表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第五章 同盟稽古開始
43/151

四十一回目『憧れの人』

「はぁ、はぁ、はぁ……きつい」


「あとどれくらい()つ?」


 決闘を申し込んでからも、分かりやすく説明してくれたり、引き続き稽古をしてくれた。


 もう稽古はしない、とか言われるかなって思ったけど、心配する必要なんて全然無かった。

 心なしかハードな内容になった気がするけど、今くらいが充分な気がする。終わったらヘロヘロになるくらいがいい。


「まだまだ、行けますよ」


 ごめんなさい。実はもう結構限界が近いです。

 でもこの状況で無理ですなんて言えないし。決闘なんて無茶を言ったからには、今より強くならなくちゃいけないんだ。


 ちなみにオヤジの稽古とは違った稽古内容になっている。主に基礎を重視してた内容で、今の俺には必要無いらしい。


 だからレイディアさんの提案で、今では色んなことを試していた。

 今は“創造の力(アーク)”で造り出した剣を、5本同時に浮かしたままの状態を(たも)っている。


「さぁて、あと十分経ったら休憩だ。それまで耐えろー」


「はぁい!」


 かく言うレイディアさんもなにもしていない訳じゃなくて、俺もオヤジの稽古でやったことがある『魔法玉』を安定させていた。

 すごく大きなやつを。しかも二つ。


 俺はあれ、苦手なんだよなぁ……。

 オヤジは心が乱れてると魔法玉も乱れる、みたいなことを言ってたけど。その理屈なら、レイディアさんって全く心が乱れてないってことだよな。

 いや、俺も乱れる理由なんて思い付かないけどさ。

 こうやって目の当たりにすると……はぁ。


 でも今は玉じゃなくて、剣を安定させることに集中しなければ!

 あと十分。絶対に耐えてやる!


 ――五分後。

 こう言う動かない稽古をしてる時に思うことがある。

 何を考えればいいんだろう?


 今日の晩ご飯はなにかな? とか。

 明日の朝ご飯はなにかな? とか。

 明日の稽古はなにかな? とか。


 考えることがどんどん無くなって行くんだけど、今までは比較的動いてばっかりだったから、目の前のことに集中してたけど。

 ひたすら耐え続けるのって、どうやって時間を潰せばいいんだろう……。


 ――ミカヅキがこんな浅はかな考えをしていることを、レイディアは表情から見抜いていた。


「おや、ミカヅキ。全然余裕みたいだな」


「え? いや、そんなことは無いですよ……?」


 もしかしてバレてる? どうやって時間潰そうとか考えてたのバレてる!?

 心を読む特有魔法(ランク)なのか!?

 我ながらまだこんな冗談が、頭の中でだけど言える余裕が残ってるんだ……。


「剣を倍に増やして、三十分追加だ」


 この顔はバレてたやつだ!

 な、なんとか回避を……出来るわけもなく、この後、剣を十本に増やしてちゃんと三十分やりきりました。




 ーーーーーーー




 ――休憩時間。

 レイディアさんと一緒に昼食を食べていた。


「少しはコントロールが出来るようになってきたみたいだな。少なくとも、暇潰しを考える程度にはな」


「うっ、すみません」


 余裕でバレていたらしく、結局休憩を取ったのは30分をかなり過ぎてからだった。


「謝る必要は無いさ。私も暇な時は、同じく暇潰しをするからな。ま、残念ながら今は暇なんて無いんだけどな」


 そう言ってからご飯を頬張る。


 やっぱり同じ事をするんだ。なんだか少し親近感が湧いた。


「差し支え無ければなんですけど、今はどんなことを考えているんですか?」


 何で暇だった時は何を考えていたんですか、って聞かなかったのかあとになって思う。

 ただ、気になったんだ。


「今は、ねぇ。ソフィとシルフィのことと、国のこと……あー、あとは昔のこととか。まぁ、昔って言うほど前でもないが」


「昔って、どんなことですか?」


 何でこんなことを聞いているのか、自分でもよくわからない。

 でもなんだか、聞かなきゃいけないって思った。この機会を逃したら、次は無いかもしれない気がした。


 さすがのレイディアさんもそこを突かれるとは思ってなかったのか、一瞬だけ疑問を浮かべた表情をしてから微笑んだ。


「おやおや、そう言うお年頃ですか……。どうしたもんかねぇ」


「いえ、無理にとは言いません。その、ただ、気になっただけですから」


 結構失礼なことを聞いてるんだもんな。もといた世界だって、こんなことを聞くのは失礼だったし、そこはこの世界でも変わらないよなぁ。


 だからって簡単には引きたくないなんて思ってる俺がいる。


「そう言えば、今は何時ですか?」


 急に何聞いてんだって話ですよね。それでも俺の予想が当たっていれば見るはず。


 俺の腕時計(・・・)を!


