三十一回目『その名は』
「――俺はあんたを……許さない」
今までのミカヅキからは想像も出来ないような殺気を放っていた。
それにはさすがのヴァスティも一滴の冷や汗を流す程だ。
「お前は誰だ……?」
紛れもない本心からの問い。相対する者は、先日殺し損ねて逃がしたガキではない何か。ミカヅキ・ハヤミと言う弱い腰抜けのはず。なのに今、自分の前に立ち、睨み付けてくるそれは明らかに違った。
――ヤバイものを呼び覚ましちまったか……?
雷光の剣聖がこうも考えてしまう何かを感じてならない。
「我に宿りし力よ、愚か者に裁きを下す神に等しき力よ、今ここにその力を我に示せ――創造の力」
だから彼はすぐに雷光の剣聖として、ミカヅキを弱いガキではなく、帝国に仇なす者として認識し直した。彼の判断は間違っていないと証明されるのは時間の問題だった。
気持ちを切り替えて眼前の敵に集中し、魔法の分析を始める。
確認のために彼は再びミカヅキに向けて、
「二本ならどうだ?」
『雷槍・ライトニング・レイ』を一気に二本放った。
速度も威力も先程までのものより強力になっている。
「……はぁ、無駄なのがわからないのか?」
手を前に翳した状態から横に振り払うように動かすと、こちらも先程と同じように当たる直前で消え去った。
だがヴァスティの狙いはそこではない。
「――フレア」
一本目が消え去り、二本目が消え去る前の一瞬を狙って雷槍を散らした。と言うより、檻のようにミカヅキを包もうとした。
「なるほど。なら――雷槍・ライトニング・レイ」
ヴァスティもさすがにこれには、目を見開いて驚きを隠せないでいた。
当然だ。
雷槍は彼の特有魔法を使って作り出したもの。他人がそんな簡単に作れるものではないのだ。
驚いた要因はこれともう一つある。
ミカヅキが雷槍を選んだ理由も想像がついたからだ。雷槍は周囲の電気すら己の糧として吸収する。つまり、檻になるべく広がった雷槍を自ら作った雷槍に吸収させたと言う訳だ。
かくいうヴァスティ自身も同じ電気を使う相手に使ったことがあるほどである。
たった三本放っただけで性質まで理解していることになる。
並の騎士でもここまでに到達するのは難しい。と言うより不可能に等しい。それをガキと扱っていたやつがやり遂げたのだから、驚きも比例していた。
「やるしかないな」
至極冷静に判断する。
時間をかけてはこちらの魔法を使われる可能性がある。ならばこれ以上の詮索は不要。
――すぐに終わらせる。
と考えているとヴァスティは何かを感じ取った。
それは自分に向かって放たれた雷槍が目の前まで迫っていたのである。
「電界!」
自身の前に電気の盾を作り出して雷槍を受け止めた。
途端に違和感に気づく。同じ電気から作られたもののはずなのに、二つは見事に拮抗し合い消えなかったのだ。
そしてよく見ると、雷槍の中には形ある本物の槍があった。本物の槍に雷槍を上から被せたと言うのか。
ヴァスティは何が起きているのかわからなくなった。
――ミカヅキは雷槍を作り出した。つまり転移などの移動系ではなく投影やコピーかそれに属する特有魔法。ならこの“槍”はどこから出てきた?
