歓迎会1
で話は冒頭に戻る。
男共のブーイングの中、背中に二つの軽い衝撃が走る。
なんだろうと思いながら首だけそちらを振り向くと誰もしない。
しかし、右隣のレティの左手がよく見たら俺の背中に伸びている。もしかしてと左側に目を向けると、左隣のクオをまたいでリルの右手が俺の背中へと伸びている。
それを確認するついでに見えたクオの顔は複雑そうだ。怒っている時でさえ可愛いは余計だっただろうか。
しかし、二人の意図を計りかねる。
好きなことを言っただけだが何かおかしなこと…ああ、いつものやつか。
「それと、レティの頭を撫でることだな。無意識に、いつの間にか撫でているくらいだ。」
そして左端の集団、といっても六、七人くらいなのに先程よりも大きいのではないかと思うブーイングの声。
あれが噂に聞く、クラスの男子を二分する派閥の一つか。
「もう一つがリルをからかうこと、かな。リルの反応は見ていて楽しい。」
左からはもう一衝撃きたが、概ねこれで大丈夫だろう。
それにしても、俺はこんな場所で何を言っているんだか。
そろそろそのブーイングもやめてくれないだろうか?
「嫌いなものは…そこの長い廊下とかか?よろしく。」
いやいや。どんだけ歩くの嫌なんだよとか思うかもしれないが、家と考えたら長いことこの上ないから。
俺は観光にでも来たのかと思ったし、ここは万里の長城かとも思った。言い過ぎか。
しかし、一部は笑ってくれたので良かった。
全くの無反応とかだったらと思うと…考えるのを放棄してしまうほどだ。
「ちょっとコータとは後でお・は・な・し、しないといけないけど、クオの番だね。」
そんなこと言っているクオも可愛いが、心の中にそっとしまっておこう。
と、昨日の自己紹介では暴走?してくれた三人だったが今日は無難に自己紹介を済ませてくれた。
「セバス、皆さんにお飲物をお配りして欲しいんですわ。」
「承知しましたお嬢様。」
スッと現れ、周りに控えているメイドに何かを伝えに行く執事。
今そこにスポーンしたと言われても不思議じゃないな。屋敷の至る所がスポーン地点なんだろうな、うん。
「お飲物をどうぞ、です。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ、です。」
渡されたので反射的に受け取ったが、見習いのメイドさんだろうか?
まだまだ学年的にも小学校中学年とかそこらだろうが、パタパタと一生懸命な姿が可愛い。
ワゴンを押して次々と飲み物を渡している。
あ、躓いた。だけど、なんとか持ちこたえたようでハラハラさせる。
「皆さん、お飲物を貰ってない方はいらっしゃらないですわね?それでは、コータ、クオ、レティ、リルエル様、四人の新たなクラスメイトへ歓迎の意を込めて、乾杯!ですわ!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
こんな乾杯なんて初めてで、大きな声を出すのも若干の恥ずかしさがあって声が小さくなってしまった。
が、目の前のみんなが笑顔で手を天高く上げている姿はなんだか歓迎されているようで嬉しくなった。
「さ、コータ達は楽しむ前に皆さんのところを一通り回りますわよ。」
「そうだな、わかった。」
一緒に主催者のラヴィが回ってくれるなら話もしやすいだろう。
「少し失礼するんですわ。コータ、この四人は右からクレイさん、パイロさん、ウィテラとブリーシアですわ。」
「よろしく、俺はクレイ・フォン・グランド。グランド家の長男だ。家柄故に土属性を得意としているが、あの無詠唱には驚かされたぞ。あぁ、無詠唱ではないとか言っていたな。」
「俺はパイロ・フォン・フレイム。俺は三男で特に家を気にする必要もないから自由なんだが、そのクレイは可哀想だよな。俺も三男とはいえフレイム家の人間だから火属性が得意だ。いつか俺とも戦ってくれ。」
クレイはサラサラ茶髪のこれぞクラスの中心人物!的な感じのイケメン君だ。良い感じに気さくなのがそれを助長させている。
パイロは逆立つ赤髪の少しガタイのいい剛毅そうなやつだ。これまたイケメンなのは言うまでもない。
くぅ!貴族という輩はどうして!
