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01.集団転移

「では授業を終わります」



休み時間を告げるチャイムと同時に国語教師は授業の終わりを宣言する。


「起立」


委員長が皆に席を立つよう促したその時だった。

大きな揺れがこの教室を包み込む。


「じ、地震です!机の下へ早く」


皆が騒めき出すと教師は注意を喚起し、いち早く教卓の下に身を潜めていた。

ああ、俺も机の下に……


「は?」


思わず声に出す程意味がわからなかった。

机が無かった。いつ消えたか、知らない。俺はずっと机を見ていたはずだ。


クラスメイトたちも戸惑いだす。


「机が消えた?」

「何が起こってるのッ」

「早く外へ」


誰が部屋の外へ逃走しようとする。扉は前後に一つずつの計二つある、はずだった。


扉などない。


「皆さん、召喚された勇者さま」


その声を聞き、一斉に首を後ろに向けた。

白い服をきた長い金髪の女。肌は白く、くっきりとした顔立ちはこの世のものとは思えないほど綺麗だった。

男子は目を釘付けにし、女子は憧れる程だ。


「まっ、待ってくれ。ここは?俺たちはどうなった?」


たしかあれは柳下だったかな、お調子者で喋りが達者な奴だったと思う。


「柳沢、ちょ、ちょっと落ち着けよ」


柳下ではなく柳沢だった、まあ名前なんてのはどうでもいい。

柳沢と仲の良い男、鈴木が明らかに動揺しているくせに冷静になれと言うので少し笑いそうになる。


「すみません、貴方は誰ですか?」


クラス委員の木原桜が冷静に質問をした。


「すみません、私はスランドカイゼ王国の王女、アマミシテルと申します。」


神々しいオーラを放つ王女はこちらに一礼した。


「遠方はるばるやってこられた勇者さま達にはその過程で特殊なスキルを保持されております。」

王女の横に立つ騎士の一人が説明をし始める。

「ステータスと唱えてみてください」

クラスメイトのみんなはお互い同士顔をしかめつつも渋々唱える。


「す、ステータス」


俺を同様に唱える。


すると、目の前に光の粒子が構成され、文字と数値が現れる。


「なんだこれ」

「これはステータスと呼ばれ、神から与えられた私たちの肉体及び精神を分かりやすく言語化されたものです。」


王女は思わず吐露してしまった俺のぼやきに対して詳細な情報を注釈してあそばせる。


「ど、どうも……」


王女はにっこりと笑い、また一礼した。


「俺、勇者だ。」「私もだー恵ちゃんは?」「私もー、咲も?」


先程まで静かだったのだがいつの間にかいつもの賑やかさを取り戻していた。

他の奴らは「勇者」になったらしい。

俺にそんな項目はないのだが。



白崎 優 レベル1

生命力106

魔力226

持久力231

筋力321

敏捷145

器用564

知力431

信仰31

スキル:異世界人 技術者Ⅳ 薬師Ⅲ 料理Ⅴ 空手Ⅱ 破損スキルⅠ

(隠しスキル:ポイント交換Ⅰ スキルブーストⅠ)



「すみません、私の魔法勇者というのは何ですか?」


クラスで明るく人気者であり、男からも人気がある朝倉咲大きな声で質問する。


「俺のは剣の勇者だ」「俺も魔法の勇者」「私は聖者の勇者」「俺は暗黒騎士勇者だ!」「私も剣の勇者」


どうやら勇者にも色々あるらしい。


「勇者にも色々は勇者が存在します。不必要な勇者など一つもありません。勇者に優劣はなく、我々はあなた方のすべてを必要としています」


騎士の男はそう言った。無駄に男前なのが少し腹立つが好感な青年だと思える。

まあ俺は勇者ではないのだが……


「我々の祖国、スランドカイゼ王国は今危機に瀕しております。勇者様、大変身勝手だとは思いますが、我々の祖国を救ってくれないでしょうか。もちろん、最大限のもてなしはします。」


騎士はそうスピーチをして深々と頭を下げた。隣にいた王女も頭を下げ、周りを警備していた騎士も深い礼をした。


「俺たち勇者になったのか、救ってやるぜ」


お調子者の柳沢が立ち上がりドヤ顔でそう言った。


「しゃーねえな、俺たちも救うか」

「困ってる人を見捨てちゃおけないからな」

「確かに」


あれはサッカー部トリオの村上、森、林田だ。チームスポーツを共にしている仲間の枷か、彼らの絆はとても固い。

一部の男子が舞い上がっている中、国語教師の前川花先生はこの異様な現象に一石を投じる。


「ど、どうしたらもとの世界に戻れるのですか?」


その一言で賑やかさは消え、不穏な空気が立ち込める。


「戻る方法は……」


王女は下を向いてそう言った。そういうことなのだろう。俺たちはもう戻れない。

「ですが____」王女はもしかしたらどこかに戻る術を残したものがあるかもしれないなどと、ありもしない事を必死に繕う。

国のためだとか、そんな身勝手な理由でよくも、と誰もが思っただろうが案外そう口にする人は誰もいなかった。


「ここは王女さまたちを助けよう。確かに俺たちだって戻りたいけどさ、でも助ける途中でもしかしたら戻れるかもしれないだしさ!」


高校に通い始めてからスクールカーストという格差を実感する事は少なくなったが、どうやらカースト制度というのは顕著に実在しているらしい。

カーストの頂点に君臨する三上隼人のその発言で不穏な空気も吹っ飛んでいく。


「そうだよね、やっぱきょうりょくでしょ」「おれは三上についてくぜ!」「おれも!」「私も!」


クラスの人々は同調し始める、嫌いな雰囲気だが逆らいようがない。

そもそも反対しようものなら冷たい目で見られるだろう。何とかなるだろうという空気に押し潰されてしまっている、誰しも希望は尊いものだ。


勇者ではない恐らくクラスメイトでは唯一の存在だ。王女やこの国の国民も勇者を望んでいる。

クラスメイト達も勇者である事に自らが特殊であるという万能感を孕んでいる。

俺だけが周りと異なっている、そして目に見える形で明らかに劣っていた。


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