荊棘
「お姉様!一つ質問よろしいでしょうか!」
「な、どんなことを要求するつもりだ!学生の間はキチンと節度を守った交際をだな!」
何を言っているのだろう、お姉様は。
交際なんてよくわからないことは置いといても、そんなに俺っていきなりすごい要求を言い出しそうに見えるのだろうか?
だとしたら少し悲しくあるので、どうにかその印象は払拭せねばならないだろう。
だけどそんな印象操作みたいな魔法使えないぞ。それに使えてもそんな魔法使いたくない。俺はデフォルトで勝負していくスタイルなのだ!
はーい、そこ!無理だろとか言わない!俺だって怒っちゃいますよ!
「フッフッフッ、さーてどんな要求にしましょうか。あんなことやこんなこと、あー、これなんてどうです?」
特に内容のない言葉だが身振り手振りで雰囲気を出す。
「どれだ!」
「名前教えてください!」
どれだ!と言われてもな。
確かに至極真っ当な返しだろうがその言葉に意味なんて特になかったので返す言葉は特にない。なので、本来の目的を持って返すことにした。
「フェリシア・フォン・エターナルローズだ。それで何を要求するつもりなのだ!」
「フェリシアお姉様ですか。なんだか深窓の佳人のようなお名前ですね。あ、でも穢れを知らないという一点では正解かもしれませんね?」
もっとも勇ましい名前かと思いきや可愛いお名前だったようだ。
いやはや、先入観というか第一印象というか、想像だけで判断してはいけないよな。
それに今のこの姿は不本意な部分もあるようだし、案外もっと女の子らしい姿の方が似合うかもしれないよな。
「し、深窓の佳人…穢れを知らない?な、何のことだかさっぱりだな。」
「ははっ、あのフェリシアがタジタジじゃないか。やっぱり君は面白いね!そうは思はないかい、ヒューゴ。」
「ああ、名前からフェリシアという人間の本質を当てるとはなかなかだ。」
会長さんのご登場だ。あー、ウィテラのとこともう一つのとこのパーティが終わったのか。
「そうだね。フェリシアは今はこんなだけど、この学園に入学するまでは大人しい、それこそコータ君の言うような感じの女の子だったよね。」
「おい!グリター貴様!」
ヒュンッ
「あはは、この程度じゃ僕には当たらないよ。」
なんだこの荊棘は⁈
グリターパイセンの足元から急に荊棘が飛び出してパイセンを搦め捕ろうとする。
魔法なんだろうけど、こんな魔法属性もあるのか?
というよりも今のを躱すってどんだけだよ。まるで分かっていたかのようだったぞ。
「避けるな!」
「フェリシアは極度の人見知りでね、この格好をしていないと人とまともに話せないんだよ。」
「なるほど、人と話すための武装ということですね。俺にはその気持ちとても分かります。」
俺だって人と仲良くなりたくなかったわけではない。むしろその逆だ。
友達いっぱいいるような奴は素直に羨ましかった。
だけど、どうしようもなく最初の一歩を踏み出す勇気が出なかった。
フェリシアお姉様のそれは、その勇気を後押しするための武装なのだろう。
それでも、
「それでも、その武装をしていたとしても、踏み出したお姉様のことを尊敬します。」
「コータ…」
俺には出来なかったことだからな。
辛うじて中学時代は向こうから来てくれた奴がいたから少しはどうにかなっていたが、あれが無かったら俺は暗い地の底に沈んでいたかもしれない。
「どこまでも面白いね。だけどこの武装には欠点があるんだよ。それはね、」
「いい加減にしろ!」
「見ての通り堅苦しくなりすぎるんだよね。もうちょっといつも通りに出来ないものかと思うんだけど…鉄の副会長なんて呼ばれちゃうくらいだからね。」
よくこの猛攻を交わしながら話が出来るよな。
だが何故だろう。すごいと思う反面、このいちいち身振り手振りを入れ、尚且つこちらが動きを捉えられるよう配慮された感じ…無性に腹立つ。
それにお姉様の攻撃を躱すなんて言語道断だ!有り難く受けて当然だろう!
ということでちょっと加勢をば。
「『ディメンションパイル』今です!フェリシアお姉様!」
「あれ?加勢があるなんて聞いてないよ⁈待って待って!」
「ああ!『捕らえろ!アレストソーン』『そして罰せよ!ソーンパニッシュメント』!」
ふっふっふ、その余裕そうなツラが崩れたお陰で今日は気持ちよく眠れそうだ。
地面から現れた荊棘はパイセンに絡みつき拘束する。そしてそれは布石だったらしく、その荊棘は無数の小さな棘を携えパイセンが動けば動くほど縛り上げていく。
まあ、ディメンションパイルで動けなくなっている相手を拘束するだけの蔦はいらないだろう。そりゃ次の布石だわな。
「いたっ、痛いっ!これ動けば動くほど痛くなるよ⁈」
「ついにやったぞ!あのスカしたツラをこの手で!」
あー、これは相当な鬱憤が溜まっていたようですね。
そりゃあな。だって躱しているあの態度、舐めていると言われても仕方ないものだったからな。
「ありがとう、コータ!グリターの奴には昔から色々とからかわれていてな。反撃してもひょいひょいと躱されるだけで終わっていたんだが」
ガッと手を握られる。
おー。積極的だなぁ、お姉様ったら。
「お前のお陰でやっっっと一矢報いることができた!何か礼をさせてくれ!」
「お礼だなんてとんでもないです。俺も無性に腹が立ったから手を貸しただけですよ。」
「それでは私の気が済まない!私の長年の苛立ちを取り払ってくれたんだ、何もしないでは」
「あのー、先にこの荊棘どうにかしてもらえないかな?ほら、今もジワジワと…イタッ」
そういやパイセンがさっき言ってたやつ気になるな。
そこまで言うのならそれにしようじゃないか。
「そこまで言うんなら決めました!」
「そうかそうか。なんでも言ってくれ!あ、過激なのは駄目だからな!」
「俺ってそこまで信用ないんですか?若干凹みますけどまあいいです。」
この信頼は今後取り戻していかなければ!
「じゃあ、お姉様の素を見せて下さい!今度でいいんで。」
「そ、それは…」
「あはははは!よりによってそこか!やっぱり、イタイイタイ!ごめんってば!」
あの魔法、絶妙に痛すぎないようにとか、血が出ないようにとかコントロールされてるっぽいな。
お姉様も結構半端ないな。
「なんでもと言ったが…しかしそう言ったのは事実なのだが…ええい、分かった!だが、絶対に馬鹿にするなよ!」
「そんなことしませんよ。楽しみです!」
「よっ、と。それじゃあみんなのところに戻ろうか。」
あ、こいつ!
よっ、とじゃねぇよ!普通に荊棘から抜け出しやがった!
ディメンションパイル解くんじゃなかったな。お姉様は空いた口が塞がらないと言った様子だ。くっ、おのれ!
お姉様に恥をかかせた恨み!ディメンションパイル無言バージョン!
「アイタッ。」
「え?」
なんとか顔面から転ぶのを避けたようだが、それでも転ぶパイセン。
靴を対象に使ったので転んで当然だな。
お姉様にサムズアップする。
「なるほど、ふふっ。ありがとう、コータ。」
きっとこの柔らかい笑顔のことだろうな。
はやくもお礼は果たされたような気がした。




