アルゴスと迷宮
「何だ人間。おいと戦おうってのか?」
「なっ⁈」
喋った⁈魔物って知性が壊滅的じゃなかったのかよ!
「仕方ねぇなぁ、殺さないでおいてやるからおいの胸を借りると思って本気で来い。それで負けたら諦めて帰るんだぞ?」
「しかも優しいとか魔物って何なんだよ、ったく。帰ったらクオ達に聞かないとな。」
もうとっくに戦う気なんて失せてるんだけどな。
大体、本当にこいつ魔物なのか?神話でもアルゴスって百眼巨人なだけで怪物でも何でもないからな。
まあ、百眼な時点で怪物とかいうのは置いといてだけど。
「人間、おいが魔物とは聞き捨てならないぞ。おいはれっきとした土精霊だかんな!」
「あー、納得。道理で話が出来るわけだ。悪かったな、魔物なんて言ったりして。」
「別にいいぞ、結構間違えられるから慣れてるかんな。それで、本当に戦おうってのか?」
「いや、精霊ならいいや。倒しても意味ないし。ところで、さっきのキュクロプス返したほうがいいか?」
こいつが魔物だったんなら遠慮なく両方貰い受けるんだが、こいつ知性あるからな。
知性がなかったら奪っていいのかとかいう話になるかもしれないが、俺の中の線引きは魔物か魔物じゃないかだ。
「いんや、おいには必要ないかんな。人間にやる。そんかわりなんか食べもん分けてくれると嬉しいぞ。」
「食べ物か。正直お前の分を賄えるか微妙だな。どんなのが好きなんだ?」
俺の一ヶ月分がこいつの一日分になりかねないからな。
「おいがこの森に来たのはオークかハイオークを取りに来たんだぞ。なのに一匹もいないから困ってんだ。でもそうか、人間の分を横取りするわけにもいかんかんな。」
うん、心当たりがすごくあるな。それも両方に。
さっき大量に狩りまくった奴らの名前がそんなだった気がする。
それに、前にキングとかいう強い奴と一緒にかなりの量を倒したやつもハイじゃないほうだったよな。
「いや、そいつらなら持ってるぞ。さっき燃やさないで取っておいて良かった。」
「おお!本当か人間!」
魔石だけとって燃やそうか悩んだんだが、美味しかった時に前みたいに安らぎの宿に提供したりしてもいいと思ったんだよな。
美味しくなかったらギルドにでも押しつければどうにかしてくれるはずだし。
「じゃあ、向こうに俺の拠点があるからそこまで戻ろうか。ここじゃあれだし。」
「おいはここでもいいんだけど、人間がそういうなら。でも、お腹すいたから早く行くぞ!」
「俺は光太だ、お前は?」
「人間はコウタって言うのか。おいは特に名前なんてないぞ、人間からはよく怪物とか化け物とか言われる。好きに呼んでくれて構わないぞ。」
悪いけど、いきなり戦闘に所縁のない人が見たらそう思っても仕方ないかもな。
「じゃあ、アルゴスって呼んでいいか?それが一番しっくりくる。」
「それでいいぞ。でもどんな意味なんだ?」
「昔俺の住んでたところに伝わる昔話に出てくる百の眼を持つ巨人の名前なんだ。神様の命令でいろんな功績を挙げたって言われてる。」
まあギリシャ神話なんだが、地球って観点では俺の住んでたところには変わりないからな。それに神話も昔話じゃダメかな?
「まるでおいみたいな奴だな。一度会ってみたいぞ。」
「うーん、本当にいたとしてもちょっと遠過ぎてから無理かもな。お、着いたぞ。」
魔法陣で施していたスペーシャルイソリューションを解く。そのくらいの融通は利くようにしている。
「残念だぞ。でも今はそれよりもオークだぞ、早く出してくれ。おいはそっちで火を起こしてくるかんな。」
「おう。」
じゃあ、俺は食べられるように捌くとするか。
一応、捌き方は前にエマのお父さんに教えてもらったからな。
オークでもハイオークでも変わらんだろ。
でも、剥ぎ取り用のナイフしかないので風魔法を纏わせ切れ味増し増しナイフにしてから作業に入る。
綺麗に皮を剥ぎ取り、適当に部位ごとに切っていく。
骨もスパスパいってしまうのでその適当さは押して知るべきだ。
魔力がなくなったらいくら強靭な魔物でも簡単に刃が通る。それでも硬い魔物もいるらしいけどね。
十匹分を捌き終えたところで後ろから声が。
「おお!コウタは捌くの早いな!おい面倒だからいつもそのまま炙るぞ。」
「まあ、すごい適当だけどな。これで足りるか?」
そりゃ、お腹減ってるみたいだったし色々とスキルの手を借りて超速でやりましたとも。
【解体LV.1】とかいうスキルまで手に入ってしまった。
便利そうだったし、今ももっと早くしてくれそうだったので最適化で久し振りに10まで上げてしまった。
戦闘には関係なさそうなので問題ないだろう。
そのおかげでこの短時間で十匹分も解体できたのだから凄いと思う。どう捌けばいいのか、どこにナイフを入れればいいのか分かるんだよな。
「おいこんなにでかいけどそんなに大食いじゃないぞ。これでも多いくらいだぞ。」
「そりゃ、ハイオークもなかなかでかいからな。足りないならまだ大量にあるから言ってくれ。」
「感謝するぞ、コウタ!」
いそいそと自分が火を起こしたところまでハイオーク肉を持っていくアルゴス。
「うーん、俺は何をしようか。」
あ、さっき貰ったキュクロプスを解体してみようか。
少し離れたところにドサドサとキュクロプスを出していき途中で止めた。
「デカすぎて解体も何もあったもんじゃないな。」
「それ解体すんのか?」
ムシャムシャと何かを食べながらアルゴスがこっちに来た。
「ああ。でもやろうと思って気がついたんだけど、どこが必要でどこが必要じゃないとか分かんないんだよな。」
「目が薬の材料になるって聞いたことがあるぞ。」
解体は綺麗に解体できるように補助はしてくれるが、何かに使えるとか使えないとかは当然のことながら分からない。
「目か、でも他の部分が大きく占めるんだよな。それで、アルゴスは何食べてるんだ?」
解体は色々と学んでからまた挑戦することにしよう。
それでまだ肉は焼けてないはずだ。魔法がある世界でも幾ら何でも早すぎる。それにアルゴスは土精霊らしいからな。火魔法が得意ならともかく、かまどを作る方が得意なんじゃないだろうか?
