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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第八章 天帝の十二士

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七十八回目『鏡は使いよう』

 帝王の開戦の宣言直後に放たれた、眩いほどの光の柱『デストロイ・グランドバスター』はレイディアが辛うじて防いだ。彼がいなければ、今頃同盟両国は光に呑み込まれて消滅していたことだろう。

 レイディアのおかげで負傷者、並びに損害は出なかった。だが、彼自身の損耗は激しく、吐血してしまうほどである。そんな状態でありながらも、全体への指示を怠ることはなかった。



 ――そして、レイディアが危惧した通り、敵はすぐにやって来た。


「同盟両国各地にて、転移魔法を確認、数は十二。更に、帝国より、天帝騎士団が進行を開始!」


 作戦本部の一人が、後ろのレイディアに状況を報告。あえて振り返らずに背中を向けたままだ。


「私も確認した。この魔力、やはり来やがったか。全隊に通達――転移してきた少数の敵は、天帝の十二士(オリュンポスナイト)だ。作戦名、井の中の蛙と伝えろ!」


 先ほどまでの満身創痍を感じさせないような力ある声で応えた。

 実際、レイディアの傷は既に癒えている。その鋭い眼差しが見据えるものは……。




 ーーーーーーー




 通称、天帝の十二士(オリュンポスナイト)と呼ばれる、天帝騎士団の精鋭たち。そんな強者たちが神王国、並びに王国領土内に転移、進行してきた。

 同時に天帝騎士団本隊も両国に向けて進行を開始。戦力を分断しているとのこと。総数――三十万人。もはや騎士団と言うより、国レベルの人数である。



 レイディアが発した――井の中の蛙作戦。


 両国のあちこちに隠されるように転移用の魔方陣が用意されており、レイディアはそこに敵が現れることを確信していた。そのため、予め転移してきた敵に対応できるように、それなりの人員と実力者を配置していたのだ。


 転移してきた何も知らないであろう敵を迎え撃つ作戦である。


 魔方陣の数は十二。レイディアは数から来るのは天帝の十二士だと判断した。

 まるでどこに誰がやって来るかわかっているかのような配置に、違和感を覚える者もいたが、意見することは無かった。



 ――そして、ついにその時はやって来たのである。


 ミカヅキとレイたちが待ち構える場所にも、魔方陣の光と共に一つの人影が姿を現す。


「おやおや……これは手厚い歓迎だこと」


 ミカヅキたちを見るや否や、言葉を漏らす青年。何故か目を閉じている。途端にレイは苦い顔をする。


「あいつは……まさか、な」


 レイはそう呟くと、すぐにレイディアに感じたことを伝えた。敵はこちらの作戦に気づいているかもしれない、と言う旨をだ。


 何故なら彼らが相対するは、先日のヴァスティの襲撃の際にレイが戦った相手だからだ。鏡を操り、こちらの攻撃を文字通り反射する魔法士(ランカー)


 魔法による攻撃だけではなく、物理攻撃ですら反射してくる。正直言って、魔法攻撃がメインのレイからすれば天敵だ。しかしながら、勝機が無いわけじゃない。今回は前回と違ってミカヅキがいる。


「ミカヅキ」


「うん」


 ミカヅキはすぐにレイの意図を理解した。それは敵の情報を知ると言うもの。


 当初の作戦の、ミカヅキが先制攻撃を仕掛けるのは無理だと判断された。逆に同盟側が不意を突かれたと言っても過言ではないのだ。


 そして、戦場に立つ者たちは作戦移行の指令に伴い、最初の作戦が失敗に終わったことを理解する。そして、次の作戦へと気持ちを切り替えた。ミカヅキもその一人である。


 敵から目を離さずにレイに知ったことを伝える。


「名前は――」


「そこの君は……そうか、君がヴァスティくんを追い詰めた例の少年だねぇ。彼に君を見つけたら殺さずに俺に伝えろと言われてるけど……ちょっとくらい遅れても、良いよね?」


 ミカヅキが言葉を紡ごうとしたタイミングで、狙ったかのように話始めた敵の青年。何やら一人言のようなことを呟き、不敵な笑みを浮かべて見せた。

 ミカヅキらを見下ろすように青年は宙に浮いている。が、レイは気にせずに剣を抜く。


「戦場でお喋りとは、随分と余裕だな!」


 剣を構えながら青年に向けて挑発した。もちろん、無策ではない。青年の後ろには光の剣が生成され、完了する頃には放たれていた。


 直撃すれば、人の体など容易く貫く光の剣。しかし、残念ながら筋書き通りにはいかず、剣が青年の体を貫くことは無かった。

 体に当たった先端から吸い込まれるようにして消えていった。


「おや? 君はたしか、以前王国で――」


「貫け――四光剣」


 話を遮り魔法を放つ。青年を中心に、東西南北の四方向に今までとは光の色が違う、青く輝く光の剣が生成される。レイが名を口にした途端にそれらは青年に真っ直ぐに突進した。


