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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第五章 同盟稽古開始

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三十九回目『パートナー』

 会議から二日後。


 レイが提案した二か国共同で稽古を行う内容とスケジュールを、彼とレイディアが昨日話し合って決めた。


 ガルシア騎士団、並びにエクシオル騎士団の全員の分を調整した。


 レイディアは説明する前に、あくびをする、と宣言をしたから安心したのか、見事に何度もあくびを披露していた。


「まぁ、こんな感じのふり、ふわぁ~あ……と言うわけだ。お互いの力の長所と短所を指摘し合い、今より強くなってくれ。そいじゃ、以上。解散」


 簡潔に説明と各々(おのおの)振り分け(パートナー)を言い終えると、レイディアは一目散に部屋に戻って眠りについた。


 今日から稽古開始だ。


 レイディアのペアはミカヅキなのだが、当人は眠りについてしまったのでどうしようかと悩んでいると、後ろから声をかけられた。


「ここにいたのか」


「あ、あなたは、エクシオル騎士団団長のマクトレイユさん」


 後ろを振り返った彼が見たのは、屈強の一言が似合う見た目をした、短めの茶色の髪を逆立て、見た目に似合わない綺麗な薄い緑の眼の男性が立っていた。彼はこの男性に見覚えがあった。


 ファーレント神王国のエクシオル騎士団団長、アイバルテイク・マクトレイユである。


 同盟のために訪れた際に、護衛としてソフィの隣に立っていたのだ。今は鎧を来ておらず、この世界での私服を来ていた。


「ふっ、そんなにかしこまらなくていい。私のことはアイバルテイクで良い。私もミカヅキと呼ばせてもらおう」


「わかりました、アイバルテイク団長」


 エクシオル騎士団長に、突然声をかけられて驚きと緊張で固くなっていたのを見破られ、笑いながら大丈夫だと優しく接せられた。


「うむ、それで良い。で、用件なんだが……」


「はい」


ミカヅキ(お前)の相手をレイディアがやる予定だったんだが、今日は私が相手をする。今日だけは休まなきゃ()たんらしくてな」


「……」


 驚きのあまり、少しの間言葉を失う。


「……え、ええぇぇぇ!」


 まるでドッキリでも仕掛けられた人のような反応。これであれば期待通りと言えよう。

 と遅れてしまったが反応し、今日の流れの説明を受けた。

 半分程は頭に入らなかったのは仕方ないだろう。


 今日だけだが、ミカヅキとアイバルテイクのペアの稽古が始まった。




 ーーーーーーー




 今日の稽古の流れは、始めにミカヅキの今の武器の扱い方、及び戦闘スタイルの確認。その後にアイバルテイクから指南を受けることになっている。


 まずはミカヅキがアイバルテイクに攻撃するところから始まった。

 それで武器の扱い方と戦闘スタイルの両方を見極めようと言うのだ。


「今できる全力で打ち込んで来い」


「はい!」


 返事はしたものの、彼は迷っていた。

 自分は棍棒を持って(構えて)いるが、アイバルテイクは腰に携える剣は抜かずに素手で構えていた。

 今の彼はなめられているなどとは思わない。逆に警戒するようになっている。

 しっかりと相手を観察して隙を窺う。


「ふむ……」


 この数秒だけでアイバルテイクは、ミカヅキが単なるバカではないと判断する。

 目線から自分の隙を狙っていることを見抜いたからだ。

 だが同時に思考する。相手の様子を窺い過ぎだ、と。


 戦う相手()を観察し、分析することも必要だ。しかしそれは相手の実力を見抜ける程の観察眼があってこそ成り立つ。だからこそ武術などの達人同士が相対した時、すぐにお互いが動かないのは“観察”を行っていると言える。

 つまりは戦い慣れしていないミカヅキが、大した観察眼も持っていないのにも関わらず、“観察”を行うには早いのだ。


 ミカヅキが今やっているのは、達人ごっこと言ってもいいレベルである。


 それこそ、まだ一分にも満たない時間で、こう分析したアイバルテイクの観察眼はレベルが高い。


 ――試してみるか。


 このままでは(らち)が明かない判断したアイバルテイクが動くことにした。


「はっ!」


 声と共に拳を前に突き出す。

 ミカヅキは攻撃だと思ったが、どんなものか判断しようとしてもわからなかった。何も起きないと判断した――その時。


 左耳のすぐ横を何かが通過した。正確には通過したように風が吹いたのだ。


「な、なにが……しまっ――」


 つられて視線を左に移す。ハッとしてすぐに自分が今行った失態に気づいて視線を戻すも、アイバルテイクは既に目の前まで迫っていた。


「衝波」


 再び突き出された拳は、咄嗟に盾のように構えた棍棒とぶつかる。しかし競り合いにはならず、大きな物体とぶつかったような衝撃を感じながら、意図も簡単に棍棒ごと叩き飛ばされた。


