告白
すみません。
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「あ゛〜。なんだか今日は一日がすごく長く感じたな。」
「試験長すぎたよね。でも、ご飯美味しかったからクオは満足だよ。」
「そうね。あの料理がほぼ毎日食べられると思うと…」
「リルエル、よだれ。試験が長く感じたのは他の要因が多少はある。」
今俺達は宿に帰ってきている。
レティの言う要因とは、試験と関係ない戦闘などのことだろう。
筆記はボチボチだと思う。完全記憶、それに並列思考、言語理解みたいな座学チートスキルのおかげで空欄なく全てを埋めることが出来た。
だけど、そもそも覚えた知識が間違っている可能性があるので、点数がどうなっているかは未知数だ。
チートにも弱点はあるのだ。
だがこのチートは努力で伸びるチート、本好きだし図書館入り浸り作戦も検討中である。他が疎かにならない程度にだが。
「確かに美味かったな。流石貴族が多く通う魔法学園だな。」
俺が食べたのはミートソースパスタなのだが、超本格的である。
ミートソースはケチャップの馴染みのあるやつを想像していた。しかし出てきたのはトマトソースベースの挽肉がふんだんに使われたものだった。
食べたことはないが、これがボロネーゼか。と思った。
それに、麺もスパゲッティではなく確かタリアテッレだったか?あれだった。
まさか異世界に来て初めて本格イタリア料理を食べることになるとは思いもしなかった。
しかし、その時にふと頭をよぎったことがある。いや、前々から薄々は気づいていたんだ。
この世界、ディファードでは、中世レベルの文化圏のくせに料理で名を馳せることも、内政チートも出来ないのではないのかと。
俺は考えを改めたとはいえ、基本的には自分から目立とうとは思わない。だからやるつもりはないので関係ないが、過去の勇者がやり尽くしてしまっているらしい。
現勇者ひいては未来の勇者にこの言葉を送りたい。
残念だったな!勇者だからといってなんでもできるわけじゃないんだぞ!あっはっは!
きっと立場だけでチヤホヤされてそうだからな。神崎みたいなのは例外だろう。
「夕食まではまだ時間あるし、先に話そうか。クオとレティ、おまけに俺の話を。」
ベットに大の座で寝ていた体を起こし姿勢を正しながら言う。
「そうだね。どうせなら早い方がいいもんね。」
「ん。長い話じゃない。」
「いよいよなのね。」
みんなでベットの上で顔を合わせる。
いつも思うけどこのベット広いよな。
「レティの言う通り長い話じゃないんだよな。それどころか一言で片付いてしまう話だし。もったいぶっても仕方ないからな。リル、クオとレティはな、」
ゴクリと唾を飲み込むリル。
「神族、つまり神なんだよ。レティは闇神レティス、クオは創造神クオリティア、ついでに俺は神族ではないけど神人族っていう種族なんだ。」
正直、神人族に関しては俺自身特に実感がないので適当になってしまう。神化の超パワーも地球から来た俺からしてみれば魔法となんら変わらない。
「かみ、さ、ま?この状況で冗談なんて言わないわよね。本当なのね。神様、か。」
「クオは全てを司る神、創造神クオリティア。最高神なんだよ。でも、これからも変わらず接してくれると嬉しいんだよ。」
「私は闇属性を司る神、闇神レティス。神なんて気にしないでいい。頑張ればそのうちリルエルもなれる。違った。ならないといけない。」
ならないといけない?なんでだ?