 直撃した瞬間に辺りは、目を覆いたくなるほどの閃光が包み込んだ。


 そんな中、ミカヅキは手に持っていた棍棒をレイの前に突き出す。光は収まり、彼の行動の理由を知った時、レイは呟くように礼を言った。


「すまない、助かったよ」


 棍棒によってレイの身の丈ほどある大きな光の剣は二つに分かれていた。ミカヅキはあの何も見えないような状況下で、レイを守るための行動をしたのだ。


「大丈夫そうでよかった。これで、借りは返せたかな?」


 レイはキョトンとした表情をして見せる。いつのことかと記憶を探ると、一つ思い当たる出来事を見つけた。――ああ、あの時か、と。


「今度は腕だけで済まなそうだったからな。これで充分、返してもらったよ」


 そう言いながら再度剣を構える。レイの考えを察してか、ミカヅキも棍棒を構え、二人して敵を見据えた。


「まったく、人の話は最後まで聞く、と習わなかったのかね。此度の相手は君たちのようだ。どうか、すぐに死なないでほしいよ」


「俺は、エクシオル騎士団団長、レイ・グランディール!」


「僕は、エクシオル騎士団団員、ミカヅキ・ハヤミ」


 突然名乗りだした二人を、青年は一瞬哀れむような目で見たかと思いきや、次の瞬間には吹き出していた。


 込み上げてくる笑いを抑えながら、二人の要望に応えることにしたようだ。


「ボクは天帝の十二士、反鏡者エインだ。これで満足かな?」


 エインは二人からの返事を聞くことなく再度笑みを浮かべ両手を左右に広げて宣言する。


「さぁ、始めよう」


「こいつは、俺とミカヅキが相手をする。お前たちは他の隊の援護に行け。指示は――レイディア、頼んだぞ」


「(まったく、人使いが荒いな)」


 文句を言いつつも、レイの部隊に指示を出した。二人以外はレイディアの指示に従い、各地へと散っていった。


 お互いに敵となる相手を見据え武器を構える。緊迫した空気が視線の間を交錯し、相手が先に動くのを待つ。


 時間にして一分が経った頃に、ようやく動き始めたのはエインの方だった。相変わらず笑みを浮かべながら手を振りかざす。すると、レイとミカヅキの周りに鏡が生成されて二人を囲んだ。しかし、頭上と足元には鏡は無い。


「ミカヅキ、あれ(・・)をやるぞ」


「えっ、まだ戦争は始まったばかり。もう使うなんて……ううん、わかったよレイ」


 こんな段階で使う必要がないと反論しようとしたミカヅキだったが、レイの真剣な眼差しで彼の決意を読み取り承諾した。


 少し渋りながらも、ミカヅキは行動を起こす。『先を知る眼(ワン・オーダー)』を発動させ、頭上に無数の光の剣を造り出した。


「何をするつもりかは知りませんが、あなた方の情報は得ている。勝ち目は無いと教えよう」


 エインが言い終わるころには、鏡は造り出された光の剣ごと二人を完全に囲み終えていた。勝利を確信したエインは口角を上げた——まさにその時だった。


 彼らの遥か上空から城並みの大きさであろう巨大な剣が雲を貫き、重力に従って落ちてきたのだ。ミカヅキが予め用意しておいた『剣王大剣』である。


「こんなもの——」


「気にするほどでもない」


 大剣を防ごうとエインが両手を上げたタイミングで、彼はそんな言葉を耳にした。どこからだと視線を落とした先、自分の懐に位置する場所に声の主はいた。光を纏うその者は、剣を持たずに手を腹に翳し——こう言った。


「俺は、もう負けないんだよ——衝波!」


「ば、そうか、光か!」


 翳された手から衝撃波が放たれる。そんなものを腹にもろにくらったエインは、肺の空気と共に血を吐き出し、その場に膝から崩れて倒れた。


 彼が倒れながらたどり着いた答えは、鏡に閉じ込められる直前に光となって移動し、大剣に意識が向けられた隙を狙ったと言うものだ。

 魔法を跳ね返す鏡魔法の使い手。後手に回ると厄介だからこそ、最速の決着をつけた。確かに魔法が駄目なら、ミカヅキの棍棒でどうにかすると言う策もあったが、リスクが大きいと判断し、現在に至る。