「おいの非常食、ビックトードの干物たぞ。食べてみるか?」
「いや、遠慮しとく。さっきお昼食べたばかりなんだ。」
お腹いっぱいの今、わざわざカエルを食べようとは思えない。
「結構うまいんだぞ?まあ、いらない奴に無理やり食べさせたりはしないけんど。」
「アルゴスは結構ここに来るのか?」
「オークが食べたくなったら来るぞ。精霊は透過できるかんな、誰にも見つからなくて便利だぞ。」
アルゴスは色々と目立つからな。
透過してきているのなら納得だな。
「じゃあ、この森の魔物ってなんでこんなに大量に湧くのか分かるか?前に魔物も繁殖だって聞いたんだけど。」
「それはここが迷宮の一種だからだぞ。迷宮は魔物を生み出すかんな。迷宮の魔物は自分たちで繁殖もするし、少なくなったら迷宮が生み出しもする。おいがここに来るのもここなら待てば絶対に出て来るからだぞ。」
へぇ、迷宮って今度行く予定の迷宮都市にあるやつと同じなのだろうか?
「ここは他と比べれば小さい迷宮だかんな。ほら、壊れたところが勝手に修復していくのも迷宮の特徴だぞ。でも、ここの森は外側は普通の森だったはずだぞ。」
「普通の森の方に弱いやつが住み着いてる感じか。迷宮ってなんなんだ?」
「簡単に言えば超巨大な魔物だぞ。体内で魔物を生成する魔物、直接的な害はない人間にとっては資源を生み出してくれる魔物だぞ。」
うわぁ、なんか一気に迷宮の中に入りたくなくなったな。
魔物の体内に入るって響きが嫌だ。
「迷宮の奥底には必ず何らかの強い魔力が存在するんだぞ。それが古代文明の遺産なのか、宝剣なのか、強力な魔物の魔石なのか、生きた魔物なのかの違いはあるけんど。その魔力に当てられて変異して出来たものが迷宮なんだぞ。」
「じゃあ、冒険者はそんなロマンを追い求めて迷宮に潜るんだな。」
「おいは理解できないけんど、そうじゃないんか?最近は聞かんけど人為的に迷宮を創ったりもできるらしいんだぞ。」
まあ、出来そうだな。そういうところには行きたくないな。
そういうのは色々と面倒なものを抱え込んでいると相場が決まっているものだ。
でも、いつか俺も迷宮創ってみたいな。ロマンだな!
「へぇ。ってことはここにも何かあるのか?」
「残念だけんどここは魔物なんだぞ。それも超面倒なやつなんだぞ。要塞亀、めちゃくちゃ硬くてダメージなんて通っているとは思えないんだぞ。」
「ちょっと気になったんだけど、その迷宮の核といってもいいものを倒したり、取ってきたりしたらどうなるんだ?」
「魔物だったら同じやつを迷宮が生み出すんだぞ。ちょっと弱くなったりもするけんど、そんなのレベルが上がってしまえば同じことだぞ。」
「じゃあ迷宮自体は消滅はしないんだな?」
これっていいレベリングマシンなんじゃ…
「でも復活まで時間がかかるんだぞ。最低でも二、三日、長ければ一月は掛かるかんな。」
「そううまくはいかないか。それで、宝剣とかだったらどうなるんだ?」
「迷宮が劣化品でも生み出しきれなかったら生き残るために強力な魔物を自ら生成するんだぞ。迷宮も魔物だかんな、生存本能くらいあるんだぞ。」
「これで最後の質問だけど、ここの要塞亀は…」
「一度も倒されたことないんだぞ。」
これは倒すよりも召喚魔法とか覚えて仲間にする方が利口なのでは…
そんなアホな考えが浮かんだが、実際その方が使えそうだし面白そうではあるよな。
ふっふっふ、どうしようか。




