カナとプリン 7
お風呂のお湯が飛び散った後、お風呂には少量のお湯しか残っていなかった。
これもすべて堕天使長ルシファアのせいだ、と私は心の中で毒づく。何から何まで、しゃくに障る。
私の怒りも落ち着いてきたころ、再びルシファアの聲が聞こえた。
『……カナ、さっきは悪かったよ……。だからもう一度、私の話を聞いてくれないかい?』
少年っぽい聲なのに、ルシファアの一人称は『私』だ。その辺も、よく分からない。
何も言いたくなかったので、私は黙っていた。
ルシファアはどうやら、この私の沈黙を肯定的に取ったようで、話を続けた。
『突然なんだけど……カナ、サネから何か聞いた?』
ルシファアの声色は、いつも通り。だけれど、わざわざこんなことを訊くのはいつも通りじゃない。
私は、この問いかけにどう答えるべきか逡巡する。
「…………」
今回は、ルシファアも黙って待っている。
このまま黙っていてもしょうがない、と私は意を決して口を開いた。
「私が、何をサネ師匠から聞くというの」
『……』
「突然、って何よ。私が誰と何を話そうが、ルシファア、あなたには関係ないじゃない」
こちらが主導権を握るため、少し怒りが見えるように声を大きくする。
私の答えは、どちらともとれるはずだ。
しかしルシファアの能力は、私の想像の範疇の超えていた。
『……聞いたん、だねぇ』
一瞬、ルシファアの言っている意味が分からなかった。
『聞いたん、でしょう?〈選出〉者リフリアと、ルーランタンのおはなし』
今になって考えてみれば、私の言動はいささか不自然だった。こんなことなら私は、強くノーというべきだったのだ。
『カナにしては変な言い回しだったもんねぇ』
このことでサネ師匠に悪いことがないといいのだけれど、と心配する私にルシファアは話す。
『いや、別にカナが知ってしまったからどうのこうの、っていう話じゃないから大丈夫だよぉ。逆に私としてはとても嬉しい……』
そこで一旦、ルシファアは切る。顔を上げたカナとルシファアの目が合う。
『カナ。君が一種の好奇心を持つならば、この城、絶極城の図書室に行ってみるといい。私が言えるのは、ここまでだった……はずだ』
急に大人びた口調になったルシファアは、その言葉を最後に、カナとの会話を終えた。




