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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第六章 武道大会開催
67/151

六十四回目『天を斬り裂く』

 決勝戦当日。

 空は曇り、少し肌寒く感じる。


 目の前に立つは、レイディア・オーディン。エクシオル騎士団の参謀で、その実力は神王国でも五本の指に入る。と言うより、もしかしたら一位二位を争うの方が正しいかも。


 そう考えただけで額から汗が垂れる。ただ向かい合っているだけなのに、肌に感じるピリピリとした感覚。相手は既に準備万端みたいだ。


「すぅー、ふぅー」


 深呼吸をして、昂る心を落ち着かせる。

 目を閉じることで、改めて今までの相手とは違うことを実感した。うまく言葉にできないのがもどかしい。

 本当の強者に出会ったことが無かった人が、出会ってしまった時に感じる無言の敗北感……みたいなものが近いだろうか。


 やる前から負けている、そんな気にさせる何かがあった。それにさっきから理性よりも奥深く、本能が警報を鳴らしている。


 ――逃げろ、と。


 ただしそうは行かない。目を開いて、相手を見据える。

 ゆったりと立っている様は、余裕だと宣言しているように見えた。


 武器は腰に装備された剣のみ。長さは一般的な騎士用の剣と同じ、と言うよりそのものなんだろう。


「ふわぁあ……ねむ」


 急なあくびに苦笑するも、おかげで体の力が抜けた。一緒に肩を回したりと準備運動がてらに体を動かした。


 そして、一通り終わるのを待っててくれたのか、始まりの合図が鳴った。


 始まった、と構えた僕に対して、レイディアは相変わらずただ立っているだけだった。剣を抜くことさえせず、構えることもしていない。


 この時、僕は戸惑っていた。なぜなら、歴戦の猛者や、ある程度の実力者なら、攻撃をされる“隙”と呼ばれるものを認知させないか、そもそも無かったりする。

 レイディアの実力は世界中が知っているはず。なのに、目の前にいるレイディアは――隙だらけだった。


 つまり、どこをどう攻撃しても理論上は当たるはずなのだ。でも、それが逆に攻撃に移せないプレッシャーのようになっていた。


「おや、来ないのか。はぁ……なら、私から動くか」


 と言って、レイディアは拳を引く構えを見せた。これは何度か見たことがある。

 衝撃波を飛ばすものだと判断して、棍棒を盾のように構えた。が、攻撃がなかなか来ないなと思い始めた時。耳にボボボと何か燃えるような音が届いた。


「こっちか、創造の力(アーク)!」


 音の原因が後ろにあると見抜き、背中側に盾を造り出す。

 そしてこれこそがレイディアの狙いだった。


 盾越しに聞こえる幾つかの小さな爆発音。炎の魔法を展開させていたんだろうと、考えた末に自分が今置かれている状況を理解した。


「――衝波」


 初歩的なミス。自分自身で袋の鼠状態にしてしまっていたのだ。

 動揺して放たれた衝撃波をうまく防ぎきれず、自分で造り出した盾に打ち付けられた。


「かはっ……」


 肺から空気が勢い良く外へと押し出される。息を整えながら、剣を造って時間稼ぎをした。


 しかしレイディアは飛んで来る無数の剣を、意図も簡単に躱わして見せる。いや、良く見るとわかる。軽く指で触れたりして剣の軌道を変えているんだ。

 人の芸当じゃないよ。全て最低限の動きで済ましている。


 結果的に剣ではダメージを与えることは失敗したけど、息を整えることはできた。


 迷ってても仕方がない。

 正面からぶつかってやる!


