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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第六章 武道大会開催

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六十回目『似た者同士』

 バタバタとしているうちにも、時間は当たり前に流れ続ける。そんな中、ミカヅキは二回戦をシードでパスし、安定に勝ち進めた結果が現在の状況である。

 三回戦、四回戦と続いていき、人数の関係で結局七回戦まで行い、ようやく準決勝にたどり着いた。

 今日は残念ながら準決勝だと言うのに、空は曇り模様で太陽の姿が見えない。にも関わらず、観客席はほぼ満員だから、皆物好きばかりと言うべきか。



「誰がこの光景を予想できたでしょうか!?」


 実況のマトリがテンション高めに言ったことは、まさにその言葉の通りである。

 準決勝までの進出者は、だいたい国民が予想していた通りだった。――ただ一人、ミカヅキを除いては。


 準決勝第一回戦、ミカヅキ・ハヤミ対レイ・グランディールの戦いとなる。


「まさかミカヅキと当たることになるとは……だが、手加減はしないぞ」


「もちろんだよ、レイ。手加減なんてしたら逆に怒るから」


 似た者同士と評された二人が戦うのは何の因果なのか。本人たちもこの展開は予想していなかったようだ。だがそれでも、不思議と二人に嫌悪感などは感じない。逆に嬉々としているようにも見える。


「ミカヅキらしいな。――こうして一対一で相対するのは初めてかもな」


「そう言えばそうだね。二対二はあるけど、一対一は今まで無かった気がする。でもだからって勝ちは譲れないよ?」


 曇りの無い笑顔で宣言するミカヅキに対して、レイは片目を瞑りながら苦笑した。悪く思ったわけではない。むしろその逆、楽しみだと思っていた。



 初めて会ってから、さほど時間は経過していないと言うのに、目の前に立つ少年の雰囲気は以前とはまるで違う。確かに変わらない部分も多々あるが、目に見えて強くなっているのがわかる。

 実力もそうだが、内面的にも同様だ。


 いきなり現れた怪しいやつが、あのミルダ・カルネイドに決闘を挑み、あまつさえそれに勝利した。全く持ってミカヅキが勝つことなんて考えていなかった彼からすれば、雷に撃たれたかの如く衝撃が走ったのと同じ。


 純粋な力では圧倒的にミカヅキの方が不利だった。なのに”力“ではなく”思い”の強さで勝利を掴み取った。堅物として国内でも有名なミルダの心を揺り動かす何かがミカヅキにあったことになる。



 レイは無言の敗北を宣言された気がした。彼の思い過ごしと言えばそうかもしれない。が、突然現れたどこの馬の骨とも知らんやつに、自分が成し得なかったことを淘汰された事実は、彼にとって最大の敗北宣言だったことだろう。


 これがきっかけで自分の実力や立場に向き合うようにした。今までずっと避けてきた、逃げてきたことから目を背くことをやめた。改めて思い知らされることは数多くあった。だが同時に、得るものも同じ、あるいはそれ以上あったのだ。


「良い心意気だ。それでこそ思う存分戦えると言うもの」


 以前なら勝てると堂々と宣言しただろう。しかし今は違う。目の前に相対する少年を静かに見据えながら思う。


 ――ガルシア騎士団長や年上だからとかそんな立派な理由じゃない。ただ勝ちたい。お前に勝たなきゃいけないんだ。大人げないだろう、無様だろう。だが、それでも構わない。俺は――弱い自分に勝つんだ!


 昔は前を向いていた。絶対に強くなって見せると、世界一の騎士になって見せると。理想や夢ほど現実は甘くない。なのにミカヅキはそんな誰もが越えられないと決めた壁を越えた。


 だからこそ、まだやれると教えてくれたミカヅキに、最大級の恩返しを。同時に、あの場で衝撃を受けた者たち全てに捧げる。


 ――ガルシア騎士団長として、お前に教えられた者として、レイ・グランディールの本気(・・)を、全てを(・・・)ぶつけよう(・・・・・)。だから頼む、ミカヅキ。


「――簡単にやられてくれるなよ」


 レイの宣言の終わりを告げるように、始まりの合図が鳴り響いた。




 ーーーーーーー




 合図が鳴る。レイは本気で来ると、目の前に立つ姿を見て、そう直感した。初めからそのつもりだったけど、改めて本気で行こうと心に決める。


「――」


 レイの言葉ははっきりと聞こえた訳じゃない。それでも何となくだけど理解できた。一番身近に接してくれたからこそ、僕にはわかったんだ。


 ――レイにとって、これがただの試合じゃないってことを。


 詳しいことはわからない、けど伝わってくるものがあった。

 だから、今の僕にできる全身全霊で挑む。それが、僕がレイにできる唯一のことなんだ。


「光よ――」


 合図が聞こえた途端、レイの周りが突如として光った。――もう始まっている。すぐに後ろに飛び退き、棍棒を構えた。


 地面に足が付いたのと同時に、さっきまでいた場所に、ザシュッと音を立てながら光の剣が何本か刺さった。光の正体はこれだ。

先を知る眼(ワン・オーダー)』と名付けられた、相手の()を知る眼のおかげで、なんとか助かった。

 じゃなきゃ、光に近い速度の攻撃を避けることなんてできない。……レイディアならやってのけそうだけど。


 と、僕だってただ避けただけじゃないんだ。人差し指と中指をくいと上げる。すると、レイの足下の地面に剣が造り出され、そのまま上空へと飛んで行く。


「っと」


 レイはそれを体を少しずらすだけで躱わして見せる。だけど、これで終わりじゃないよ。

 今度は手を広げて、握る動作をする。


創造の力(アーク)――剣の刺(ソード・バニッシュ)