あいつが持っていたのは槍ではなく棍棒だったはず。
さっき殺した騎士団の中に槍を使っていた奴はいなかった。
「まさか――」
「創造する――雷槍・ライトニング・レイ」
両手を横に開いてミカヅキは、想像し、創造する。
言い終えると彼の左右に雷槍がそれぞれ五本ずつ作り出された。合計十本。先程、爆発を起こした雷槍がだ。
「造り出したのか!?」
そう……。
これこそがミカヅキ・ハヤミの二つ目の特有魔法。
その名も――創造の力。
名前の通り創造する魔法である。
目の前で恩師が殺された怒りにより発現した魔法。
「一本でそれなら、同時にこれだけの数をぶつけたらどうなるんだ?」
言い終わると同時に横に開いていた両手を前に突き出した。すると付き従うかのように、両側に展開していた雷槍がヴァスティ目掛けて飛んでいく。
「なめるなよ、ミカヅキィ! サンダー・ブースト」
電界で雷槍を防いでいたはずのヴァスティが姿を消した。なのにミカヅキは焦らずに後ろを振り向く。
そこには心臓を雷槍で貫かれたヴァスティが立っていた。
「ぐっ、ば、バカな……」
「俺は全部を飛ばしたなんて言ってない。あんたの負けだ」
そう言い残して後ろへと飛び退いた。
疑問に思ったヴァスティだったが、理由はすぐにわかった。
自分の周りに展開する無数の雷槍。これを一気にぶつけるのだと。
彼は考えた。この結果に結び付いた理由を。そして辿り着いた答えは簡単なもの。
――油断した。
ただただそれだけである。
本来、電気ならば雷すら吸収する『サンダー・ドライヴ』は、ミカヅキの雷槍にはなぜか無意味だった。
その上、逃げようにも体が動かない。理由は、体を貫いている雷槍から伸びる電気の紐のようなものが、地面に刺さる無数の小刀に繋がり、固定されて身動きが取れない状態になっていたからである。
「雷光の剣聖、こんなところで――」
「終わりだ……!」
その言葉には、静かだったが確かに、怒りが込められているのがわかるものだった。
開いた手を握り、拳を作ると、閉じられた指のように空中に漂っていた雷槍が中心に向かっていった。
あまりにも強い電力の集合により、中が見えなくなる程の電力のドームを作り上げた。
ミカヅキはこれで終わりだと思った。死体を確認する前に勝利と判断するのは、彼がまだ戦いの初心者であることを意味する。
しかし、忘れてはいけない。
彼が相手にしていたのは、天帝騎士団の中でもっとも強い部隊、天帝の使いの一人、雷光の剣聖――ヴァスティ・ドレイユ。
故に戦いは――まだ終わりではない。
「うおおおおおおおっ!」
心臓まで響いた雄叫びは、電気のドームの中から聞こえた。
ーーーーーーー
ミカヅキが新たな特有魔法を発現した時、そして雄叫びが聞こえたそれぞれのタイミングで、二人は各々の感じ方で何かが起きたと理解していた。
「どうやらあっちは大詰めらしいな」
「ヴァスティは簡単には殺られん」
レイディアは少し焦り始めていた。
ファーレント王国から二回感じた強力な魔力変動。一回目がミカヅキだとは確信していた。
だが、二回目の方は別人によるもの。つまりミカヅキの相手をしている人物と考えてまず間違いない。
新たな特有魔法が発現、ないし片鱗を見せるとは予想していた。だからミカヅキから魔力変動を感じた、まではよかった。
しかし、その勢いで一気に倒すことができなければ、戦い慣れしていない彼の方が不利になるのは火を見るより明らかだ。
故に二回目の魔力変動を感じたと言うことは、それができなかったことになる。
その後の展開を予想するのは難しくない。と言うより、レイディアにとっては瞬きより簡単だ。
確かに、ミカヅキがレイディアの予想を遥かに上回る程の強力な特有魔法を発現していれば話は別だが、そもそもそんな強力なら二回目の魔力変動は感じていないはずだ。
「考え事をしている余裕があるとはな!」
「くっ」
重たい一撃を刀で受けて押されるような形で後退った。
レイディアはなぜかここでミカヅキを死なせてはいけない気がしていた。だからすぐに向かいたい、なのに、目の前の騎士王はそれを許さない。
重ねて無理やりここから離脱することも出来ない。追跡されては戦略的にまずいのは火を見るより明らかだ――今はまだ。
