目覚め
お姉様が初登場した生徒会長の口調を少し変更しました。
「おーい、お姉様ー。大丈夫ですかー?」
しかしまずった。
俺がお姉様の痴態を晒してしまうのを阻止したのも束の間、このままでは同じことである。
だってそうだろ?このまま意識失ってると、周りからすればなんでってことになるからな。早く起こさねば。
ペチペチ
「おーねーえーさーま!早く起きないと遅刻しますよ?起きないなら置いてっちゃいますよ?」
「………」
起きない。
俺の華麗なる第一の作戦はダメだったか。頬をペチペチと可愛い後輩が起こしに来てくれるという二段構えなのだが。
「またそうやって二度寝するんですから!俺が先輩のこと放っておけないって知っててやってるでしょ!」
「………」
これならどうだ!
恥ずかしいセリフでイヤでも起きてしまうプラス、ありもしない嘘を周りに誤解させないためにも飛び起きざるを得ないという二段構えだ!
ま、うん。起きないな。大体、気絶してるんだから声だけで起きる方がおかしいのだ。
これは何かしらの衝撃でしか起きないな。
ペチペチ…
「………」
ゆさゆさ…
「………」
ガクガク…
「………」
うーん、これでも起きないとは。とんだ寝坊助さんだぞ。
それにしてもうちのパーティメンバーは優しい奴らばかりだな。
ラディックは額から一雫の汗を流しながら固唾を飲んで見守っているし、キャロルはお姉様が気絶してしまったことであわあわしている。心配なんだろうな。ティアは………寝ている。
うーん、正直ティアが何をしているのか意図を計りかねるが、多分だがお姉様を一人にしないために自分もってところだろうな。
「もー、みんなをこんなに心配させて仕方ないですね、お姉様は。『リストア』」
「ん、んん?なんだか少し煩いな。またお父様が何かやらかしたのだろうか。」
あ、やっと起きた。
そりゃ煩いのは当然だな。だってまだ終わってないパーティ結構あるし。色々と決めるのに魔法使ったりもしてるからな。
ただ、お姉様は自分の家か何かと勘違いしているようだな。
「目が覚めました?まだ学園なんですけど俺が誰かわかりますか?」
「お前は……グリターが欲しがっていた…」
あらら、また固まってしまった。
いま頭の中で色々と考えているか、さっきの出来事がフラッシュバックしているのだろう。
「お、お、思い出したぞ!お、お、お前!指を!く、口に!」
「指を口に?こうですか?」
言われた通りやってみる。
人差し指を咥える。これがどうかしたのだろうか?
俺なんかがやってもちっとも可愛くないだろうに。
キラキラエフェクトに可愛らしい背景を入れて、体を捩って上目遣いをしてもまだ足りないと思う。
まず顔のパーツの交換からだな。
「なっ⁈」
ボ「ダメですよ、気絶したら。さっきは大変だったんですからね。」
また倒れそうになったお姉様に気絶されないようそう言う。
「お、お前!」
「もー、そろそろ光太でも、コータでも呼んでくれてもいいんじゃないですか?」
「そ、それはどういう意味だ!」
「意味?友好の証、的な?」
意味と言われてもな。
こんなにも先輩思いの後輩がお前呼ばわりじゃ報われないじゃないか!とかだろうか。
「あ、あんなことをしておいて友好だと⁈お前は正気なのか!」
「あ、あれ?俺何かしました?」
あー、もしかしてトマト血事件のことか。
たしかにあんなことされたら人によっては友好も何もあったものじゃないかもしれないな。
場合によっては取り返しのつかないことになっていたかもしれないのだ。お姉様の今後的な意味で。
残念だな。お姉様とは仲良くなれそうな気がしていたのに…
「すみません。俺の軽率な行動で怒らせてしまったみたいですね。先輩がもう近づくなというのならそうします。先輩が好きなように罰してください。」
「な、何故そうなる!」
あれ?調子に乗りすぎた俺への罰だと思い、どんなことを言われてもいいよう覚悟していたのだが。
違ったのか?
「え、だって、トマトで血を偽装して、故意かどうかはともかく結果的に騙すような形になってしまったんです。それで怒っているんじゃないんですか?」
「そんなことに引っかかってしまった私自身に恥ずかしさを覚えはするが、そんなことで怒るほど私は小さな人間ではない。」
いや、怒ってもいいと思う。
まあ言ってはなんだが、そこまでリアリティがあるわけでもないのに騙されるのもどうかと思うが。
「それなら何に怒ってるんですか?」
「私は怒ってなどいない。私が言いたいのは、あ、あんなことをしておいて友好程度で済ませるつもりなのかと聞いているんだ!」
「あんなことってトマトの件じゃないんですよね?じゃあ、一体。それに、友好程度だなんてとんでもないです。俺はお姉様と仲良くなりたいです!」
でも、怒っていないようで一安心だ。
これは相手がお姉様でなければ許してもらえなかったかもしれない。
友好程度と言っているが、お姉様とは是非仲良くなりたいな。
「そういうのを言っているのだ!お前、コータはあ、あんな、キ、キスまでしておいて友止まりであろうというのかと聞いているんだ!」
「キス?そんなことしてないですよ?もー、こんな時に冗談言わないでくださいよ。俺だって怒りますよ?」
「コータこそしらばっくれるな!その人差し指でお前がしたこと忘れたとは言わせないぞ!」
人差し指でしたこと?
