萩原雪歩の話 私が犬を苦手から嫌いになった日
なんとなく書き始めた物語。気が向いたときに頭の中の言葉達の遊び場所になればいいな。
萩原雪歩という名前を使ったのは確かに某アイドルが元ですが、彼女とはなんの関係もないことをあらかじめここに書いておきます。
萩原雪歩の話
私が犬を苦手から嫌いになった日
私は生まれついて、内気で弱気な、人見知りを絵に描いたような人とのコミュニケーションが苦手な女の子だった。
家族は四人家族で、私の性格はどこから?と疑うほどに明るく、快活な父と母、三つ下の弟に囲まれて暖かく育てられた。
この苦手な人付き合いも心の寂しさから(その能力はないくせに、心は人との関わり合いを望むというのだから人というのは厄介だ。)小学生の頃は何度も友達作りに躍起になったものだが、それはことあるたびに、今でも思い出せば恥ずかしさのあまりに体を抱えて青春切符でどこかに飛び出してしまいたくなるほどの苦い記憶となって刻まれるばかりで、一番欲しかった友達の絆などは刻まれるばかりかそもそも友達は出来なかった。
しかしどんなことにも、わずかばかりながらの報酬というのはあるもので、友達作りは出来なかったが知り合い作りはなんとかできるようになった。
これは、私が地元の中学一年生の時に出会った、犬を連れていた少女との話。そして、私が犬と人付き合いを嫌いになった理由。
その日はうんざりするほど湿った日で、さらに追い討ちをかけるように雨の降った、夏休みを控えた6月後半の日だった。
その日は確か日曜日であったので、学校がないからと家でダラダラしていた私を母がそんなに暇ならとほぼ強制的な命令で夕食へのお使いへ私は借り出されていたのであった。
その帰り道だったと思う。ただでさえ暑いのに雨のせいで湿った空気とTシャツが肌にベタッと貼りついてイライラしながら住宅街の道を、ズシッとしたスーバーのレジ袋を片手に食い込ませ、もう片手には折りたたみ傘を持ちながら歩いていた。
近くの公園から犬が元気に吠える声が聞こえた。まあこんな日に元気なことで、と思った。
そのままその公園の横を通り過ぎるはずだった。が、その犬が飼い主の元を離れて公園を飛び出して入口からこっちに向かって突っ込んできたのである。
その犬は元気良く私の足に飛びついて、ワンワンと訳のわからぬことを吠えさけんだのだ。わけがわからない。
バランスを崩されておっとっとなどとやっていると、犬の飼い主が走って駆けつけてきた。
「スイマセーン。大丈夫ですか?」
短い黒髪のショートカット、おそらく私と同じくらいの中学1、2年生くらいであろう背格好で、白いワンピースを着た女の子だった。
「えっ、あっ、大丈夫ですよ」
なんとか取り繕って返事をするも、私はもともと犬が苦手だった。
犬を嫌がりながらも、両手に抱えた荷物のせいで身動きの取れない私を見て、
「ああ、風香!ほら、やめなさいって」
私に取り付く犬をその飼い主はとり剥がそうと犬を抱えた。
「もう、急に走り出したと思ったらいきなり公園を飛び出して人に飛びつくなんて」
犬は無事に私から離れ、彼女の手に抱きかかえられた。
「げ…元気な子ですね」
すると女の子はこちらにニヤリとした笑いを向けて、
「それがこの子はそうじゃなくて、」
「?」
「こいつ、女好きなんですよ、犬のくせに。」
「お…女好き…?」
「そう、可愛い女の子見つけると、飼い主放っぽり出してすぐそっちに走って行っちゃうの。」
呆れた笑いを犬に向けながら笑っていた、犬はそっぽを向いて私の方を見ていた。
「ふ…不思議な?子ですね」
私は急な人との会話に戸惑いながら返事をしていた。
「本当ごめんね、いきなりこの子が飛びついちゃって。」
彼女は本当に申し訳なさそうな顔をして私に頭を下げて謝った。
「いや、大丈夫ですよ、飛びつかれただけで何もないですし」
すると女の子はホッとした顔をして、
「よかった、この子にも後でよく言い聞かせておきます。」
と言った。
そうすると、ふと気づいたように少女はこちらをジロジロと見つめる。
