契約者の空間
ブォォオオン、ヒュゥウウ
「うわっ!」
急に魔法陣が二つになり、俺とコラっちに吸い込まれていった。
「な、なんだ今の?思わず後退ってしまったけど…」
「さっき何度も嘘をつかれた仕返しだぞ。今のでチャラだかんな。」
満足そうな顔をしたアルゴスがそう言う。
ああ、なるほど。あの意味の分からなかった何かが絡み合うような模様の部分はこれのことだったのか。
お互いの魔力が絡み合い、それを互いに受けることで契約が完了したわけだ。
別に俺は嘘をついてないが、全部アルゴスに教えてもらっているのだからこのくらいで怒ることもないだろう。
「ああ、コラっちはちゃんと眷属になってるみたいだから別にいいよ。それで、次は亜空間について教えて欲しいんだけど。」
その契約者の空間とやらのことが結構気になっているのだ。
自分の想像力や込める魔力量なんかで左右されない魔法なのだ。大変興味が湧く。
「契約者の空間は、使用者の存在する空間の一定領域を亜空間に転写することでしか生成できないんだぞ。」
あー、つまり今の俺の場合はこの戦闘後の悉く破壊された森を転写するしかないと。
まあ、あの扉を潜ればいいわけなんだが。
「でも、俺の場合はLV.10な訳なんだけど、それに対応する空間が一気に転写されるのか?」
「それはないんだぞ。転写されるのは使用者の知覚した範囲内だけで、たとえそれ以上の対応する領域があったとしても知らなければ転写はされないんだぞ。」
まあ、言われてみればそりゃそうだな。
で、契約者の空間は召喚魔法の魔力で空間を作ろうと思えば必ずそれを作成することになるらしい。
続いて転写のやり方だが、契約者の空間を詠唱待機させながら転写させたい範囲を俺自身が知覚すればいいらしい。
「ほうほう。じゃあ取り敢えず魔物の森と向こうの草原くらいを軽く転写してくるから待っててくれ。」
「おい、待つん」
バタンッ!
まあまあ、神化した俺は超速で帰ってくるのでそんなに待つこともないと思うぞ。
それに空間魔法とか、風属性とかを駆使して周りにも被害を出さないし、光属性の幻影魔法なんかを使って人に見られることもないと思うので安心してほしい。
「まずは召喚魔法で空間を作ろうとすればいいんだよな。まずはちょっとその空間に行ってみるか。」
適当にゲートを作り、今作ったはずの空間へ移動する。
「これは…移動したのかどうか全く分からないな。」
魔物の森最奥の扉周辺と酷似していて見分けがつかないが二つだけ違う点が。
それはその扉がないこと。そして、
「俺以外の気配が全く無いな。転写されるのは地形とか植物だけか。」
植物だって生物なので、生物が転写されていないわけでは無いはずだ。
俺の予想では、魔力を持つか持たないかでは無いだろうか。
植物は魔素を栄養として取り込んだりはするが、基本的に魔力を持ったりはしない。例外として魔力ポーションの材料になる月影草などはあるが、その例外ももしかしたらこの亜空間には生えないのではないだろうか。
魔力を持たない異世界人も魔力ある世界に来てしまえば、魔力を持ってしまうので転写されたりはしないわけだし。
「まあ、そんな考察は後からにしよう。この感じじゃコラっち入らなそうだからな。」
端まで行ったら、逆側の端につながっている感じだな。
これは四方が森や海みたいな同じ光景だったら永遠に迷ったりもするんじゃないか?
