魔王叶偉と、こあくま4人
「ずいぶん前にもありましたよね。こんなこと」
「ああ。なんでも、人間は130デシベルを超える音には対応しにくいらしいわ。つまり対面式がうるさすぎたのよ」
「でしべるってなんにゃの?」
「なんだっていいじゃないの。要は、人間は弱いってことです」
「ああ……、そうだった……。ところで、今回の〈選出〉は……?」
ん………ん?なんだ?
ゆっくり目を開ける。
どうやら、俺は……意識を失って、今覚めたようだ。
此処は、魔王の部屋。
倒れている俺を囲んで、何人かがなにやら話している。
頭のそばで、何かを話されるのは…気持ちが悪いものだ。
それにしても……誰が話しているのだろう。
ゆっくり身体を持ち上げると、
「ひゃっ!」
「わぁっ!」
「なぁっ!」
「にゃっ!」
悲鳴。
そこには4つ子のような、顔のそっくりな4人の少女がいた。
右から背の順で、綺麗に並んでいる。透明のような髪の毛が、光を反射させて虹色に光っていた。喪服のような黒いドレスに、赤いラインが何本か入っている。それがどこか不気味で、七分丈程度の袖から細い腕が見えていた。服装も顔もそっくりだというのに、表情だけが、バラバラだった。冷静そうに笑う子、少し不機嫌そうに目を釣り上げている子、やる気のないように細めの子、眠たそうな子。
そんな悲鳴を上げられたら、まるで死んだ人がいま動き出したみたいじゃないか。
俺は、生きている。
俺の気持ちを害しているのを知ってか知らずか、4人の少女は話す。
「い……いきてるぅっ!」
「動いてるぅっ!」
「なんで?ねぇ、なんで?」
「にゃあ、びっくり」
何なんだよ、こいつら。どこかふざけているようで腹がたってくる。
そんなに俺が生きてるのが嫌か。
魔王だぞっ。俺は。もしかして、舐められてる?
「いつもそうよね。召喚される魔王は、自分は魔王なんだぞって……いつも偉そうに……」
「言っとくけど、私達〈少女〉じゃないよっ!人間じゃないもん。こあくまって呼ばれてるの」
「なんで話が勝手に進んでるんだ? って思ってるでしょ? 私達こあくまは、人間の心を読めるんだよー」
「にゃぁぁ。私の言うことは……もうないかなぁ」
驚いた。4人(匹?)がそっくりなのも驚くけれど、それよりも驚くのは4人の〈存在〉そのものだった。摩訶不思議なことばっかりを話している。あと、人間ではないなら、なんと数えるべきか……?
「4“人”でいいよ」
「“人”がいい」
「驚いてる驚いてる。ふふっ」
「みゃぁ」
4人が同時に喋る。けれど、情報量が少ないので全て理解することができた。
……というか、気を失ってしまっていた俺は、どうすればいいのだろう……
「大丈夫、あと1時間もすれば、ルーランタンがやってくる」
「このあとのことはルーランタンが話してくれる」
「詳しくはルーランタンへっ!」
「そうにゃの」
4人目はさっきから何を言っているのだろうか。セリフの度にする猫のポーズが愛らしい。
にゃ……猫?……まさか。しかしリアルな可愛さがある……。
おっと……“読まれ”たら面倒だ。
思考を止める。
話を変える。
質問をしてみる。
「えーっと……君たちは、この城でどんな仕事をしているの?」
なんでもないが、気になっていたことを訊いてみる。
「私は、なんでもやさん」
「雑用、かなぁ」
「コンシェルジュ!」
「…メイド?」
なるほど。そんなところね。みんな違うことを言ったが、具体例が多々挙がって、かえってわかりやすかった。
それでは次の質問だ。
「じゃあ……〈魔王〉の仕事ってなんなの?」
これこそが核心だ。俺が知りたいこと。というか、まだ知らされてないことが多すぎる。
「ルーランタンに訊いて」
「ルーランタン、かなぁ」
「詳しくはルーランタン」
「私達は、教えにゃーい」
あーあ。まぁ、わかりきった答えではあったけれど。