はて、俺はこの人差し指で何をしただろうか。お姉様を指差したか?いやいや、そんなことはしていない。だって田舎の婆ちゃんが人を指で指したらダメだって言っていたからな。
他には…鼻でもほじったか?それとも耳?そんなこと人前でしたりしない。大体俺は人差し指派ではなく小指派だ。
うーん、分からん。
強いて言えば親指と人差し指を立てて決めポーズ!もしてないよな。
「本当に俺は何をしたんですか?全く分からないんですが。」
「ほ、本気で言って…いるようだな。そうかそうか、ならば私が教えてやろう。お前はわ、私の口に無理矢理突っ込んで口内を蹂躙しただけに飽き足らず、」
ちょーっと待ってくれ。
思い出したぞ。たしかに俺はお姉様の口に人差し指を突っ込んだ。無理矢理と言われても仕方のないことかもしれない。
だが!蹂躙とは人聞きが悪すぎる!ましてや、他はともかくそんなことはしていない!トマトだと確認してもらっただけだ!
それにまだお姉様の言葉は終わっていない。俺の人差し指は他にどんな悪さをしたと言うんだ⁈
「その指を奥まで咥えていたではないか!あ、明らかにあれはキ、キス、間接キスだ!ここまで聞いてもまだ友であろうというのか!」
「あー、なるほどですね。たしかにさっき言われた通りに咥えましたけど…」
うん、お姉様が言うように間接キスなのかもしれない。それまでの間の色々でこの人差し指が何をしたのかてっきり忘れていた。
でも一言いいだろうか?
「子供か!」
「なっ⁈コータはキ、キスをした相手を何も思わないほど大人だと言うのか!汚らわしいぞ!」
「いやいや、初対面で偶々間接キスしたくらいで友達以上の関係にいきなり発展したりしませんよ?な、ティア。」
そろそろ狸寝入りやめろよな。
王女様が地面に躊躇いなく寝るって何考えているんだよ。
ムクリと起き上がり第一声。
「あれ?寝ていたら色々なシチュエーションの言葉をかけてもらえるのではないのですか?」
「そんな遊びはやってません。ほら、ティアもお姉様に言ってくれないか?間接キスでいきなり発展したりしないって。」
「ふんっ!いいです、あとでクオ達に相談させてもらいますから!それで間接キスですか?私は頬にしましたけど、コータの態度は殆ど素っ気ないですよ?」
そういうこと言って欲しいんじゃないから!
俺がとんでもない女ったらしみたいな言い方はやめて欲しいんだが!
それにクオ達に言ったら許さないからな!何させられるか分かったものじゃない。お、俺も嬉しくないわけじゃないんだけどね?ほら、毎回恥ずか死してしまうから。
「でもそうですね。偶に優しくしてもらえるときもありますよ。あれはコータの素の優しさかもしれませんが。」
「ほ、頬にしてそのレベルなのですか⁈」
偶にってなんだよ!俺の素の優しさはまれに起こる現象かなんかなのか!
やめてくれ、俺の悪評が止まることを知らないから!
それにティアのそれはティアのせいでもあるだろ!俺は基本優しいんだ!
「ま、そうだよなセレスティア。」
「コータは全てを暖かく包んでくれるような神様のような優しさで接してくれます。」
「い・い・す・ぎ・だ!もうセレスティア固定だな!」
「嫌です!ティアって耳元で囁いてください!」
「するか!はぁ、ティアに話し振った俺がアホだった。」
ティアに話を振ればこうなることは予想できていたのに。
王女が地面に寝そべる哀れな姿を見ているとどうしてもな。
「頬なのにこの扱い⁈間接な私はどんな扱いになるというのだ⁈」
まあ、何かショックを受けているようなお姉様は少し放っておこう。
少しすれば目も覚めるだろう。
因みにラディックから
「魔法を使って起こせるなら最初からそうしろ!」
と言われたのは余談である。
なんでも、鉄の副会長をぞんざいに扱う俺を見て気が気じゃなかったとか。
失礼な。俺のお姉様への対応は神対応だったに決まっている。
それにしてもラディックの野郎、あの汗は心配からくる汗かと思いきや、心配は心配でも自分の心配だったとは。許せん野郎だ。
あ、そんなことはどうでもいいんだが、俺はコータって呼んでもらってるのにお姉様、お姉様言ってたら失礼だよな。ラディックも鉄の副会長とか言ってるし。
〇〇お姉様って呼ぶことにしよう。
名前聞かないとな!




