それ以前の問題
「…と試練と言っても受ける側個々人の捉え方次第なんですわ。」
「俺たちは竜族に勝ってこいなんて無茶を言われたりするからな。」
「私たちの一代目はみんなこの試練で竜族に勝ったそうなのよ。そのせいで代々同じように勝ってこいって言われるみたい。」
「いい迷惑。」
「俺は勝つつもりで挑むがな!」
今はすべてのパーティが対魔物訓練を終わらせるの待ちだ。まあ、その後もやりたければやるみたいな時間らしいので最後までこんな雑談チックな感じになるだろう。
誰かさんの襲撃とかがなければ。あっても戦わないがな。
それにしても、そりゃこいつら四人からしたら竜族が目前に来ただけでビビって戦えなくなるなんてことにはならないだろう。それに致死の攻撃なんて来ないと分かっているからな。
だから、試練をそのままの意味で受ける者、もう一つ上の次元で受ける者と二極化してもおかしくはない。
まあ、試練が終わって綺麗な身なりで帰ってきた者は片手で数えるほどらしいが。
「一昨年の話ですが、数十年ぶりに竜族に勝った受験者がいるんですわ。なんでも強さの次元が違ったという話ですわ。」
「グリターパイセンか?そういや、あの幻影魔法みたいなのしかまだ先輩の魔法見てないな。たしかに今のところ爺さんの次に勝てる気がしないかもな。」
「あぁ、たしかに強かったわね。私も光属性、というよりも回復魔法を使うから分かるけど、あの戦い方はちょっと異常だったわ。強さの次元というより勝ちへの執念の次元が違うように感じた、みたいな感じね。」
そうか、リルはお姫様だもんな。この前のクオと同じ轍を踏むわけにもいかないので黙っておこう。
グリター先輩は強さの他に何かあるのか。
マジ戦闘は避けよう、魔技祭がどうとか言っていたがしーらない。
「去年はどうだったんだ?」
「去年は見に行ってないから詳細は分からないわね。理由は察してもらえると嬉しいのだけど。」
神崎のやつ召喚されてだいぶ初期にユニストに行ったのか、アホだな。
「でもグレイスから聞いた話によると、食い下がった人が四人いたって話よ。一人は想像の通りゆ…神崎、あいつね。もう一人が貴方達何とか侯爵の女の子って話だったわよ。」
残り二人はこの学園とは関係ない人たちみたいだ。
そのうちの一人は魔法ではなく剣一本でなかなか惜しいところまでいったみたいだ。
因みに試練の期間は一週間ほどあり、その期間の割り当てられた日に挑戦するらしい。
そして試練が台無しになるような裏話としては、その期間に挑戦できなかった者は一度に限り一年以内ならばいつでも挑戦可能ということだ。まあ、その場合パーティなんて組めるはずもないので一人で挑まなければならないらしいが。
「ディム先輩だったっけ?その人も強いんだな。ということはお前達も頑張らないとな。頑張れよ、ウィテラとブリーシア。」
「俺たちには無しか。」
「だって男に激励されたってやる気出ないだろ?お姉様、ちょっといいですか?」
「ん?なんだ、コータ。私は今少し忙しいんだが。」
「ちょっとこいつに頑張れって言ってやってもらえませんか?頑張れに飢えてるみたいなんですよ。」
「おい!変な言い方はやめろ!」
少し離れたところで他の先輩方と何か話していたお姉様に声をかける。
さあ、応援してもらうといい。そんなハイエナみたいに俺の応援ですら欲しいというのならこの麗しきお姉様にして貰えばいい。
俺たち友達だからな。そのくらい友情の範囲内だぜ!
「頑張れ。これでいいのか?」
「どうなんだよ、クレイ。」
「どうなんだも何もこの変な空気どうするんだ!」
「おまえ、お姉様の御言葉でも満足しないとはちょっと傲慢が過ぎるんじゃないのか?俺だったら応援してもらえたら守護隊なんて壊滅できる自信があるね!」
お姉様に応援してもらえるなんてこの世の全ての生き物が羨むことなんだぞ!
