囮作戦
「次は対魔物を想定したパーティ戦だ。まあ、魔物と言っても本物を町中に用意はできないからな。こういう動きをするっていうのを三年生を相手に行ってもらう。」
そりゃそうだ。パーティ数は二十三組、試練の森のウルフは常に三匹以上で行動する魔物だ。多い時は何十匹と群れを成すこともあるらしいからな。
平均五匹と考えても百匹以上を捕縛した上で連れて来なければならない。
町が危険に晒されるのもそうだが、面倒極まりないのも確かだな。
「準備できたところから他パーティと間隔を開けて始めろ。一つ注意事項として過度な魔法の使用は禁止だからな。試練の森のウルフはウルフ系の魔物の中でも最下級のファングウルフだ、それに森の中での戦闘ということも意識しろよ。」
過度の時にこっちを見たような気がするが気のせいだよな。
もしこっちを見ていたとしたら、カルディナ先生はどんだけ俺のことが好きなんだよ。
愛情表現が呆れた目とか暴力行為とか不思議ではあるけどな。あれだな、カルディナ先生はある意味で不思議ちゃんだったんだな!
「というわけでここからは私がお前たちの相手をするわけだが、実際に魔物と戦ったことがあるのはコータとセレスティア様でいいのか?」
「まさかですよ、お姉様。俺がそんな恐ろしい相手と戦って生き延びられるような人間に見えるんですか?」
「そうです、私はコータに守ってもらう間だけはか弱くないといけないんです!」
何故魔物と戦ったことがあると決め付けられたのか不思議でたまらない。
たしかに十や二十なんてとうの昔に越える数を倒してきたのは間違いじゃない。正確にはひと月ほどでだ。
ですが、問答無用で決めつけるのは良くないですよ、お姉様!
と俺はそんな心情での言葉だったのだが、ティアの言葉は理解に苦しむ。
もうすでにか弱くないことぐらい知っているので今更そんなキャラを目指されても対応に困るだけだ。
それにか弱かろうがムキムキマッチョメンだろうが、助けることに変わりわない。
どんなキャラであろうともティアであることに助ける意味があるんだからな。
「俺はゴブリンなら何度かあります。といっても護衛付きで弱った奴相手でしたけど。」
「わ、私はありません。」
三人してスルーですか、そうですか。
「では私が魔法でファングウルフを模した攻撃していく。それをまずは四人で対応してみせろ。」
「無理です、僕は怖くて堪りません!」
「何言っているのですか、コータ。早く私を守ってください。」
こ、こいつ!仲間だと思っていたのに!
「早くさっき決めた陣形を取るんだ。魔物は待ってくれないぞ!」
「どわっ!」
荊棘が俺たちの四方から襲い掛かってきた。
なるほど、この荊棘がファングウルフの代わりってことだな。
「こんなの切り刻んでやる!」
「おい、アホラディックン!突出し過ぎだ!」
襲ってきた荊棘に向かって突撃を敢行していくラディックン。
後衛の護衛をほっぽり出して何やってるんだよ。
ほら、横から抜け出してきた荊棘がキャロルに迫ってるぞ。
「きゃっ!」
「『スペーシャルイソリューション』!」
………
「うん、こうなってしまっては仕方ないよな。あとは任せたぞ、ラディックン!って聞こえてないか。」
「向こう側の音が全く聞こえませんね。」
「え?あれ?」
このカルディナ先生戦で使った魔法だが、この擬似結界魔法はあの時と同じように音も衝撃も通さないので外の情報は視覚から以外は取り込めないという欠点は改善されず終いだ。
衝撃といってももちろん一定以上受けたら持ち堪えられないわけだが。
というわけで勝手に突出したラディックンにあとは任せてしまおう。
これも罰という立派な連携の形だと思うんだ。
「あ、ありがとね、助けてくれて。」
「一つ重大なお話があります!私の方にも荊棘が迫ってきていた件についてです!」
ああ、たしかにキャロルより少し早くティアに迫っていたな。
何故か度胸試しのごとく寸前まで待って躱していたのが不思議だった。
「戦闘中に度胸試しする余裕があるなら大丈夫だな。」
「ちーがーいーまーす!あれはコータが助けてくれるのを今か今かと待ち構えていたのです!キャロルは助けて私は助けないなんて酷いです!」
「いやー、まさかあのタイミングでラディックが突撃するとは思わなくてな。ラディック側から迫ってたからあいつがどうにかすると思ったんだけどな。それに、ティアだったらひょいひょい躱しそうだったから。」