 レイはこの時、アイバルテイク団長に生身での戦い方を教わっていて良かったと心の底から思った。


「前回の戦いで、優勢だったから油断したな。俺たちは以前とは違う。もう二度と、お前たちに屈することは無い!」


 倒れて気を失っているエインに対してと言うよりも、自分に言い聞かせるように宣言した。そして鏡は消滅し、中にいたミカヅキはレイに歩み寄った。


「気絶させたの?」


「さすがにお前の前で誰かを殺すわけにはいかないだろ? できない時もあるだろうが、今回はお前がいてくれたからな。大剣を使ってしまったが、埋め合わせは俺がしよう。さて、こいつは捕虜として捕えておく。――レイディア、聞こえるか?」


「(レイか。敵を倒したんだな。反鏡者エインを倒すとは、なかなか腕を上げたみたいだな。要件は理解した、捕虜として連れて行くよう指示を出そう。すぐに担当の部隊がそちらに向かうはずだ。それまで周辺の警戒を頼む)」


「わかった。感謝する」


 レイが言う前に要件を察して対応したレイディア。指示通り数分後には彼が言っていたであろう部隊が到着した。


 だが、何か様子がおかしいとレイは感じた。それはミカヅキも同じのようで、武器を構えてエインの前に立ちはだかった。

 突然の不可解な行動をした二人に対して、戸惑いを見せる回収部隊。しかし、彼らの勘は当たっていたようで、部隊の男の一人が急に奇声を上げたかと思えば、腰に携えてあった剣を鞘から抜いて自らの足に刺した。

 警戒していた二人だったが、狂気とも言える行動に一歩身を引いてしまうも、直後に真実を知ることとなる。そう、狂気な行動をしたその人物に……。


「グラン、ディールだん、ちょう……。逃げてくだ、さいっ、敵は」


 激痛に表情を歪めながら、レイを見つめてそう口にしたが、最後まで語ることはできなかった。なぜなら、味方であるはずの男を首を、別の男が剣で飛ばしたからである。


「貴様っ、何を!」


「レイっ、三秒後にこの人たちは僕らに斬り掛かってくる!」


「なんだと!? 精神支配の類いか」


 共に戦うはずの仲間を殺させようとするなんて、卑劣な奴だと怒りが込み上げさせるレイ。それでも怒りに飲み込まれることはなく、剣を鞘から抜く回収部隊を見据える。


「戦場では予想外が当たり前、か」


 そんなレイの呟きの合間に、ミカヅキは敵の情報を彼に伝えた。


 ——人形士ブラッツ・ボーデンス。『人形劇(ドールテージ)』と呼ばれる特有魔法の使い手。手で直接触れた相手を文字通り自分の操り人形にする魔法である。


 更にミカヅキはブラッツの現在地も知ることができていた。その場所とは、回収部隊が来た方向に約八百メートルの木の陰に隠れているらしい。残念ながら二人の位置からか目視でその姿を黙視することはできなかった。


 そして、ミカヅキの宣言通り味方であるはずの部隊の者たちは二人に斬り掛かってきた。が、彼らにレイは悲しそうな表情を浮かべながら問いかける。


「共に歩むはずの仲間に刃を向けて、貴様たちは恥ずかしくないのか!」


 正体がバレた以上、容赦する必要がなくなったのだろう、彼らは半狂乱の状態で二人に迫る。だが、彼らの剣が振り下ろされることは無かった。

 レイが両手で三角を形作った次の瞬間には、バタバタと倒れていったのだ。ミカヅキの頭の上には疑問符が浮かんでいた。確かに彼からすれば何もしていないのに、勝手に相手が倒れたのだから不思議に思うのは当然だ。


「もしかして、レイ……?」


 確かめるようにレイの顔を覗き込むミカヅキ。返ってきたのは「ふっ」と言う悲しさを感じさせるような笑顔。


「殺してはいない。少し……眠ってもらっただけだ。これを最初に使うのが、まさか味方だとはな。行こう、ミカヅキ。こんな最低なことをするやつなんて、速攻倒すぞ!」


 光を纏いながら、落ち着いた様子でミカヅキに背中を向けた。


「それもそうだけど……。ねぇ、レイ。この人たちはどうするの?」


 ミカヅキは地面に倒れているエインを含めた者たちを見下ろしながら、困ったを前面に出した表情で尋ねた。

 そんな困った人と同じような顔で、レイディアに連絡しようとしたがなぜか応答が無い。さすがにこの予期せぬことに表情を崩した。


「あっちで何かあったみたいだ。連絡が取れない。レイディアのことだから、大丈夫だろうが……信じて俺たちは俺たちで判断して動こう。ひとまず、ここで少しの間待機することにしよう」


 ミカヅキは力強く頷いて、互いに武器を構えて待つことを二人は選んだ。

 実際、『脳内言語伝達魔法』はレイディア以外の味方に通じることは無かった。だからこそ、レイは動くのは逆に危ないとしてこの場に残ることにしたのだ。

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