魔王の部屋での起床
俺が目を醒ますと、そこはキングサイズレベルのベッドの上だった。
「おめざめになりましたかぁ」
どこからともなく少し高く可愛らしい聲が聞こえる。
口を動かそうとしてみるが、動かない。
「……ー……ーー!!」
声にならない聲が、変に頭の中で言葉になる。
(なぜ!! 声が!)
するとそんな俺の心を知ったように、またもや同じ聲が聞こえた。
「ふふふ。今無理しなくてもいいんだよぉ。君がその身体に慣れるのも、少し時間がいるだろうしねぇ」
動かせるのは、目だけだった。
その目から得られる情報は、我ながら自分の目を疑ってしまうようなことだった。
紫色一色の壁、大きなシャンデリア、よい加減の光。
壁には髭をいっぱいたくわえた、老人のような顔の絵が整列している。
少し不気味な雰囲気を醸し出しているこの部屋は、不気味なほど居心地が良かった。
そこまで考えて俺はゆっくり目を閉じる。
(此処はーどこだ?)
自分は先ほどまで、自分の家でぐうたらざんまいをしていたという記憶が脳内に残っている。そうだ、ゴールデンウィーク真っ只中でゆっくりぐうたらしていたのだ。
それにーーと、俺は考える。こんな建物、観たこともないし現代においてあるわけもない。
となるとーー兎に角此処は、俺の知っている場所ではないのだ。
そこまで思ったそのときだった。
「ふーん。君の記憶はそこまでかい?」
さっきも聞いた、その聲。
何故か意味深長のようなことを問い掛ける。
俺の記憶ーーたしかに…なにかある。
意識が途切れる寸前、誰かの泣き声が…
〈意識が途切れる寸前〉?
……意味が分からない。
そのとき、俺の脳内を一筋の光が走る。
(苦しい。痛い。ただひたすらにー暑い。…嫌だ!もうこんな思いはーー)
俺はーー死んだ。あのとき上から推された圧力を、俺は覚えている。
死んだのならーー此処は…?
「あぁ。そこまでたどり着いたのなら、後少しだ。……じゃあ、君の一番最後の記憶はそこで終わりかい?」
また、聲がした。その聲は、先ほどと比べてどこか嬉しそうな感じでもある。
俺の……一番最後の記憶……?
記憶には……自信があまりない俺だが、今回ばかりは本気で思い起こそうと目をぎゅっとつぶった。
そのときだった。
光が、一筋の光が見えた。
目を閉じているのに。
脳内のその光は、ゆっくり強さを増していく。
その光の大きさと同じように、頭痛がしてきた。
目の辺りから、痛みが広がっていく。
痛い。熱い。目を閉じているのに、目の前が真っ白になっていく。
だんだんと痛みを感じなくなっていくことに気付いたとき、脳内に見慣れない風景の記憶があることを感じた。
女の人が、座っている。
俺と、話している。
「魔王として……召喚される?」
「女神……?」
観たこともない景色がフラッシュバックする。吐き気がする。
誰の……記憶だ……?
「君の記憶だよぉ。忘れたのかい?」
聲が話す。
「紛れもない、君の記憶さぁ。まぁ忘れていても、無理はないけれどねぇ」
俺の……記憶……。
解らない。
「記憶」が本当だとすると、俺は…今の俺は、〈魔王〉だということになる。
「おぉ。早いねぇ。君。うん。君が思っているその通りだ。今の君は……〈魔王〉なんだよぉ。ふふふ」
そう聲は笑うと、真面目な口調に変わって続ける。
「絶極城城主15代目魔王様。私は元天使長、現在堕天使並びに悪魔の長をしております「ルシファア」です。よろしく」
ふわん、という音と共に一人の少年の姿が現れる。
「私はこの世界に誕生してから一万年以上の時間を経験しております。ゆえに、私に解らないことなどこの世界に存在しません。解らないことは何なりと、仰せ下さい。ふふふ」
解らないことだらけだ! と言いたいところなのだが、肝心の声が出ない。
そんな俺の心を読んだかのように、ルシファアは話し始める。
「そうだねぇ。まずこの世界について、だよねぇ」
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神々がいたころの話です。
昔の昔。想像を絶するほどの昔から、「女神」と呼ばれる神はいました。
女神はなにか他の神に出来ないことを、自分がすることで、他の神と「差」をつけたいと考えました。
そこで女神は新しい世界を創造しました。
人間という名の生き物が暮らす世界を。
そこまでは女神の思惑通りだったのです。
しかし、「世界を創造する」ということはとても大きな力が働くことなので、それなりの代償を必要とします。
今回の創造の代償は「天使長の堕落」でした。女神の創造を助けていた天使長が堕天使となることによって、世界には「魔王」と呼ばれる者が召喚されるようになりました。「魔王」は堕天使と手を組み、世界全てを堕天使のものにしようとします。それを女神も黙って見ているわけにもいかなく、だから日々女神の力と堕天使の力が衝突している今のこの世界ができたのです。
「魔王」は、どこからともなく召喚され、死ぬと新しい「魔王」が召喚されます。
それを何度も繰り返して、今の世界があるわけです。
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話し終えて、ルシファアはまとめるように言った。
「そして、君がその15代目ってこと、なんだよぉ」
この言葉と同時に、俺の魔王生活が始まった。