「コータが言うと洒落にならないわね。そんな理由でうちの守護隊を壊滅させないでもらえるかしら。」
「おいおい、リル。洒落に決まってるだろ?心の底からの洒落だ。もういっそお洒落でもあるぞ?」
俺は今回竜族に勝つつもりはないんだ!
勝ってしまったらこの上なく目立つだろ!
大体、神化しないと手も足も出ない相手に神化しないでどう勝てっていうんだよ。
それに、お姉様の応援をそんなとか言わないでくれませんかね?
「意味の分からないこと言ってないで、壊滅はともかく勝ちなさいよ?守護隊員程度に負けたら許さないから。」
「は?何言っちゃってんの?そんなの無理に」
「私と一緒に強くなってくれるんでしょ?だったら勝って証明してもらわないとね?」
はぁ⁈たしかにそうだけども!
どうするか、これで負けるわけにはいかなくなったぞ。
くっそー、こんな話になるなら変にクレイをいじるんじゃなかった。
「俺は応援してやるぞ。頑張れよ、コータ!」
「と、本当に忙しいから行くからな。私も応援してるから頑張ってこい。では、また後でな。」
お姉様は俺の頭を撫で先輩方のところへと戻っていった。なにやら指示を出しているようだが、そんな姿もカッコイイです!
冷静に考えて今の俺ってなにキャラなんだろうか。
「お姉様にも応援されたことだし頑張るか。リルとも一緒に頑張ろうって言ったからな。」
「お、お前なんで急に冷静になってるんだよ。ま、まさかとは思うが勝つつもりじゃないだろうな?」
ラディックン、そんな当たり前のこと聞くなよな。
ここまで言われたら勝つしかないに決まってるじゃないか。
「よく考えてみろよ、今回確実に勝って帰ってくるパーティは今のところ三組だ。しかも揃いも揃って無傷確定ときた。そこにボロボロになりながらも勝ってきたパーティがいたってあまり目立たないだろ?」
まあこれも冷静に考えれば、だ。目立つも目立たないもその三パーティの主軸となる人物は全員身内なわけで。
誰が目立っても変わらないと言う点においては、俺が目立っても、クオが目立っても、レティやリルが目立っても同じだろう。
ならいっそ、俺はそこに埋もれる形で。
「そんな歴史の転換点みたいなこと起こりうるわけないだろ?それってどのパーティのこと言ってるんだよ。」
「ラディックと言ったか?お前の目の前に三人ともいるじゃないか。まあ、さっきはああ言ったが、コータにも今の時点で四人目になれる可能性は十分あると思うけどな。」
ないな。まず俺には決定的に足りないものが一つある。技術とか、経験とか、知識とか、それ以前の問題が一つ。
それはレベル、ひいてはそこから生まれるステータスである。
俺はまだそこで競い合える土俵にすら立てていない。
例えばどんな巧妙な策を用意しようとも、ステータス差が大きければ強引に破られるだろう。
魔法であればより大きな魔力には手も足も及ばない。物理的な策でもステータスというのは大き過ぎる、鉄の剣で傷がつけられないことだってあり得る世界なのだ。
目一杯制限解除して、出来る限りバフをしても精々リルより少し低いくらいのステータスにしかならない。
この試練をお姉様の忠告を無視して強引に、力に任せて突破をするならば神化も、制限解除だって使ってもいいだろう。
だが今回は人間、いや通常種族の範囲内で勝ちに行こうと思う。試練ってそういうものだと思うのだ。
これは神崎に言われたような場面ではない。
つまり、制限解除をしても15まで、神化、創造、最適化なんて以ての外ということだ。
それらを鑑みた上で俺が来週の試練の日までにしなければならないこと。
「久しぶりのレベリングの時間だな。」
「今、四人目が誕生したみたいだな。」
「こいつらは教師を苦もなく倒したり、賢者に奥の手を使わせたりする奴らだからな。意外とその歴史の転換点とやらになったりするんじゃないか?」
「副会長、俺は勝とうとする相手を間違えたようです。」
邪竜の魔石を使う時が来たみたいだな。
あ、爺さんに来週まで休むって伝えないと。
鉄の剣で傷がつかなくとも、魔力を纏わせたりすることで傷を負わせることは出来ます。
なので高レベル帯の戦闘では必須の技術になっていたりもします。




