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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第五章 同盟稽古開始
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四十回目『素直に』

「昨日はすまなかったな」


 集合場所に着いて早々、レイディアさんから謝られた。あまりにも急すぎて戸惑ってしまう。


「い、いえ、全然気になさらないで下さい。アイバルテイクさんにはたくさん教わりましたから」


 あたふたとなりながらも答えると、笑顔でありがとな、と感謝された。

 なんか恥ずかしくなる。


「さ、て、と。本題に入るぞ」


「はい!」


「おお……、もっと力抜いてていいぞ?」


 真剣な表情につられて、俺もビシッとなってしまった。


 指摘されてしまった。やっぱり緊張している。

 これからどんなことをするのかは何となく想像がついているけど、レイディアさんが俺の想像の範囲内で動いてくれるとは思えないんだよな……。


「まぁ、緊張するのは悪くはないが、程よくな。じゃないと余計な失敗を生むぞ。はい、深呼吸ー」


「すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」


 深呼吸を考えた人って凄いよな。言ってしまえば、呼吸しただけで落ち着きを取り戻せるんだもん。

 と言っても、まだ完全に消えた訳じゃないけど……。でもさっきよりはましだ。


「どうだ、落ち着いたか?」


「はい。ありがとうございます。おかげで落ち着きました」


「じゃあ、これからお主の創造の力(アーク)について調べていくぞ。何度も言うが、気負いすぎるなよ」


 今日の目的は、俺の二つ目の特有魔法(ランク)、“創造の力”について調べることだ。

 頭の中に使い方は入っている。けど、大事を取って今日まで使用を禁止されていた。もし失敗して、とんでもないものを作ってしまったら王国に被害を出しかねないから。


「まずはスプーンとフォークとナイフを造ってみろ」


「はい」


 創造の力の使い方は――まず“知識を征す者(ノーブル・オーダー)”を使って構造や形を知る。次に何処(どこ)何個(いくつ)造るかを決める。そして、“創造の力(アーク)”と言って創造すれば完了だ。


「ほぉ、こんな感じか」


 言いながら俺が造り出したものを触っていた。

 あまり興味を持っていないのか、棒読みみたいに感想を言った。

 あれ、何か間違ってた?

 でも頭にある使い方のままにやっただけなんだけど……。


 なんか、すみません。


「なら次だ」


「は、はい!」


「今造ったものを消せるか?」


「消す?」


 思わず首を傾げる。

 消す……消す……消す……どうやって消せばいいんだ?

 消し方がわからない。


「すみません。わかりません」


 返事を聞くと、考えるように腕を組んだ。


 ヤバイ。何とかしないと。

 念じれば良いのかな……?

 んー、消えない。どうしたらいいんだー!


