勝者が正義
レティの作ってくれたこの時間を、リルの優しさを無駄にしないためにも後の一時間半は勉強に集中である。
「調べるのは魔法理論と歴史、あと数学も少し目を通しておきたいな。国語は大丈夫だろうし。」
国語、数学、歴史、魔法理論と並ぶ中で唯一調べると言うのが関係ないものは国語だ。
きっと、この時〇〇はどんな気持ちだったのか答えなさい。とか、これと同じ意味の言葉を八字で抜き出しなさい。みたいな文章問題だろう。
もしかしたら慣用句の意味を答えろみたいなのとか、古文みたいなのがあるかもしれないが、それこそ言語理解が猛威を振るうことになるだろうからな。
数学は、算数部分は凡ミスがない限り大丈夫だろう。あとは数学部分の公式なんかをちょっと流し見する程度で十分そうだ。
歴史。これが曲者だ。
まず、大まかに歴史といっても二通りある。この国の歴史と世界的な歴史だ。簡単な例を挙げると、日本史と世界史だ。それが半分ずつ出るらしいのだが、クオやレティが言うには本や資料で学んでいては答えが違う可能性があるらしい。国や著者の見解によってまったく異なる場合があるようだ。
グローバル化が進む地球よりも、この世界は各々の国の独立性が強すぎるのだろう。
なので、正解は学園が選んでいる、または作っている教本が全てとのことだ。教本がどれかわからないのは辛い。
まあ、どの国でも通用する歴史もあるようなのでそこを重点的に目を通していくことにするか。
最後に魔法理論だが、これに関しては嘘八百だ。とまでは言わないが、無詠唱のことなどを考えると推して知るべしだろう。
これこそ著者によって見解が違うだろうし、無駄に自分の考えをクドクドと綴っている。
俺も魔法を使い出してまだ少ししか経っていないので分からないことだらけだが、それは確実に違うだろ!みたいなものが山のようにある。
真実を書いても不正解をもらう覚悟をしておいたほうがいいかもしれない。
ーーー 一時間半後 ーーー
「そろそろ時間ね。こう、なんて言うのかしら。真実を知る側としては、都合のいいように脚色されていて面白いわね。」
「ん。勝者が正義。人族が積み重ねてきた歴史なんてそんなもの。」
「これとか明らかに不自然なんだよ。もうちょっと上手くできなかったのかな?」
「それで十分だったか、書いた本人はそれが良い出来だと思ってたんじゃないのか?」
どういう大義名分があった、誰々が反乱を起こした、なんて勝者目線でしか語られていないことが多い。
たとえ語られていたとしても、到底それが真実とは俺には思えないな。
信じられるのは何年に〇〇幕府が…とか、何年に遷都とかの人の意思の介在しない事実だけの年号くらいだ。
そんなこと考えてしまうから、俺は歴史が嫌いなんだろうな。
「よし、これで零点は免れただろうな。正直、国語の文章問題とか、不思議な魔法理論とか、どれが真実かわからない歴史とか、絶対満点取れないからな。半分くらいを目指すか。」
「クオは全て真実を書いてあげるんだよ。」
「やめた方がいい。歴史は宗教的なものが絡んでいる可能性が高い。あれは面倒。」
確かに、宗教の上層部だけが知っているような情報を無闇矢鱈に書くのはマズイだろうな。
国教がこれといって決まっていない日本人で、さらにその中でも宗教的なことといえば、憎きコロシ…クリスマスや爆発すればいいバレンタインとかしか関わりのない俺だからかもしれないが、良いイメージが浮かばない。
「レティはそう思っても仕方がないかもね。まあ、クオもあんまり良いイメージないんだけどね。」
レティは邪神とかって扱われたりすることがあると言っていたもんな。
それに神様といっても、信仰心が力になるとかそんなんじゃなく、言ってみれば管理者みたいなものだからな。
必要なら助けることだって見捨てることだってするのだからそんなもんだろうな。
「さっきの実技はともかく、筆記の試験なんて初めてだからなんだかワクワクするわね。」
「合格が決まってるからこその余裕だな。」
「そろそろお時間ですがもう宜しいですか?」
ルロイ先生だ。時間になったので迎えにきたのだろう。
司書の人には席を外してもらっていたので、ルロイ先生がわざわざ来てくれたのだろう。
