精霊紋
久し振りに彼が登場します。
作者だったら感謝なんて出来ないんですけどね。
性格までイケメンなのは憎らしい!
まあ、もし召喚魔法で仲間?にするとしても最後の最後だな。
そんなラスボス的なやつはいい経験値になってくれるはずだ。予定のレベルに達しなかったら倒す方向で考えないといけないからな。
「俺は今からまた魔物狩りに行くけどアルゴスはどうする?ここにいるならいてもいいけど。」
「おいは今日は休んで明日またアークを探そうと思ってるかんな、だから今日はここで休ませてもらえるとありがたいんだぞ。」
「そうか、じゃあ戻って来るまでここの防衛してもらってもいいか?」
スペーシャルイソリューションだとアルゴスの出入りができない。
術者の俺だったら改良すればどうにかなったんだが、第三者だとどうしても難しい部分があるからな。魔法自体が弱まってしまう可能性もあるのだ。
「お安い御用だぞ。おいの目は交代で休んでるかんな、寝ている間に攻められるなんて心配はないんだぞ。」
「頼もしいな、じゃあ任せるよ。」
どこまでもアルゴスだな。
そう思いながら踵を返し森の方に歩いていこうとすると、
「ちょっと待つんだぞ。」
「ん?なんだ?」
振り向いた俺に向かって何やら魔法陣のような、どこか魔法陣とは異なるものが俺へと吸い込まれていった。
「うおっ!なんだこれ?」
「その手の甲にある紋様は精霊紋って言って、おいが召喚できるんだぞ。危険に陥ったら遠慮なく呼んでくれていいかんな、オーク肉のお礼だぞ。」
あ、消えた。今度は出てきた。
なるほど、思い浮かべると出したり消したり出来るんだな。
たしかにぱっと見魔法陣みたいなんだが、魔法言語なんて一切関係ない独自の紋様って感じだな。
レティもナイアスに精霊紋を貰ったのだろうか。
「いいのか?こんなものあったばかりの俺に渡して。」
「いいんだぞ。その精霊紋は名前がないと人に授けることも出来ないんだぞ。名前をつけてくれたお礼も兼ねてるかんな、遠慮せず使ってくれて構わないんだぞ。」
「じゃあありがたく受け取るかな。そのかわりハイオークの肉置いて行くからいっぱい食べてくれ。」
それはもうたくさん出してやる。
三十匹はいるだろうな。
「おー!ありがたいんだぞ!コウタも頑張ってこいよな!」
「おう。」
そして今度こそ森へと足を踏み出した。
さて、このまま奥の方に進んでもいいんだがどうしようか。
まだ奥の方だとは思うんだが、うっかり奥に進みすぎて初日から最奥の要塞亀のところに辿り着いてしまうなんてことになったら目も当てられない。
「気持ち回り込む感じで奥に進んで行くか。それに要塞亀を見つけたって観察できるし放っておけばいいだけの話だもんな。」
よし、ざっくりと適当だがこれで行こう。
カサカサ
「おっ、早速か。でもオークって感じじゃないし、ゴブリンよりも小さいんじゃないか?」
ゴブリンとかオークだったら草をかき分ける音がもっと乱雑な感じで大きな音を出す。
これはどちらかといえば小動物のような…
「ん?ウサギ、今のはこいつか?」
へぇ、こんな奥の方にも無害そうな奴がいるんだな。とは思わない。
こんな危険地帯に無害そうな奴が一匹で行動出来ている違和感は投げ捨てるべきではないのだ。
ゆっくりと剣を抜く。
「悪いけどお前も魔物みたいだからな、狩らせてもらう。」
スカッ
空振った?だとしたらあのウサギはどこに…
カサカサ
後ろ⁈
音がした方にすぐさま振り返ると、そこには何事もなかったかのように草をムシャムシャと食べている可愛らしいウサギが。
「一瞬も目を逸らしてなかったのに目で追えなかった、しかも消えたように見え…あぁ、こいつがワープラビットか。」
つまりワープ、短距離転移をして躱したのだろう。
ワープラビットとは経験値マットの材料の一つになる魔物で、その魔石がマットから使用者へのラインとしての効力を発揮するらしい。
魔石はその魔物ごとによって特性を持つものが存在する。火属性を操る魔物だと魔法道具に組み込む時に火系統のものだと効率が良くなったりもする。
ワープラビットの魔石の特性が空間属性なので経験値マットに使用されているのだろう。
因みにだが、俺の経験値マットにはワープラビットの魔石は使われていない。もっとおっかない大層な魔物の魔石が使われているそうだ。