 基本魔法(ノーマル)の『強化(ブースト)』で身体能力を向上させ、文字通り正面からレイディアに突進した。


「はあぁぁぁあ!」


「向かってくるか、相手をしよう」


 まずは突き。右手で左側に弾かれる。持ち方を変えて、凪ぎ払いに変更。今度は左手で上空に上げられる。

 左手で棍棒を掴んだままで右手で拳を作って叩きつけた。反動で棍棒なまっすぐ振り下ろされる。レイディアの左手が華麗な動きを見せて腕と横腹で挟んだ。

 先ほどと同じように右手だけ掴み、左手で手前の方に拳を叩きつける。テコの原理で今度はレイディア側の方が上空へと打ち上げられた。弾みでレイディアの力が緩んだ隙に、棍棒を素早く引き抜いた。


 次は回転させながら上下左右からの連撃を繰り出す。それと同時に創造した剣を飛ばしているのに、それすらも簡単に弾かれる。


 ここで一旦落ち着くために距離を取った。


「はぁ、はぁ、はぁ……全然当たらない」


「もうバテたか。まだまだだなー」


 肩で呼吸する僕に対して、レイディアは息切れ一つしていない。動きが小さいと言えども、決して少なくはないはず。なのに、レイディアは余裕の表情を崩さない。攻撃を当てたのなんて、さっき棍棒(これ)を挟まれた時の一回だけ。

 それ以外はものの見事に防がれた。


 思わず笑みがこぼれる。心が折れてしまいそうだ。でも、実際に折れることはない。レイディア相手に、そんなこと絶対に許されないとわかっている。


 策はある。それがどうなるかはわからないけど、どうするかは僕次第。そうでしょ、レイディア!


 本当はもう少し後に使うつもりだったけど、今やるしかないみたいだ。


「開眼――先を知る眼(ワン・オーダー)創造せよ(アーク)、光よ――光の剣(シャニング・ブレード)!」


 レイディアの周りに光の剣を造り出す。レイディアは次々と現れる剣を一瞥するだけで、特に動こうとはしなかった。


 僕がどうするのかを待ってるんだ。ただの力任せじゃ通用しない、しっかりと頭を使って戦わなくちゃいけない。


 指を下ろすと、剣は一斉に放たれる――ことはなく、数秒の間隔を開けて順番に放たれた。


 オリジナルには及ばないにしても、もとは光の速さ。その速さで向かってくる無数の光の剣をどうやって防ぐのか、見せてもらうよ、レイディア。万が一最初の何本かが防がれたとしても、後に続く剣が追い討ちをかけるようにしたんだ。


 これで僕はボロボロになった。レイディアならどの程度で済むのかと内心ワクワクしていた。



 ――造り出したものは僕が意図的にするか、壊されるか、または時間が経過すれば消滅する。


 それはレイディアも知っている。けど、そんなことってありなのか……!


 眼が見た先の光景、そしてすぐに訪れたそれ(・・)を理解すること自体は簡単だった。でも、認めるのに時間がかかった。


 レイディアの周りの地面に無造作に転がる、最初に放った剣が僕の意思とは関係なく勝手に動いて、光の剣に突進して消滅していった。

 手に持って振り払ったり、弾き返したりするならまだわかる。しかし眼前に広がるのは自ら意思を持つかのように動く剣。


 どうやったんだ?

 どうやって触らずに動かしているんだ!?


 その時、レイディアとの稽古中に言われたことを思い出す。


 ――魔力ってのは、想像以上にいろんな事ができるんだぜ。


「おいおい、隙だらけだぞ?」


 声がした途端、お腹に凄まじい衝撃が走り、紙吹雪のように僕の体は宙を舞った。


 ――痛い。全身が痛い。


 一撃をもらに食らったお腹が一番痛いけど、転がったときにあちこち打ち付けたらしく、全身が痛みを脳に伝える。

 意識が朦朧とした。目の前がぼやけて見える。頭を強く打ってはいないはずなのに、手足にうまく力が入らない。


 ポツリと頬に冷たい感触があった。

 それは次第に数を増やしていき、気付いたときには雨となっていた。空から落ちる滴は、大切な人の目からこぼれた滴を連想させる。


 ――あぁ、ミーシャに何て言われるかな。怒られるかな、いや、怪我をしたら心配してくれるんだろうな。でも怒られるんだろうな。

 やっぱりレイディアは強い。ここで終わりなのか、僕の負けなのか……。そんなの、そんなのは嫌だ。負けたくない。僕は――勝ちたいんだ! 相手が誰であろうと、勝ってやる!

