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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第六章 武道大会開催
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五十八回目『天才対天才』

 二回戦開始初日。


 レイディア・オーディンと相対するは――アルフォンス・D・オーディン。

 見た目は整った顔立ちの好青年で、綺麗な銀髪に赤色が混じっているのが特徴的だ。

 彼もレイディアの村出身だが、恩返しのためにと今はエクシオル騎士団の一員となっている。


 しかし騎士団員には間違いないが特殊な扱いで、騎士団の仕事と併用して、レイディア村の警護を主に行っていた。そのため普段は村から出ることは無い。が、今回はレイディアに誘われてやって来たわけだ。


 彼が不在の間は、ヴァンが村の警護にあたっている。

 どうせあくびでもして、暇を持て余してるんだろうなとレイディアは予想したが、残念ながら暇では無かった。


 アルフォンスがいない間は、レイディアが来てくれると期待していた村の子どもたちに大ブーイングを受けていた。


 してそんな彼の実力は、団長のアイバルテイクに「天才だ」と言わしめるほど。この場合の天才は、戦いに関しての天才を意味する。


「いきなりアルフォンスか。きついなぁ……」


「それは僕の台詞だよ、おにぃ」


 お互いに似た表情を見せ合う。でもどこか楽しそうに感じる。

 会場の皆も、静かに二人の様子を窺う。これからどんな戦いが始まるのか楽しみであり予想がつかないからだ。



 アルフォンスは騎士団員として神王国民には、心優しい青年としてよく知られている。それと一緒に知られていることがある。主に取り扱い注意の意味で。


 怒るととてつもなく怖いのだ。以前子どもたちが泥遊びをしていて、間違えてアルフォンスに泥団子をぶつけた際はすごかった。

 やんちゃだった子どもたちが子犬のように大人しくなったと言う。


 何があったのか訊いても、「ボクが悪かったの」と言って教えてくれないのだ。でも普段は本当に優しい好青年のため、その一点に注意すれば大丈夫とのこと。


 本気で怒った彼を止められるのは、レイディアかソフィ様だけと言われている。


「だが――」


「でも――」


「「負ける気は無い!」」


 練習でもしたかのように、息ぴったりと同じ言葉を宣言した。


 始まりの合図が直後に鳴らされる。

 先に動いたのはアルフォンス、ではなく意外にもレイディアだった。観客も予想外の展開に目が離せない状態だ。


「速攻で終わらせる――属性展開(エレメント・ドライヴ)


 両手を左右に広げ、アルフォンスを見据えながら言い放つ。彼はレイディアの意図に気づき阻止すべく、すぐさま攻撃を仕掛ける。


「させないっ――火球(ファイア)!」


 アルフォンスの頭上に火の球が無数に出現し、レイディアに向かって放たれた。が一歩間に合わず、レイディアはふっと鼻で笑う。


 彼の足下の地面に円形の魔方陣が展開され、円の端から上空に透ける光の壁のようなものが形成される。火の球は壁に当たり小さな爆発を起こして霧散した。


 アルフォンスは「遅かった」と呟き、攻撃がレイディアに当たっていないことを遠目ながらも見抜いた。


 彼の攻撃は決して遅くはなかった。むしろ速いと言ってもいい。だが、レイディアの魔法展開はそれを凌駕したのだ。


「――雷展開(サンダードライヴ)


 両の拳を胸の前でぶつけると、弾けるように電気が走る。静電気などではない、目に見えるほどの高出力の電気だ。


 これはレイディアの編み出した、自身が適応する魔法を任意の属性に特化させることで、基本魔法(ノーマル)でありながらも特有魔法(ランク)に劣らない出力にする魔法。


 ――『属性展開』と呼称し、全属性に適正があるレイディアだからこそ、その能力を最大限に活かせるわけだ。ただメリットばかりではなく、もちろんデメリットも存在する。

 出力が上がるのに比例して魔力コントロールが難しくなるため、暴走を招く危険性が極めて高いのだ。


 しかし、扱えることができれば強力なのは変わらないので、騎士団員はこぞって会得しようとするも、結局使いこなせる者は限られているのが現状である。


 だが基本的に彼は『強化(ブースト)』以外の魔法を使わないため、今までも片手で数える程度しか使ったことが無い。

 相手の実力を認めたのか、はたまたただの気分なのかは本人しかわからないことだろう。


 かくして、今回は光に属する雷の属性に特化させたと言うことだ。

 完全に展開が終わったようで、手足に雷で型どった獣の爪が見える。


「おにぃ、いきなり獣化(ビースト)か。走れ――疾風(はやて)


 アルフォンスとて黙って見ていただけではない。しっかりと先を見据え、レイディア同様に準備を済ませていた。


 名称を口にした途端、アルフォンスはレイディアの眼前に既に移動して攻撃をするところだった。手には、移動の一瞬で作ったであろう風の剣がある。


 本来は目に見えない風が見える(・・・)のは、尋常ではない密度であることを物語っていた。


 これこそが『疾風』である。風を全身に身に纏い、任意の方向にジェットエンジンのように風を噴出させることで、音速に近い移動速度にする魔法。

 弱点は、かなりの速度の移動のため、体が崩壊しないように細かい魔力調節が必要なことだ。それも針の穴に糸を通すようなことを移動する度に何度もだ。


 相当な集中力が必要になるのは間違いない。だがそれを平然とやってのけるのが、アルフォンスと言う男だった。


「……まずいな」


 攻撃を寸でのところで躱わしながらぼやいた。いつものレイディアなら冗談と捉えるが、今回は残念ながらそうではないらしい。

 笑顔なのか苛ついているのかわからない微妙な表情が、彼の今の心境を物語っているからだ。


 なぜなら彼はこの時既に気づいていた。舞台の至るところに風の刃があることに。当たればまず致命傷は避けられない。それも止まっているわけではなく、突然飛んでくるかもしれないことも考慮するべきだ。


