過ちては則ち改むるに憚ること勿れ
「やっぱりクリフさん達を心配している人は多いと思うから、一度グロウに戻った方がいいんじゃないかなぁ…」
そして一週間は戻ってこないでほしい。
え?なんでかって?
そんなの決まっている。クリフ達の元の依頼内容を聞いたからだ。
俺としては早く自分たちの拠点に帰ってほしいのだが、疲れたとか言って居座っているのだ。
「そうだね。今の僕たちの状態では、とてもじゃないけど要塞亀討伐は無理だよね。もう一度グロウで色々と整えてから」
「少し顔を拝むくらいなら大丈夫ですよ、クリフさん!我々も少し休めば元通り動けますし、何より物資はまだまだ豊富ですから!」
「そうです!クリフさんが焚きつけた私たちの火はまだまだ消えたりしていませんよ!」
さっきからなんなんだよ、この二人!
あと一歩ってところで口を挟んできやがって!
「どの口が言ってるんだよ、さっき絶望感丸出しの表情していたのはどいつだったか。」
「なっ⁈わ、私はそんな顔!さっきから君はなんなのよ!私に何か恨みでもあるのかな⁈」
ええ、ありますとも。
俺の華麗なる要塞亀テイム大作戦が始まる前に潰える可能性がお前達なんだぞ。
だからクリフに丁重にお帰り願おうと思っているのに、そっちこそどういうつもりなんだよ!
「ほら、ガレスのうんこ野郎に連絡したんだろ?なら、まだ心配しているはずだぞ?帰らないといけないんじゃないか?」
「ギルマスをうんこ野郎って…あっ!思い出したぞ!お前あのギルマスを顔面蒼白にさせたっていうコータ?とかいう冒険者だろ!」
「ん?なんだ、さっきから俺は光太だって目の前で何度も言ってるだろ?お前の耳は何を聞いてたんだよ。」
この二人がクリフの臨時パーティメンバーだそうで、二人ともBランク冒険者だそうだ。
男の方の名前はカル、俺の二つ上らしい。女の方はローナ、三つ上であの光線はローナの聖光魔法だったみたいだ。
その年でBランクは相当すごいらしく二人ともグロウの冒険者ギルドでは期待を寄せられているらしい。
まあ、なんだかんだ言ってもクリフも二十六らしいからな。
グロウでクリフは新人冒険者の憧れらしいですよ。
「たしかに俺たちは早急に帰らないといけない。だけどこのまま帰ってしまえばクリフさんは町を混乱させただけの人になってしまう。」
「そうかもな。それで要塞亀を討伐すれば帳消しにできると?」
「そこまでは思ってない。でも、倒して帰れば少しは軽減されると思うんだ。だから頼む!お前の力を貸してくれ、いや貸して下さい!少しでも勝率を上げたいんだ。」
何を言いだすかと思えば。
止めないでくれではなく、俺に力を貸せと。
「はっきり言って無理だな。俺はやらなければいけないことがあってここにいる。今はそんなことに割く時間は一秒もないな。」
「カル、君たちはそんなことを考えていたのか。僕のことは気にしなくていいんだよ?グロウに何も被害がなかったことは素晴らしいことだ。その結果僕がどう思われようとそれは些細なことだよ。それに他のみんなに迷惑はかけられない。」
「クリフさん、これは俺たち全員で決めたことなんです!頼む、コータ!力を貸してくれ!」
はぁ、なんで分からないかな。
だから今は無理だって言ってるだろ?