一旦、元の空間側に戻る。
よし、ここからは物理限界を超えた空中お散歩だ。
「『フライ』。なんか普通に空とか飛んでしまってるんだよなぁ。」
異世界ってやっぱり凄い!とか思いながら、詠唱待機をさせたまま空中お散歩に励む。
取り敢えず魔物の森全域と草原と、あとは魔物の森は街道を挟んでエルフの森と隣接していたよな。たしか中に入ってすぐに大きい湖があったからそこも範囲に入れておこう。
この感じだと転写したい場所で今のように細々とやれば、海の隣に砂漠とか、絶海の孤島に王都とかも出来そうな気がする。
王都見たことないけど。
「まずは南側からだな。エルフの森の浅い場所ならハイエルフさんには怒られないだろう。」
きっとあまり奥まで行くとヤバいのでその湖だけ転写したらさっと他の場所へ行くことにする。
まあ、前にクオとレティがかなりの結界が張られてあるので深く入っても迷うだけとは行っていたが。
その湖がエルフの森へ迷わず入るための唯一の道がある場所らしい。
あれ?だとしたらやめといたほうがいいかな?
「ちょっと離れた場所から空間把握するだけにしておこっと。」
ということで空間把握圏内に入ったので西に方向転換。
知覚すればいいだけって見なくてもいいのは便利だな。まあ、詳細な把握が必要みたいだけど。
それから街道に沿うように西へ移動していくと、街道が十字に重なりその中心に小さな町があるところまで来た。
その手前で森が終わっているのでこの先まで行く必要はないだろう。
俺が来た道以外の三本の道は迷宮都市や公爵領、エルフの森の反対側にそれぞれつながっているらしい。
聞いた話なので実際にどうかは知らないが。
今度は北へと進路を変える。
「あ、いかにも駆け出しさんだ。俺も同じようなものだから親近感が湧くな。俺は色々と延期延期になってまともに依頼受けてないけどな。」
そんな光景を見ながら草原沿いに魔物の森を転写していく。
そして今度は何事もなく、魔物の森の端が見えたので東に方向転換。
ちょっとグロウが見えたりもしたが、他に何もなく南へ転換し一周を終えた。
西側を南に転写していく際に草原も転写していった。
コラっちは森の中では動きづらいだろうから草原は少し広めにな。
「十五分くらい掛かってしまったか。ちょっとゆっくり観て来すぎたかな?」
「それはないんだぞ。魔物の森一周なんて歩いたら一、二週間は掛かるはずだかんな。それを十五分は十分おかしいんだぞ。」
「よし、コラっち。今転写してきた草原に転移させるからな。いくぞ、『テレポート』」
ワープでも、テレポートでも、転移でも、空間移動でも何でもいいが、とにかく大事なのは相手に分かるように掛け声だからな。
俺は無詠唱を使えるわけだし、魔法名とかそこら辺は気にするところではないのだ。
あ、もちろん戦闘中とかは気にしますけどね。意思疎通重要!
「どうだ?何か不満とかあるか?向こうに行けば湖もあるから水には困らないはずだ。そういや、食べ物ってどうしようか。」
「それは心配ないんだぞ。この中にいれば外界と関わることができない代わりにお腹が空いたり、眠くなったりしなくなるんだぞ。ただ、娯楽として楽しむことはできるけんどな。」
へぇ。多分魔力がなにか作用してるんだろうな。
そこら辺は偉い学者さんが解明しようとしてるんじゃないだろうか。
俺も同じみたいなものだからまたまた親近感が…ってね。
まあ、俺の場合はお腹空いたりはするんだけどな。必要ないってだけで。
「わかってると思うけんど、コウタと眷属以外は例外にあたるぞ。」
「そりゃ、まあな。で、コラっちどうだ?」
〔アソコトチガッテヒロビロトシテイル。ムシロ、キニイッタ。〕
「それなら良かった。」
予定通りコラっちを眷属にできて良かったな。
まあ、ロックタートルがコランダムタートルに変わったことは誤算だったが、それは俺からしてみれば嬉しい誤算だからな。
「よし、次はレベリングパートだな!」
あ、その前に散らばっていた宝石、多分宝石になるはずのものを回収しておこう。
そういうところにも貪欲さを求めていかないとな!
綺麗だったしクオ達にプレゼントだ。
それに今日の夜はティアやエマが突撃してくるだろうし…
違う違う。突撃じゃなくて尋ねていらっしゃるんだよな。




