ですわの呪い
「今日はここまでです。何かわからなかったところがあればこのあと聞きに来てください。ラヴィニアさん。」
「起立、礼…ですわ!」
「ぶふっ。」
いけね。吹いてしまった。
授業終わりの挨拶はラヴィが合図しているらしいのだが、二限、三限と過ぎていく過程で
「起立ですわ、礼ですわ。」
などと言うもんだから堪らず
「ぶふぉっ。それもですわ。かよ。ふふっ。しかも二連続。最強だな。ふふっ。」
となってしまった。
「な、なんですの⁈私何か間違えたんですの?」
「大丈夫だよ、ラヴィ。これはコータが全面的に悪いんだよ。」
「いやいや、クオ。起立、礼にですわが入り込む余地ないだろ。ですわの呪いに掛かっているって言われても納得してしまうぞ。」
「仕方ないじゃないですの。小さい頃からお母様の口癖を聞いていると私もこうなってしまったんですのよ。」
ちょっと想像してみる。
ラ「今日はとても楽しかったですわ!」
母「そうなんですの?よかったですわね。私も今日は久しぶりにお父様とデートで楽しかったですわ。」
ラ「お父様とお母様は本当にラブラブですわ。私も将来は…ですわ!」
ぶふっ。なんだ、このですわの応酬。
その場にいたら耐えられる気がしないな。
「ラヴィのアイデンティティを笑ったらダメだよ、コータ君。」
「ア、アイデンティティって…ふふ。ですわが存在証明。ふふっ、ってみんな認めてる、ふっ、のか?」
「そうだよ!だってラヴィからこれを取ったら何が残ると思ってるの?ただの金髪美少女になってしまうじゃない!」
いや、そのドリルが残ってるじゃないか。
も、もしかして!この世界では金髪ドリルは珍しくないのか⁈
「地味にディアナの方がきついですわね。いいですわ!授業の終わりの時くらい言わないようにしてみせますわ!」
「俺も時間が経てば慣れると思うから大丈夫だぞ。それまでは吹き出すと思うけど。」
こんなことがあって三限過ぎて、先程が四限の終わりだったというわけだ。
俺も自分の事がなかなかひどいやつだとは思ったが、こればっかりはリアルで初めて聞いたので仕方ないと思う。
それもこれもラノベ知識のせいである。そのはずである。
「無理でしたわ。本当に呪いかと思ってしまいますわ。」
「ぷふっ、クオ光魔法得意だろ?直してやれないのか?ふふ。」
「無理って分かって…あ。ちょっと違うけど出来るんだよ。」
おー。流石創造神様だわー。
パチパチパチ。
「『レコーディング』。ラヴィ何か話してみて。」
「何かってなんですの?」
録音、だよな?何するんだろうか?
因みに四限はルロイ先生の魔法理論だったのだが、もう慣れたのだろう。長くなりそうだとみると教室を出て行った。
「うーん。本当に何でもいいんだけどな。ありがとうとか、こんにちはとかでもいいんだよ。」
「分かりましたわ。ありがとうですわ、こんにちわですの。」
「ぷふっ、違うって。ですわ、ふふ、じゃないだろ。ふふっ。」
「コータは話が進まないから静かにしててよね!」
「はい!すみません!」
クオに怒られてしまった。
それにしてもクオが魔法を使うからか、ラヴィのですわの行く末が気になるからかみんな食堂にも行かず注目の的だ。
昼食はもちろん他人事ではないので、俺達も急がねば。
「ありがとう、ラヴィ。じゃあ、見ててね。『アースゴーレム』」
地面から土がせり上がり、みるみるうちに人型になって行き最終的にはラヴィと瓜二つの土像?ゴーレム?が出来上がった。色違いラブィである。
「こ、こんな精巧なゴーレム見た事ないですわ。学園長の金の像の時もこれも凄過ぎですわ。」
もうわざとだろと思うくらいに、ですわ連発だな。
「これに『エングレイブ』。うーん、どうしようかな。ティア、コータと話してもらえるかな?」
「私ですか?構いませんよ。そうですね、ありきたりですが。今日はお日様がとても気持ち良いですね。」
クオはラヴィゴーレムに何か魔方陣を刻んだ後、俺とティアに要求してきた。
まあ、これも必要な事なんだろうな。
クオに言われた通りにティアと会話をする。
「そうだな。ポカポカしてて眠たくなりそうだ。」
「そうですね。その気持ちはとても分かりますけど、それでも授業中は寝てはいけませんよ?」
「わ、分かってるよ。」
すでに寝そうだったなんて言えない。
「コータが墓穴を掘る前にそのくらいでいいんだよ。」
「くっ。全てあの忌々しい太陽が悪いんだ。」
「何吸血鬼みたいなこと言ってるのよ。」
この世界の吸血鬼も陽の光がダメなのだろうか?それとも勇者の影響か?