「パイロは自由にし過ぎよ。あたしはウィテラ・フォン・アイスフィールド。水属性の中でも氷系の方が得意かな。よろしくね!」
「私はブリーシア・フォン・ウェザリア。あなたの風魔法にはとても驚かされた。懇意にしてほしい。」
ウィテラは三つ編みにした水色の髪を右肩から垂らしている美少女だ。身振り手振りが多い感じだな。
ブリーシアは黄緑色の髪のボブカットのこれまた美少女。前髪で右眼が隠れているのが印象的だ。
貴族っていいかもしれない。
「この四人は魔法の名門貴族家の中でもトップに位置する家系の子息なんですわ。」
「まあ、家督を継ぐのはこの中だとクレイだけだがな。」
「火属性のフレイム家、水属性のアイスフィールド家、土属性のグランド家、風属性のウェザリア家、闇属性のダークネス家、光属性のブライト家。この六家を総称して魔の六侯爵なんて呼んだりもしますね。」
ティアが教えてくれるが、その総称は悪い感じがするんだが良いのか?
「二年にダークネス家の次女が、三年にブライト家の長男がいるぞ。ブライト家のグリターはすぐにでも目にするんじゃないのか?なんてったって生徒会長だからな。」
「ディムは大体どこかの図書室にいる。会いたいなら図書室を探すといい。でも、大図書室にはいないと思う。」
ディムとはその二年の先輩だろうな。
それにしても、やはり魔法の名門なだけあってこの学園に揃うんだろうな。
因みに、図書室はティアに教えてもらったのが一番でかいやつだ。
他にも小さいのがあるとあの時教えてもらっていたが、この前の勉強の時に使った図書室はその一つだ。
「クレイにパイロ、ウィテラにブリーシアだな。よろしく。あの風魔法くらいだったらすぐ出来るようになるさ。」
「そう?だったら今度、教えてほしい。」
「ああ。じゃあ、放課後とかに声かけてくれたら教えるよ。」
「そんな簡単にいいのか?」
俺がブリーシアに教える約束をしているとクレイが。
なんだよ!俺と美少女の会話をイケメンが邪魔するなよな!俺みたいな平凡な奴はこんな機会滅多にないんだぞ!
いつもクオ達と話していることは棚に上げてそんなことを思う。
「別にいいんじゃないか?一度見せてしまった以上、誰かが習得するのは時間の問題だからな。」
「あの七色の火も綺麗だったな。俺はあんな繊細なこと出来そうもない。」
「確かにあれも綺麗だったよね。あたしも水魔法で何か教えてもらえそうなことないかな?」
「水魔法か。例えば、どんなのを知りたいとかあるのか?攻撃系とか、防御系とか。」
「うーん。あたしは攻撃系は得意なんだけど防御というかサポート系が苦手なんだよね。そっちを教えてほしいかな。」
「学園以上のことを教えられるか分からないけど、助けになれるなら教えるのは構わないよ。」
魔法の名門家の子息に教えられるようなことは少ないだろうし、もっと言えば俺も魔法を使い出したのは最近だからな。
だけど、仲良くなっていくための一歩になるのなら吝かではない。
そんな感じで一通りクラスメイトのところを回った。
正直、二派閥のところには近寄りたくなかったが、そんな訳にもいかず一応は挨拶をしに行った。
うん。このクラスで男の友達は何人くらい出来るんだろうか?
今話から図書館を図書室に変更しました。
前の分は一気に修正しようと思いますので、修正は先になります。
何卒、ご了承の程宜しくお願いします。