 アルフォンスの特有魔法は風を操るものであることから、風の影響を受けにくい雷属性を選んだが、裏目に出てしまったかもしれないとレイディアは笑った。


「良い度胸じゃないか。久しぶりに楽しめそうだ」


「そんな暇は与えないよ」


 観客ですら視認できるほどの高密度な風の刃が、レイディアに迫っていく。だと言うのに、当の本人は落ち着いているようだ。

 ようやくいつもの調子が出てきたと言うべきか。


「落ちろ――天雷」


 何もない空中から雷が発生し、地面へと落ちる。その過程で風の刃をことごとく消滅させる。アルフォンスはこうなることも予想済みで、次の手を繰り出していた。


「いないんだけど」


 レイディアの言葉通り、舞台上にアルフォンスの姿が無い。見渡しても、まるで初めからいなかったかのように、どこにも見当たらないのだ。


 ――姿を消したアルフォンスはと言うと。攻撃の隙を伺っているのだが、どこにもそんなものが無い。

 彼は今、『不可視の風(ロスト・ウィンド)』によって文字通り姿が見えないようにしている。


 風の密度を極限まであげることで光を屈折させ、届かないようにすることで、擬似的に不可視の領域を作る魔法である。非常に便利なのだが、魔力消費が激しいのが難点となっている。


 この魔法を彼がレイディアの前で使うのは初めてで、どう動くのかはお互いに未知と言うわけだ。


「どこにいようと構わん。要は当てれば(・・・・)良いのだろう?」


 不敵な笑みを浮かべる。何か策があるようだ。

 全身にバチバチと音を立てながら電気が走り始める。同時にアルフォンスも両手を前に翳し、防御のための風の壁を前方に作り出す。


 それまで黄色と白の中間色だった電気が、次第に青白くなっていった。



 ――観客のほとんどが今のうちにレイディアを攻撃すればいいと考えていたが、勉強のためにと見に来ていたミカヅキの意見は違った。


 攻撃しないんじゃない――できないんだ。


 魔力をある程度感じることができる者なら同じ事を考えるだろう。あんなものに近づくなんて自殺行為だと。


 遠距離攻撃ならと思案するも、攻撃に転ずるところを狙われて終わってしまう。


 ならばできる行動は限られる。アルフォンスが防御に徹したのはそれが理由だ。


「弾けろ――天波・雷撃衝!」


 両の掌を合わせるまでの間に、レイディアを包むように青白い雷の繭のようなものが生成されていく。そして、手が合わさった途端に、繭から全方向にかけて衝撃波とも言える青白い雷撃が放たれた。


 バンッと弾ける音を皮切りに、空気を震わせる轟音が辺りに響いた。


 凄まじい衝撃を結界も受けたようで、至るところにパリッとヒビが入る。と思いきや、すぐにヒビは跡形も無く消えて元に戻った。


 客席に潜んでいるアイバルテイクとアリアの仕業だ。レイディアがこうなることを見越して、事前に観客への被害を防いでほしいと頼んでいたらしい。

 予想は的中し、今に至る。


 レイディアから放たれた雷が、バリバリと耳を塞ぎたくなる大きな音を立てながら結界にぶつかる。結界内はそこら中で暴れまわる雷は、まるで踊っているように見えた。


「ふははははははははははっ! これぞ雷鳴、これぞ轟きよぉ!」


 まさにレイディアのテンションを表すかの如くだ。


 雷が風の防壁によって防がれているのは五ヶ所。そのどれかにアルフォンスは隠れている。一つ一つ潰すのが確実だが、当然、面倒くさがりな彼が常識にとらわれることはなく。


「貫けよ我が剣よ、行けっ――雷衝剣!」


 レイディアの声に呼応して雷の剣が生成される。数は五本。防がれた場所と同じ数だ。そして、ビュンと音を立てて剣は放たれる。


 剣が風の防壁に当たると思われた瞬間に、五ヶ所全ての防壁が消失した。

 一見、ただ消えただけで気にすることは無いが、問題が一つだけあった。剣の出力だ。


 先ほど全方向に乱暴に放たれた雷とは違い、力を収束させているため威力が段違いとなっている。これは一度防がれたからこそ風の防壁を完全に破壊するために取った打開策。


 だが今回はそれが裏目に出た。


 先ほどの放たれた雷は結界にヒビをいれた。それより威力が強い“剣”が結界に当たったとしたらどうなるか。答えは子どもでもわかるだろう。


「やってくれる……!」


 こうなることも考慮していたのか、指をパチンと鳴らして、なんとか結界に当たる直前で剣を消滅させた。が、ここでレイディアに初めて隙が生じる。


 アルフォンスの策が生んだ唯一の隙。完全な不意打ちができる束の間の時。


 全ての魔力と思いを込めた一撃。


 それがレイディアに届く――。


「かはっ……」


 直後、地面の一部が真紅に染まった。

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