 相手はあのレイディアなんだ。こうなるのなんてわかっていただろ!

 なら、次にやることは――決まってるじゃないか!


「まだだあ!」


「おやおや……」


 必ず勝つ!

 しっかりとレイディアを視界に捉えて、痛みを吹き飛ばすように自分を鼓舞した。


 痛みはある、でも動かせる。

 しっかりと自分の足で地面を踏みしめて立ち上がった。


「この程度では、僕は倒れないよ、レイディア」


 レイディア相手だけではなく、自分自身にも宣言した。

 気を抜いたら気絶する状態を、この程度(・・・・)と堂々と言葉にすることで、本当にそうであると思わせる。


「そう来なくては」


 降り注ぐ雨を振り払うように手を雲に覆われた空へと翳す。そして、声を大にして呼んだ。


「来いっ! これが、これこそが剣王の剣。創造せよ(アーク)――剣王大剣!」


 数十、いや、数百メートルの大きさの、雲を斬り裂く程の巨大な剣。それこそが僕が造る剣王の剣。

 剣によって穴を開けた雲間から、美しい青空が顔を覗かせる。


 試合開始直後から用意していた、レイディアに勝つための活路。


 これほどの大きさの剣が落ちれば、お互いどころか国民にだって被害が出かねない。最悪の事態を避けるために、レイディアが止めたり避けたり何もしなかった場合は、当たる直前で消滅させる。でも、僕は確信していた。――レイディアは必ず止めると。


「わーお」


 棒読みで驚きの声を出すレイディア。

 いくらレイディアと言えど、あの大きさの大剣をすぐにどうこうできるとは思えない。……思いたくない。だからその間に攻撃を仕掛ける。


 卑怯だって思うけど、みんなには絶対に怪我をさせない。怪我をさせたら僕は――。覚悟はしている。でも、僕はやれるだけのことを全てやり尽くす。


 当の本人は落ちてくる大剣を、空を飛ぶ鳥を見るのと同じ表情で見上げていた。


「――仕方ないな」


 レイディアの口角が上がるのが見えた途端、体が突然重くなった。


「うあっ」


 この感覚は知ってる。魔力を高めているんだ。


 ここに来て初めて剣に手を携えた。何をする気かわからない、けどいつでも攻撃の準備はできている。


「さすがにこれは、放ってはおけんからな。見ていろミカヅキ。これが私の力の片鱗だ」


 レイディアは姿勢を低くして抜刀の構えをした。


 まさか大剣を受け止める気!?

