神をも恐れぬ詐術師
魔法ってほんと楽だよなぁ。
そんなことをしみじみと思ってしまうくらいには便利だよな。
「ふぅ、完成したな。回りが、だけど。早く中を作って入らないと。」
邪魔者が帰って来るまでのタイムリミットは刻一刻と迫っている。
邪魔者なんて言ってはいけないな、ごめんなさい。
俺の目の前には、簡易的な小屋が建っている。
ただ四方を木材で囲まれただけのものだが、十分小屋として見れるのではないだろうか。
この小屋は先ほど買ってきた大量の木材の中の五十枚も買ったやつ。これが大体三百センチ×四十センチくらいなのだが、これを長い方を五十センチくらい地中に埋め、そして隙間がないように許可を得た空間を囲っていっただけだ。
入り口を作る部分以外は、一辺七枚で入り口は二枚分の幅を設けた。
で、残った板を使ってテキトーに屋根として機能するように上に乗せ、接触する板に穴を開けて雑貨屋で買った紐で固定していく。
まあ、この小屋は視線防止用なので特に見栄えとかのこだわりはない。入り口には暖簾(仮)をつける。
一応入り口も出来るだけ覗かれないように壁側に作った。ほかに理由はないぞ!小さくないからな!
ここまででみなさま気づかれている方もいらっしゃるかもしれませんが。
魔法は大変便利なのもの。その理由は想像力とそれに対応する魔力量さえあればほとんどのことが出来るのである。
そんなスーパーな魔法があれば小屋作るの一瞬なのでは?と思っていることだろう。
うん。俺も思ったよ。ついさっきね。熊さんの洞穴からの帰り道くらいかな?
その時俺は、
「な、なんてことだ!日本円にしてざっと五十万使ってしまってから気づくなんて!がくっ」
と一人で道の真ん中で膝をついて灰の様相を呈していたのだが、俺の思考回路はあってはならない方に回転し始め、
「でもあれだよな、俺たちの財力をもってすれば五十万なんて。一万円持ってる奴が十円を気にするのかって話だよな!」
やけになって正当化し始めた。
十円どころか一円でも大切ですよ!チリツモですから、チリツモ!何とかかしないものは、何とかに泣くともいうじゃないですか。
で、結局今は浴槽でさえ魔法で良かったのではと思っているが、後悔しつつも頑張って作っている最中である。
気持ちを切り替えて内装だが、この三メートル弱の空間を2:1になるよう残っている十数枚の木材で隔たりを作る。狭い方が更衣室で、広い方が浴室だ。
浴室の方の地面を三十センチほど土魔法で取り除く。そこに二十枚買った板を敷き詰めていく。少し小屋に使った板よりも幅が厚めの板だ。
その敷き詰めた板に刻印魔法で魔法陣を刻み、その中心に窪みを作る。そこに丸く加工された魔石を嵌め込む。
これは魔石を嵌め込むことで、人が魔力を流さなくても勝手に動いてくれる優れものだ。魔物化の話とか、ホムンクルスの話とかで思いついた。きっとホムンクルスの動力源たる魔石もこういうことなのだろう。
この魔法陣は水を吸収するだけの効果しかない。風呂の水を周りに垂れ流すわけにはいかないからな。
そして肝心の浴槽だが、これは木材屋のおっちゃんがこんな風につなぐといい、とか教えてくれたやり方で作り、四角いだけのなんの変哲も無い檜風呂が出来上がった。接着剤もおっちゃんオススメのやつだ。
その浴槽に俺が拘りに拘り抜いたライオンの顔、ではなく、熊さんに作ってもらった簡易蛇口にお湯と水がように魔法陣刻み、魔石を嵌め込み完成だ。
因みに、魔石嵌め込み型の魔方陣は二種類ある。
一つがずっと発動している常時発動型。もう一つが何か特定の動作を行うことで発動する任意発動型だ。
今回の場合、床に施した魔法陣が前者で、蛇口が後者だ。
更衣室も裸足で地面を歩くわけにもいかないので残り少なくなった木材を敷き詰めていき何とか全てを作り終えた。
最後に全体にブレイクダウンをかけ、真っ平らにしてやる。足にささくれ立った木のかけらとが刺さっても嫌だからな。ヤスリがけなんて時間が勿体無い。
よし!これで俺の念願のお風呂が完成だ!
動作確認で蛇口を回してみるがちゃんと出る。温度もお湯は少し熱めだが、水も出るようになっている。
「こっちの赤がお湯で、青が水だな。うし、床の魔法陣も作動してるみたいだし早く入ろう!」
外に顔を出すともう日が暮れ始めている。もうすぐ最後の鐘がなる頃だろう。
やばい。三人が帰って来る前に入らねば!
「あ。ここにいたんだ、コータ。もうご飯だから戻ってくるんだよ。」
「げっ、クオ!」
「げっ、て失礼だよ⁈コータはいつからそんなこと言うようになったの⁈うん?前からだね。」
自己完結するな!それにクオだって酷いぞ!クオにこんな態度を取ってしまった俺が悪いが、クオに対してはこれが初めてだろ!
「まあ別にいいけど、何作ってたの?」
「あ、あれだ。朝の鍛練の時に今まで汗書いた後すぐ着替えたかったんだけど、部屋まで戻るの面倒だろ?だからといって外で着替えるのも気が引けて。で、俺も着替ることが出来て、エマ達も物置として使える一石二鳥の小屋を作ったわけだ。」
「へぇ。やりたいことってそれだったの?スイーツ美味しかったのに勿体無いことしたんだよ、コータ。ほら、レティとリルが待ってるんだから急ぐんだよ。」
よ、よかったぁ。なんとか誤魔化せたぁ。
こんな理想的なボロ小屋な見た目にして正解だったな。
入り口も壁側な見えない位置にして正解だった。
「今日のご飯はなーにかなー♪」
「コータ今日ちょっとおかしいよ?どうしたの?」
ふーん。俺は超まともである。
今から風呂のことを考えると心が弾む。少しタイミングを逃し、クオに阻止されてしまったが、まだまだ今日は長いのだ。
腹痛演出で部屋を抜け出す所存である。
「小屋作りでお腹空いてるんだよ。学園のは確かに美味しいけど、量多いわけじゃないからな。」
一つ目は無料だけど、二つ目からは有料で、内容から予想できる通りアホみたいに高いし。
「確かにそうだね、クオもお腹空いて来たかも。」
高級スイーツたらふく食べて来たんじゃないのかよ!とか言うツッコミは神の前には無意味に等しいのだ。もう理解しました。
「「今日のご飯はなーにかなー♪」」
俺は少しでも小屋から意識を逸らさせるために、クオは本当に楽しみにして。
俺たち二人は、レティとリルが待つ宿の食堂まで手を繋いでスキップしながら戻っていった。
手を繋いでいたことを二人に言及されたのは言うまでもない。
ひひひ、作戦通りだぜ!
話が小屋の件に行かなかったのは頭脳派の俺の見事な作戦勝ちだ。
「で、コータは今日何してたのよ。」
「くっ、リルの癖に。」
「な、何よ急に!」
「コータ今日口が悪いんだよ。」
「怪しい。」
俺は今から神をも恐れぬ詐術師になる!




