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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第四章 新たな力
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三十五回目『貴族たちの思惑と』

 ローベンス公の屋敷の客間。


「ようやく動き始めたみたいだなぁ」


 長い黄金色の髪を後ろで束ねているつり目の男性。その顔はどことなく狐を連想させる。両肩の紋章は六芒星。

 名前は、ヴォーデビルト・ラン・ローベンス。王の次に権力があると言われている、貴族の中のトップ。

 前国王からかなり信頼されていた貴族。ミカヅキのことをあまり(こころよ)く思っていない。


「あの姫にしては早いと言えよう」


 金色の少し明るさが抑えられた色合いの、長い髪を整えている初老の男性。両肩の紋章は、こちらも六芒星。

 名前は、グラス・ウォンデリアン。前国王とは古い付き合いで、一番信頼されていた貴族。

 貴族の中ではヴォーデビルトに続いて二番手である。が、年齢のこともあり、表舞台から手を引こうとしていた矢先に前国王が亡くなってしまう。ならば大公として、最後までこの国のために尽くすと決めた。


 大公を中心に、王国の貴族たちが今後の方針を決めるために集まっていた。

 最初に話題に上がったのはもちろん、ミーシャを王として認めるか否かだった。


「そうですね。私ももう少し時間がかかると思っていましたよ」


 二人の大公の意見に賛同した、この中では比較的若く見える茶色の髪を短く切り分けている青年。

 名前は、カルティア・フォン・ヴィレンツェ。見た目同様、大公の中で最年少ではあるが、自他共に認める政治的手腕の持ち主。

 そして、前国王と四大公とミルダの極少数しか知らない役割も担っている。この部屋で唯一腰に剣を携えていることと関係している。

 名前からよく女性と間違われることが多い。


「確かに早いかもしれませんが、わたくしは、まだまだ幼いことに変わり無いと思いますわ」


 いかにもミーシャのことを嫌っているような口ぶりの、長い金髪で顔の左側を隠している女性。

 名前は、ジュリア・ヴィ・ワーティクス。大公に名を連ねる者の中で唯一の女性ではあるが、彼女を包む気迫のようなものは周りの男性陣にも引けを取らない。

 左側を隠しているのは、二年前に馬車に()かれそうになった子どもを助けた時に負った傷を見られたくないからだ。

 ミーシャを嫌っていると周りから思われているが、実はまだ幼い少女のミーシャを危険な目に合わせたく無いがために、そう見えるように振る舞っている。


 この四名が国王の次に偉い貴族の四人で、四大公と呼ばれる。


 この場には他にも、公爵以下の爵位を持つ者が同席していた。

 話の中心となったのは四大公だが。


「さて、少々話がズレてしまったが。此度、ここに我々が集まったのはあのミーシャ・ユーレ・ファーレントを王と認めるか。それか、我々がこの国を統治すべきかを決めたい」


 ヴォーデビルトが説明を始めた。ちなみにこの屋敷は彼のものである。

 皆の表情は様々だったが、話は黙って聞いていた。


 幾つか議題が挙げられた。

 前国王の死。異世界人(ミカヅキ)のこと。神王国との同盟。今回の雷光の剣聖による襲撃に加えてその復興。それら全てに対してのミーシャの対処の方法。


 そもそもこうして貴族たちが集まるのが遅くなってしまったのは、ミルダの尽力によるものだった。

 だが、今回の襲撃の対応に、さすがに今のまま(ミーシャ)ではダメではないかと痺れを切らして今になって集会を行うことになった。

 ミーシャはミルダが裏で貴族たちを抑えていた事実を知らない。


 内容が内容のため、議論は4時間にも及んだ。


 そして議論も終盤に差し掛かった時、カルティアが突如、壁の一点を睨んだ。

 不自然な行動が目につき、ヴォーデビルトがどうしたのかと尋ねると、


「皆さま、気を付けてください。――何者だっ、姿を表せ!」


 カルティアは皆に一言入れてから、急に立ち上がりながらヴォーデビルトの問いへの答えを示した。


 すると、壁の模様が一瞬だけぼやけたと思いきや、黒に身を包んだ男が、やれやれと言いながら姿を現す。

 男の姿が目に見えた途端、カルティアは身構えた。それを見たヴォーデビルトは、他の貴族たちに目配せをしてカルティア側に行くように指示を出す。同時に護衛は何をやっているんだと心の中で怒っていた。


