要塞亀レベリング
覚えてない方もいらっしゃると思いますので一応。
GPは神化した際のステータス表示された神力のことです。
1GP=1000万MPです。
「これで十個っと。」
ロックタートルの中から魔石を取り出す。
やっとこれで十個目だ。
結局、魔力譲渡スキルを使った要塞亀レベリングは成功しているわけなんだが、これは普通の人には出来ないな。
まずロックタートルを単身で倒せるかどうかは置いておくとしても、迷宮がロックタートルを生成するのに10GP、つまり一億の魔力を注ぎ込まなければいけないのだ。
それに一度目を賄うことが出来たとしても、二度目、三度目、ましてや今の俺みたいに十回も行うことができる人間はそうそういないだろう。
LV.700越えのリルでさえ一回も出来ないといえばどれくらい無理な話か分かると思う。
「まあ、俺はまだ一千回程は行えるからな。いいレベリング装置を見つけたもんだ。でも、これがなければもう少し効率いいんだけどなぁ。」
そう言いながら扉をくぐる。
最奥の扉の向こう、俺は通称ボス部屋と呼んでいるのだが、ロックタートルを呼び出すには必ずボス部屋を出なければいけないのだ。
最初の一、二回はロックタートルを倒すたびに周辺被害を気にせず戦っていたので周りはボロボロになっていたのだが、外に出て再び扉に入ると綺麗さっぱり元に戻っていたので、それを治すために外に出させているのかと思い三回目は周辺被害を気にして戦ってみた。
それはもう首をスパッと一撃で。
それでも外に出ないと復活しないのは変わらなかったので諦めた。
因みに魔力譲渡自体はボス部屋内でも行える。
「でも、やっぱりというかなんというかコラっちみたいな変異種だか上位種は出てこないな。」
今の一回は15GPくらい注いでみたのだがそれでも出てこなかったので、迷宮も俺を本格的に排除しようとしているのではなく、これ以上無闇矢鱈に暴れられないよう妥協しているのだろう。
自分で言ってて悲しくなるが。
「よし!単調な作業は飽きやすいからな。次は雷縛りでやってみるか。」
色々と試して弱点を炙り出してもいいかもしれない。
それがクリフ達の役に立つかもしれないからな。
俺も飽き対策になるし、クリフ達の役にも立つ。まさに一石二鳥だ。
「多少効率は落ちるかもしれないけど、途中で投げ出してしまうよりも何倍もいい。勝負だ、ロックタートル!」
「帰ったぞー、アルゴス。」
「もしかしてずっと要塞亀を狩ってたのか?」
「そうだけど?他に方法もなかったからな。でもそういえば、帰って来る途中に結構魔物見かけたな。」
俺が与えた魔力で外の魔物も生成していたのかもしれない。
結構たくさんロックタートルを狩ってきたので、面倒だったこともありオークやらは無視してきた。
ワープラビットだけは何かに使えそうだったので倒させてもらったが。と言っても一匹しか見かけなかったわけだけど。
それにしても、そんな呆れた目を向けないでほしい。
「なんだよ、その目。仕方ないんだよ、目的があってここにいるんだからな。」
「そういう意味じゃないんだぞ。これでまた一つ魔力譲渡の価値が上がったと思っただけだぞ。」
だったらそんな目で見ないでほしい。
「でも、価値はそこまで上がったとは思わないけどな。上位種族でもなければ一体呼び出すのも難しいはずだからな。」
「ちょっとコウタはズレてるんだぞ。」
なっ⁈お、俺がズレてるだと⁈
今の俺の言葉っめ正論じゃないのか?10GPなんて人族に、たとえエルフにだって軽々賄いきれるものじゃない。実際リルだってまだ半分程しか賄いきれないのだから。
「何も一人でやる必要はないんだぞ。元々、最奥級の魔物は人族が数十人単位で束になって勝てるかどうかだかんな。もっと言えば、戦う人間と魔力譲渡する人間を分けてしまってもいい話なんだぞ。」
「そ、そうだな。戦う前に魔力を使い果たしたら本末転倒だもんな。」
「それにだぞ。」
ま、まだあるというのか…
俺はそこまで世間とずれてしまっているというのか。
「そもそもの目的がコウタと一般の冒険者では違うかんな。コウタは前代未聞のレベリングとして活用しているけんど、普通だったらその素材とかを欲するものなんだぞ。一体を倒すだけで十分躍起になる価値があるかんな。」
「たしかに冒険者ってそういうものかも…でも、それなら魔力譲渡って特に必要なくないか?」
別に最奥の魔物は一度倒すと出てこないわけではない。
いちいち魔力を注いでまで生成させる必要はないと思う。無駄な魔力というものじゃないか?
「欲しい時にいるというのは大きいんだぞ。最奥の魔物は長ければ一月以上現れないことも珍しくないかんな。大きな迷宮になれば年単位で現れないこともしばしばあるんだぞ。」
「なるほど、じゃあこれがメリットになるのも頷けるな。」
まあ、その一年単位の大きな迷宮だと必要とされる魔力量も半端じゃないとは思うがな。
魔物の森は迷宮として小さいって話だし、それでGPを10も使うんだ。大きくなればその分増えるのは想像に難くないし、下手したら十億、百億単位の魔力を持っていかれてもおかしくない話だと思う。
でも、それだけ持っていかれるということはそれだけ強いということで。
「でも、俺がズレてるってこと納得してしまうな。今の話を聞いて、宝が待っている迷宮よりも奥で強い魔物が待ち構えている迷宮の方が美味しいと思ってしまう自分がいるからな。」
「どこまでもコウタはズレてるみたいだぞ。」
自分で思うのと人から言われるのとじゃ違うみたいだな。
アルゴスから言われると納得できない自分がいる。
「それでどのくらい倒してきたんだ?こんなに長い時間、よく魔力切れを起こさなかったんだぞ。」
「ごじゅう…さん?かな。五、六時間だったけど思ったよりも集まらなかったな。神化は他のスキルやバフと違ってHP、MPに影響するからな、まだまだ余裕がある。」
一回の所要時間は数秒から十分とバラつきはあったが、これも出来るだけ気を紛らわす為なので仕方のないことだ。途中で昼休憩をとったりもしたからな。
それに、ハイオークを何百と狩るよりも効率がいいのは間違いない。
それに探す手間もないからな。
まあ、この分じゃ魔力切れを起こすことはなさそうだな。
一つこのレベリングにデメリットがあるとすれば魔石の大きさだな。
キュクロプスの魔石で五十センチ程あるのだ。ロックタートルに至っては三メートル近くある。
吸収にも時間がかかりそうだな。
「その数で集まらなかったと思っている時点で、地震が起こる直前の断層くらいズレてるんだぞ。」
「おおー、流石土精霊!」
パチパチパチ
よし、そろそろ一度戻らないとな。あまり遅くなって待たせるわけにもいかない。
俺が謝らなければならない立場なわけだし。
時刻は多分四時に差し掛かるくらいだと思う。
「じゃあアルゴス。今日は少し長くなると思うから、遅くなりすぎるようだったら夕飯は先に済ませて大丈夫だからな。」
「ん?またどこか行くのか?分かったんだぞ。」
はぁ、憂鬱だ。
なぜ過去の俺はティアに一言告げなかったのか。
過去の俺をぶん殴ってやりたい気分である。
「『テレポート』」




