02.告白
王女は何処かへ去っていき、残った男前騎士はこの世界についての説明をし始めた。
「私はシモンリガードと申します。
このスランドカイゼ王国は今現在、南方から進行中の魔族によって大変危うい状況になっています。
この国は人類最後の希望であり、魔族との争いの最前線に位置しています。
我々国民は魔族の残虐極まる非道な行為により困窮した生活を余儀なくされています。魔族の進行は日々悪化しており、恥ずかしながら人類最強とも言われた我々王国騎士団も壊滅的な被害を受けました。どうか、我々と共に世界を救ってくれないでしょうか」
膝を地につけ、頭も地面につけた。
土下座だ、まさかここまでするとは。
「だ、大丈夫ですよ。そこまでしなくても……」
花先生は困惑していた。
「シモンリガードさん、安心してください。僕たちは救いますよ、世界を。」
三上はまるで全体の総意であるかの如く騎士に手を差し伸べる。
「そうだね、私たちならできるよ。なにせ勇者だもん」「やってろうじゃねえか」「おう!」
クラスの中心に位置する顔ぶれが賛同を示し、一致団結のオーラを纏い始めた。
「皆さん、確かに見知らぬ地にきて困惑してるかもしれません。でも、ここの人達はもっと辛い思いをしています、私たちは幸運にも力を得てしまいました。助けましょう!私たちの手で!」
あれ程困惑していた先生も今では何やら綺麗事を語り始める。
前川花先生は新任の教師である。
正義感があり、バレー部の顧問も務める体育会系と言っても良いだろう。
彼女の一言でこのクラスの舵は切られた。
そして、クラスメイト達の騒めきは自らが選ばれたという選民意識のようなものに変わっていった。
これから戦争に駆り出されるというのに和気藹々としたこの空気感に何とも腹が立った。
そして、自分が勇者ではない事。それは明らかな不安要素だ。
ここで公言するべきか、それとも隠し通すべきか。
勇者でないからといって殺されるという事はないだろう、恐らく。
ただ、勇者でもない人間が戦いについていけるだろうか?
「す、すみません。」
勇気を振り絞って右腕を上げ、立ち上がる。
歓喜付いたこの騒がしさも俺の発言と同時に静まる。
運が良いのか、はたまた悪いのか。丁度このタイミングで王女が戻ってくる。
「どうか致しましたか?」
王女がそう言った。
発言のタイミングはここしかないだろう。
「あの、俺、勇者ではないんですが」
周囲を見張っていた騎士達が何だか騒めき始める。
「静まりなさい」
王女がそう注意すると見張りの騎士は口を閉じた。
「対応はこちらで検討します。今から勇者歓迎パーティーをしようと思いますので勇者の皆さまはシモンリガードの方へ着いて行って下さい。」
よどめきながらも立ち上がり、無言でシモンリガードへとついて行く。
「白崎くん、本当に勇者のスキル持ってないの?」
木原桜さんが俺に話しかけてきた。
桜さんはクラス委員長だけあって誰にも隔てなく喋りかけてくる。
「うん、ふさわしくなかったのかな。それより勇者ってスキルなのか」
俺は笑いながらそう答える。
てっきり勇者というのは職業的なやつかと思ってた。
そう言えばステータスに職業ないもんな。
別室に案内され、そこの部屋には色鮮やかな料理が並んでいた。
見た事のない料理ばかりで、バイキングのように取り放題になっている。
料理を囲むように多くのドレスやタキシードを身に纏った高貴そうな人達が待っている。
現代社会に生きる、それも学生の俺たちには全く別世界に来たみたいだった。いや、来ていたのだった。
「これは勇者歓迎パーティーです。国内外から様々な料理を集めてまいりました。ぜひお手にとってみて下さい。」
王女がその様に言うと、続けてキッチンの奥の方から料理人が表れて料理の説明をし始めた。
もう食べ始めている者もいる、俺も食べるか。
まずはステーキからだ。四時間目の授業の終わり頃に異世界トリップした所為で空腹状態だった。
適当に空いたテーブルに座り、備え付けのナイフとフォークで肉に口に運ぶ。
見た目とは裏腹、薄味であまり美味しくは感じなかった。ただ、空腹状態だったので何でも美味しく感じられた。
パスタみたいな麺料理を持ってきて一人食べていた。
周りは仲良し同士、友達同士で固まって食べているが、俺にはそれ程親しい友人は居ない。
一品目のステーキのおかげで殆ど空腹感も薄れていた事もあって、この薄味パスタもどきを食べるのがしんどくなってきた。悩み事をしながら食べていたので尚更しんどい。
俺の勇者スキルを持たない事は王女や騎士も把握済みだろう、放置されているのか。それとも今議論されているのだろうか。
周りを見渡すが王女のお姿はお見えになっていない。
「すみません。勇者ではないというのは真実ですか?」
白髪をした老いた男が話しかけてくる。背骨は曲がっており猫背で杖も付いている。
口が曲がっており、外連味のある雰囲気だった。
「あ、ああ」
俺はフォークをパスタもどきに突き刺し、食事を中断する。
「こちらに手を……」
男はポケットから名刺サイズの紙を取り出す。しかし、そこには何も記されておらず真っさらであった。
「これは?」
「手を添えてみれば分かります」
言われるがままに手を紙にのせた。
この男の背後には騎士が三人ほど控えていて断ることは許されなさそうだ。
「これは……ほんとうに勇者としての能力が皆無だ。ステータスも並、言うならば手先が器用なだけですか……」
▽
白崎 優 レベル1
生命力106
魔力226
持久力231
筋力321
敏捷145
器用564
知力431
信仰31
スキル:異世界人 技術者Ⅳ 薬師Ⅲ 料理Ⅴ 空手Ⅱ 破損スキルⅠ
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触れた瞬間紙には俺の詳細なステータスが表示された。
隠しスキルはどうやら本当に隠されているようだ。
「まさか本当に勇者の資格を持たぬものがいたとは……」
男は小声で呟いた。