 男は動く貴族たちには気にも止めていない。カルティアだけに視線を合わせていた。


「さすがは二代目(・・・)。隠密に関してはそちらが一枚上手(うわて)のようだ」


 男の言葉を聞いて、カルティアを含めた四大公は耳を疑った。この国でも本人を含めた六人、いや、今は五人だけしか知らないことを口にしたからだ。


「なぜそれを……。いや、それより貴様は何者だ!」


 殺気を男に向けて放つ。


「話を聞くだけだったのだが……仕方ないか。私はヴィストルティを率いる、ハクアだ」


 カルティアとしては全力の殺気のはずなのに、ハクアと名乗った男はどこ吹く風のように全く影響を受けていなかった。


 カルティアは焦りを感じていた。

 この状況で男が仕掛けてくれば、応じる程度の実力を彼は持っている。だがそれでも、後ろの貴族たちを守りながらだと話は変わってくる。


 彼は察していた。男が自分以上の実力者だと。

 同時にこの男の目的がなんなのかと考えていた。暗殺者なのか、本当にただ盗み聞きするためだけに来たのか。どちらにせよ、顔を晒していることは大きいと判断する。

 なぜなら顔を見られてしまっては、正体を突き止められやすくなってしまう。つまりは、見られても良い理由があると考えるのが一般的である。


「私としてもここで争うつもりは無い。そちらがそのつもりなら応えるが、どうする?」


「我々も争う意思は無い。直ちにお引き取り願おう」


 ハクアは少し考える素振りを見せてから笑った。


「貴様の覚悟に免じてここは退こう。それと一つ忠告しておく。近い内に貴様らが一番恐れていることが宣言されるだろう。さて、そんな時に内部争いをしている場合かな?」


「どう言うことだ?」


 今まで黙っていたヴォーデビルトが口を開いた。

 この緊迫した空気の中で、声を発することができるのはさすがだと言える。人生で一度経験するか否かと言えるほどの重圧感が彼らを襲っていた。


「あのお嬢さんをもう少し信じてみろと言っている。こちら(・・・)では随分成長しているようだからな」


 カルティアは何か違和感を感じた。

 ハクアの口振りが、明らかにこれから起こることが知っているようなものだと。

 試しに探りを入れようとしたその瞬間、ハクアが手に持っていた何か(・・)の先端をカルティアに向けた。


「っ!」


 攻撃かとすぐさま身構え直したが杞憂に終わる。


「少し話しすぎた。まぁ、貴様らがどうするか、楽しみにしておく」


 と言ってから先端を自分の頭に向けた途端、部屋に重たい音が響いたと思った時には、既にハクアはそこにいなかった。

 カルティアは気配も消えたことを確認して安堵する。


「いなくなりました。もう大丈夫です」


「そうか」


「助かったぞ、カルティア公」


 カルティアの言葉に他の貴族たちも、緊張していた体の力を安堵の息と一緒に外へと追いやる。

 全員が無傷だった。


 周りの貴族たちを見て微笑むカルティアにグラスが声をかけた。


「あれは脅しじゃな。言う通りにしなければ始末すると言うな」


「ええ、恐らく」


 話しているとヴォーデビルトとジュリアも歩み寄って来た。


「カルティア公。先程の者の実力は如何程と判断する?」


 他の一同も気になると言わんばかりにカルティアの返答を待った。

 問いに対して、彼は答えにくそうに目を伏せる。本人も失礼だとはわかっていたが、どうしても体が動いてしまった。

 彼自身も正直言えば答えたくなかったが、そう言うわけにはいかない。


「……参考程度にしていただきたい。ハクアなる者の実力は恐らく、この王国にいる者では敵わないでしょう……っ」


 悔しく思い手を握りしめる。

 カルティアの答えに聞いていた皆が驚いた。


 ヴォーデビルト一人を除いて。


「良いだろう。では、我々の今後の方針を決めよう」


 急な宣言にも関わらず、部屋にいた全員が注目した。

 それを確認してから話を続ける。


「今後我々は――全面的に国王、ミーシャ・ユーレ・ファーレント様に忠義を誓いたいと思う。異論ある者は挙手せよ!」


 誰も動かない。


「次に、賛同し、ヴィストルティなる者たちに目にもの見せてやる者は挙手せよ!」


 全員がものの見事に挙手した。


 理由はどうあれ、ようやく貴族たちもミーシャに協力することを決めた。


 時間は掛かったが、ここに来てファーレント王国は一つとなった。




 ーーーーーーー




 屋敷の上では今後の方針を聞いて、笑みを浮かべる者たちがいた。


「どうやら上手くいったみたいです」


「まぁ、そうするしかないわな。そうしなければただの愚か者の集まりだ」


 先程貴族たちの前に姿を現したハクアと、ミカヅキと同年代に見える少年。二人は驚くべきことに、屋敷の屋根に乗っているのではなく屋根の上に浮いていた。


「これで終わりですね」


「ああ、戻ろうか」


 とハクアが提案すると少年は表情を変えてあることを尋ねた。


「リーダー。雷光の剣聖の襲撃の時に、どうしてフレイたちを介入させなかったんですか?」


 なんだそんなことか、と微笑みを返して答える。


「私はあのミカヅキ・ハヤミと言う者を知らない。それでどれ程の実力者か、どんな特有魔法(ランク)を使うのかを調べたかった。だから偵察に徹底させたんだよ」


 少年はそう言うことでしたか、と納得したようだった。


「リーダーが知らないってことは、前はいなかった(・・・・・)存在。そんな未知の存在と戦わせたくなかったと……」


 ハクアはふむふむと推理する少年を見て微笑んでいたが、頭の中では別のことを考えていた。


 ――アークって言ってたな。もっと詳しく調べてみなければわからんが、予測が正しいのであれば脅威だ。あの少年、警戒すべきのようだな。


「はた面倒な」


「どうかしましたか?」


「いや、何でもない。さて、今度こそ戻るぞ」


 はいっ、と少年が元気良く返事をした。

 ハクアがやれやれと言いたげな表情を浮かべてから、二人は上空に飛んでいき夜空の闇へと姿を消した。

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