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創造神の力で異世界無双  作者: TKG
異世界ディファード
119/221

エマの気持ち

今日は短いです

 いつもと同じく朝五時頃に目が覚め、日課の素振り。

 辺りには無心に剣を振り続ける俺の息遣いと鳥の囀り、ちらほらと活動を始め出す人々の声が疎らに聴こえる。


 静寂とは言えないが、それでも後一時間もすればこの疎らに聞こえる声は下手すれば昼の喧噪とそう変わらなくなる。それ程までにこの世界の朝の活気は凄い。

 だからというわけではないが、この今の時間の適度な音に紛れながら、静謐な朝の空気に包まれながら行うこの日課は時間的にもちょうどいいのだ。

 時間を早めると暗すぎてよく分からないし、遅くするのは集中できないので論外だ。それに学園に通うようになった今、時間的な余裕もない。


「…249、250。ふぅ、今日はここまでだな。」


 本物の剣の素振りがどんな感じか知らないので分からないが、一時間で出来るのはこのくらいだと思う。

 これ以上の速度で素振りをやっても、こなしているだけで身につくものは少ないような気がする。完全な素人の持論なんだが。


 ギギィィ


「エマか、おはよう。」


「おはようございます。」


 扉の金具が錆びているようで、大体開け閉めの時は音がする。


「昨日は悪かったな。いきなり抱きついたりしてしまって。」


「い、いえ!あれは元はと言えば私がクオを怖がらせてしまったからなので気にしないでください。それに、嫌じゃなかったというか、何というか…」


 クオはああ見えて楽しんでいると思うがな。

 真面目に考えてクオが本当に怖がっているとは思えない。


「そうか?でも怪我とかしてないか?昨日話は聞かなかったけど、見ていた限りだと手を痛めていたように見えたんだが。」


「ちょっと痛む程度なので大丈夫ですよ。仕事にも支障はないと思います。」


 やっぱりか。

 昨日は話しかけるタイミングを掴めなかったとはいえ、その分エマのことは見ていた。それに仕切りに手首を気にしていたので俺でなくとも気づいたはずだ。


「なに言ってるんだよ。仕事がどうとか関係ないだろ?ほら、手を貸して。」


「は、はい。」


 ゆっくりと差し出された手は少し赤く腫れている。

 これで大丈夫はやせ我慢だろう。仕事にも差し障りはあるはずだ。


「腫れてるじゃないか。『エンジェルブレス』。どうだ?まだ痛むか?」


「す、凄いですね。さすが魔法学園に入学を許されるだけあるというか、それ以上というか。こんなもの見せられたらもう…」


 赤く腫れあがっていた手首は元の綺麗な手に戻り、握ったり開いたりしているので大丈夫なのだろう。

 だが、エマの表情は暗くなる一方だ。


「もしかしてまだ痛むのか?大丈夫か、エマ?」


「大丈夫…大丈夫なんかじゃない。もういっぱいいっぱいだよ!」


 久し振りというほどでもないが、プレゼント選びに付き合ってもらった時以来の素のエマだ。

 ただあの時と違うのは今にも泣き出しそうだということだ。

 あの時の穏やかな感じは一切ない。


「痛いかって?そりゃ痛いよ!毎日毎日ここがズキズキと痛いよ!」


 胸を押さえながら叫ぶエマ。


「最近は毎日が楽しくて仕方ないんだよ?でもそれと同時に理解させられちゃうの。私では駄目なんだって。」


 流石に何の話か分かる。

 だけど、何故エマでは駄目なのかは分からない。俺もエマが隣にいてくれたら楽しいと思う。現にエマといる時は楽しい。

 エマと普通に会話している時も、お互い皮肉を言い合っている時も、最近はエマが頑張って働いている姿を見ているだけでも楽しい。


「なんでエマじゃ駄目なんだ?楽しいのはお互い様だぞ?」


「コータさんは気づいてないかもしれないけど、私はいつもコータさんのことを見てるの。」


 時々視線を感じたりするので多少は知っている。


「クオ達と楽しそうに会話をしている時は羨ましく思ったり、一人でポケーっとしている時は思わず笑ってしまったり、目が合った時もあったな。笑顔を向けてくれるとそれだけで心が弾んだり、皮肉を言われた時はちょっとイラっとするけど話が出来ただけで嬉しかったりもする。」


 その時々を思い出しながら話しているのか楽しそうだ。その笑顔はいつもの強烈なやつではなく、日常会話で見せるよりも柔和なものだった。


「最近で言えば、今日もだけどコータさんの特訓を眺めているだけでもご飯三杯はいけると思う。昨日なんて朝の仕込みをサボっちゃってお母さんに怒られちゃった。」


 最近の日課は見られていたようだ。少し恥ずかしい。


「でも、エマが言うような駄目なことなんて入ってないぞ?」


「よく見てるんだよ?自然と話が聞こえることだってあるの。そしたら、ね。私に力はないから。」


 なるほど。俺達、いや、俺はよく強くならなければ、などと話している。

 エマのレベルは町の人々の極々平均的なレベルだ。才能値だって優れて突出しているわけではない。


「さっきだって優しくされればされるほど好きになっちゃうけど、それと同時に私には理解さえ出来ない魔法。この悪循環で、もうどうにかなってしまいそうだよ!」


「そっか。俺も同じような立場だから少しは分かるよ。」


 俺だって、クオやレティに比べて圧倒的に弱いし、一番近いリルにだって遠く及ばない。

 でも。そんな中にあって劣等感を抱かない、抱く余地のない環境というのは少し特殊で、エマとは違う部分なのかもしれない。

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