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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第六章 武道大会開催
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四十九回目『武道大会開始』

 時が過ぎるのは早いもので、あの宣言から1ヶ月が経過した。

 本日より、ファーレント王国、並びにファーレンブルク神王国の二か国合同の武道大会が始まる。


 ルールは至って簡単。


 ・武器、魔法の使用は自由。


 ・相手を戦闘不能、または降参させた場合、場外に出した場合を勝利とする。この戦闘不能は、審判が判断する。

 しかし、相手を殺したり、再起不能にすることは禁止とする。


 ・楽しみ、そして今後に繋げること。


 以上を守れないものは、レイディアの八つ当たりが待っている。


 参加人数は景品もあってか国中から集まり、数千人を裕に越えた。

 こうなることを考慮して、開催期間も一ヶ月とされた。

 会場は複数用意され、くじによるトーナメント形式で戦うことになる。

 そのため、国民は自分が見たいと思った人物を選ぶことができるのだ。


 一日目の注目を集めた組み合わせは、レイ・グランディール対ヴァンドレット・クルーガーの二人だった。


 偶然なのか必然なのかはわからないが、お互いに光と闇と言う対となる魔法属性の特有魔法を使う二人が相対することとなった。加えて、互いに良き好敵手のような存在でもある。


 レイはこの一ヶ月は王国を離れ、どこかへと頭を冷やしに行っていた。

 宣言通り武道大会開催日の前日、つまり昨日帰ってきたばかりだ。だが、その顔には以前までの迷いは感じられない。

 どんなことをしてきたかはわからないが、その成果はこの戦いで見ることができるだろう。




 ーーーーーーー




 それは突然だった。

 書き置きには「武道大会までには戻る」と書かれてあったのに、武道大会は明日から始まる。なのに、書き置きの主はまだ帰ってきていない。

 何かあったのか、このまま戻らないのかなどと考えていた矢先。


「ただいま。遅くなって、すまない」


「レイ!」


 まだかまだかと門の前で待ち構えていた時に、不意に懐かしく感じられる声が耳に届いた。

 すぐに振り替えり声の主を見て、つい名前を叫んでしまった。


「おかえりなさい、レイ」


 一緒に待っていたミーシャも笑顔で迎える。つられて俺も笑顔になってしまう。

 正直安心していた。戻ってこないかもなんて考えてしまっていたから。でも、レイはちゃんと戻ってきた。


「遅い帰りだな、レイ。腕を上げたようだな、さすがにわかるぞ。この一ヶ月でどれだけ強くなったか、明日からの武道大会で見てやるよ」


「すまないな。もう少し早く帰るつもりだったんだが、手間取ってしまって今日になったんだ。無事に戻れたからよかったよ」


 笑顔で話す二人を見て、本当に仲が良いんだな。なんて思ってしまう。

 学校にいた時、似たような光景を目にしたのを覚えている。本当に楽しそうに話しているものだから、参加していない自分も楽しくなってくるのは不思議だな、なんてことを考えていた時期があった。


「懐かしいなぁ……」


 ふとそんな言葉が口から漏れた。

 嘘ではない。本当にそう思ったのだ。一ヶ月はあっという間だったけど、まったく何も感じなかった訳じゃない。

 何か、こう、胸に穴が開いたとでも言うのだろうか。


 今までこんなに密接に人と接してこなかったからこそ、こんな当たり前とも言える感覚が新鮮に感じる。

 経緯はどうあれ、この世界に来てよかったと思った。


 これからどうなるかわからない。もしかしたら戦いで死んでしまうかもしれない。そんな緊迫したこの世界の日常を、俺はどこか楽しんでいる。

 不謹慎なのかもしれないけど、そんな考えが頭に浮かぶのだから真実なのだろう。


 でも、もとの世界でだって、同じような状態だったんだと結論を出した。

 だって、いつ、どこで、どうして死ぬかなんて誰にもわからない。明日事故に合うかもしれない。急に心臓が動かなくなるかもしれない。そんな“日常”は、どこでも同じなんだと。


