方に目を向けると、クオ達がいつのまにやら戻ってきていたみたいだ。
ちょっと色々と誤解があるようだな…
………しっぱいしたぁぁあ!え、なんで?
なんでこんな時に限って天才とか言っちゃったんだろうか⁈あー、恥ずかしい…
穴があったら入りたいとはこのことだろう。
「い、いや、あの、違くてだな。その、これは離れていても話ができるようにって。」
「遠距離恋愛?」
「いやいや!なんでそうなるんだよ、レティ!」
「じゃあ、なんなのよ。自称天才さん?」
うぐっ。久しぶりにリルのこの顔を見た気がする。
楽しそうですね!
「クオはどんなコータでも受け入れるから抱え込んだらダメだよ?」
「ゴハッ!」
そのあとクオ達にも何か作ることを強要…約束させられた。
作る苦労は楽しくあっても、今のこの苦労は望んでいたものではないのは気のせいではないだろう。
クオに経験値マットをもらったあと、帰る足が覚束なかったのは言うまでもないだろう。