 自分で考えないと……。


「そう言えば、お主の棍は魔法を無力化するんだったな。ならそれでこのスプーンに触れてみてくれ」


「わかりました」


 疑問に思いながらも、言われた通りにしてみる。


 なんで棍棒(これ)で触れさせるんだろう。何か意味があるんだろうけど……って、もうこの時点で俺がやってた想定以上なんですけど。


 結果はスプーンが棍棒を避けて左右に分裂した。


「これは……?」


「んー、これが未熟だからなのか、それとも……」


 その先が気になるんですが……。

 んー。つまりは俺が未熟だからスプーンが二つに分裂したけど、未熟じゃなければ分裂しなかったってことか。


 あとでまとめてから見解を教えてくれるらしい。

 だから自分でも考えておけよとも言われた。


「次は武器だな。剣は造れるか?」


「はい、造れます」


 言われた通りに一本の騎士団員の剣を造った。

 弓に大砲に槍をと次々に武器を造っていく。そして、次は――


「ヴァスティの雷槍だ」


「ヴァスティ……」


「あー、余計なことを考えるな。創造に集中しろ」


 自然と手に力が入る。声は聞こえてなかった。

 オヤジの仇。ヴァスティ・ドレイユ。絶対に俺が倒す。

 今の俺には力があるんだ。今なら――


「ミカヅキ!」


 パシンッ。

 乾いた音が聞こえた。

 音の後に、自分が何をされたのかを理解する。脳が理解した途端、痛みの感覚を伝えた。

 ……何度目だろうか。


「何度も言わせるなよ。余計なことを考えている暇なんて無い。今やるべきことを成せ」


 だから正論を言われて、子どもみたいに足掻(あが)いて歯向かってしまった。

 やるべきことはわかってる。仇討ちなんて、やるべきじゃないのもわかってる。

 でも、わかってはいても、納得はできない。


 俺は馬鹿だと思う。

 いつの間にか自分のことを“僕”から“俺”に変えても、心の中までは全然変わってない。変わらなきゃいけないのに。

 すみません、レイディアさん。


 俺が“俺”になるにはまだ時間がかかりそうです。


「なら、そうします。剣を抜いてください、レイディアさん」


 後ろに飛び退いてから棍棒を構える。

 レイディアさんは俺の言葉に驚かず、真っ直ぐに目を見て尋ねてきた。


「稽古中とは言え、言葉の意味がわかっているのか?」


「はいっ、承知の上です。ミカヅキ・ハヤミは、レイディア・オーディンに決闘を申し込みます!」


 改めて俺の言葉を聞いて呆れたようにため息をついた。

 そりゃそうだ。俺だって、レイディアさんの立場なら同じように反応したと思う。

 稽古の中の試合や手合わせじゃない。俺は“決闘”を申し込んだ。

 稽古中に殺し合いをお願いしたんだ。


 正直呆れられて断られると思った。でも、レイディアさんのような先を見据えるような人だからこそ、何かを見出(みい)だしてもらえるような気がする。

 少しだけ、了承してくれることを期待していた。おこがましいと思うけど、まだこんなやり方しか今の俺にはできないんだ。

 だから、お願いします!


 心の中で強く願った。


「はぁ……馬鹿げてる」


 返ってきたのは聞きたくない方だった。

 仕方ない。無茶を言っているのは俺なんだから。


 と落胆し始めたその時。


「だが面白い」


「へ?」


 予想外の言葉に思わず変な声が出てしまった。


 期待はしていたけど、もしかして、もしかして!


「良いだろう。お主の決闘、受けてたとう」


「え、ええっ、いいんですか!?」


 あまりの衝撃に、了承してくれた直後に聞き返してしまう。対してレイディアさんは笑顔でもう一度言ってくれた。


「ああ、構わんさ。だが、私と戦う以上、死に物狂いでやれ。じゃなきゃ無駄に命を落とすだけだ」


「ありがとうございます! 頑張ります!」


 まさかOKしてくれるなんて信じられなかった。

 もうこれだけで嬉しい。

 でもここで満足しちゃ駄目なんだ。レイディアさんの言う通り、本当に死んでしまうかもしれないから。

 今できる全力で勝ちを取りにいかなきゃいけない。


 ミーシャに言ったら心配されそう……いや、怒られそうだな。


 とにもかくにも、俺とレイディアさんの決闘が決まった。


 あとでお互いが勝ったときの報酬を聞かれた。

 すぐに思い付かず悩んでいると、レイディアさんが自分のことについて話そうか、と提案してくれたのでそれにすることにした。

 逆にレイディアさんが勝ったら、俺について話すことになった。


 相手がレイディアさんだって、負けるつもりはない。もちろん勝つつもりでいく。

 心の何処かで無理かもしれないと言っているけど関係無い。

 創造の力を使えれば、勝機はある!




 ーーーーーーー




 レイディアにしては珍しくあんまり話さなかったが、頭の中ではかなりの情報が行き交っていた。


「ほぉ、こんな感じか」


 バンカーみたいに素材が必要なタイプではなく、見たままを言うのであれば、空気中の魔力(マナ)が集まって形を成した。

 てことは、魔力の塊ってことか?

