定例会議
「ふぅ。今日はこのくらいかな。」
今日も日課と定めた剣の素振りをきっちり一時間。
今日で三日目だったが順調に続いている。
強くなるために仕方なくとか、早く寝た分早く起きてしまい暇だからとかではなく、なんだかこの日課を楽しめている自分がいる。
この三日続いているのも、思い立ったが吉日からの三日坊主のコンボがザラな俺には珍しいのだ。
俺は少しずつでも変われているのだろうか。
変わった変わってないといえば昨日の学校だが、もう友達がどうとかは気にしないことにした。
他人とか変われている時点で大きな前進である。
俺にとっての学校は家族から逃げるための場所でしかなかったからな。
因みにだが、昨日の夕飯は少し早めに用意してもらえた。
引き摺られていく駄々をこねる俺を哀れに思ったのかそうでないのか、今日は特別だとエマが部屋まで呼びに来てくれた。
三十分程の差だったが、きっとその時間は地獄のように思っていたことだろう。
あの時ばかりはあの中でエマが一番神様だったな。うん。
「おはよう、レティ。クオとリルはまだか?」
「おはよう。二人とも少し前に起きてた。もう少ししたら降りてくるはず。」
「そうか。お、ありがとな。昨日は二人で遅くまで起きてたみたいだけど何してたんだか。」
レティがタオルを渡してくれる。
マジックバックの中に入っているが、そんな野暮なことは言わない。
「分からない。だけど、悪いことはしないと思う。」
「まあ、そうだな。あの二人に限ってそれはないだろうな。でも、何かやらかす可能性は大いにあるけど。」
特にクオ。
他の神に比べて下界慣れしてない感じはあるので仕方ないのかもしれないが。
「あ、コータ。おはよう、今日も素振りしてたの?」
「ふわぁぁ。おはよ。相変わらず早くて感心するわね。」
「おはよう。ああ、楽しめてやれてるからこれからも続けていけそうだ。リルはまだ眠そうだな。」
クオとリルが降りて来た。
「まさかあそこまで長引くとは思ってなかったのよ。まだ二、三時間は寝ていたいわね。」
「なんの話をしてたんだ?」
気になる。ソファでコソコソと話していたので俺は内容を知らないのだ。
レティは何かの本を読んでいた。最初は例の紙を読もうとしていたので、せめて俺のいないところでにしてくれと頼んだ。もう諦めた。
「そんなの決まってるんだよ。魔法学園というよりもクラスメイトの中の要注意人物について、だよ。」
「昨日一日で分かることって少なくないか?判断できるのか?」
「?これから増えていくことはあっても判断できないことはないんだよ。」
何言ってるんだ?話が噛み合ってない気がする。
「因みにその要注意人物って誰が入ってるんだ?爺さんとか名前を言ってはいけないあの人とかか?」
名前を言っては(ryもそうだが、貴族全般は気をつけておくべきだよな。
「違うよ。コータは何を言っているの?ティアを筆頭にラヴィ、ディアナ、少し違うけどカルディナとかのことだよ。」
こっちが何を言っているのか聞きたいんだが。
確かにそのメンツも王族に貴族、学園では少数の他種属に戦闘狂の教員、気にしておくに事足りる理由はあるが他にいたと思うんだが。
「昨日一日で確信したんだよ。このままじゃクオ達のコータとの時間がどんどん短くなっていくと。昨日のは少しでもその時間を守るための作戦会議だよ!」
「コータは理解しているのかしら?最近、コータの周りには女性の影がちらつき過ぎよ?」
「確かに増やしていいとは言ったけど、いきなり過ぎるんだよ。」
へ?話に頭がついていかない。
つまり要注意人物とは、危害を加えてきそうとか面倒事を齎しそうな人物ではなく、俺とクオ達三人との時間を削りそうな人物ってことか?
「よく分からないけど、そんなつもりは全くないんだが。」
「全員挙げていくからよく聞いておくといいんだよ。まずさっきも言ったティア、ラヴィ、ディアナ。」
この時点で疑問である。
ティアはまだ理解出来る。なにせ公衆の面前でキスまでされたのだから。
でも、後ろの二人はどうなのだろうか。まったくもって対象外だと思うのだが。
「それにエマもでしょ?あ、四人分お願いできるかしら。ええ、よろしくね、エマ。」
「今の流れからよく注文出来たな。」
話が聞こえていたのか顔が若干赤くなっているエマ。
この前言われたからここも少しは理解している。
「学園とは関係ないけどエルフ三姉妹もだよ。少し考えただけでこれだけ出てきたんだよ?作戦会議はしておくに越したことはないんだよ。」
「つまり、どう俺を引き離そうかって話し合いってことか?」
そこまでして一緒にいたいと思ってくれているのは嬉しいが、本当にヤンデレになりそうで怖い。
「え?なんで引き離したりしないといけないのよ。そんなことしたら可哀想じゃない。」
「そうだよ。ここは日本と違って多夫多妻が合法なんだから、昼ドラみたいなことは起こりえないんだよ。」
昼ドラて。
そうか。この世界はレベルで成り立っているんだ。男の方が、女の方がは起こり難いからな。多夫多妻であることは不思議ではないな。
「クオ達が話してたのはどうコータを共有すればクオ達も満足できるかってことだよ。」
「今の寝る時の配置ローテーションみたいなことね。人が増えてきたらそこもどうなるのか。あと一人増えてもこの宿じゃ手狭ね。」
昨日思った家の件が脳裏を過ぎったが、このタイミングで言い出すのは気が引けた。
だって、その為に家を買おうと言っているように聞こえる気がしてならない。
それにクオ達は知らないかもしれないが、あと二人いる。
その二人ともに実際にはあったことない。まあ、一人は本当に女性かは分からないんだが。
まず一人目、俺のことをパパだとかお父さんだとか読んでいるらしい刻印神。ロアとプランが女だと言っていた。
二人目は夢に出てきた謎の美少女。これは勘でしかないんだが、あの子は実在していると俺の勘は言っている。
その二人ともが俺とクオ達との時間を脅かすことになるかどうかは知らないが、関わりがある女性ということならこの二人も入ってくるだろう。
「まだ学園生活は始まったばかりなんだよ。これからは定期的に開催されることが昨日の話し合いで決定したんだよ。」
「何事も準備は必要と思うのよね。」
「なるほど。次からは私も参加する。」
「まあ、そう並べられたら多いように感じるけど、ラヴィやディアナは知り合い程度の関係だろ?」
エルフ三姉妹もさほど変わらないと思う。
「それに俺もクオ達との時間は大切だからな。蔑ろにはしないさ。だから、その定例会議の必要性は低いと思うんだけどな。」
そうは言っても、好きにしてもらって構わないのだが。
「お待たせしました!あと二つもすぐに持ってきますので。」
エマが朝食を運んできてくれた。美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。
丁度いいしこの話もここまでだな。
「はい、四人分揃いましたね。ごゆっくりー。」
「ありがとう、エマ。それじゃ、食べるか。いただきます。」
「「「いただきます。」」」
うん。美味しい。
「それで今日はどうしようか。まさか二日目にして休みだとは思わなかったな。」
「そうだねー。ギルドの依頼をやってみるとかはどうかな?」
昨日の帰りに知ったのだが、今日は休日らしい。
週七日のうち一日だけ休みのようだ。それが今日であるらしかった。
「そういや、まだまともな依頼やったことなかったよな。試しにやってみるのも悪くないな。」
こうして急な休みの予定が決まった。