 すると、レイディアさんが丁度お昼ご飯を食べ終わるタイミングと一致する。

 ゆっくりと俺の顔を見た。


「十四時二十四分。焦りが顔に出てるぞ。何をしようとしたかはおおよそ予想はつくが、表情に出てるようではまだまだ甘いな」


 全てを見透かしたような笑み。


 またバレた、のか?

 て言うか、顔に出てたんだ……。全然気づかなかった……。


「すみません……」


「謝る必要は無いってば。挑戦するのは悪いことじゃないと、私は思ってるからな。怖じ気づいて何も出来ない奴より、今のお主みたいに、出来てはいなくても挑戦出来る奴の方が得すると思うぜ」


「あ、ありがとうございます!」


 敵わないな。

 そんなに年も離れてないはずなのに、なんでこんなに差があるんだろう?

 経験の差ってやつなのかな。

 確かにもといた世界じゃ、こんな命懸けな戦いは、戦争をしてなかった俺の国では経験できなかった。ましてや学生だった俺じゃ……。


「ふっ。ではそんなお主に一回だけチャンスを与えよう。私に聞きたいことを何でも聞きたまえ。何でも答えてやろう」


「いいんですか?」


「ああ、構わん。まぁ、答えるのは一つの質問に対してだけだがな」


 何を聞こう……。聞きたいことはたくさんあるけど、こうやって逆に聞かれると何も出てこない。

 いや、そんなことはない。一つあるじゃないか。

 聞かなきゃいけないことが。他の誰でもない、レイディアさんに聞かなきゃいけないことが!


「レイディアさんは――この世界とは、別の世界の人ですか?」


 聞いてしまった。すごく悪いことをした気分になった。


 なのにレイディアさんは約束通り答えてくれた。


「……ああ。お主の予想通り、もともと私はこの世界の住人ではない。お主と同じ“異世界人”ってやつだ。他の誰にも見えないそれ(・・)もしっかりと見えてる」


 目線を俺の腕時計に移した。

 これは何か意味があって身に付けられているんだろうけど、外そうにも俺も触ることが出来なくなっている。


 レイディアさんは別世界の人。時計が見えてるってことは、同じ世界から来た人なのか?


「時計が見えてるってことは――」


「さぁな。そうとは限らんさ。世界が幾つあるかなんて知らんだろ? 可能性は無限に等しい。丁度いいからおまけ話をしてやんよ」


 そう言って幾つもの可能性がある“世界”について話してくれた。


 ――異世界、平行世界、反転世界、死後の世界、神々の世界など他にも色々教えてもらったけど、覚えなくていいらしい。

 知識を征す者(ノーブル・オーダー)の特性上、一度知ったことを忘れることは無いことは言わないでおこう。



 ――異世界。

 もともといた世界とは違う世界で、もといた世界とは常識が異なる世界のことを言う。存在するか曖昧な世界、だったらしい。この世界に来たことで異世界の存在は証明されたから。

 この世界のことを言うなら、機械が存在せず、代わりに魔法が発展してる、とか。

 そんな異世界に移動することを、主に“転移”と言う。

 基本的には異世界に転移した人は、環境に対応出来ずに死んでしまうことが多いと考えられている。

 俺やレイディアさんは運が良い方らしい。これは身に染みて感じている。ミーシャに出会わなかったら……やめよう。



 ――平行世界。またはパラレル・ワールドとも言う。

 俺たちが日常の中で、なんとなくやってる選択肢で選ばれなかった方の世界が存在するらしい。

 それこそ俺とレイディアさんが出会っていなかった世界も存在するかもしれない、とか。

 世界が分岐する程の大きな選択を、人は知らない内に行っていると言うんだから、なかなか怖くなってしまう。

 俺もいつの間にかやってるかもしれないんだよな……。どれだろ?