「ワープラビットって言うくらいだから短距離転移、目視転移しか出来ないんだろうな。だったら倒すのは簡単だな。『アースウォール×4』『ウィンドアロー』」
しかし、ウサギ一匹を倒すのにこれは魔法の無駄遣いってものかもしれないな。
こんな土壁で四方を囲んで上からグサリよりも、ディメンションパイルからの剣で良かったかもしれない。
ワープラビットの魔石を取り出しながら思う。
なんでウサギをそんな無慈悲に…とか思うかもしれないが、俺が強くなる為に背に腹は変えられないのだ。
それに見た目だけで倒す敵を選んでられないのだ。
ドンッ
「キュクロプスっぽいな、今度は俺が倒してやるからな。」
ーーー同時刻、ある冒険者一行ーーー
「よし、斥候が戻って来るまで休憩だ!」
はぁ、まさか要塞亀を討伐しなければいけない日が来るなんて思いもしなかったな。
それもこれもあの冒険者登録初日から大暴れしたコータって子のせいだよ。
登録の時に絡まれた中堅くらいの冒険者五人を単独撃破、それを止めに入ったギルドマスターと賢者様に魔法を向けてその魔法は賢者様を感嘆とさせる始末。
賢者様を驚かせたのは連れの女の子二人だったけど、彼の方も剣はスキルに頼ってはいたけどそのスキルも剣王は確実だったからね。
「気になって声をかけたのが間違えだったかな。」
「クリフさん、どうかしたんですか?」
「いや、なんでもないよ。」
声を掛けたせいで大分お金を使わされたからね。
あの時はああ言ったけど、彼はまだ子供だから冒険者の飲む量を知らないんだろうね。
最近色々あって金欠気味だったところにあれは大打撃で、こんな依頼を受けないといけなくなってしまった。
ってあまり新人冒険者の所為にするのは格好が悪いね。
この依頼を達成すれば大金も入るんだし、偉業でもあるからね。少しくらい感謝してもいいのかな。
「クリフさん、斥候が戻ってきました。」
「うん、それで奥の方はどんな状況だったのかな?」
因みに、ここはまだ森と迷宮の境目くらいの浅い場所だ。
「はい、報告いたします。次の休息予定地まで脅威になるような魔物、その群れは確認出来ませんでした。」
「続けて。」
「はい。本当ならばそこで引き返す手はずだったのですが、魔物の数が異常に少なく、さらに森も静かすぎましたので少し先まで偵察したところその奥の開けた場所に冒険者が張ったと思われるテントが一つございました。」
「ひとつ?そんな奥に一パーティで行けるような人材はグロウにはいなかったはずだけど。他には?」
それどころか、グロウには僕以外のAランク冒険者はいない。
どこのパーティか気になるところだね。
それに奥地の魔物を殆どやってしまうようなパーティってなると限られてくるんだけど。
「す、少し言いづらいのですが…」
「どうしたんだい?」
何かに怯えているようだね。
今回、僕たちのパーティを合わせて、要塞亀を討伐するにあたり選りすぐりの六パーティ二十四人を集めた。
森の中をこんな大所帯で移動するのは馬鹿のすることだけど、要塞亀討伐にはこのくらいが最低人数でもある。
迷宮都市から応援を頼んだパーティがその中でも三組いてどこも全員Bランク。
迷宮都市のBランクと言えば、他の町だとAランクでもおかしくないとさえ言われるほど。
そんな彼らの一人が怯えているって…
これは少しまずい状況かもしれないね。
「そ、そのテントの側に身体中に目を持つきょ、巨人が。お、恐らくですが、テントを張ったであろう冒険者は…」
「そうか…他には何か見たかい?」
キュクロプスの変異種かな?
その巨人を見ただけで件の冒険者がやられていると考えないだろうから何か異常なものを感じたのかもしれない。
だとしたら、いくらなんでもその冒険者たちはもう駄目だろうね。
「はい、その巨人の近くにはハイオークの死体がが数にして三十体程重ねておいてありました。ここら一体に魔物がいないのはその巨人が関係しているものと思われます。」
「なるほどね、ありがとう。少し時間を取るから休憩を取っておいで。君たちの休憩が終わり次第出発しよう。」
いくらなんでもそんな化け物を放っておくことは出来ないよね。
何人か冒険者ギルドに報告がてら応援要請を頼んで、残りの僕らは情報収集かな。
「はぁ、その巨人を倒したら報奨金もらえるよう交渉しないとね。」
要塞亀討伐はもう無理だろうからね。
その巨人の報奨金が金欠脱出の鍵になる、いやなってもらわないと困るかな。




