魔力譲渡
「じゃあ、魔力譲渡スキル教えてくれ。」
「まずは譲渡したい相手の魔力と自分の魔力を繋げるところからだぞ。イメージとしては細い魔力の糸が絡み合う感じなんだぞ。おいで試してみるといいんだぞ。」
ふむふむ。魔力の糸なんて初めて魔法使った時のコントロールどうちゃらでイメージに使って以来だな。
でも今となってはそんなに難しいことじゃないか。
「アルゴスの魔力に繋げる感じでいいのか?こんな感じでいいか?」
「いい感じだぞ。あとはその繋げた部分から相手の魔力の波長を感じ取って自分の魔力を出来るだけ近づけていけばいいだけだぞ。」
「出来るだけでいいのか?」
「ある程度近づけたらあとは勝手に調整されるんだぞ。」
「そんな適当でいいのか?」
思わず口をついて出た言葉だが、それだけ正直な感想ということだろう。
だってそうだろ?あれだけレベル関連で指紋のように違うとか説明されたものが、相手の体内に入るだけで同じように変化するっていうんだからな。
まあ、ある程度までは近づけないといけないらしいけど。
「魔力をそのまま流したらどうなるんだ?」
「他人の魔力なんて経験値にならない以上異物でしかないかんな。ほとんどの場合、何かの状態異常となって現れるんだぞ。最悪の場合死ぬ可能性もあるんだぞ。」
「死ぬ⁈そんな危険なスキルなのか⁈」
「心配いらないんだぞ。スキルが発現してしまえばスキルが調整してくれるかんな、だから危険性は皆無なんだぞ。」
なるほど。スキルとしての補正がかかるのか。
「でも最初が危険なのは変わらないのか。」
「おいの心配をしているのなら必要ないんだぞ。最悪死ぬっていうのは魔力が調整されずに過剰に流された時だかんな。いくらコウタの魔力が大きくても精霊のおいに過剰に注げるような魔力ではないうえに、魔力体である精霊は状態異常とは無縁なんだぞ。」
「お、おう。なんか精霊ってこのスキルのための存在と言われても納得してしまいそうな説明だな。」
本来死と隣り合わせのはずの修得作業も、精霊がいればデメリットが無くなるわけだからな。
「このスキルは魔物化の原点とも言われてるかんな。魔力譲渡スキルはコウタみたいに他者に魔力を渡したくて出来たスキルじゃないんだぞ。」
それからアルゴスの語った内容は驚くべきものだった。
昔、一人の男が手っ取り早くレベルを上げる方法を模索していたらしい。
レベルを上げるには自分以外の魔力を吸収する必要がある。しかし魔石以外からの吸収は、その前に空気中へと分散してしまうため魔素に戻り悉く失敗してしまう。
だがその男は考えた。直接送り込めば魔素に変わることもないのではないかと。
すぐにその実験を始め答えはすぐに出た。
その結果は失敗に終わる。
なぜ失敗したのか。それは生者が魔力を放出した際、属性が選択されてなくても魔法として発動してしまうからだった。
これは無属性魔法というスキルに発現しない類の技術体系として広まった。ここに結界なども入るみたいだ。
話を戻すが、その実験でもう一つの発見が行われていた。
それが魔力譲渡のスキルである。
他者に魔力を譲渡するスキルというのは魔力を回復する手段の少ない中で広まるのは想像に難くなかった。
しかしここで問題が一つ。その修得訓練中に状態異常の報告が多発、死亡する案件まで報告されたのだ。
だがその希少性ゆえ、報告が上がると貴族などはその練習台に奴隷などを使い潰すようになってしまう。
そんななかでもう一つの報告が上がってくる。
それは吉報であり、凶報であった。
とあるエルフの旅人がそのスキルの噂を聞き相棒である精霊と話し合った結果、状態異常の原因を突き止めたのである。
その上、精霊であればそのデメリットを帳消しにできることまで突き止めたのだ。
この吉報は瞬く間に貴族たちの耳に入り、精霊と契約しているものとの交渉が始まった。
しかし、精霊と契約しているものなどエルフ以外には殆どいない。さらにエルフは森から出てくるものは一部だけなので圧倒的に必要とされる数を賄いきれなかった。
それが吉報を凶報へと変えた。
それは奇しくも吉報だと齎したエルフに対しての凶報だった。
どうしても精霊を手に入れたい貴族たちはエルフ狩りを始めたのだ。