 ――反転世界。または裏世界、別次元とも言う。

 世界の裏側の世界。そこでは時間も場所もそこにあって、何処にも無いなんてちょっと良くわからない世界。

 だから反転世界に行くことが出来れば、過去や未来に行く事が不可能では無いらしい。

 あと、通常の俺たちがいる表の世界と反転世界は二つで一つとされていて、表の世界(こっち)で起こった大惨事が反転世界(あっち)に影響する。つまりは逆もあると言うことだ。

 でも反転世界で問題を起こした方が、表の世界への影響は比べ物にならないくらいになるらしい。



 ――死後の世界。

 さすがにこれはわかる。死んだ生き物が行く世界だ。

 他の世界みたいに気になるけど、ここには行きたくない。

 いや、いずれ行くことになるのか……。まだ、まだ行かないもん!

 気のせいか、この世界の話をしている時のレイディアさんは、悲しそうな表情をしていた。理由は聞けなかった。



 ――神々の世界。

 文字通り神様がいる世界。これもわかる。人が足を踏み入れることが許されない領域。


 補足で、レイディアさんは個人的な見解を教えてくれた。

 俺個人としては、筋も通っててなかなか興味が持てた。


「神々の世界と呼ばれるところが反転世界なのではないかと考えている」


「どうしてですか?」


「そもそも、世界にはまだ見たことも無いような多種多様な生物がいて、様々な自然災害が発生している。我々人類が知っていることなんて、それらのほんの一部に過ぎない」


 だから世界で、予測不能なことが起きていてもおかしくはない。世界が崩壊するようなことが。

 例えば勇者とドラゴンの戦いは、世界を揺るがす程の壮大なものだったと文献には記されていた。

 なのに世界は未だに存在し続けている。反転世界でもこの時にかなりの被害が出たはずだ。


 それを安定させたのは何者なのか?

 今、この表の世界にはいなくなってしまった神々、『三大神』では無いのか?



 他にも、仮に“タイム・パラドックス”が起きた時間軸のように、世界にも“修復力”があるとしよう。そして未知なる世界の変化を、世界の人々はなんと言うだろうか?


 ――“神”の仕業では無いだろうか。


「まぁ、どんだけ反転世界に神をおらせたいんだって話だが、私は三大神がそこにいるかもって考えてるんだよ。もしかしたら語られてない神々だっているかもな」


 最後にこう付け足した。


「――世界自体が、神様なのかもな」


 もといた世界だって、自然災害が起きた時に出てきたのって、環境の問題とか色々言われてるけど、結局は神様に祈ったりしているのを見たことがある。

 極論だけど、捨てられない考えだった。


 なのに俺の中には、『三大神』の存在を確信しているところがあった。いてほしいって願望なのかも知れないけど、願うだけなら怒られないよな。


 でももし、この時代に『三大神』が実在していたら世界はどうなるんだろう……。

 人類に失望して、滅ぼされたりするんだろうか。

 確かめる(すべ)は無いけど気になるな。


 そもそも神様がどれくらいの力を持ってるかがわからないし、実在するかどうかも曖昧だ。

 昔の人々が作り出した夢物語かもしれない。

 こう思ったのには理由がある。以前、図書館で歴史を調べていた時に気になったことだ。


 1000年以上前のことはどの文献にも記されていなかったし、『知識を征す者』で知ることもできない。

 でも、『三大神』がいたとされるのは、残っていないはずの、知られていないはずの1000年以上前。矛盾してないか?

 どうして存在していたなんてわかるんだ?


 妙な違和感を感じ始めた。なのに解決法方が全く思い付かない。

 俺の考えがズレてるだけなのか……それとも。

 また調べてみないといけないな。

 残されてる猶予を無駄にしないためにも。

 今回の戦争と関係するかはわからないけど、もしかしたらどこかで繋がるかもしれない。


 ――こんな稽古に関係するのかしないのかわからない話も時々してくれた。おかげで変に力むことが無くなっていった。

 厳しいときは厳しいけど、オヤジとはまた違って楽しく稽古が出来ている。


 こんなこと言ったらオヤジは怒るかな?

 意外と負けず嫌いなとこがあるからなぁ。「なにぃ?」とか言って、稽古される光景がなんとなく想像が出来る。


 吹っ切れたか、なんて考えることがあるけど、俺は吹っ切れる気がしない。ネチネチ言う訳じゃない。

 ただ、今のこの気持ちは、吹っ切れて良いものじゃない。

 騎士としては駄目なのかもしれないけど、弟子としてはそうしなきゃいけない気がした。


 オヤジのためにも、俺はこの気持ちを背負ったまま、強くなって見せるんだ。

 オヤジの弟子として。守ってくれた恩返しとして。


 ――絶対に強い騎士になって見せるよ、オヤジ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