私と悪魔達
朝。
くわーあ、とあくびをして、私は起き上がる。いつも通りの感じである。
私は家族の中で、一番の早起きだ。
今日も、それの例外でなく朝鐘4つと半分くらいに起きた。
母のいない私は、母の代わりに朝早く起きて、父と一人の兄、そして一人の妹の朝ご飯を作る。おかげで同い年の友達と比べものにならないくらいに料理が上手い。…自分で言うのも変だけれど。
そんなことで、今日も起きてすぐに__着替えもせずに__家のキッチンに立つ。
家のキッチンはガスで火がつくコンロと、手洗い場とあまり変わらない流しがあるくらいのもので、少し狭い。けれど他の家族が手伝ってくれる、なんてことも生まれてこのかた一度もないので、私が一人使えればいいのだ。
昨日の夜遅くに、市場から買っていた野菜と果物を使ってサラダを作る。
そして、この国の主食であるポッパンを炒めてお椀に入れる。
他の家ではしないらしいけれど、私はその2つの料理に手を加える。
父の仕事の関係で手に入る、甘いものと塩辛いものの、二種類の〈チョウミリョウ〉たるものを適した量加えて少し濃い味にする。初めの頃こそ慣れないものだったが、1ヶ月もしない内に感覚を覚えた。
父が話すには、この〈チョウミリョウ〉というものは濃い味が好きな〈悪魔〉が採取して使用するものらしい。その話を聞いた時は、少し気味が悪かったけれど、その内に気に留めなくなった。
そうそう、〈悪魔〉といえば、今日〈絶極城〉の〈選出〉をするとか父が言っていた。私は〈選出〉が今回で初めてだけれど、三十年くらい前にあったという前回の〈選出〉に参加したことのある父が話すには、「ありゃあ地獄、悪魔の地獄そのものだ」だそうだ。
なんでも11日間にわたって行われたそうだから、私には想像できない。
私が思うのは一つだけ。
苦しくないといいなぁ。
もちろん、他人事である。
そういえば昨日、父が渡してくれた〈カード〉があったと思う。
私はその〈カード〉を探しに、先程まで寝ていた自分の部屋に向かった。料理はもうできたから、それでも見て時間を潰そうと考えたのだ。
以来、私はこの行動を後悔することになる。
私は自分の机の上に置いてある、紫色の番号が書いてある〈カード〉に触れた。
そのとき、私がこれまで見たことのない場景がひろがった。
『今すぐ、「魔王運動公園」に来て下さい。あなた1人で、来て下さい。今すぐ、来て下さい』
女性っぽい聲が、くり返す。
いきなりだったから、しばらくそのまま突っ立っていて、言葉の意味も分からなかった。
どうしよう、これ。
もし、日常でこんなことがあったなら、私は父なり兄なりを起こして話すはずだ。
けれど、〈選出〉が日常の出来事ではないのは私にも分かったし、何より聲が『1人で・今すぐ』と言っているのだ。
私は心を決めると、その〈カード〉を持って家の外に出ようとする。
玄関の木のドアに触れて、私は考える。
着替えて行こうか、どうしようか。
私はしばらく立ち止まっていたが、この考えている時間がもったいないという結論に達して、勢いよくドアを開けた。
朝鐘5つと少し。
肌寒さを感じる気温に、朝日が輝く。
早起きをする私だけれど、この時間に外に出ることはほとんどない。
レアだなぁ、こんなこと、と気楽な感じで人がいない表通りを歩いた。
「魔王運動公園」に近づくにつれて、私と同じようなことをあの〈カード〉から言われたような人が増えてきた。
私の家から「公園」までは10分ほどだけれど、その間に見た人の中のほとんどが、老人ばかりだった。
1人、私と同い年のラネと出逢っただけで、二人で歩いて「公園」に着くまで「子供」は見当たらなかった。
二人で他愛のない話をしている内に、「公園」に着いた。
ちょっとした行列が出来ていて、近くにいた老人の話が耳に入る。
「なんでも今回の〈選出〉は、籤引きらしいなぁ…」
「ほんとぉけぇ、だったらよかったぁ。前のあれはもう体力がもたぬからなぁ」
籤引き。
ラネと顔を見合わせる。
そのあと、なぁんだ、カンタンじゃん、と私達はしゃべって列に並んだ。
自分が何を引くのかも知らずに。
その数分後の出来事である。
私が〈赤〉を引いたのは。
ラネや他の人達が引いた棒には、何もなかったのに。
私が棒を引いた瞬間、周りの人、ラネ、悪魔達でさえも、固まった。
そして、私は悪魔達に連れて行かれた。