「来たか」
レイディアとマリアンはほぼ同時に、自身の武器を同じ方角に振り払う。
すると二つの甲高い、キンッと言う音が耳に届いた。
「何者だ?」
「介入者さ。普段は厄介だが、今回は利用してやるぜ」
――これでなんとなく、奴らの行動原理がわかってきたな。
二人は武器を振り払った方向へと視線を移す。そこには黒いマントに身を包んだ人が三人立っていた。
マリアンは静かに横目でルビーの様子を探ると、答えは黒マントの方から返ってきた。
「あの娘には眠ってもらった」
そう答えた者は、声からして少年のようだった。
マリアンは少年以外の他二人は少女と青年だとすぐに見抜く。そして、青年がただ者ではないと言うことにも。青年は顔を隠すためか、目元に仮面を着けていた。
互いに考えていることはわかっていなかったが、レイディアも同じ事を見抜いていた。と同時にもう一つ別のことに疑問を持っていた。
「我々はヴィストルティ。この戦闘に介入させてもらう」
自分を警戒しているとわかったのだろう。青年自ら口を開いた。
「騎士王マリアンよ。こいつらの相手はお主に任せるわ」
「逃げる気か?」
この者たちから、そして、わたしから逃げられると思っているのか、と両方の意味を込めていることはわかった。
レイディアとて、伊達に“瞬速の参謀”と呼ばれていない。だからこそ戦略は既に考えてある。考えてあるのだが、やはり一つの気がかりが頭から離れない。
マリアンと二人して斬ったもの。地面に落ちたそれを見て驚いた。
それは間違いなく――銃弾だった。
この世界には無いはずのものだ。
正直、レイディアも拳銃が機械かと問われれば、わからないと答えるが、少なくともこの世界に存在しないものであることは確認していた。
と言うことは、この銃弾を放った者は、異世界人、またはその関係者。情報の少ないこちらは不利だと、参謀らしく引き際を決めた。
「私を誰だと思っているんだ、レイディア・オーディンだぞ。――神道・全」
自身の力に自信を持っていると言うより、ただ単純にネガティブに考えることをできるだけしないようにしている。それだけのこと。
簡単なことを成そうとする、これが彼なのだ。
マリアンを含め、この場にいた全員がレイディアの姿どころか気配すら見失った。
「さすがに速いな。これが本当の実力か」
レイディアが向かったであろう王国の方を見つめて呟いた。
次にマリアンは介入者に向き直す。
「マリアン……」
青年が噛み締めるように相対する騎士王の名を口にした。
名前を呼ばれた事がきっかけとなったのか、初めての接触のはずなのだが、マリアンは青年にどこか懐かしさと言うか、初めて会った感覚がしなかった。
「わたしは何処かで貴様と相対した事があるか?」
「ふっ……いや、あなたとは初めてだ」
少し含みのある返答だったが、マリアンはそれ以上は聞かなかった。話しても埒が明かないと判断したからだ。
長年の騎士としての勘とでも言うのだろうか。
青年から妙な違和感を、相対してからずっと感じていた。
「わたしはアインガルドス帝国天帝騎士団、天帝の使いが一人、騎士王――マリアン・K・イグルス。貴様の名を聞かせてもらいたいのだが?」
「ふん、騎士道なんぞはどうでも良いが、相手が騎士王とあれば少しは応じようか。先に仮面を外せないことを詫びよう。そして、我が名はハクア。ヴィストルティを率いし者。――この世界を変える者だ」
断言したからなのか、マリアンは感覚的にだが、決意と覚悟を感じざるを得なかった。
生半可な気持ちで、この男は自分の前に立っているわけではないと、謎の青年、もといハクアのそこは理解した。
「相手にとって不足無し。さぁ……油断せずに来れる者から来るが良い」
と言いながらも構えることはせず、ただ大剣を右手に持ったままハクアたちを見据えるだけだった。
「ハクアさん。ここは僕が行きます」
「いや、お前ら二人は――ふんっ、こっちの相手をしろ」
一歩前に出た少年の後ろで、剣をすぐに抜き去り、キンッと言う音を立てて何かを斬り落とした。
少年ともう一人は驚いて後ろを振り返る。