そう言われてしまえば仕方ない。
また、話を変える。
「4人には…名前とか、ないの?」
4人は、少し黙ってから答えた。
「シュン」
「カァ」
「シュウ」
「トォ」
んんん? まじか。
4人は続けた。
「アサ」
「ヒル」
「バン」
「…意地悪…えーん」
はぁ? またもやふざけているようだった。それにこの流れは、どこかのカッパが歌っていたような気もする。。
「トォ」
「ドォ」
「フゥ」
「ケン」
トォが被ってるぞ、おいおい。というか、こいつら都道府県。知っているのか? それともなにか、別の存在があるんだろうか。
次、続けたらしつこくないかと言おうとしたのだが、それを言う間もなかった。
「シン」
「ラ」
「バン」
「SHOW!」
……ヤバい、カオスだ。もうさすがにしんどい。
「ストップ!! わかったから!!」
腕をぶんぶん降って、俺は4人を制止する。このままだといつまでもふざけられかねない。
「トォと、バンが被っていた」
「正解っ!」
「よくわかりましたね!」
「まるっ!」
「にゃぁん」
ふふ、この程度、まかせておきなさい。
って違う! 違う違う違う違う違う違う!
俺が言いたかったのはそれではない!
「……お前ら4人に、名前はないんだな」
そう。これだ。
そう言われた4人は、うつむいて黙る。けれど、彼女らからは寂しそうな何かはあまり感じ取れなかった。
「うん。ないの」
「あっても、意味ないでしょう?」
「なくても、いいじゃん」
「にゃい…」
〈あっても、意味ない〉
つまりは、そういうことなのだろう。そういう世界観、なんだろう。
もしかして俺も、この世界では「魔王」としか呼ばれないのだろうか。
そんな俺の心を読んだのか、
「君には名前、あったんでしょう……?」
「〈前の世界〉の……」
「教えてよ、あるんでしょ? きっといい名前が」
「にゃん」
俺の名前、かぁ。
こういうのって、自分の名前を言うのって。
なんかこっ恥ずかしいんだよな。何故か。昔からそうだった。
「かい………叶偉って名前だったよ」
この世界には、漢字はないような気がする。
けれど俺は、自分の名前に漢字をのせたような気持ちで、その名前をいった。4人が真剣な顔できくものだから、恥ずかしさはどこかへいってしまった。
4人は静かに俺の名前をきいて、
「かい」
「かい、かぁ」
「かーい」
「にゃーい」
そう4人は別々に呟いてから、初めて口をそろえた。
「「「「面白い名前だねぇ」」」」
〈面白い名前〉。
良い名前、ではないのかい。
そう言う、4人が、一番面白かった。
「初めてだよ。そんなこと言われたの」
えへへ
ひひ
ふふ
にゃぁぁ
四人四色、別々に笑った。
「かい君」
「かいさん」
「かいちゃん」
「かいにゃん」
4人はそう言って、かしこまる。
少し間をあけて、口をそろえた。
「「「「魔王叶偉様、これからもどうぞ私達こあくま4人をよろしくお願いします」」」」
ふざけていた姿はどこへやら、いつの間にか4人は同じ神妙な顔をして、恭しくそういった。
つまり、こちらもそれに答えるべきで。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そういうと、4人は口許を綻ばせて、やがて堪えきれないといった様子で、笑った。
それにつられた俺も含めた5人で、ひとしきり笑った。
その後こあくま4人は、それでは、と言って部屋のドアに近づいて言った。
「もうすぐ、ルーランタンが来ると思いますので」
「あと少しで、来ると思います」
「私達は、失礼します」
「にゃあ、またこんどね」
そう言って、魔王の部屋から静かに出て行った。
……………………
一人になって。
しばらくして、俺は思う。
あんな子達に、“前の世界”でも会えていたら、きっと。
なんてことを。