「あの…どうかしましたか?」
「いや…見た目的に多分中学一年生くらいですよね、もしかして夏目中に通ってたりしませんか?」
夏目中というのは私が通う地元の公立中学校のことだ。
「はい、通ってますけど…」
すると女の子は途端に目を輝かせて
「やっぱり!!!私、つい一昨日にここに越してきたばっかなんですけど、明日から夏目中に通うんですよ!しかも同じ中一!」
「そうなんですか?それは、偶然ですね。」
「そうなんですよ。」
彼女は何か言いたいことがあるようでそわそわしながら
「それで、その…」
口をもぐもぐさせていた彼女は、きっと言葉を喉の入り口でうろうろさせていたのだろう、
「どうかしましたか」
私は聞いた。
「あのね」
決心したようにこちらを向いて、目を見つめてきた。
慣れていない私は少し気恥ずかしかった。
「私と…」
「私と友達になってくれませんか!!!」
「ふぇ….?」
予想外の言葉に素っ頓狂な言葉が出てしまった。
「友達?」
その言葉の解釈が自分の中で追いつかずについ聞き返してしまう。
「そう、友達になって欲しいの」
「なんで?」
「それは..、私、一昨日ここに引っ越して方ばかりで誰もまだ友達とかいなくて…、新しい学校でちゃんとうまくやってけるか心配で…、しかも今もう7月で人間関係も固まってきた時期で、そんな時に急に転校してきた私をクラスの人たちが受け入れてくれるかとか不安で」
彼女は恥ずかしながらも私を見つめながらとても一所懸命に話す。
「でもこんな落ち込んだ気分のままで家にいても変わらないと思って、気分転換に風香の散歩をしてたら転校先の同級生と会えた、これってすごい偶然じゃない?」
「私、えっと…、こんなこと言うと恥ずかしいんだけど…、」
「運命的なものをあなたに感じたの!」
「…運命ですか…?」
「それで…、どうかよかったら私と友達になってほしい」
「どうかな」
「よかったらでいいの。」
「…。」
運命とは少し突飛な話のように感じたが、友達作りに苦労した私にとって転校という今までの人間関係を捨て、新しい環境に飛び込まなければならない彼女の状況に勝手に共感していた私は彼女の熱心さも相まって話を黙って聞いていた。
彼女は私の返事をドキドキした様子で待っている。
でも、
「それは…、ちょっと難しいかもしれない」
私は断った。
「え…、ダメ…?」
ことの他、彼女は返事が不満だったらしく、探るような言持。
「私、…、そういうの苦手だから。だから、」
私の意図を汲み取ろうとして、彼女は私をじっと見つめる
「だから…?」
「多分、あなたの期待に添えるような友達にはなれないかも…しれないと思う」
これを聞いて彼女は言った
「つまり…、私の友達になれる自信がないってこと?」
それに私は頷きながら
「…そうかも」
すると彼女は私の顔にズッと顔を寄せて、言ったのだ。
「私が…、嫌?」
私の態度が彼女に嫌な態度として取られたのかもしれないと気づいた私は、それを必死に否定するべく
「違う、違うよ!嫌じゃないよ!ただ私が友達としてふさわしくないかもしれないってことを言いたいだけであって…」
言ってみて、自分の卑屈さが現れたようで余計に友達などというものから離れたな、とも思ったが、
すると彼女は顔を途端にパアーっと輝かせて、
「なんだ!!そんなこと!!あるわけないじゃん!!同じ学校の同級生でしょ、それで友達になれる理由なんか十分だよ!」
「ってかそんなくだらないことどーでもいいよ、私が友達になりたいって言ってるんだから」
彼女の返答が私にとっては少し意外で、逆にその言葉は簡単に私の卑屈さを説得してくれた。
「確かに、そうかも」
私の返事に彼女は笑って、
「じゃあ、私たち、今日から友達だね。」
「うん」
私もつられて少し笑顔になった。
「私の名前は遠藤桜子、あなたは?」
「私は…、荻原雪歩です。」
こうして、私たち二人は友達になったのだった。
私は今でも、この日の彼女の笑顔がとても素敵に思ったのを、はっきりと覚えている。