確約と【守られる者】
土煙が晴れていく。
この訓練場、魔法とか使うの前提だから土むき出しなんだよな。
「おー、やるじゃないかキャロル。敵も味方も一網打尽みたいだぞ。」
「地面とか人とかもう色々とボコボコですね。」
「だ、大丈夫ですか⁈ラディックくん⁈」
まあ、大体予想通りだな。
寸前までで結構ボロボロだったのに、あんな無差別範囲攻撃を躱せる方がおかしいというものだ。
だったらなんでボロボロなんだと言いたくなってしまうだろうな。
「お、おうキャロル。ナイス魔法だった、ぜ。」
がk
「『リストア』からの『エンジェルブレス』」
一日に二回もエンジェルブレス使わせるなよな、まったく。
俺が今出来る最高位回復魔法なんだぞ。俺のMP問題を考えてから気絶して欲しい。
「せめて俺の見てないところで気絶してもらわないとな。」
「今のはまだ気絶する寸前だっただろ⁈せめて気絶してからにしろよ!」
「なんだよ、文句が多いな。フェリシアお姉様はもう一度気絶しそうになったりはしたけど文句なんて言わなかったぞ!」
「な、なぜ私の話になるのか聞かせてもらおうか。」
それはですね、こうする為です!
頬をピクピクさせ、若干顔を赤くさせながら姿を現わすお姉様。
「『ディメンションパイル』!敵を倒すには色々とやり方がありますからね。その中でも頭を潰すのが手っ取り早いです。」
「なっ⁈これはグリターに使っていた魔法だな。」
潰すとは言っても、この敬虔なるお姉様信者の俺が直接攻撃なんて出来るはずもないのでこういう形にはなってしまったが。
「と、そういえばお姉様に一つお願いがあったんですよ。あれよあれよと話が進んだものですから言いそびれてしまって。」
「なんだ?こんな状況じゃなければゆっくり聞いてやりたいが。まずは解いてもらえないか?」
ああ。固定されたお姉様も美しい!とか思っていたからつい解くのを忘れていた。ほい。
「ふぅ。それで?願いとは一体なんだ?あまり過激でないのなら出来るだけ聞いてやろうとは思うが…そ、そのだな、まだ私たちは学生であるわけだからして、その…」
「お姉様は意外とムッツリなんですね!それはそうと」
「ちょっと待て。今の言葉をさらっと流そうとしているのは看過できないな。私は断じてムッツリなどではない!」
何を今更。
お願いというだけでお姉様はさっきから色々と想像しすぎですよ。
「いえいえ、お姉様は疑う余地もなくムッツリです。それでですね、お姉様はさっきのこと」
「だから何故すぐに話を進めようとするんだ!」
「えー、だってそこ議論の余地ありますか?俺は今すぐにでもお願いを聞いて欲しいんですけど。」
「いいじゃないですか、コータ。なんなら私が聞いて差し上げますよ?それはもう何なりと。」
うーん、そうだな。
色々と理由ありきのお願いなのだが、この際ティアでも問題ない、というよりむしろお願いしたいな。
「そうか?じゃあ膝枕してもらってもいいか?さっきのみんなからの心無い一言で傷心気味の光太さんは今にも泣きそうなんだよ。今度してくれるっていう確約だけでも立ち直れるんだけど。」
「膝枕ですか?今はちょっと地面もあれですので出来そうにありませんが、後からで良いというのならいくらでも。あ、そのかわり私にもしてくださいね?」
「おー!光太さん復活だな!俺なんかの膝枕でよければいい」
「ちょっと待て。」
なんですか、お姉様。
さっきから俺の話を止めすぎじゃないですかね?いくらお姉様ラブな俺でも怒りますよ?
「お願いとは膝枕、なのか?だとしたら何故、今急に。」
「急じゃないですよ。さっきお姉様とラディックンの言葉で今にも泣きそうになってしまった俺は、その時に思ったんです。これは膝枕でもしてもらわないと割に合わない!と。」
「そ、そうだったな、さっきは悪かった。だ、だが、人目もある。だから、その…」
「悩まなくても大丈夫ですよ。もうティアが癒してくれるそうなので構いません。」
別に誰でもいいとかいうわけではないが、結構ティアのことぞんざいに扱っていることは自覚しているので、たまにはせっかくの好意を無碍にせずに受け入れてもいいと思ったのだ。
今回は妄想関係ないわけだし。
「いや、やはり私が傷つけてしまったのだ。だから私がやろう。し、しかし、今はひ、人目があるから後日、とかでも良いだろうか?」
「ッ!はい!大丈夫です!」
「こ、声が大きいぞ!」
もうその上目遣いだけでもグッジョブです!
お姉様真面目だなぁ。そこもまたグッジョブ!
「駄目ですよ!コータは私が癒します!そして私も癒されるのです!」
あー。その握りこぶし、色々と残念だからやめた方がいいぞ。
「うーん、俺としてはティアからもお姉様からも、とか?その方が癒され度も二倍なわけですし。」
何を言ってるんだ俺は…
そして今更ながらに込み上げてくる恥ずかしさ。
何故俺はこんなことを言い出してしまったんだ!