「ゴーレム、今のティアみたいな感じでお願いするよ。」
「分かりました、マスター。」
「「「えっ⁈」」」
クオとレティ以外のその場にいた全員の声が重なった。
何故ならその声音はラヴィの声そのものだったのだから。
「誰か話してみるといいんだよ。」
「では、私が話してみたいんですの。こ、こんにちはですの。」
ラヴィ(本物)は恐る恐ると言った感じだ。
「こんにちは。そんなに固くならなくてもよろしいですよ?もっと気楽にお話ししませんか?」
「わ、分かりましたわ。趣味とかはありますの?」
「趣味ですか?そうですね。私はゴーレムの身にございますので特にはありませんが、強いて言うなればマスターを守ることでしょうか?」
「そ、そうなんですの。す、素晴らしいと思いますわ。」
自分と瓜二つのゴーレムが言っているからか、微妙な表情になるラヴィ。
それにしても側から見てると何とも異様な光景だ。
「口癖を治すっていうのとは違うけど、こんな感じだよ。」
「ある意味では治すよりも驚いたかもしれないな。会話する感じなんて人間と変わらないし。」
「それはその魔方陣がホムンクルス用のだからだよ。人間らしく動くようにとか、さっきのレコーディングの魔法を組み込む場所とか、擬似感情とかも入ってるからね。」
ホムンクルスとかいるのかよ。
魔法すげぇな。
そりゃ科学なんてなくても発展するわ。
「レコーディングとかいう魔法は声を覚えさせるためってことか?」
「そんな感じだね。レコーディングで録音した声を魔方陣の特定の場所に組み込むことでその声と同じ声で話すようになるんだよ。」
レコーディングで声を決めて、アースゴーレムで素体の作成。多分土魔法のエングレイブで魔方陣を彫り込んでホムンクルスの完成ってことか。
「でも、これはホムンクルスじゃないよ。これは魔法でできた素体だから永久的な魔力供給が出来ないんだよね。だからこのゴーレムはクオが流してる魔力が切れたら動かなくなっちゃうんだよ。」
「じゃあ、ホムンクルスとゴーレムの違いはその場限りか半永久的かってことか?」
「そうなるね。ホムンクルスを作るには難点が多いんだよ。人間みたいに魔素から魔力を生成するための回路とか、さっきの魔方陣に辿り着くまでも、辿り着いてもそれを小さくするのも大変なんだよ。そういう意味ではあの魔法は卑怯だよね。」
あの魔法とは刻印魔法のことだろう。
それにしてもクオの話に周りがさてはこいつ作れるな?みたいな顔になっている。
面倒事の臭いがプンプンする。
俺の視線に気が付いたのかクオがハッとした後にこう言う。
「クオも魔力生成回路が出来ればホムンクルス作れるんだけどね。魔方陣に関してもそれぞれ本から抜き出してきたものを一つにまとめただけなんだよね。」
この本とか見たことないかな?と虚空に本を出して誤魔化すクオ。
本に目がいっている隙にラヴィ像を崩す手際はなかなかすごいと思う。
少しは知られている本なのか数人が見たことあるぞ。と教室を飛び出していった。
恐らくだが、クオの言っていることに嘘はないのだろう。しかし、数ある中からその魔方陣を選び抜いてきたセンス。それを纏めた魔方陣は巨大になるはずだ。それを縮小させるセンスがないといけないのだと思う。
「お前ら席につけ!授業を始めるぞ!」
あ、カルディナ先生が入ってきた。
そういや午後の授業は二時間連続カルディナ先生だとか言ってたな。最初が昨日の授業の補足として座学、その後が実技とかなんとか。
あー、昼飯食べ損ねた。
こりゃ、次の休み時間に何かクオに出してもらわないともたないな。
ラヴィのですわ問題がクオの魔法に喰われたことは言うまでもないが、俺はそれで良かったと思っている。
ラヴィ像のティアバージョンを見ていて思ったのだが、ラヴィは今のままが一番魅力的だと思う。
「そこどうしてなのか分かりませんわ。それなら、こうでもいいはずですの。」
ほら、口癖制限しない方が生き生きしてらっしゃる。
それにラヴィ像は何か足りない感じがした。
その後は特に問題なく授業が進み、ラヴィの
「起立ですわ!礼ですわ!」
で締められた。
ですわの呪いを受け入れたみたいだ。
「うん。色々あったけどなんだかしっくり来るようになったな。」
「今日はやけに元気がいいな。よし、ラヴィニア。次の実技はお前を当てるからそのつもりでな。」
「そんな〜ですわ。確かに呪いなのかもしれませんわ。クオー、私にその魔方陣を刻んで欲しいんですわ。」
そうでもなかったみたいだ。
ああ、そういえば。
クオの話に乗せられて図書館に走っていった数人はホクホク顔で図書館から帰ってきたと思ったら、授業中に帰ってきたことでカルディナにこっぴどく怒られていた。
特に問題がなかったなんてことはなかったな。