精霊単体を手に入れようとすれば勝ち目は殆どない。しかし、契約している精霊はほとんどの場合その契約者を見捨てることができない。
だから少しでも可能性のある契約者を、その中で契約者の数の多いエルフを狙ったのだ。
金にモノを言わせ、自分たちは高みの見物をしながら。
そしてさらに凶報は続く。
冒頭の男はこの話を聞き、別視点からこの話を見たのだった。
それは精霊という状態異常さえも跳ね飛ばしてしまうとてつもない魔力を内包する魔力体、それを取り込めばレベルなんて簡単に上げられるのではないかと。
昔の偉人は言った。人は楽をするためなら努力する生き物なのだと。まさにその通りである。
しかしこれも知っての通り魔物化という形で失敗に終わる。
途方もない魔力は人間が制御できる類のものではなく、さらに生きたまま無理矢理押さえつけられるような形になった精霊は暴走という形で結晶化してしまったのだ。
まあ、見方を変えれば魔物という形で魔石を生み出せたことは成功とは言えるのかもしれない。
労力に見合いはしないかもしれないが。
「そんな成り立ちがあったのか。それでよくエルフや精霊と仲良くやってるよな。」
「ここら辺はアールブの森が近いかんな。エルフの本拠地といっても過言ではないこの土地では被害が少なかったことが大きいんだぞ。でも、一度だけ帝国が攻め込んでるからここ近辺だと帝国とだけは仲悪いけんど。」
アールブの森とは、俺がエルフの森と言っているあの森のことだろう。
それにしても帝国は見境なくどこにでも喧嘩を売ってるよな。
それでよく潰されてないんだから凄いと思う。感心はしないがな。
でもここまで来たらほぼ確定と言ってもいいだろう。
近隣諸国に喧嘩を売るだけではなく、竜に、エルフに喧嘩を売ってまだ潰されていない。
それが物語っているのは、帝国は上位種族を多数囲っているということだ。最悪、神人族、又は神族を囲っている可能性を考えていた方がいいだろうな。
嫌な国がお隣さんだなんて、降り立つところを間違えたんじゃないか?
というか、長い話の間にとっくに魔力譲渡スキルは手に入っている。もっと言うと、話に入る直前に手に入ってしまっていた。
「実はアビド王国より帝国の噂の方が聞いてるんじゃないかってくらい耳に飛び込んでくるよな。」
「あの時期に消えた国は多いけんど、帝国はあの時もしぶとく生き残ったかんな。元が本物の勇者が建国したり、世界を救った英雄が生まれたりしているだけあって神具や宝具関係が充実していることが要因だと思うんだぞ。」
うはぁ。早くも原因解明されたみたいだ。
そりゃ、今の量産勇者よりも強力な武器とかスキルとか与えられているだろうからな。
それに現地英雄にも与えていてもおかしくない話だ。
いちいち勇者召喚が行われなくて済むんだからな。
そんなのを多く輩出している国が腐ってしまった現状が今なんだな。
「エルフと精霊を敵に回して滅ぼせないって…」
「違うんだぞ。正確にはギリギリのところで邪魔が入っただけなんだぞ。あの時、魔王さえ進行して来なければ帝国は滅んでいたはずだかんな。」
何してんだよ、魔王。
でも、神関連が直接関わっていないようなので何よりだ。もし関わっていたとしたら、今も生きている可能性が非常に高いので厄介すぎである。
というか、この話は何千年前の話なんですかね。
まあ、俺としてはこんな昔話も面白くていいんだかな。
それでもこれ以上の時間の浪費は避けたいので話を先に進めることにする。
「そんな悪循環を広めるような魔王が今いなくて本当に助かった気分だな。ところで、この魔力譲渡スキルってレベル上げると何があるんだ?」
「効率が上がるんだぞ。LV.1だと10に対して5くらいしか回復できないんだぞ。LV.10まで上げると1:1になる感じだぞ。」
そりゃ最適化案件だな。どれくらい魔力を与えればいいか分からないわけだし。
それにレベリングをするのに、効率の悪い勿体無いことはできないからな。
「『最適化』。よし、早速、使っていくか!」
もうスキルは発現しているので、俺は魔力を流すだけであとは勝手にスキルが調整してくれるはずだ。
レベリング大会の始まりだ!
最適化や神化を使う際の、詠唱などの魔法言語を唱えるときに使っている『』を付けているのは分かりやすくするためのもので特に意味はありません。