 実体は……あるのか。実際に触ってみるが、感触は指示したそのものだった。

 だが、そう感じるだけで、事実は違うかもしれない。

 試してみるか。


「なら次だ」


「は、はい!」


 月光で斬れるのか、闇夜月で斬れるのか……だな。

 あとはどこまで造れるか。この世界の外のものも造れるのか。

 知らないものでも、何となくで造れないのか。


「今造ったものを消せるか?」


「消す?」


 色々と考えているようだ。見てわかるような表情と動きをしていた。

 思わず苦笑した。


「すみません。わかりません」


 消せないってのは、まるで伝承の再生神(アルミリア)だな。

 再生神は再生や造り出すことは可能だが、消したり破壊することができなかったはずだ。物理的にはできただろうし、破壊神がいたからしなかったのかもしれないが、伝承ではできなかったと残されている。

 私はそれを信じていない。何か訳があると考えてならないんだ。


 そもそも事実を半ば書き加えたりしたのが伝承だ。

 完全に信じる方が間違っていると言えよう。

 まぁ、信じたい気持ちもわからなくもないが、割り切るってのも大事だろうと考えている。

 神とやらに対して、ちょっとぐらいはロマンを持ちたいって言う、個人的なものだけどな。


 ま、今は持論なんていらないな。


「そう言えば、お主の棍は魔法を無力化するんだったな。ならそれでこのスプーンに触れてみてくれ」


「わかりました」


 やはりな。魔法を無力化する棍棒ならもしやと思ったが、どうやら予測通りらしいな。


 ミカヅキ自身が使いこなせていないからなのか、それとも創造の力とはこういうものなのか、まだ判断するには早いな。


 それから色々と試している内に、ミカヅキが返事をしなくなった。


「ヴァスティの雷槍だ」


「ヴァスティ……」


 おや? 反応が無い。

 まだ完全に立ち直った訳じゃないってことか。

 そりゃあ普通、ミカヅキ(こやつ)ぐらいなら戦場にいるのは当たり前だから、今回みたいなのは日常茶飯事だろう。相手がミカヅキ・ハヤミじゃなければ……な。


 初めてのことばかりなのだろう。

 それを理由に甘やかす訳にはいかないのは、私としても心苦しいなぁ、まったく……。

 さっさと無駄な争いなんて終わらせて、平和な日常が来てほしいもんだ。


「あー、余計なことを考えるな。創造に集中しろ」


 とまぁ、恐らくこれが原因で決闘を申し込まれた。

 そんな暇は無いと言ってやるべきなんだろうが、悪いが私は優等生ではないのでな。

 もちろん、引き受けた。


 何も理由無く引き受けた訳じゃない。幾つかある。一番は面白そうだけど。


 瀕死に近い状態になりながらも、戦闘を見ていたガルシア騎士団員の話を聞く限りでは、ヴァスティとの戦闘の際のミカヅキはまるで別人だったらしい。

 次々に武器を生み出して、あの雷光の剣聖(ヴァスティ)を圧倒しているように見えた、と。


 話を聞いた時は多重人格者とか隠れ戦闘狂とか考えたが、最終的に実践で試すしか無いと考えていた。

 前回の稽古試合の時より、どれくらい強くなっているのかも含めて。


「良いだろう。お主の決闘、受けてたとう」


「え、ええっ、いいんですか!?」


「ああ、構わんさ。だが、私と戦う以上、死に物狂いでやれ。じゃなきゃ無駄に命を落とすだけだ」


「ありがとうございます! 頑張ります!」


 さてどうなることやら。

 て言うか、決闘ってことは立会人がいるじゃあないか。面倒な……。

 あ、ついでに団長やヴァンとレイにも見てもらおう。

 よし、やることが増えたぞー。これも一興と言うべきか。


 でもどうやって戦おう……。

 月光と闇夜月を使うと本当にお亡くなりになりそうだし、だからと言ってそこら辺の武器を使ったらすぐに叩きおられそうだし、どうしたものか……。


「んー」


 考え事はあとだな。

 とりあえずは今やるべきことをやろうか。


 決闘の申し込みを引き受けてからは、明日に備えて“創造の力(アーク)”で造れるものを増やしていった。正確には確認していったと言うべきだろう。


 何より、知識を得られるなら大抵のものは造れたが、命があるものと私の刀は造れなかった。

 前者は神の領域だからってのと、後者はこの世界には本来あるべきものじゃないからってとこだな。

 知ることもできなかったらしいし。


 だいたい二つの特有魔法の特徴が掴めてきた。

 当の本人も試したおかげもあってか、検討がついてきたとのこと。


 決闘は明日ではなく、もう少し先にすることにした。

 お互いの力量をある程度知っておくためだ。観察眼を早めに鍛えさせたいんでな。


 残念そうな返答をされたが仕方あるまい。何事にも準備ってのが必要だからさ。

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