「神は、なれるものなのかしら?何故か聞いてもいい?」
リルは小さな声で言う。
俯いていて表情は見えないが、きっと混乱しているのだと思う。神なんて俺も最初は半信半疑どころか全く信じていなかった。
「神人族は竜族が龍族になるように、上位種族が進化してなるもの。神族との違いは基本的に司る対象があるかどうかだけ。」
「リルは竜族だけど、どれだけ頑張っても定命なんだよ。たとえ龍族になっても。」
「それは神様は不死っていうことなのね。」
まだ俯くリルの表情は窺えない。
声も平坦なもので、その心情を図ることはできない。
「光太は自分のことをついでと言っていたけど、そんなことはない。光太の力はクオリティア様とほとんど同じ。将来的に上回る可能性だってある程の力。」
この話何回か聞いたけど信じられないよな。
メーティスを除いてこの世界の中だと一番強いクオよりも強くなる未来なんて見えない。
だけど、信じられなくても俺にとって目標であるクオに届くと言われるのは、途方も無い道のりを明るく照らしてくれる光になる。
「あのね、リル。そんなコータの隣にいたいと思うなら絶対なんだよ。不死かどうかの問題じゃなくて、
隣にいたいと思うなら最低でも力を制限してないコータの隣にいられるくらいにはならないといけないと思うんだよ。」
「光太はこれから強くなっていく。リルエル、貴方に神になる覚悟はある?」
リルは沈黙する。
果たしてリルが神に至る必要はあるのだろうか。
絶対に俺は強くなる。俺は約束の為にそう決めた。
だけど、リルが俺の側にいる為にその条件は本当に必要なのだろうか。
「そうでないと苦しむのはリルなんだよ。守られてばかりは嫌だったり、危ない時大事な時に隣にいられないってなったら嫌なのはコータも同じでしょ?」
「そう、だな。」
今の俺自身がそうだ。だからその気持ちは十分以上に理解できる。
リルが顔を上げる。
この話を始まってから初めてリルの顔を見る。
その表現はどこまでも真剣で、迷っている様子なんて微塵もなかった。
「覚悟かどうかは分からないわ。でも、一緒にいられるのなら、本当になれるのなら、なるに決まってるじゃない。」
リルは静かに言う。
「よく言ったよ、リル!」
「ん。私も精一杯支援する。」
クオはパアッと表現するのがふさわしい笑顔で、レティは読みづらい表情を分かりやすく満足げなものに変える。
リルは表情を安堵した和らいだものに変えて心境を語りだす。
「最初、神様なんて言われた時には絶望を覚えたわ。定命とか不死とか言われてもよく分からなかったけど、コータに私の死に顔を見せたくないもの。」
リルが死ぬなんて考えたくもない。だけど、俺が死なないということはどれだけ先のことだろうとそうなるのは確実だ。
「私が死んだ時に悲しんでくれると嬉しいけど、そんな顔させたくないわ。絶対に死んでしまう私は側にいたらいけないような気がしてきて泣きそうになったもの。」
「リルはどこまでも優しいな。」
「そ、そんなことないわよ。」
思わず口から漏れた言葉に照れるリル。なんだか俺も恥ずかしい。
ゴホンッと仕切り直すかのように咳をして続きを話し出した。
「だから、私もなれるって聞いた時には飛び上がりそうになったし、ニヤつきが抑えられていた自信がなくて俯いていたのよ。」
声だって抑えるのに必死だったと語る。
「俺はてっきり神になるっていう話の壮大さに混乱したりしてるのかと思ってたよ。」
「そんなわけないじゃない。そんなの即断即決よ。」
「嬉しいな。ありがとう、リル。」
「な、な、な。いきなり何なの⁈」
そんな嬉しいこと言われからつい抱きしめてしまった。
だけど言っておかなければならないことがある。
抱きしめる手を解く。
「俺さ、超強くならなくちゃいけないんだよ。圧倒的なまでの理不尽を体現するくらいには強くならないといけないんだ。」
「それなら私もその分強くなればいいだけよ。心配しなくていいわよ、コータ。私は絶対コータから離れないから。」
チュっと軽くキスされた。
手を解いたとはいえ、まだ真正面にいたので反応出来なかった。
出来なかった。大事なことなので二回言いました。
「あー!この雰囲気だからある程度のことは許すけど、それは看過出来ないんだよ!」
「ん。リルエルが積極的になってきた。」
「そうかしら?でもそうね、もしそうだとしても、クオとレティがそうさせてるのではないかしら?」
俺もそう思う。
この二人はちょっと自重してほしい。前にも思ったことが現実化しそうだ。自重しない組が三人になりそう。
今でも大変なのにどうなるんだよ、これ。
まあ、隠しているというのに罪悪感を感じていたのか分からないが、肩の荷が下りた感じだ。
それに、真実を話すだけと思っていたらリルが神になる覚悟があるのかという話に急に変わるからビックリした。
けど、恥ずかしくもあったけどリルの判断が素直に嬉しいな。
「リル、これから一緒に頑張ろうな。」