「ぐぅ、だぁっ!」


「ふぅー」


 アイバルテイクは構え直して息を吐く。

 既に目的は達していた。


「よし。ここまでだ。――立てるか?」


 見事に飛ばされたミカヅキの顔を覗く。

 どうやらかなりのダメージになったらしく、立ち上がるのは難しいと判断して座って結果を話すことにした。

 よろつきながらも真面目に立ち上がろうとしたミカヅキを止め、アイバルテイクは無理やり座らせた。


「相手を見ることも必要だが、お前は見過ぎだ。そのせいで判断が遅れている」


 今の手合わせで気づいた点、気になった点をミカヅキにもわかるように砕いて説明してくれた。おかげでミカヅキも簡単に理解することができた。

 敵の観察、動きや隙などに加えて、戦いに対しての素質はあるとも褒められるミカヅキ。声には出さなかったが、心の中で喜んだ。

 時には質問し、質問されたり答えたりをしている様子は、教師と生徒のように見える。


「そう言うことですか……ありがとうございます」


「うむ、構わんよ。これからのお前次第だな」


 ――それからは手合わせをしながら、その都度その都度に指摘されては直してを繰り返している内に、あっという間に日が傾いていた。


「今日はここまでだ。よくやった」


「はぁ、はぁ、はいっ、ふー。ありがとうございました!」


 ミカヅキはお礼を述べると笑顔が返ってきた。

 手合わせ、稽古中の怪我や傷はアイバルテイクが基本魔法(ヒーリング)で治していた。だが、さすがに体力までは回復はできず、ミカヅキはもうヘトヘトだった。


 レイディアとの稽古試合を思い出していた。

 あの時の方がスパルタだったな、とも考えてみるも感覚を重視していたのだとすぐに思い直す。


 そこでミカヅキの意識は途絶えた。


 アイバルテイクはやれやれと思いながらも、倒れた彼を背負って城まで連れ帰った。




 ーーーーーーー




 同日。

 レイは希望通りにヴァンとペアを組み、早速初日から稽古に励んでいた。


 だがこちらは、ミカヅキたちのように試合をしていない。


 何をしているのかと言うと、二人とも自分の前で両手を(かざ)して、レイは光る白い玉を。ヴァンは影の黒い玉をそれぞれ作って維持し続けていた。


 かれこれこのポーズを3時間続けている。


 ――“魔法玉(まほうぎょく)”と呼ばれるもので、魔力の調節のために、玉を綺麗な丸の状態で維持し続けるものである。

 この難易度はなかなかに高く、一般的な騎士団員なら、1時間と()たない。それを彼らは3時間も行っているのだから、さすがと言うものだ。


「うぅ、くぅー、まだぁ……まだだぁ……」


 と言いたいところだが、さすがのレイもそろそろ限界のようで、両腕がプルプルと震え始めている。


 対して、ヴァンは余裕の表情で、あくびまでして見せている。


「おやおや。レイ、乱れてるぞ」


 隣のレイの魔法玉が丸から少しずつ形を変えてきている。

 ヴァンはウニョウニョと形を変えるそれを見て笑ってしまった。


「そっちこそっ、いつまでもっ、余裕じゃないみたいだな!」


 笑ったせいで結局、ヴァンの魔法玉もレイのものと同じく形を変えかけていた。


「おおっと、危ない危ない。甘く見てもらっては困るぜ。すぐに立て直さなくちゃな」


「負けてっ、たまるかー!」


 この後も引き続き、魔法玉を1時間安定させていたが、予想通りレイが脱落したことにより、休憩をすることになった。


 確かにレイはヴァンに負けてしまったが、ここまで続けられる者はそうそういない。ヴァンは魔力のコントロールなら、神王国で一番を取れるかもしれない技量を持っている。

 つまりは相手が悪かったのだ。


 ちなみに、このヴァン程度にコントロールが上手な者は、神王国にまだ二人いる。その中でも秀でているのは(ヴァン)だ。


「まさかここまで続けられるとは思ってなかったよ」


「ああ。自分でも驚いてるよ。て言うか、神王国では毎回あの大きさなのか?」


 レイが尋ねたのは、紛れもない魔法玉の大きさのことだ。

 これをやろうと提案したのはヴァンであったが、簡単にやり方だけ説明してすぐに始めたものだから、レイは聞こうにも聞けなかった。