「なめるなよ、レイディア・オーディン!」
そこにはいつの間にか背後に移動していたレイディアが、ため息を突きながら刀を止められていた。
「お主以外は気づいてなかったようだが?」
レイディアはこの一撃で判断した。三人の力はまだ未知数だが、警戒すべきはやはりこの青年だけだと。
同時に今の隙に驚いた二人を攻撃しなかったのは、いかにもマリアンらしいとも思った。
「さぁて、面倒だがこちらを引き受けた以上、これも役目だろうて」
レイディアは相変わらず飄々とした態度で笑っていた。が、すぐに真面目なものに切り替えた。
「ならばわたしは己が相手に集中するとしよう」
それを見て、マリアンも自分の相手を定めた。
レイディアはこの時あることに気づいた。この言葉は、見逃してやる、と言っているのだと。
「私はレイディア・オーディンだ。そっちの二人は何と言うんだい?」
「「……」」
「あ、あらぁ……?」
笑顔で気さくに話しかけるも、警戒しているのか徹底しているのかわからないが、返ってきたのは沈黙だった。
さすがにため息を漏らした。
――名前すら教えてくれないのか……。さすがになんか寂しいねぇ。まぁ、介入者って存在である以上は仕方ないか。
「でだ、名も知らぬ少年と少女よ。さっさと逃げな。あの青年ならまだしも、主ら二人では私に傷一つ与えられんよ」
「……悪いが、甘く見ないでいただきたい。レイディアさん。僕たちの実力を見てから判断してください!」
少年の宣言を合図に、ヴィストルティの二人対レイディアの戦いが始まった。
――ファーストネーム、ねぇ。それに“さん”付けとはお優しいことで。ますます、放っておけなくなってきたな。謎の組織『ヴィストルティ』とは、いったい何が目的なのやら……。
だが、マリアンとハクアはまだ始めていない。
「良いのか、あの子ら二人だけで相手をさせて」
「そう簡単に殺られるなら、ここにはいないさ」
これ以上の忠告は不要と判断して、今度は大剣を構えた。
「レイディアとの戦いを邪魔した罪は重い。――覚悟するが良い」
静かに発せられているはずなのに、重くのし掛かるような重圧を感じた。
それでもハクアは引き下がらない。しっかりと相手を見て、何が起きても反応できるようにする。
お互いが武器を構え、睨み合い、斬りかかろうとしたまさにその瞬間。
「(皆の者、そこまでだ)」
その場にいた全員の頭に、渋く感じさせる男の低い声が響き、全員が動きを止めた。
レイディアはこの声に聞き覚えがあった。
「(我が名は、バルフィリア・グランデルト。天帝騎士団の団長である。まずは、騎士同士の戦に泥を塗ることを詫びよう。だが、これ以上の戦いを我々は望まない。故に、双方、剣を収めて退いていただきたいのだ)」
天帝騎士団団長――バルフィリア・グランデルト。
世界最大の騎士団を率いるトップ。
その顔を拝んだ者は、他国にはいないとされる男。理由は騎士団の後衛に位置していることもそうだが、もう一つは、魔法で調べても彼の正確な居場所が全くわからないからだ。
見た者は一人を除いた全員が殺されており、団長である彼の実力は未だ他国には知られていない。
レイディアやミルダも警戒している一人。
そんな男が頭の中に直接話してきたとなれば、さすがに身構えざるを得ない。
しかし例によって、目を動かして辺りを探ってもどこにいるかは全くわからない。
ちなみに、この声を頭の中に届ける魔法は、脳内言語伝達魔法と呼ばれる遠距離で話すことができる魔法だ。
レイディアは思う。
――いるな。……こりゃあ、戦う方が不利だ。
なぜなら彼は察していた。気配は無くとも、すぐそこにバルフィリア率いる天帝騎士団がいることを。
そんな中、最初に口を開いたのはハクアだった。
「戦闘が終わるのであれば、我々とて長居する必要は無い。撤退しよう」
と言い終わるとヴィストルティの三人は集まり、姿を消した。転移魔法を使ったと考えられる。
最後に残ったのはレイディアだ。
「あいつらはもう行ったんだ。姿を見せたらどうだ、バルフィリア。あと単刀直入に問おう――ソフィはどこだ?」
「――君は相変わらず偉そうだな」
景色の一部が歪み、その部分から一人の黒髪の若そうな男が現れた。