「なあ、お前達にどんな理由があろうと俺は今は無理なんだよ、今はな。だからさ、俺が手助けできないこの間に、一回戻って騒がせたケジメをつけてこい。その後だったら手を貸してやるよ。」
「それだと意味が」
「まず自分たちの行動の結果から逃げようとしている時点で間違っていると思うけどな。」
今回のこれはクリフが責任を負うべきものだと俺は思う。
たしかに俺が魔物を狩り過ぎたり、アルゴスという存在が勘違いを産んだりしたという偶然が重なり合った結果なのかもしれない。
だが、仲間を焚きつけ最終的な判断を下したのはクリフなのだ。その経緯がどうあれ、結果的にグロウに無駄な混乱を起こさせたのは間違いなく事実、その一点のみが変わることのない事実なのだ。
「取り戻そうとするのは勝手だけどな、過ちを犯したんならまず改めろよ。取り戻すのはその後だろ?」
昔の偉い人も、過ちては則ち改むるに憚ること勿れと言っている。ようは、過ちを犯した時は躊躇することなく速やかに改めよ、という意味だ。
「今のお前がしようとしていることは、過ちを文るって言葉そのものだぞ。小人は過ちを犯すと必ず良いように繕って誤魔化そうとする、って言葉だ。」
「その辺にしてやってもらえないかな。カルは僕のために言ってくれてたんだ、責任を負うべきは僕だからね。」
「まあ、その通りなんだけどな。クリフがそんなだからこいつらが追い詰められてるんじゃないのか?全て一人で背追い込もうとしすぎだと思うぞ?」
たしかにクリフが背負う責任だ。
だが、クリフはカルやローナが負うはずの責任まで背負い込もうとしている。
だからカルやローナ、他の冒険者達はその背中に憧れるのかもしれないが、自分たちが当事者になった今、自分たちのミスまで背負われることで罪の意識が消えなかったり、それこそ後ろめたさなんかもあるだろう。
クリフは全て自分のせいみたいな雰囲気を出しすぎだと思う。
まあ、これをレイドと言っていいのか分からないけど、臨時のレイドに求め過ぎ感はあるが。
「自分たちの責任くらい背負わせてやってもいいんじゃないか?」
「だってそれは…そう、なのかもしれないね。」
何かを言おうとして、カルやローナの顔を見て言葉を変えるクリフ。
「分かったよ、グロウに一度戻って責任を果たしてこよう。みんなでね。」
「「「はい!」」」
うんうん、感動的感動的。
反省の意を示しに行くって意味では場違いな感じだが、今はそのくらい明るい雰囲気でも許されると思うぞ。
それにだ。こんな説教がましいことを言っておいてなんだが、俺はとある方法で要塞亀を弱らせておいてやるから頑張ってこいよな。
俺の予想が正しければ、この一週間レベル上げ放題だからな。クリフから魔力ポーションを見せてもらうまでその存在を忘れていた。
クオと同じ失態をしてしまうなんてなんたる不覚!
ごめん、クオ。いくら大切なクオのことだからと言っても、クオの抜けているところを否定できないんだ…許してくれ。
「話は纏まったようだな。ほら、コウタからの差し入れなんだぞ。これを食って英気を養うといいんだぞ。」
「差し入れというかぜひ消費してもらいたいな。こんなにあっても食べきれないからな。」
アルゴス特製ハイオーク尽くしだ。
と言っても直火焼きハイオークが大量に出てくるだけだがな。
「ハイオークなんて久々だな。ありがとう、コータ。」
「ウメェ!魔物の森でハイオークは珍しいですからね。いないこともないから、グロウでも高値で取引はされてますけど。」
それは…
本来、少ししかいないはずのハイオークが四百近くいた方が異常事態なのでは…
それから少ししてクリフ達は自分たちの拠点へと戻っていった。そのままグロウへ向けて発つそうだ。
「なあ、アルゴス。さっきの話どう思う?」
「ハイオークが大量発生していた話のことを言ってるなら、稀にあるんだぞ。迷宮が危険だと思ったり、脅威が内部に入ってきたと思ったら上位種を生成することなんて珍しくないんだぞ。最近、何かあってハイオークを生み出しただけだと思うんだぞ。」
「そうだったな、迷宮は魔物で生存本能くらいあるって話だったもんな。攻略されそうになったらそのくらいするのか。」
「ん?違うんだぞ。迷宮は攻略されても何も痛手は負わないんだぞ。迷宮にとっての危険は、迷宮自体を破壊されることなんだぞ。」
はいはい、ここみたいな感じね。
うわぁ、嫌なこと聞いたな。それに最近のそれに心当たりがある。
俺がこの世界に来た時に、クオが俺のレベルを上げるためにこの森に入って行ったときすごい暴れていたような…
気のせいだな。
そんなことより、アルゴスに聞きたいことがあったんだ。
「迷宮が魔物を生み出すわけだろ?それって魔力を使ってってことだよな?」
「そうなんだぞ。迷宮の固有魔法みたいなものなんだぞ。」
「そうかそうか。それでアルゴス、自分の魔力を他人に譲渡できるスキルとか知らないか?」
本来、魔力は個々人で全く違うので譲渡なんて出来ない。
だが、魔力ポーションなんてものがあるのだ。もしかすると、そういうスキルがあってもおかしくないのではないだろうか?そう思ってしまった。
本当にそんなスキルがあるのならば…
要塞亀レベリング作戦は潰えていないことになる。
さあ、どうだ!
「魔力譲渡スキルならあるんだぞ。おいも使えるには使えるんだぞ。」
「かんっぺきだな!よし、今日からの予定は要塞亀レベリングに決定だ!」
詳しい説明は敢えてしませんが少しだけ。
光太が嫌な奴に見えている方がいるかもしれませんが、色々な観点から見てこの説教は光太がするのが正しいと思いました。
作者の感性によるものなので否定的な意見もあるかもしれませんが、その声が多すぎなければこのままでおこうとおもいます。