 いや、正しくは聞く余裕が彼には無かった。魔法玉を安定させるので手一杯だったからだ。


 この魔法玉は騎士団の訓練内容に組み込まれている初歩的なものだが、王国では先程までやっていた大きさにはしていなかった。大きくてもせいぜい直径約50cmまで。

 比べて今回やったのは、倍の1m以上の大きさ。


 大きくなればなるほど、集中力と魔力を消費するのを理由に、王国ではあまり巨大なものにしないようにされていた。


 神王国では対照的に、本来なら2m以上で安定させるようにしている。と言っても、できる者は多くは無いが、決して少ないとも言えない。

 団長のアイバルテイクの指示で、精神と肉体を統一させろ、とのこと。

 エクシオル騎士団内ではちょっとした伝説になっているのだが、アイバルテイクは直径で5mは越えるものを、丸1日安定させていた。しかも、頭上で維持したまま騎士団員の稽古を行った。


 そんな桁外れなことをやった原因はレイディアにあった。

 恐れを知らないのか、手本を見せてくれなどと言ったらしく、アイバルテイクは条件付きで承諾すると返した。


 内容は、レイディアも一緒にやること。


 ヴァンも含めて誰もが断るだろうと思っていたにも関わらず、彼はあっさりと条件を受け入れた。そしてアイバルテイクと同じ事をやってのけたのだから、彼自身もなかなかの実力者だ。

 今となっては、ヴァンが魔力コントロールは勝ると言っても過言ではない。本人曰く“できる奴”だかららしい。

 実際は彼の特有魔法で、影で自分を投影した分身を作り、稽古の際は騎士団連中に相手をさせていたからだ。もちろん、自分は別の相手をしていた。

 影の分身は自動で動くわけではなく、ヴァンがコントロールしなければならない。最初は簡単にやられていたが、日に日に成長していき、結果は今の実力が物語っている。


「やっぱりあいつは凄いんだな」


 あまりの驚きに苦笑する。

 実際にやってみたからこそ、今の話のとてつもなさを実感した。これまで自分は甘えていたのかもしれない、と。大きな争いが起きていないこの世界に。


「まぁ俺も、あれにはビックリしたわ」


 やれやれとヴァンも両手を左右に広げて苦笑を返した。

 誰もできないと、アイバルテイク団長ですら予想外だったらしく、今の二人のように苦笑していたと言う。


「そう言えば、ヴァンはその大きさはできるのか?」


 痛いとこをついてくるな、とヴァンは表情を固くする。


「悔しいが、あんな大きさはきついな。でも、安定させられる数なら、負けない自信がある」


 実際に彼らと試したことはないため、真実は想像に任せるしかない。

 ヴァン自身も試してみたいと思ってはいても、まだその時ではないと言って実行はしていない。

 魔力のコントロールは秀でているが、彼はレイディアには勝てないと思っているからだ。原因はレイも知っている“あれ”があったからに他ならない。たった一人を救うために、レイディアは一人で戦った。そして……勝利した。

 レイディアの名が世界中に知られる要因となった出来事だ。

 誰も成し得なかったことをやって見せた。信頼もされたが、同時に畏怖される存在になったのは見てとれた。

 だからこそ、ヴァンは自分のやるべきと思ったことをやると決めた。

 レイディアの“相棒”になると。


 ――まったく、お前には負けるぜ。なぁ、レイディア……。


 敵わないが、もし挫けそうになった時は支える。ヴァンはその道を選んだのだ。その甲斐あってか、色んな場面でレイディアが暴走すれば止める役を担っている。が、止めきれないときもあって四苦八苦する。神王国の民たちにとって、かの光景は一種の名物でもある。

 そして彼自身(ヴァン)は気づいていない。レイディアに向けられた信頼を、ヴァンも受けていることを。


「稽古中にできたらやってみたいな。それまでには、俺も今よりできるようになってやる」


 不安を見抜かれたと驚きつつも、目の前の男の言う通りだと自分を鼓舞する。


「よし! 今まで以上に強くなるぞ!」


「ああ!」


 二人はお互いに決意を胸に、一年の稽古の初日を終えた。

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