カナとサネ
私が悪魔達に連れられたのは、絶極城に入ってすぐの部屋だった。
そこに私が入ったのを悪魔達は一瞥すると、何も言わずに部屋から出て行った。
しばらくその部屋に1人にされた私は、何もせず、突っ立っていた。
部屋を見回す。
私の家の部屋の何倍かある広さを持つ、その部屋は、朱い床は考えられないほどふかふかで、壁には赤々しい宝石が散りばめられていた。
全体的に赤いその部屋を見ていると、目が痛くなって、くらくらしてくる。
しかたなく瞑目する。
そのとき。
ががーん、と部屋のドアを開けて入ってくる数人の人達がいた。
若い女性、おばあさん、おじさんくらいの年の人や、私よりも年下に見える少年まで。
実に、様々だった。
その人達は、私の前に整列した。
しばらくして、一番に入ってきた若い女性が口を開けた。
「こんにちは。私の名はルラです。そして、私達は歴代の〈選出〉によって選ばれた者です。私達〈選出〉者は、歴代の魔王に仕え、その魔王が御隠れになったとき、私のように〈悪魔〉に限りなく近い存在となるのです。…あなたも、例外なくね」
ルラと名乗った女性は、横の男性に囁いた。するとその男性から、1人1人名乗り始めた。
「私は2代目〈選出〉者、ガナノラム」
ガナノラムから、13代目まで色々な格好、色々な容姿をした人が順番に名乗る。
そして、14代目。
「ぼ…ぼくは、サネ。14にんめの、せんしゅつしゃです。きみの、師匠…となってきたいろいろおしえるのは、ぼくです」
小さな少年のようなサネは、可愛らしい聲でそう言うとお辞儀をした。
つられて私も会釈を返す。
「一応、言っておくけれど、ここにいるあなた以外は〈選出〉された時から、容姿は変化していない。だからそこにいるサネも、年を言えば36になる」
そう言う1代目〈選出〉者ルラは、果たして何歳なのだろう。
そんなことを考えていると、ルラは続けて話す。
「最後に、君の名前を教えてくれないかな」
「カナです。父が昔から好きだった樹の名前を付けてくれました」
「カナか。いい名だな」
そう言ってルラは、じゃあいくぞ、と号令をかけてサネだけをおいて部屋から出て行った。
サネは私に近づくと、「師匠」っぽい感じで話し始めた。
「じゃあ、カナ。初めに〈選出〉者について一通り説明しておくね」
サネは先ほどよりもはっきりと、大人になったような口調で話し続けた。
「〈選出〉者っていうのは、人間だった者が〈選出〉によって悪魔のような存在になった者のことを言います。だから君もぼくも、〈選出〉者」
かはは、と何故かサネは笑うと、私を直視して言う。
「〈選出〉者の特徴の1つに『永劫不変』っていうものがあって、それは〈選出〉された時から容姿も、身体能力も、着ている服でさえ、変わらないってことなんだ。そこが、悪魔達との一番の違いかな。あ…でも、〈魔術〉の能力だけは変化するよ…なんでだろうなぁ…」
しばらく首をひねっていたサネだが、まぁいいや、と呟くと何事もなかったかのように続けた。
「…えーっと、あと〈選出〉者ってなんで必要かというと、実はその代の〈選出〉者は魔王が死ぬまでの間、『堕天使長ルシファア』のことが見えるんだ。要は“魔王だけじゃ信用できん”ってことなんだよね。だから今の君には“あの”堕天使長が見えて、ぼくにはもう見えないってこと」
私はある程度は理解できたけれど、あまりインプットできていない感じが残った。
そんな私の心中を理解したかのようにサネは言った。
「まあすぐ理解できる人なんていないから、今すぐ理解しろとはいわないよ。だからゆっくり、理解すればいいさ」
またサネはかはは、と笑うと続ける。
「次は、〈選出〉者の仕事についてだね。基本的には“雑用”全般や、得意分野の仕事に配当されるんだけど…」
そこまで言って、サネは言葉を濁す。
「君の場合、『魔王勅命』が出ていて“魔王の側使い”になるらしい」
「え…っと……私だけ?」
「まあ、これまでの魔王がこんな勅命を下したのは初めてらしいから、君だけってことになるんだとおもうけど…」
サネは言いにくそうに私に言うと、少し笑顔になって言う。
「まっ、別に大変な仕事じゃないと思うし、他の仕事も君だけしなくていいってことはずいぶんラッキーだとおもうよ」
ちょっとしたフォローが入る。
サネはその調子で続ける。
「…ってことで、君はもうすぐ…できたら今すぐ『魔王』のところに行った方がいいと思うんだ。だから…その……ぼっぼくについてきて!」
そう言うが早いが、サネは部屋のドアに向かった。
その後を、まだ少し混乱ぎみの私がついていくのだった。




