効率厨であることが正解なのかもしれない
「ふぅ、これで何とか今日を乗り越えられそうだ。」
女の子は宝石みたいな綺麗なものに目がないと聞いたことがある。
これは偏見かもしれないが、王女様なら尚のことだろう。うん、そうであってほしい。
もので許しを乞うなんて男としてどうかと思うが、これはお土産として持って帰るだけで別に大した意味はないと自分に言い聞かせながらコラっち産のルビーやサファイアを拾うのに苦労した。
拾うといっても、大きいものが多いのでストレージにポンポン入れていくだけだが。
言うまでもないが、苦労したのは自分を言い聞かせることだ。
「だってこのくらいしてもティアを宥められる自信が湧かないからな。」
「どうかしたのか、コウタ。必死に石拾いなんかして。」
アルゴスには石に見えるらしい。
まあ、俺にはブリリアントカットされたダイヤモンドよりも輝いてみえるのでアルゴスの意見なんて関係ないがな。
俺にとってのこれらには救済の輝きが灯っているのである。
「特に何か意味があるわけではない、ただの!お土産だ。ほら、女の子ってこういう綺麗なもの好きだろ?」
「そんなこと知らないんだぞ。おいも魔法を使えばそのくらいの石っころなら出せるんだぞ、ほら。」
あーあ、こりゃ宝石店に一人は欲しい人材だろうな。
それに石っころ呼ばわりしているくせになんだ?その大きさは。
俺が拾っているコラっち産もとい、コラっちのカケラも野球ボールくらいのものばかりで偶にサッカーボールくらいのものまであったりするが、アルゴスのそれはそんな岩どこで拾ってきた状態だ。
それにアルゴスの手からはみ出しているのに石っころはないだろう。まるで、普通の人がバスケットボールを手のひらに乗せているかの如くだ。
「そんな俺くらいの大きさのものを石っころと言われてもな。大体、それは石じゃなくてエメラルドとかじゃないのか?」
「エメラルドかどうかは知らないんだぞ。おいはそれと同じようなキラキラした石っころを昔の記憶から引っ張り出してきて魔法で創り出しただけなんだぞ。」
「へぇ、土属性って極めればそんなこともできるのか。」
いいねぇ、土魔法使いは最上級の大地魔法まで極めれば稼ぎ放題なんだな。
魔力があれば宝石を創り出すだけでガッポガッポだ、お下品な話ですがね。
まあ、最上級まで極められるような人はそれ以外で大成しているだろうから別に副業としてそんなことやる必要ないだろうがな。
「いくらおいが土精霊でも流石にこれは無理なんだぞ。この魔法は固有スキル【鉱石魔法LV.EX】で、見たことのある鉱石なら殆ど創り出せるんだぞ。少しの制限はあるけんどな。」
「なーんだ、俺も将来お金に困ることがなくなるとか、みつg…自作で何か作るときの素材に困らなくなるとか思ったのになぁ。」
だから違うって言ってるだろ⁈俺はこの宝石で媚を売ろうとしているわけじゃないんだ!
それにしても、それを持ってるのがアルゴスで良かったよな。人間とかだとどうなっていたか分かったものではない。
「土属性を極めるだけじゃ到底無理な話なんだぞ。例えばこの地面の砂の粒の一つにこのエメラルドとやらが入っている可能性はあるんだぞ。だから土属性魔法で同じような砂が生み出せる以上、エメラルドも生み出すことは可能だとは思うんだぞ。」
「じゃあ何が無理なんだ?」
まあ分かるけど一応な。
「土魔法で砂や土、岩を生み出すにあたって、その構成内容は特に考えられないかんな。構成は何でもいいけんど土を生み出したい、そう想像することで魔法はより簡単に扱えるんだぞ。だけんど、何か特定のものを生み出そうとすると難しくなるんだぞ。」
「何でもいいとこれと思うものを生み出す違いか。」
魔法は想像だ。これはどこまでいっても変わらない。
だが、想像だからこそ無理なことがある。
砂を、土を、岩を思い浮かべて、適切な属性の魔力この場合土属性を選択して魔法を使えば生み出せるだろう。だが、例えばダイヤモンドを想像して創ろうとした時に成功するかどうかで言えば無理である。
ダイヤモンドを創ろうとするときに細かい部分の想像が無理だからだ。
見た目だけを真似れば、魔法で完成したそれはダイヤモンド似の違う何かになるだろう。
ダイヤモンドを創り出したいなら、土属性を極めるだけではなく、炭素から出来ているということを理解し、その原子の配列がどうなっているのか、さらにどうあればダイヤモンドになるのか。そう言った知識が必要なのだ。
配列次第では同素体の石炭や黒鉛になることだってある。
それに、ダイヤモンドを魔法で創ろうと思うならば風属性でもいけるのだ。炭素を生み出すなら風属性の方が得意だろうからな。そこからどうすればダイヤモンドになるかの知識はいるだろうが。
「その点おいの鉱石魔法は、一度触れた鉱石の全てを魔法として記憶し創り出すことが出来るようになる魔法だかんな。紛い物になる心配はないんだぞ。」
「アルゴスよりも鉱石製造機の方が良かったか?」
流石固有スキルと言うべきか。
もし俺が宝石店のオーナーだったらアルゴスはどうするつもりだったのだろうか。
不眠不休で働けー!とか言われたかもしれないんだぞ?
