三十六回目『弱さと強さ』
もともと順調に復興作業は進んでいたこともあり、決闘が終わってからレイディアも加わったことで、指揮系統が整理されることで復興作業は更に加速した。
「そいじゃ、ちょっくら行ってくるわ。すまないが、こっちのことは任せる」
「……ぉ……ょ……はぁ~」
レイディアが、見送りに来たアイバルテイクに、二本の指を立てながら額辺りで手を前に少しだけ振った。これが入団前からの彼なりの挨拶なのだと言う。
「絶対に傷をつけるなよ。必ず守り通せ。もし、擦り傷が一つでもあるようなら容赦はせんぞ」
「ぉ……ゎ……ょ」
笑顔だが、レイディアたちはとてつもない圧を感じていた。
心の中で、自分でこけて怪我したらどうしよう、と呟きながらも同じく笑顔で返事をする。
「当たり前だろ、私を誰だと思ってるんだよ。何があろうと守ってやんよ」
「よし。では姫様。くれぐれもお気をつけて、いってらっしゃい」
レイディアの返事を聞いてから、次にソフィへと向きを変えたが、その笑顔からは圧を微塵も感じなかった。優しい微笑みとでも言うべきのような。
「ありがとう。行ってくるわ」
そんなアイバルテイクに微笑みを返して、レイディア一行はファーレント王国へと再び赴いた。ソフィとヴァンドレットの二人を増やして。
ヴァンドレットはずっと、ぶつぶつ決闘のことを引きずってぼやいていた。
ーーーーーーー
まぐ――マグリアの胸を借りてから、数日は絶対安静とお達しが出てしまったので、改めて頭の中を整理していた。白い天井を見つめながら。
こうやって見てみると、病室って言うのは何も無いんだと思った。この世界には機械が無い。だからテレビも無い。
この部屋に届くのは、外からの復興をしている人たちの声と作業の音だけ。
前はミーシャがいたから感じなかったけど、こんなにも寂しい場所なんだ。
そう言えば、最初に会った時からずっと一緒だった。
何だかんだ言っても、頼っていたのは俺の方だったんだ。
守って誓ったのに、ずっと守られていたのは……ほんと何やってんだよ。
「よし!」
落ち込んでる場合じゃないよな。こんな時にくよくよしてたらおやじに何て言われるか。
今でも思い出すと涙が出そうになる。でも耐える。耐えなきゃいけないと思うから。
と目を閉じたのと同じタイミングで扉の方から声をかけられた。
「お、やっと起きたみたいだな」
「レイディア……さん」
レイディアさんだった。目を覚ましてから見たのがこれで二人目。
実はまだミーシャやミルダさん、それにレイとも会っていない。
ミーシャとレイは復興の現場で作業を手伝っていて、ミルダさんはそんな復興作業全体の指示を出していた。
来れる時間なんて無いだろうし、おばちゃんから今は絶対安静を伝えられているだろうと思ってはいるものの、どこかで期待している自分がいた。
返事が少し落ち込みぎみになってしまったのはそれが理由だ。
「随分と落ち込んでんな。一人で寂しかったのかい?」
「そんなんじゃないですっ」
笑顔で尋ねてきた。
相変わらず鋭い。本当に心を見られてるのかな?
でもなんでここに来たんだ?
「どうしてレイディアさんがここに?」
「ん? ああ、言ってなかったな。ちょっと話をしに来たんだよ」
こちらに歩いてきて、そのまま迷わず椅子に座りながら説明してくれた。
話?
絶対安静のはずなんだけど……どうなってるんだろう?
頭にはてなを浮かべながら話を聞くことにした。
「まぁ、まずは主の第二の特有魔法についてだ。どんなもんだろうって気になってな」
やっぱりその事か。
あの時のことを思い出そうとしたけど、全体的に靄がかかったようにはっきりと思い出せなかった。
簡単に言えば、何となくとかぼんやりと言う感じにしか覚えていない。
でもはっきりと覚えていることもある。
発現した新しい特有魔法について。
創造の力の名前と使い方だけは、まるで頭に張り付いているかように。
でもこのことを話して良いのか迷った。
今は同盟関係とは言え、創造の力のような強力な特有魔法のことを俺一人が決めて良いことなのかと。
「あ、ちなみにミルダさんには許可もらってるから、機密云々に関しては気にすることはないぜ」
心を見てますか? と聞きそうになったけど頑張って堪えた。
なら大丈夫か。
「それに、絶対安静に面会謝絶を付け加えたのは私だしな」
「……ど、どうして?」
どうしてそんなことを?
そんなことをしてもメリットなんて無いはず。いや、思い付かないだけであるのかもしれない。
待てよ。そもそもまだ誰にも新しい特有魔法が発現したなんて言ってない。それをどうして知っているんだ?
「どうしてって、そりゃあお主を一人にするためさ」
これを聞いて俺は驚いた。
まさか反逆?
レイディアさんが?