色々とハイになっていた感は否めないがそれでもおかしいぞ。昔の俺ならばこんなことは言い出せなかったはずだ。
俺も図々しくなったものだな。しかし、そんな俺にこんな一言を送ろう。
よくやった!
「それは名案ですよ、コータ!前にユウキが言っていたうぃんうぃん?の関係ですね!」
「ではさっきの約束の時にでも一緒にだな。よし、この話は終わりだ。それがいい。」
あいつ、ティアに聞こえのいい言葉ばかり教えているんじゃないだろうな?
お姉様はすぐにでもこの話を終わらせたい様子だ。
まあ、俺は今気分がとてもいいので意地悪なことはしない。
「じゃあ、その時はよろしくお願いしますね?それで、これってもう帰ってもいいんですか?」
「駄目に決まっているだろう。さっきのラディックみたいなことがあったんだ。細かく指導しておかなければ大事になりかねない。怪我で済めばまだいいが、最悪死ぬことだってありうるのだぞ。」
「そうですね。さっきだって気絶しかけたわけですし。そういうことなら」
森の中で気絶なんてするのは死に等しいと思いながら言葉を続けようとしたのだが、
「そういうお前もだ、コータ。たしかにあの状況を打破するのにあの魔法は有効な手だったのかもしれない。だが、お前は安易に大きな魔法に頼りすぎる節があるな。」
俺からしたら魔法自体が大きなものだからファイアボールと言われても、ヘルインフェルノと言われても大差ないんだがな。言い過ぎか。
素直に注意を受け入れておこう。どこでその問題が露呈してくるかわからないんだ。
「さっきのことでもそうだ。ラディックを魔法から取りこぼしていただろう。大きな魔法は効果や威力は絶大かも」
「それはわざとですよ?」
「しれない…今なんと言った?」
「だからラディックを魔法の影響下に入れなかったのはわざとです。この野郎、最初に会った時に守るとかなんでも出来るとか言っておいて我先にとほっぽって飛び出して行ったんです。」
訓練の間に少しお灸を据えておくべきだろう。という判断の下行った罰だ。
まあ、八十パーセントくらいはラディックが飛び出しすぎててそこまで範囲に入れるのが面倒だったからという理由が占めているような気もする。
「そ、そうか。ま、まあ、能ある鷹は爪を隠すという言葉もある。あまり安易に力を見せすぎない方がいいぞ?貴族というものは厄介だ。」
「…はい!」
勇者!どいつもこいつも色々と持ち込みすぎだ!
異世界感が損なわれるだろ!
もう俺の思い描いた異世界はここにはないのかもしれない。と、ファンタジー然とした目の前の光景を見ながら思う。魔法飛び交ってるな。
「なんだ今の間は。そうか、私も貴族だからか?心配するな、私は伯爵家の娘だがお前の、その、盾になってやろう。いつでも頼っていいぞ。」
「お姉様!カッコイイです!」
うん、お姉様の格好よさに免じて勇者の愚行は許してやろう。
そうしないと中にはまだ生きていそうな勇者もいるからな。変なこと言いふらして噂を聞きつけた神人勇者が、的なことになりかねない。
この世界、魔力とか上位種族とか寿命が長くなる要素が多々あるからな。
「伯爵家なんかよりも王族の方がずっと効力がありますよ?」
「それだったら私でも構わないんじゃないかしら?」
「そんなのなくてもクオが守ってあげるんだよ。」
「ん。光太には私がいる。心配無用。」
や、やめてくれ。お願いだからやめてください。
変なところで集結されるのは本当に勘弁だ。
これじゃあまるで、俺が守られているだけの軟弱野郎じゃないか!まあ、若干その通りな感は否めないのだが。
泣きたい。というよりも早く強くならないとな。
と、変なところで気持ちを新たにしなければいけないのでやめてほしい。
なんだか滑稽である。
「なんの話で盛り上がっているんですの?盾?よく分かりませんが私も公爵家として名乗りをあげますわ!」
「よく分からんのに名乗りをあげるな!」
あー、いやだ。変に影響力のある連中ばかりで本当に困る。
神様、神様、姫様、王女様、公爵様、伯爵様。まあ、クオとレティのことはリル以外知らないので特に何かあるわけではないが。
それに面白そうに眺めているだけだがディアナだっている。
変にエルフ代表とかで捉えられたら目も当てられない。
影響があり過ぎて【守られる者】とかいう称号がついたらどうしてくれるんだ!
「ほほう、面白そうな話をしておるのう。儂は伯爵と賢者として」
「死ね、糞爺!」
これは美少女だからまだ許されてたんだ。
爺が出てきてなんの得があるんだよ!引っ込んでろ!
因みにだが、ラディックとキャロルはというと
「俺は、あんなことを言っておきながら…考えもなしに…」
「そ、そんなことないよ。囮も大切だよ!」
と落ち込んでいるのを、キャロルは一生懸命慰めていた。
でも、可哀想なくらい空回りして逆に落ち込ませていたりもした。
そういや、キャロルに囮が俺のでっち上げだって言うの忘れてたな。
まあ、気にすることでもないか。