 レイを中心に造り出した剣を円形に展開させ、それを中心に向かって放つ。一回目の攻撃とほぼ同時に繰り出したにも関わらず、剣はレイに届かなかった。


 空中から降り注いだ光の剣に、意図も簡単にへし折られて落下した。


「ふぅ……」


 一息つく。これはまだお互いに小手調べだ。

 それは僕でもわかった。


 だけど収穫はあった。この棍棒で試してみたかったことは試せた。光の剣に少しだけ当ててみた結果、当たった部分だけ水に入った砂糖みたいに分解された。衝突したような音も無し。


 つまり、この棍棒ならレイに当てる(・・・)ことができる。常に先を見て対応して、なおかつこの棍棒で反撃しなければならない。


 光に身を纏った状態のレイは光そのものとなるため、実体のある攻撃ではほぼ無意味で、魔法による攻撃しか受け付けない。でも、魔力をそっちに避けるほどの余裕は、残念ながら僕にはない。だからこそ、この棍棒の一撃を狙うことをまずやらなきゃ。


「なら――」


 まっすぐレイに向かって走った。対してレイは光の剣を生成はせず、腰の剣を抜いて構える。この棍棒には効かないって知ってるから当然の対応だ。


 でも不可解なことがすぐに起こる。剣に光を纏わせたのだ。


 どうしてかわからなかったが、ここで足を止めるわけにも行かず、構わずに棍棒を叩きつける。が、そこでレイの先の行動が見えた。


「落ちろ」


「我が身を守れ」


 棍棒と剣がぶつかる音とは別の音が頭上に響く。

 僕が造り出した盾と、レイの剣が当たった音だ。手に持った剣に注意を引き、その隙に上からの攻撃。「やるな」とレイの称賛に「ありがとう」と感謝しつつ、棍棒の追撃を行う。


 さすがはレイだ。棍棒と剣では、リーチはこちらが上。さらにこちらは持つ場所が自由な有利条件から繰り出せる多彩で多方向からなる攻撃。なのに、レイは華麗な剣さばきと動きで受け流している。


 これでも、前より格段に速さも威力も上がったんだけど、と心の中で密かに嘆きつつ、次の一手を考える。


 そんな時、レイの剣が僕の棍棒を捕らえて引っ張る。つられて僕自身もレイに引き寄せられた。


「まずい……!」


 レイは今まで右手だけで剣を振るっていた。それには理由が必ずあると思ってたけど、このためだったんだ。

 予期した通り、左手には光の剣が握られていた。


 棍棒は使えない、なら別のを用意するだけ。――いや、違う、本命は後ろだ。


 手を離すしか無い。それじゃレイの思うつぼだ。


 考えろ、考えるんだ。棍棒を離さず、この状況を打破する方法を!


創造の力(アーク)!」


 造り出すは足場。場所はレイの足の前方。それを踏みしめて駆け上がる。そのままレイに一蹴り入れようとしたが、スラリと後ろに引かれることで躱わされた。

 僕は空中で一回転して、後ろから来た光の剣を落ちながら踏み落とした。


 これで終わりじゃない!

 地面に足をつけると同時に、僕の周りに剣を造り出して、レイに向かって放つ。


「――そろそろ良いだろう」


 レイが言葉を告げた次の瞬間には、放った剣が全て真っ二つに折れた、いや、斬られていたと言うのが正しい。


 ついに来た。レイが光を纏った。追い付けるか? なんて自分に問いかける必要なんて無い。――追い付くんだ!


「光よ、我が身に宿れ――輝光士(シャイニング)!」


強化(ブースト)


『強化』で肉体能力の向上。先は見える、けど速さは格段にあちらが上。利点はただ一つ。ならその一つを最大限活用する。


 ――右、上、右、左、後ろ、上、前。


 一秒。それはほんの束の間の時。一瞬とも称されるその時間に、レイは何度攻撃してきただろうか?


 防戦一方とはまさにこの事だ。全く反撃できない。そんな暇なんてどこにも無い。作ることすら叶わない。『強化』した体と、『創造の力』でなんとか防げているけど、それでも完全じゃなく、体のあちこちに傷が出来上がっていく。


 このままじゃ魔力が尽きるのは時間の問題だ。


 考える。まだそれができる。なら、打開策を導き出せ。ほぼ同時に繰り出される攻撃を防ぎながら、考えるんだ。


 レイは光の速さで動いている。その速度に追い付く――だめだ。先が見えたいても防ぎきれないんだ。


 なら、他は、他はないのか!

 その時、雲の切れ間から日の光が舞台に僅かに差し込んだ。


「――光」


 閃いた。が、それは奇しくもレイの次の攻撃と同時だった。


 僕を中心に無数の光の剣がドーム型に展開していた。


 ――終わり、なのか。そんなわけ無いじゃないか。僕は負けない。そうでしょ……レイ!


「終わりだ、ミカヅキ。――光剣の牢獄シャイニング・プリズン


 全方向から一斉に放たれる剣。

 次の瞬間、光と共に爆発が起きた。

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