って言う程、俺はこの人のことを知らない。
「はぁ、頑張って頭を働かせてるみたいだが、まだまだだな。少ない情報から真実を導き出す。知識を征す者があるんだから、それくらいはできるようになってみろ」
「少ない情報から、真実を……」
結構難しいことを言われている気が……いや、そう思っていたら何もできなくなる。
今までの話から……。
「まぁ、まだできないだろうがな。だから答えを教えてやんよ。――お主と周りの人を少しでも良いから引き離したかったんだよ」
「え……?」
それから簡単に説明をしてくれた。
俺と話して思ったことは、あまり人と接してないと周りに頼りすぎてるらしい。
確かに言う通りだ。もといた世界でも、結局あまり人と話さなかった。それにさっきようやく気づいたけど、ミーシャたちに頼りすぎてた。
改善策として、今まで近くにいた人と距離を置かせて一人にする。そして絶対安静の言いつけを破って誰かに会いに行かないかとかを試していたらしい。他にも幾つか教えてくれた。
あと、付け加えて、“知識を征す者”に頼りすぎるなとも言われた。
自分で観察して、思考した上で使うのも時にはやってみろと。
「今の姫さんやレイみたいに、王国の民たちと触れ合うってのもまたやってもらう。とまぁ、そんなところだ」
眠たいのかあくびをしながら説明を終えた。
「ありがとうございます。もっともっと頑張ります」
まだまだ強くなって見せる。
「でだ。お主の特有魔法のことだよ」
眠そうにしながらも本題に戻った。
後で聞いて知ったことで驚いたことがある。
なんで発現したことを知っているのか、と。
返ってきたのは、大きな魔力変動を感じたかららしい。
王国から天帝騎士団がいるであろう場所までは、馬車で急いで3日かかる距離のはず。そんな遠いところから俺とヴァスティの魔力変動を感じ取ったなんて、どんな感覚をしているんだと思った。
調べてみると、普通はそんな遠距離で感知はできないらしい。
やっぱりこの人はすごい。
「――とそんな魔法です」
――そして“創造の力”について説明すると、レイディアさんは盛大なため息をついた。
「そう言うことか。知識を征す者があるからこそ、真価を発揮しそうな創造の力ってところか」
言う通りかもしれない。
まだ試せれてないけど、知識を得た武器なら作れるかもしれない。
実際に作ってみないからには、何を作ることができて、逆に何を作ることができないのかがわからない。
そもそも、まともに使えるかすらわからないのだから。
「やっぱり実際に試してみないことには、詳しくはわかりませんね」
「思ったんだが、その知識は得られないのか?」
創造の力のことを知れないのかと言われて試してみたけど、結果はレイディアさんのように全く知ることができなかった。
「だめか。まぁ、実践には私も立ち会う。少し遠出するがな」
レイディアさんによると、力の規模がわからない以上は王国内で試すのは危険とのことで、ここから少し離れた場所で実践するとのこと。
俺もそれには同意した。
試しにコントロールできないものを作ってしまって、せっかく復興してきている王国に迷惑をかけるわけにはいかないもんな。
それから話題は変わって、今回の襲撃はどうだったかを聞かれた。
言われてから思い返してみる。
「実際の殺し合いを経験して、正直に言ってものすごく怖かったです。これほどのものを、戦ってる人はみんな感じてるんだって」
最初にヴァスティに突っ込んだ時は、ほぼ怒りに任せてたから恐怖なんて感じなかったけど、そのあとのオヤジとヴァスティの戦いでは身動き一つ取れなかった。
「自分の覚悟が甘かったんだって思い知らされました。まだお前は、敵の前に立つことさえできないんだって」
レイディアさんは相づちを打ちながらも、話を真剣に聞いているように見えた。
「ミカヅキ。弱さとはなんだ?」
話し終えたのを確認してから質問を投げ掛けてきた。
「え、それは……」
改めて聞かれると返答に困った。
わからない。
力が無いこと、戦えないこと、怖くて何もできないこと、幾つか思い付いたけど何か違う気がした。
「じゃあ、強さとはなんだ?」
「えっとぉ……」
これも同じように、幾つか思い付きはしても、はっきりとした答えは出なかった。
自然とさっきのとは思い付いたものが逆になる。
悩む俺を見て、まるで見透かしたように笑った。
「はははっ、難しい顔してからに。幾つか思い付いたんだろ? ならそれがお主の答えさ」
「でも、なんかピンと来なくて……」
「それで良いんだよ。今頭に浮かんだのはな、お主自身のことなんだよ」
言われてハッとした。
そうだ。全部俺のことだ。全部、当てはまる。
「強さや弱さなんかに正解なんて求める必要なんて無い。なのに多くの人はそれをやっちまう。さて、なぜでしょう?」
「正解があると思っているから、だと思います」
「間違ってはいないが、私が考えたのは、正解が無いと不安になってしまうから、だ。別に、その時の自分で出した“答え”で良いだろうに、人は安心を求めるが故に“正解”を追い続ける」
黙って聞いていた。理解できなかったわけでも、納得できなかった訳じゃなくて、その逆。
否定することなく頭の中に入ってくる。
それは俺が望んでいたことであるかのように。
「だからお主は、“正解”でも“不正解”でも良いから、ちゃんと自分自身の“答え”を言えるようになれ。――ま、故に私からすれば、お主はまだまだってことだ」
まさに無邪気な笑顔。そんな言葉が似合うような表情をしていた。
俺もいつか、こんな風に笑える日が来るだろうか。なんて考えてしまう程、俺はまだまだだった。
だからこそ、今できることをやる。
「はい!」
レイディアさんの言葉に返事をすることを。




