魔王叶偉と堕天使ルシファア
_魔王。
_魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王!
「うるさいなぁ!誰だ!」
そう俺は叫んだ。
しかし、この部屋で声を出したのは明らかに俺だけである。
_魔王。
_そこにいるのなら少し話をしないか。
「誰だ?」
この部屋で声を出しているのは俺だけ。
_何も、私と話すのは初めてではないだろう。
_どうせ、いつか話すのだ。今話そう。
「話そうにも、姿がみえなきゃ俺の独り言で終わっちまうぞ」
_そうか。姿、な。
そう聲は話して、少し間を空けた。
_目をつぶってくれ。
「分かった」
俺は目をつぶる。
少し開けようかとも思ったが、そんなことをしても意味が無いように思えたのでちゃんと目をつぶる。
間。少しだけ。
『よし。もう開けていいぞ』
背中から、その自分よりも大きい翼を持った少年。
そこには、どこかで話したことのある堕天使が立っていた。
「堕天使長ルシファア…?」
『そうだ。私こそ、堕天使長のルシファアだ』
少し、口調が変わっていた。
「堕天使長が直々に現れるのって、レアな感じ?」
少年の姿をした堕天使は微笑を浮かべる。
『君が喚べば、いつでも来るよ』
少し不思議な言い方だ。
俺、だけ?
他の、ルーランタンとかはどうなのだろう。
「俺、だけか?」
堕天使長の微笑は消えない。
『君、だけ。私を喚べるのは君、だけ。私と話すのも君、だけ。___そして、私を見ることができるのも君、だけ』
ルシファアは俺を見つめる。
「俺、だけ……?」
〈魔王〉。
そういうことなのだろう。
そして、恐らく〈魔王〉の仕事も。
こうして堕天使長と話すことのできる力から、出てくるのだろう。
『ずいぶんと察しているね。ほとんど正解だ』
なぜか堕天使長は悲しそうに嗤う。
『君だけが私と話せる。私は女神よりも、力…権力だって持っている。………これらを足すと、どうなるか分かるか?』
足す。
俺はずっと黙っている。
『君が、一番なんだよ』
この世界の、とルシファアは付け足す。
そして、嗤う。
『一番のはずの私は、実体…肉体を持ってないが故に、誰とも話せない。そう__〈魔王〉を除いて。命令も、話も、何もかも、〈魔王〉を通じてじゃないとできない』
そこまでだったらいいんだ、とルシファアは叫ぶ。
『もし、〈魔王〉__君が私を裏切ったらどうなるか、分かるよね?』
俺が、ルシファアの命令を無視したら。
俺が、ルシファアと話さなかったら。
俺が、__ルシファアの命令だと言って、“俺の命令”をみんなに言ったら。
でも、と俺は言う。
「もし俺が堕天使長のお前に逆らったら、お前の力で俺なんか簡単に殺せるんじゃないのか?」
堕天使長は嗤う。嗤う。嘲笑う。
『君が殺されたら__私達の“負け”でしょう?』
女神が話したルール説明。
《「魔王」であるあなたが殺されれば、「負け」というわけでございます。》
そういうことだ。
俺が、一番なんだ。
〈魔王〉。
ルシファアはため息を吐き出す。
『〈魔王〉。君の望みは何でも聞く。何でも叶える。だから…何というか、よろしく頼みます』
最後を敬語にして、少年の姿をした堕天使は話す。
何でも。と。
『まぁ…。毎回のセリフだよ。〈魔王〉が代わる度にこれだから。私からのお願い、長生きしてね』
ルシファアは笑った。
可愛らしく。
「そっか。何でも、か。俺は欲深くはないけれど、意地悪だ。そして面倒くさがり屋だ」
ルシファアは黙って聞いている。
「まず1つ目。明後日の〈選出〉を籤引きにする。そしてルールは完全に簡略化する。要は直ぐに終わるものにする」
ルシファアは笑う。
『私は別に良いし、人間達も喜ぶと思うけれど…悪魔達は少なからずがっかりするだろうね』
だろうな、と呟く。
「そして2つ目。俺を人間達がいる街へ連れて行ってくれ。悪魔達とばっかりいるのもつらい」
『あはは。そっかぁ。人間達に会いたいんだね。良いよ』
ルシファアは少なからず俺の気持ちが分かるようだ。
「3つ目。最後だ」
俺の口元が自然と緩む。
「ルーランタン、あの口悪悪魔を俺の側使いから解任する。俺の部屋掃除士とかにでもしてくれ」
ルシファアは哄笑する。
『なんで?えーーなんで?いいと思うのになぁ…なんで?』
俺は説明する。
「口が悪い。暴力。うるさい。可愛らしくないっ!」
おっと、最後に力が入ってしまった。
『なるほど…じゃあ次の側使いは誰よ?』
「うーん…そのうちに考える。その時に言う」
俺がそう言うと分かった、とルシファアは頷いた。
『へぇ…ルーランタンが……。へこむだろうなぁ…』
そう言って、また笑った。
俺も笑った。
しばらく魔王の部屋に、その笑い聲はのこっていた。




