かいとカナの朝食前
「かーい……大魔王かい!……かい?」
声がする。
聞き慣れないような、あまり聞いてないような、どこか変な感じがする。
「かーい!……そろそろ?おきろー…!」
起きろ?おかしくないか。
俺はこうして、今起きているぞ。
ほら、目もぱっちりと………。
……目が開いた。
「やっと起きた。聞いてた通り、朝は弱いんですね。大魔王かいは」
俺は、寝ていたようだ。
そして、〈選出〉者であるカナにも「朝に弱い」というレッテルを貼られてしまった。
「さっさと起き上がってはどうですか」
そう言うカナの声で、俺は自分がずっとカナから見下ろされていることに気付く。
「悪い。朝には弱いんだ」
そう言ってのっそりと起き上がる俺に、カナは痛恨の一撃を食らわす。
「知ってますよ。今や絶極城の常識です。知らない方がどうかしてます」
カナはそう言うと、部屋の端にあるクローゼットからいつもの魔王服を取り出した。
「さっさと着替えて、朝食にしましょう」
「ああ」
女子に言われては、と仕方なく返事をしたとき、俺は一つの疑問が浮かんだ。
「なあ、カナ。お前って寝たのか?」
「寝たに決まってるじゃないですか。〈選出〉者とはいえ、魔術以外の能力は変わりません。私はもともと、早起きなんです」
そう言ってカナは黙り込み、どこかを見つめた。
しばらくカナは黙っていたが、よしっと言うとスイッチが入ったのか仕事の目に変わった。
「いつまでベッドに座ってるんですか。そんなことずーっとやってたって、私は横に座りませんよ。さあ、早く着替えましょう」
前半部分は何が言いたかったのかあまり分からなかったが、俺もその意気にのってよしっと立ち上がった。
着替えるから、カナには部屋を出てもらうか、と言おうとした俺はカナのポーズを見て固まる。
「お…お前が俺を着替えさせるのか……?」
「当たり前じゃないですか。私はかいの側使いですよ?」
俺のパジャマの肩のあたりをつかみながら、カナは言った。
「…手を挙げてください……」
黙って手を挙げる俺は、なんだか悲しさと恥ずかしさと、少しの嬉しさがぐちゃぐちゃになったような、変な気持ちでいた。
カナはぎこちない動作で俺の上の服を脱がそうとしたが、俺の方が背は高く、悪戦苦闘していた。
「……しゃがんでください」
なにか違うような気がしたが、俺は黙って正座した。
「うおいしゃ…!」
半分乱暴に脱がしたカナは、俺の上半身の裸をあえて見ないようにして、呟いた。
「下…………」
「…………!」
沈黙が訪れる。
「じ、じ自分でぬぐよ?そそそれぐらいい」
混乱気味に言った俺の声はカナに聞こえていないようで、
「ベッドに座って……?」
とカナは俺に行った。
いや、もう『言った』じゃなくて『囁いた』っていうぐらいの声だった。
カナはもう、何も聞こえないという風だったので、俺は観念してベッドに座った。
「ぉいしょ」
とカナは俺のパジャマのズボンの裾を掴んで引っ張った。
ささああーーっ。
嗚呼、もう考えられない。
パンツ一丁の魔王と、少女の〈選出〉者。
…………………どう思う?
幸い、カナはもう思考を停止しているようで、目に光がなくトランス状態みたいだった。
ゆっくりとカナは後ろの魔王服を取り出すと、俺に向かった。
「右足上げて」
上げるしかない。
「左足上げて」
上げた。
魔王服のズボンの端を持って、カナはもう一言。
「立って」
よいしょ、と立った俺は、もう限界が近かった。
今の俺の顔は多分、赤に染まっているのだろう。
なにせ、カナは俺の服を掴んでいるから、近いのだ。
もうこれ以上詳しく言っていると大変なことになりそうなので止めておくけれど。
立った俺の後ろから、ポロシャツのようなタイプの服をカナは着せて、ボタンを留めていく。
この『服着せ』の工程の中に、何度もカナが俺を抱きしめるような格好になったことは、言うまでもない。
カナが最後に厚い上着を着せて、全てが終わった。
終わってから、カナは顔を赤らめた。
しばらく二人とも、目を合わせず会話もしなかった。
随分と長く感じられる時間が経って、カナの顔の色が戻ってから、カナは口を開いた。
「あ、朝ご飯、食べにいきましょう」
ルーランタンの時は魔術だった着替えも移動も、こちらの方が随分と楽しい気がしたのは、口が裂けてもカナには言えない。
部屋のドアを開けて、先に行ってしまおうとしているカナを、俺は足早に追いかけた。




