魔王とカナと朝ご飯
朝ご飯を食べに、初めて歩いてダイニングへと向かう。
先ほどカナとの間で一悶着あったのだけれど、何も言わず黙って進む。
二人分の足音が鳴り響くのを聞きながら、俺はカナの方向音痴さに気付いた。
いくら絶極城がとてつもなく広いといっても、そりゃないだろうというような方向へカナは進み、俺は内心ヒヤヒヤしながらついていくのであった。
しまいには、ダイニングと反対にあるはずの玄関ホールにたどり着いた。
大きなホールを前にして、カナが立ち止まったのを見た俺は、我慢できずに口を開いた。
「な、なぁカナ。ここって玄関ホールだよな。ここでは朝食を食べられないとおもうぞ」
さすがに後半部分はいらない、と思ったけれどカナはそれには触れずゆっくりと俺を振り返った。
「わわわ、わかんなくなった…」
わなわなと震えるカナはその場に座りこみ、両手で顔を押さえた。
そういえばこの城は簡単な造りになっていたはずだ、と俺は数日前にルーランタンに見せてもらった城全体図を頭のなかで思い浮かべる。
階段は無く、一階しかない。廊下は一部を除いて碁盤の目のような造り。ほぼ正方形の敷地。
方向さえ分かっていたら、いつか目的地に着くような造りだったような気がする。
カナをこのままにしていたら、どんどん朝食を食べるまでが遠くなってしまうような気がしたので、半分呆れで俺はカナに話した。
「なぁ、カナ。俺が思うに、ここは玄関だよな。だからダイニングはあっちだと思うんだが…」
俺は、カナと俺が歩いてきた廊下を指差す。
「今度は、俺についてきてくれないか?」
そう言う俺に、カナは頷く。
「よっし。じゃあいくぞ」
まずはさっき来た廊下を戻る。
真っ赤な廊下を、さっきと全く同じように足音を立てて歩く。
しばらく歩いて、俺はふと思った。
これだけ廊下を歩いても、誰にも会わない。たくさんいる、悪魔誰にも会わないのだ。
不思議に思いながら、この時間だからみんなダイニングにいるのかな、と解釈する。
そうしたら俺達が最後だったりして、みんなは待っているんじゃないかと思い、自然と早足になる。
カナの足音も早くなりながら、二人で歩いているとついにダイニングが見えた。
ダイニングのドアにたどり着き、ドアを開けるとたくさんの悪魔が静かに待っていた。
俺はゆっくり、一番奥にある自分の席に向かう。
カナの席はその横で、その後ろに少年の姿の堕天使長ルシファアが威風辺りを払うような格好で浮いていた。
ルーランタンは、
「お待ちしておりました。魔王様、〈選出〉者殿」
の一言で、恭しくお辞儀をしたけれど、他の悪魔は「おっっそおおおい!」とでも言いたげだった。
俺達が食事を始めると、溜め息混じりに悪魔達も食べ始めた。
空気が悪い食事の中、後ろから聞こえるルシファアの呟きがカナと俺を震わせた。
『なぁんであんなに遅かったのかなぁ?カナにはさっさと魔術を習得してもらわないと…。それにしても遅かった。二人で何を、やってたのかなぁ…?』
その日はカナも俺も、一度もルシファアと話さなかった。