 魔法で破壊を狙ったりするんじゃなくて、真っ向から受けて立つ気だ。


「――刹那第五章・天月」


 ――それは一瞬の出来事。

 大剣に対応する隙をついて攻撃するはずが、その瞬間を目にすること無く――終わっていた。


 まず聞こえたのはパリンと何かが砕ける音。音の方を向いて、いつの間にか抜かれていたレイディアの剣が散っているのが明るくなる視界に入る。


 この光景に相応しい言葉を僕は知っている。まさにこれこそ、一刀両断。


 何かに導かれるように上を見上げ、ようやく理解した。驚きすぎて、口が自分の意識とは別に勝手に開いた。


「空を……斬った……?」


 僕は確かに雲に穴を開けた。今見ているものをただ言葉にするだけなら、僕の大剣と雲が真っ二つに割れた。本当にそれだけなんだ。

 そうだ、僕の大剣が開けた大きさの比じゃないだけで、やったことは同じはずなんだ。見える範囲の雲が割れている。いや、斬られていると言うべきなんだろう。

 ほんの一瞬、まばたき程度の時間でこれをやったなんて、正直に言って信じたくはなかった。


 なのに、この感覚は何だろうか……。


「――桁違いだ」


 客席から風に乗って聞こえた声に、全力で同意した。

 これほどレイディアが味方で頼もしいと思ったのは初めてだ。そして実感した。僕が今、相対しているのは、世界中の国々が恐れる存在なのだと。


 恐怖はもちろんある。手だって少し震えている。歯も食い縛っていなくちゃ、音を立ててしまうほどだ。

 でもやっぱり嬉しかった。変かもしれないけど、嘘偽り無い本心だった。だって、前までの僕なら、レイディアは力の片鱗すら見せなかったはず。

 なら僕も、片鱗を見せてくれるほどまでは、成長してるってことだよね?


 レイディア本人に言えば、「阿呆だな」とか言われそうだけど、知ったことじゃない。


「……やるしかない」


 深呼吸をして、精神を集中させる。そして、言葉を紡ぐ。




 ーーーーーーー





「我が内に抑えられし力よ。くっ……、我、ミカヅキ・ハヤミの命に応え……解放せよ――」


 ――驚いた拍子に復活した痛みを堪えながら、途切れ途切れに詠唱をすると、ミカヅキの足下の地面と頭上に魔方陣が形成される。


 何もしなかったが、レイディアは珍しく驚いているようだった。

 レイディアは今攻撃しても、あの光に呑み込まれることに気づいているようだ。


 魔方陣は黄色い光を放ち、間にいるミカヅキを光で包んだ。数秒の後、光は消えてミカヅキが姿を表す。


「これが僕の全力全開だ!」


 ビャクヤとの修行で密かに教わっていた、レイディアが知るはずの無い、ミカヅキの最後の希望、そして紛うことなき切り札。

 本当に窮地に陥ったときしか、考えることすらしてはならないと決められたものである。


 パッと見では気づかないほどの細かい変化を、レイディアは誰よりもいち早く見抜いた。瞳の五芒星の紋章が上下逆になっているのだ。

 そしてもう一つ、全身にあったはずの傷が無くなっていた。


「これは……面白い。光属性に適正があるからか」


 この世界の魔法は全て、七つの属性に分類される。

 生物が産まれ、育つために必要な火、水、土、風属性。先の四属性とはまた違った役割をもつ光、闇属性。最後にどの属性にも当てはまらない無属性。


 そして傷を癒すのに使われる、治癒魔法は基本的に光に属する魔法である。故に、使うにはその光属性に適正が無ければ、たとえ基本魔法であろうと使えないのだ。


 つまり、ミカヅキが傷を癒したのは、治癒魔法を使ったからだとレイディアは考えた。


「行くよ、レイディア!」


「ああ、来るが良い――っと」


 一瞬でレイディアの眼前に移動し、攻撃を繰り出すも、レイディアは軽々と防ぐ。


「――展開」


 ミカヅキは攻撃しながらも、レイディアの周りの空中に盾をいくつか造り出す。

 レイディアもそれらを視界に捉えつつも、破壊することはしなかった。どう利用するのか見定めるようだ。


 速さが格段に上がったミカヅキの棍棒を、素手で全て防ぐレイディア。盾を足場にして、移動しながら多方向から攻撃を行うも、逆に衝撃波を食らう始末。


 瞬時に体勢を立て直し、反撃に移るも結果は変わらず。しかし徐々にではあるが、レイディアの反応が遅れているように見えた。


 そんな中、ミカヅキはレイディアと相反して速度を上げていく。


「ふ、ふははは、ふはははははははっ。そうか、今の(・・)貴様(・・)は、これほどまで……」


 少しずつ、だが確実にミカヅキはレイディアを追い詰めていた――はずだった。


「――さ、て、と。敬意を評して少しだけお披露目と行こうか」


 企みのニヤけ顔をしながら両手を左右に広げた。


 風が吹いたと思った次の瞬間、急にズンと全身に重さを感じた。あまりの重さに、攻撃を止めざるを得なくなる。


 ――重力が変わったのか?