事実そうだったわけで。
それに空間隔離の魔法は使う予定はなかった。使ってしまえば向こうの攻撃が届かないわけだが、それはこちらも然りだ。
それにこの魔法はカルディナ先生の言っていた過度に入る魔法だと思う。
強力な魔法に頼ればたしかにあの森の魔物程度なら一人で攻略できるだろう。そう一人でだ。
今回のパーティである意味がない。
「それに、パーティで戦ってる以上タイミングを間違えるわけにはいかないんだよ。」
「それもそうですね。今回は仕方ないので許してあげましょう。」
さっきの荊棘の迎撃としてボールやジャベリン、ウォールと基本の魔法を織り交ぜながら剣を主体として前衛をこなそうと思っていた。
ウルフ達は群れで襲ってくる、尚且つ森の中での戦闘なのだ。どこから襲ってくるのかの予測も難しければ、前衛が数匹に抑えられている間にも後衛が狙われる可能性なんて非常に高い。
クオとレティと三人で行ったあの時は、全員が無詠唱で魔法を使え、クオが前衛として戦っていたため危険性なんて皆無だったのだ。レティもなんだかんだ言って同じくらいの背丈のウルフを投げ飛ばしていたりもした。
と諸々の理由で心配なんて皆無だったあの時とは違い、今回は誰を、どのタイミングで、どの程度加勢しなければいけないのか、その判断が非常に重要になってくる。
一つのミスが誰かの怪我に繋がるかもしれない。
だから今回は一人で対応できるティアには、悪いけど加勢をしなかったのだ。
「でも結局、あの波状攻撃を基本魔法だけで一人で捌きながら二人に怪我させない自信がなかったからこの魔法を使ってしまったんだけどな。」
「あ、あの、お話中に割り込んでしまって悪いと思うんだけど、もうそろそろ限界みたいだよ?」
あ、本気でラディックのこと忘れていた。
音も何も聞こえないものだから、つい。
「そうだなぁ。じゃあせっかくのパーティなんだし前衛が稼いだ時間で後衛のキャロルが魔法を、ってな感じで行こうか。それだったらラディックも報われるだろう。」
「そ、そうだね、私は後衛の役割を果たさないとだよね。こ、こんな感じかな。」
うーんと、この魔法陣は、なになに。
土属性で、形は矢か。それが雨のように、と。これ明らかに範囲魔法だよな。
うん、ラディックが危ない気がする。
「アースアローレインか。ラディック守ったほうがいいかな?」
「大丈夫ではないでしょうか。一人飛び出して行ったのですから自分の身くらい自分で守っていただかないと。」
鬼という言葉、そっくりそのまま返してやるよ。
もう想像しただけで嫌になるぞ?
一人だけ敵の相手をさせられたかと思ったら、急に味方からの土の矢の雨。
いくら自分が悪いとはいえ泣きたくなってもおかしくないと思う。
「そうだな、別にいいか。自分だけなんだからきっと何とかするだろ。生きてれば治せるわけだし。よし、決行!」
「わ、私が構成した魔法だけど、そう言われたら不安になってきちゃったよ。」
「心配するなって。自分から囮を買って出たラディックの勇気を蔑ろにする方が失礼ってものだろ?さあ、一思いに全てを殲滅してしまえ!」
誰も囮なんて言っていないが気にしない、気にしない。
俺には分かるんだ、ラディックの背中が語っている。これは囮作戦なのだと。
「え、ラディックくんは助かるんだよね⁈」
「え?助かるんじゃないのか?そんなことよりも俺が魔法を解いたらそれが合図だからな。いくぞ?」
今の状態では外に干渉できないからな。魔法を解かなければならない。
「え、えー⁈もうどうなっても知らないよ⁈」
「ほい、解除っと。」
空間隔離の魔法を解く。
するとそれにラディックが気がついたようだ。
「や、やっと出てきたか!早く助け」
「『アースアローレイン』!」
「え?」
ドドドドドドドドドッ!!!!!
さて問題です。デデンッ!
寸前のラディックでさえ満身創痍の状態だったのですが、アースアローレイン後のラディックはどうなってしまったのでしょうか?
答えはCMの後!
試練の森のウルフの正式名をどこかで出した気がしたんですけど見つけきれず…
メモってもいなかったようで。
なので今後見つかり次第名称が変わるかもしれませんがご了承ください。
作者の不手際で申し訳ないです。