レイディアは顔を歪ませる。原因は景色の歪みが気持ち悪いと思ったからだ。
「天帝騎士団長バルフィリア……いや、こう呼ぶべきか?」
「よせ。それ以上言えばこの場で君を殺す」
このレイディアの正面に立つ、黒髪のショートカットのイケメンであろう顔の左側に大きな傷を刻んでいる美青年こそ、天帝騎士団団長のバルフィリア・グランデルト本人である。
ドラゴンの刺繍が入った特徴的な白いローブを、左半身を隠すように纏っており、肩の部分には天帝騎士団の紋章が刻まれていた。
他国では見た者がいないのも相まって、よく屈強でゴリゴリなイメージをされやすいが、当の本人はそんなにゴツくなく、予想を裏切るスラッとした見た目をしている。
レイディアも初めて見た時は意外だと思った程だ。
「おー怖い怖い」
二人はまるで友だち同士の雑談のように笑いながら普通に会話していた。天帝騎士団団長とエクシオル騎士団参謀の二人がだ。
冗談で返したが、内心はピクリとも笑っていなかった。これはレイディア自身、本気で殺られかねないと警戒している事実に他ならない。
マリアンも表情には出さなかったが正直驚いていた。バルフィリアとレイディアが顔見知りなのを彼は知らなかったからだ。と言っても、両国の関係者の誰が見ても、この光景は驚愕ものだろう。
この状況下でも、他は見逃すであろうことをマリアンは見逃さない。かの二人は見た目こそ会話しているだけなのだが、隙が全く無いのだ。つまりこれは、両者が今も臨戦態勢であることを意味する。
マリアンは一瞬の油断を取り戻すが如く、動きはしなかったが自分も同じように臨戦態勢に戻した。
ちなみにバルフィリアの顔を見たことがある他国者の唯一の生き残り。それは他の誰でもない――レイディアだ。
「相変わらずはお互い様だろ。まぁ、それは良い」
「姫君のことを教える気が無いなら、なぜ今回、天帝騎士団が動いたのか、だろ?」
一瞬、顔をピクつかせたがすぐにもとに戻して、その通りだ、とレイディアは頷く。
ドヤ顔のままバルフィリアは言葉を続けた。
「君のことだ、薄々気づいているんだろう。原因はあのミカヅキ・ハヤミとか言う異世界人だ。我らが帝王様はその少年を警戒している。どうやらミカヅキ少年が来てから“先映”が不安定らしい。その上、詳しくは教えられてないが、とにかくいずれ脅威になるんだってよ」
聞き終えたレイディアの表情は険しいものに変わっていた。
――幾つかの考えが頭の中に浮かんでは消えていく。
真っ先に思い浮かんだのは、予想通りだ、と、面倒な、の二言だ。
私もこの世界で平和に過ごすことは出来ないとは思っていた。だが、ここからは今までの戦いとは違う。
そう言いたいんだろ、帝王さんよぉ。
さすがの私も苛つくぜ。
なぜなら――
「――戦争だ。と、言う前に辿り着いていたみたいだが。全世界を巻き込んだ、世界戦争さ! 敗者は死に、勝者は生きる。単純なことだ、だろ?」
笑顔で、これから楽しい祭りでも始まるかのようにわくわくを込めて言う。
バルフィリアとレイディアの表情は見事に対照的だった。
「ふっ、全力で叩き潰してやる」
「楽しみにしてるよ。その時は、この傷の借りを返すことにするよ。――行くぞ、マリアン」
「了解しました」
二人は再び景色を歪ませると、まるで最初から誰もいなかったかのように姿と気配を消した。
レイディアは一度ゆっくりと深呼吸をする。
「すぅー、はぁー。さて、戻るとするか」
昂った気持ちを落ち着かせてから、ファーレント王国に戻るために歩き始めた。
彼がなぜここでバルフィリアと戦わなかったのか。簡単だ。
――勝てねぇ、な。
わかっていたからだ。今の自分では勝てないことを理解しているからだ。だからこそ団長なのだと彼は考えている。
「結局、最初から最後まで目を閉じてたけど、どうやって周りを見てるんだ?」
ふと思った疑問を口にして、端から見たらもとのレイディアに見えるが、内心は鉄をも溶かしてしまいそうな程に憤っていた。
その証拠に、彼が帰りに通った所は森にも関わらず、なぜか木がほとんど根本しか残っていない状態になっており、自ずと一本の道ができていたと言う……。