 ミカヅキは疑問を浮かべるもすぐに自答した。


 ――いや、そうじゃない。これは――レイディアの魔力だ。


 魔力をただ無造作に放出しただけで、簡単に形勢が元通りになった。ミカヅキが切り札を出してまで追い詰めたはずなのに、こうもあっさりと覆されてしまうとは、レイディアの力は未だ未知数である。


「……まだ行ける」


 手を握ったり開いたりして、自分の体が動かせることを確認した。

 再度距離を詰めようと、地面を踏みしめた時には既にレイディアの姿はそこには無かった。


 直後、ミカヅキの目の前に複数人のレイディアが現れた。正確には、ミカヅキだけがそう見えた(・・・)のだ。


「貴様の眼では、どう見えた(・・・)?」


 声が耳に届く。


 感じるはたった一つの衝撃。だがミカヅキはダメージを受けなかった。直前に攻撃される箇所に魔力を集中させ、受けるはずの衝撃を無力化したのだ。


 これこそが、先を知ることで自分の意思で防御する前に、魔力が自動的に防ぐ状態にする、『知るは我が行く先(プロテクト・オーダー)』である。

 防御に特化したものではあるが、これは数分先までの未来を知るもの。使いようによっては最大の攻撃に利用することも可能なのだ。

 しかし、レイディアは確実に当たるはずのものを防ぐと言う驚異的な反応をしていた。


 そして傷は回復したわけではなく、体が得た知識を操ることで一時的に傷を無かったこと(・・・・・・)にしたのだ。これも『知るは我が行く先』の効果である。

 下手をすれば、無かったことにした傷が復活し、新しく受けた傷と合わされば致命傷にもなりうるため、危険度は確実に上がったのだ。


「それでも、僕はあなたに勝つ! はあぁぁぁぁあっ!」


 ミカヅキは雄叫びの如く声を上げ、もともと持っていたものと同じ棍棒を二本造り出す。

 ただし、造り出した棍棒には魔法を打ち消す能力は無い。だがミカヅキにとって重要なのはそこではなかった。


 二本の棍棒を自身に追随させながら、レイディアに手に持っていた棍棒を叩きつける。そのまま追随させていた二本も同時に打ち付けた。

 先が見えるからこそ、三本がうまく当たらないようなすれすれの動きでレイディアに休む暇を与えない。


 レイディアの目は一秒の間に何度も繰り出される攻撃を確実に捉えていた。その動きは見ているものを逆に酔わせてしまうほどだ。

 フェイントを重ねたり、造り出したあらゆるもので試してみるも、見事に受け流される。


「――そろそろだな」


 先ほどの魔力放出はちょっとしたお遊びで、能力向上などは全くしていない。


 たがお遊びはここまで。

 不適な笑みを浮かべてレイディアはミカヅキと距離を取る。


「神道――」


 まずい、とすぐさま距離を詰めようとしたが、間に合わなかった。足が思うように動かず、転びそうになりながらも必死に力を入れて耐えた。


 そして、ミカヅキはその眼で見る。――自身の敗北を。


 ここでミカヅキは気を失った。


 倒れるミカヅキの体をレイディアは支えて、やはり「阿呆だ」と言ってからそのまま抱えた。体力はとうの昔に尽き、気力だけで戦っていたミカヅキ。それを見抜いていたからこそ、レイディアは早々に決着をつけたのだ。


 かくして勝者はレイディアとなった。だが、称賛の声は勝敗関係なく、最高の試合を見せてくれた“二人”に降り注いだ。


 そして、レイディアは心の中でミカヅキを褒めたことを誰も知らない。彼は負けはしたが、成長がレイディアの予想以上だったのは紛れもない事実だった。



 これにて、準備期間含め一ヶ月以上かけて行われた武道会は無事に幕を閉じた。

 レイディアとのこの試合が、ミカヅキにとって大きな分岐点になったことを、まだ誰も知らない――。

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