「えぇ。でも、教本がどれが聞いとけば良かったと後悔してますけどね。」
本当にそう思った。
司書さんがいないのは話なんかに気を遣わなくて良かったが、本を探すのに手間取ったりもした。
まあ、分野ごとに別れたりしているので大体はわかったけどどれがいいのかは分からない。
真実を知る神様ならともかく、人々は様々な可能性から真実を導き出していくのだ。
なので、そこに書かれているのがたとえ嘘でも本当でも、何かの足しになるかもしれないのでこれだけの本があるのは学ぶ場、研究する場としては良い環境なのかもしれない。
「そうでしたね。それくらいは教えていても良かったかもしれません。そこまで気が回らずすみませんでした。」
「いえいえ、これで十分と言ったのは俺達ですので。落ち度はこちらにありますよ。それで、どこで筆記試験を行うのですか?」
「そう言ってもらえると助かります。では、案内しますね。こちらです。」
俺達はルロイ先生の後に続き図書館を後にする。
それから転移陣を使ったりして五分くらい歩いたところにある部屋に案内された。
「ここの空き教室で行います。一通り説明しますのでお好きな所へお座りください。」
「じゃあ、俺はここで。」
教室の内装は、後ろに行くにつれ段々と高くなっていく扇型の、言うなれば大学の講義室のような感じだ。
誰もいないし、わざわざ後ろに行く必要もないので驚嘆の真正面に座る。
そこで一悶着あったがいつものことだ。
今日のジャンケンは珍しくレティが負け、左からリル、俺、クオ、レティの順だ。
負けた時に自分の拳を眺める姿はなんとも新鮮で可愛らしかったことを追記しておく。あとで撫でよ。
「では、説明しますね。教科は訓練場で話した通り魔法理論、国語、数学、歴史の四科目です。一教科四十五分の時間が設けられていますが、途中退室をした場合はどんな理由でもそこでその教科は終了とさせていただきます。」
ふむふむ。宿に帰るのは夕方前になりそうだな。
「最初の国語が終わった時点で一度昼休憩を挟んでもらいます。今からでもいいんですが、今食堂に行くと他の学生と被ってしまいますので勝手ながら時間をズラさせていただきました。(はぁ。セレスティア様はあんな方だったでしょうか。)」
嘆息と小声が俺の耳に届く。
いったい何をしたんだ、ティア。ルロイ先生が心労で倒れそうだぞ。
でも、ティアやラヴィ、いやラヴィもなしだな。ティアはともかく他と時間をずらしてくれたことは有難い。
ラヴィはあの様子だと好奇心に任せて、ですわですわと色々聞いてきそうで面倒くさそう。
「その後は十五分の休憩を挟みながら数学、歴史、魔法理論の順で行なっていきます。」
「合格点とかあるんですか?」
「一応力を入れていると謳っていますので、合格点は六十五と他と比べれば少々高いですが、実技との総合評価ですので、皆さんにはもう関係ありませんね。」
これは学園側が体裁を保つための試験だったな。
でも、合格点なかなか高いな。入学後のテストでの赤点が心配だ。完全記憶頑張れ!
「試験が終わるのは十六時前後になると思われますので、今日はそのまま解散していいとのことです。結果は明日、学園長室でと言われていました。」
よかったー。一応、服とかクオに直してもらっておいて。転移陣があるとはいえ、取りに行くの面倒だからな。
「分かりました。」
「では、早速始めましょうか…あのー、少し距離を開けて座ってもらえませんか?」
「えー。好きな所にってルロイが言ってたよ?せっかくジャンケンで勝ったのになぁ。」
「ほら、困ってるだろ。あとでも出来るんだから今は我慢して、な?」
「むぅ。仕方ないなぁ。」
あれ?リルが動かないんだが。
「え?私もってこと?えー。」
「子供か!ほら、宿に帰ったらいっぱい時間あるんだから。」
リルに色々と教えた後は寝るまで時間があるのだ。
どうせ今日はもうどこにもいかないだろうし、部屋から出るのは夕食くらいだろう。
「仕方ないわね。こういう時に負けるレティって逆に運が良いのかもしれないわね。」
祝100話です!
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