 ただ違うのは、意識する量が違うだけ。もとの世界なら死を常に意識する必要は無かった。

 少なくとも、俺がいた国では……。


 でも今は違う。いつ、どこで、敵が攻めてくるかわからない。

 そして俺はそれらに対して、対応(・・)しなければならない立場でもある。


 突然変わってしまった“日常”だけど、根底は何も変わっていない。


 この一ヶ月の成果がここでわかる。


「……」


 ビャクヤさんとの稽古をふと思い出す。

 結局、一回も勝てなかったんだよなぁ。

 何て言うんだろう、あれは。んー、隙があるのに隙が無い。

 当たったと思ったのに防がれてるんだもん。


 あの微笑みを崩すことは、俺にはできなかった……。必死なこっちをよそに、終始余裕を崩さなかったし、レイディアがどうやって勝ったかが気になる。

 まぁ、俺の場合、剣じゃなくて棍棒なんだけど。


 何でかと言うと、稽古の時に試しとして剣とか他の武器を使ったけど、「あなたには、棍棒(それ)が一番お似合いですよ」って言われてしまった……。

 オヤジにも似たようなことを言われた気が。


 ――お前は棍棒が一番合ってる。他はダメだ!


 つまり俺は棍棒以外の才能が無いってことなんだろうな。創造の力(アーク)で造れるから最低限扱えはするけど、そこ止まりになってしまっている。


 それはさておき、もうそろそろ寝なくては。

 ついに明日から武道大会が始まる。小学生じゃないけど、わくわくして眠れないなんてことは無いように……。




 ーーーーーーー




 ついに武道大会が始まる、のだが……。


「ふわぁぁあぁぁあ……ん……」


「大きなあくび。ミカヅキ、もしかして昨日は眠れなかったの」


「い、いやぁ、そんなことは無いよぉ。あはははー」


 言えない。本当に楽しみすぎて眠れなかったなんて、恥ずかしくて言えない。だって、本気で心配そうな顔で訊いてくるんだもん。

 ごめん、ミーシャ。さすがに本当のことは言えない。


「そう。なら、良いんだけど。それじゃ、ミカヅキ。いってらっしゃい」


「うん、いってきます」


 今日は初日とあって盛り沢山の内容となっている。


 開会式、ルール説明、組み合わせ発表、会場案内などなど。城下町では屋台も開かれ、まさに国をあげてのお祭りムードである。


「おお、ミカヅキじゃねぇか。おめぇも大会に参加するんだろ」


「はい、もちろんです。ここで参加しなくちゃ、騎士は名乗れませんから」


 日替わりの復興作業のおかげで、町の人たちとも仲良くなった。本当に良い人たちで、こんな俺にも気軽に接してくれた。


「じゃあ、これ持っていきな。おらぁ、おめぇのことを一番に応援してっからよ」


 屋台の準備をしていたおじさんが投げてくれたのは、りんご……じゃなくて、この世界ではアプルと言う果物だ。文字通り、りんごである。

 俺も最初に聞いたときは、英語じゃん、とか思ったけど、英語はこの世界に無いから言っても意味が無かった。


「ありがとうございます! このアプルとおじさんの応援のためにも、優勝してやりますよ!」


「おう、その意気だ。行ってこい!」


 元気な言葉に背中を押され、開会式の会場に向かった。

 参加人数が多いため、国や所属によって開会式の場所が分けられている。


 開会の挨拶は、レイディアが手短に済ませ、両国の王からも一言を頂いて終わった。

 手短に済ませた理由が彼らしく、始めに「長いのは面倒なので、悪いが短めにする」と宣言したのだ。聞いていた参加者や国民のみんなが彼の冗談に笑っていた。


 続けて組み合わせに移ったのだが、その方法がくじ引きによるものだった。

 誰かが決めるよりかは、よっぽどましだと思う。どうなるのか全くわからない。と言うか、ここだけでもこんなに人数がいるわけで、当然全体になればもっといる。組み合わせ自体は全体で行われるため、知らない人とも当たるかもしれない。


 要するに、力量がわからない人と戦うことになるかも。そこも実戦形式なわけだ。


 ——くじ引きが終わり、それぞれが各々の会場へと近い者は徒歩で、遠い者はソフィ様が転移させた。


 だが、初戦は人数が多いため分割されることになっていた。まぁ、これは初戦に限った話じゃないけど。

 そして、初戦ではなく、初日で注目を浴びる組み合わせがあった。

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