また心配になってきた。アルゴスよく今まで無事だったよな。精霊でよかったな!
「そんな名前だったら拒否してたんだぞ。もうおいはアルゴスだかんな!改名の意思はないんだぞ。」
「ごめんごめん、冗談だ。」
アルゴスって名前を気に入ってもらえてるようで何よりだ。
「それで話は変わるけど、そろそろレベリングを始めたいんだよ。そこで問題が一つ。」
「その件に関してはおいが解決できることはないと思うけんどな。」
「まあまあ。その問題っていうのは、魔力って迷宮にどう渡せばいいのかってことなんだよ。」
問題となるのはそれと、本当にロックタートルないしコランダムタートルを出してくれるかの二つだ。
まあ、出してくれない場合は出すまで無理矢理にでも魔力を注ぎ込み続けるだけだが。
因みに魔力譲渡のスキルは、少し時間があれば俺なら使えるようになると太鼓判を押してもらえているので心配はしていない。
「それこそ分かるわけないんだぞ。おいはコウタの口からその発言が出るまで考えたこともなかったかんな。うーん、でも二つだけもしかしたら可能かもしれない方法があるんだぞ。」
「なんだよ、あるんじゃないか。」
もー、アルゴスったらお茶目さんだな。
恥ずかしがってもったいぶったりしちゃってー。
「一つはこの迷宮内を永遠と移動し続けている亜空間へのパスの痕跡を見つけて、その痕跡から亜空間への扉をこじ開けてそこにある魔石に魔力を流し込むことだぞ。」
魔石は魔物と定義されるだけあって魔石があるようだ。
だが、この言い方では迷宮は魔石を亜空間に隠しているのだろう。しかし、完全に遮断してしまうと迷宮の再生も魔物の生み出しも出来なくなってしまうのでその亜空間とこことを繋ぐ小さなゲートのようなものがあるのかもしれない。
魔物は魔石を奪われたら死んでしまう。それは迷宮も例外ではないのかもしれない。だから永遠と移動し続けていると。
だとしたらほとんど無理な話だな。この森の中でどれだけ小さなものなのかも分からない、見た目も分からないものを見つけることがどれだけ難しいか。
仮に見つけられたとしてもすぐに移動してしまう小さなゲート。こじ開けて飛び込むのも間に合うかどうか分からないし、別に見つかった時だけ完全に遮断してもいい話だ。その間、再生や魔物の生み出しが出来ないだけなのだから。
もしかしたらずっとゲートを開いていない可能性もある。
うん、この方法は現実味が全くないな。
「もし成功しても移動し続けるものだからレベリングには向かないと思うけんど。二つ目は地面でもそこの木にでも使ってみればいいんだぞ。適当に思えるかもしれないけんど、案外こっちの方が現実味があるんだぞ。」
「あほ…いや、天才だなアルゴス!そうか、ここは迷宮の体内みたいなものだからな。おお!早く魔力譲渡のスキルを教えてくれ!」
なんだか側から見ると今の俺たちの光景は、大人におもちゃをせがむ子供みたいな構図になっているような気がしてならない。
だとしても俺はやめないけどな!だって効率って言葉は今の俺にとって素晴らしい言葉なのだから。
もう俺は効率厨と言われても別にいいような気がしてきた。ゲームを楽しむ時には様々な意見があるだろうが、これは現実だからな。それに約束もある。
俺は効率厨であることが正解なのかもしれない。




