説得
セレスティア視点です。
「よ、よろしくお願いします!」
何か気圧されて空回りしているようですね。
一見張り切っているように見えますが、こんなにガチガチでは魔法どころではないでしょう。
「もっと力を抜いてください。それに、もし私の立場を気にしているのでしたら心配いりませんよ?私自身が言っているのですから問題ありません。」
「で、でも…」
理由は簡単なことです。
私は近い将来コータに嫁ぐのですから、降嫁という形になります。王女が平民に嫁ぐなんてことは本来ありえませんがそこは愛の力でどうとでもなるはずです!
でも結局はコータが貴族位を得ることで落ち着きそうですけど。
それだと私の言葉には信用性が皆無ですね。
「いいのです。では逆に聞きますが、キャロルは実力が未知数で、自分のことを信用してくれない相手に背中を預けられるでしょうか。」
「そ、それはそうですけどセレスティア様に攻撃するなんて…」
「私たちはパーティです。キャロルに真面目に取り組んでもらわないと安心して背を預けることはできません。それに私は同年代の中でもかなりの強さがあると自負しています。そんな私にキャロルの魔法は通用するでしょうか?」
少し手を変えて挑発的に言ってみましたが、自意識過剰な見下しキャラのようになってしまいました。
「そ、そうですよね。わ、わ、私程度の魔法じゃ話にもなりませんよね…」
「え、あれ?ち、違います!今のは、その、ただの挑発をしただけです!ああ言ったら流石にのってくると思ったのですが。」
く、これはかなりの難物ですね。
ここで遠慮されるようでは背中を任せることなんてできないというのも事実ですが、キャロルはどうも人見知りというよりも緊張しやすいだけのようですからね。そして極度の自信のなさ。
いざという時に危険に陥らないためにも、ここで少しくらい克服してほしいところですね。
「い、いえ、自分でも分かってるんです。私みたいな弱くて、少しのことにもビクビクして、大きなものにはすぐにすがりつく、そんな私が試練をクリア出来るわけないって。」
「先程はああ言いましたが、私だって弱いですよ?敵に遭遇したら漏れなく怖いですし、誰かに頼ることなんて日常茶飯事です。」
私が強ければ今回だってコータに守ってもらおうなんてことにはならなかったでしょう。
魔物であっても刺客であってもいつだって怖くてたまらないですし、周りの人達には助けてもらってばかりです。
「ですから誰かに守ってほしい、助けてほしいと常日頃から思っています。」
「セレスティア様が弱いなら私なんて。」
「最近、面と向かって守ると約束してもらえた時はとても嬉しかったです。しかしそれと同時に守ってもらうだけでは駄目だと思いました。」
コータと約束を交わしたあの日、戦うコータを支えているクオ達の立ち位置が素直に羨ましくて、つい負けないようにと頬にキスをしてしまったりしました。
昔から王女が助けられたりする物語は好きで憧れていましたが、あの時にその憧れは守り守られる素敵な関係へと昇華したのだと思います。
「私はコータに守ってもらいたいですが、今の弱いままでいるつもりはありません。どうしてもあの場所に追いつきたい、守られるだけではきっと空虚な気持ちを患うことになります。」
クオが、レティが、リルエル様が立っているあの場所に私も。
昔の夢見るだけで終わる自分ではなく、少しでも憧れへと近づいていくために邁進、努力することは厭いません。
「少し違うかもしれませんが、キャロルはどうですか?この試練、コータがいるだけできっとクリアしてしまうと思います。しかし、それでキャロルは納得できるのですか?」
「納得、できないと思います。で、でも!だったらどうしろって言うんですか!」
さっきまでの空元気とは違う、心の叫びというところでしょうか。
「自分の出来ることを精一杯行うというのはどうでしょうか?そこにただいるだけと精一杯頑張るのとでは、たとえ結果は同じでも得るものは違うのではないでしょうか。」
この試練は結果を求めるものではありません。
自分が今後どうあるべきなのか、今の自分はどうあるのか、それを知るための試練なのです。
意欲的に行動するだけでも必ず得られるものはあります。
「それに今回だと、失敗を恐れる必要は皆無です。きっとコータが補ってくれますからね。このチャンスに盛大に失敗しておくのもいいかもしれませんよ?もちろん私も助力させてもらいますよ。」
「で、でも、迷惑なんじゃ。」
「私が好きになった男の人を見くびらないでもらえますか?そのくらいで迷惑を感じたりしませんよ。」
勝手にコータの名前を借りてますが大丈夫でしょう。
人が頑張った結果を見て迷惑と感じるような人間では決してないですからね。
「なんでコータ君のことをそこまで信じられるんですか?」
「コータは人の為に悩んで空回りしているような人間です。少し間の抜けているところもありますが、この前は助けると言って有言実行してもらえました。」
少し素っ気ない時もありますが、あの優しさは本物ですからね。
「好きにならないはずないでしょう。」
あの刺客に襲われて裏路地に飛び込んだあの日、ガラの悪い男達に絡まれて不運だと思いましたが今になって考えれば幸運以外の何物でもありません。
あの時は咄嗟に近道などと嘘をついてしまいましたが、コータが現れてくれたことで刺客も引いてくれました。
一度は偶然とはいえ二回も命を救われて、その上面と向かって守るとまで言ってもらえたんです。コータの言う妄想王女ならば恋をして当然の結果ではないでしょうか?
「構え!始め!」
「始まりの合図のようですね。手始めに私に攻撃してみましょうか、手加減は無用です。」
「わ、分かりました。私だってこんな自分がい、嫌で仕方ないんです。セレスティア様にここまで言ってもらえたのに頑張らないのは駄目ですよね。」
「その意気です!そうですね、私がここまで言ったのですから頑張らないと不敬罪ですよ?」
気負って重圧でガチガチになってしまうと意味ありませんからね。
少しの冗談です。
「が、頑張ります!」
「さあ、いつでもどうぞ!」
キャロルは攻撃魔法が苦手と言っていました。
だとすると攻撃は魔法陣が基本戦術だと思われます。魔法陣は誰でも一定威力が出せるようになっていますからね。
私もキャロルに発破をかけた以上頑張らないわけにはいきませんね。




