サネの語る物語
これは、サネがカナに話したお話。
悪魔と人間は、異なる生き物である。
悪魔は一部の人間を支配し、残りの人間は女神の側に庇護される。
どちらの側の人間も、悪魔を快く思っていないことは確かだ。
__これは、悪魔と人間のありえるはずのない、恋の話。
第七天使であったルーランタンは、ルシファアの側に付き、悪魔となりました。
天使が堕落した反動で現れた『魔王』の側使いの職をルシファアから得たルーランタンは、一代目の『魔王』と『〈選出〉者』からずーっと、すべてを見てきました。
その十三代目の次の代の話です。
魔王の名は、ミサキ。〈選出〉者の名は、リフリア。
二人は姉妹のように仲が良く、ルーランタンとも仲が良かったのです。
そんな平和だった、ある日のこと。
魔王ミサキが、女神の側から放たれた刺客の毒におかされ、命の危機になりました。
魔王が死ねば、女神の側の勝ち。その単純なルールによって、魔王はしばしば命を狙われるのです。
しかし今回はこれまでとは違い、殺傷方法が『毒』だったのです。
毒によって魔王ミサキは間もなく死ぬ、となったとき、悪魔達が総動員して全図書から探していたものがリフリアによって見つかりました。
それは、最強の魔術。
解放魔術による、回復魔術。
あらゆるものを癒やし、回復させ、そして赦す魔術。
その魔術でなら、魔王ミサキの毒も癒せると信じて、全ての悪魔がこの魔術にすがりました。
しかしその魔術を内容を見たとき、全ての悪魔が同時に悲しむことになったのです。
解放魔術による回復魔術は、他でもない〈愛〉によって発生される魔術だったので、悪魔達にはそれができないということなのでした。
悪魔は夫婦もなく、子も作らない。
〈愛〉を知らない生き物の悪魔に、〈愛〉を知って使用するその魔術は不可能なのです。
かといって、〈愛〉を知る人間に魔術を使用してもらうにも、人間はもとから魔術を使用できず〈選出〉者独りでは〈愛〉を発生することすらできません。
絶極城全体が悲しみに流され、悪魔の世の終わりを待っていました。
全ての悪魔が諦めていました。
そんな中、〈選出〉者リフリアとルーランタンは二人で試行錯誤していたのです。
その末に、リフリアとルーランタンの間には、ほかでもない〈愛〉が生まれました。
元から、リフリアがルーランタンを愛していたということもありましたけれど、そのルーランタンがリフリアに心を開いたのは堕天使長ルーシェルでさえも想像していなかったのです。
リフリアとルーランタンは、魔王ミサキが毒におかされてからの数時間という短時間の中で、〈愛〉を生まれさせて一つになり、そして解放魔術による回復魔術も発生させて魔王ミサキを毒から救ったのです。
絶極城はこの事実に驚き、そして喜びました。
この世界の創造主である女神でさえも、ルーランタンとリフリアの〈愛〉に驚いたといいます。
リフリアとルーランタンは、互いの持てる魔術の技術を使い果たしてぼろぼろになりました。
それを見た女神は、例外にもルシファアとの面会を求めたのです。
ルシファアはそれに応じ、世界で初めて女神と堕天使長が話し合ったのでした。
三日三晩の話し合いの末、女神と堕天使長はこの歴史を封印することにきめました。
リフリアとルーランタンの〈愛〉を“なかったこと”にしようとしたのです。
女神とルシファアは、お互いの力をその時初めて合わせて“それ”を行使しました。
もちろん、その反動によって魔王ミサキも“いなかったこと”になり、リフリアも“〈選出〉されなかったこと”にとなりました。
魔王ミサキは、元の世界に生きていたこととして逆召還され、リフリアは解放魔術、ルーランタンの伴侶の代償として永遠の命と永劫不変を与えられ、その永遠の命は誰も気づかないように魔術が施されました。
今となってはこの話を知っているのは、女神、堕天使長ルシファア、リフリアの代わりになった十四代目〈選出〉者サネ、魔王ミサキの代わりになった十四代目魔王、そしてこの話を聞いた君だけです。




