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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第十一章 世界アルデ・ヴァラン
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百四十五回目『彼のもとへ』

 互いに力の限りを尽くした僕とセリスの二人に、もはや地面への落下を防ぐ手立ては無い。


 それでも彼らは大地との衝突は免れた。僕をミーシャが、セリスをレイがお姫様抱っこで落ちる前に見事に受け止めたからだ。


 逆じゃない?


 と思ったのは言うまでもない。まさかミーシャにお姫様抱っこをしてもらう羽目になるなんて……。


「バカッ! いっつも無茶するんだから」


「うっ……ごめん」


 泣きそうな顔。でも必死に泣くのを堪えている顔だ。

 泣かせないと誓った僕が原因になるなんて、皮肉にも程がある。


「すぐに傷の手当てをするから……って目の色が違う!」


「ん? ああ……あぐっだ、痛だだだだだ!!!」


 お姫様抱っこの精神的な衝撃で忘れていた、セリスに消し飛ばされた左腕の痛みを思い出して激痛に悶えかけて、ミーシャに迷惑をかけまいと必死に暴れたい身体を制御する代わりに声を目一杯出した。――うるさくてごめん。


 然り気無く目のことは誤魔化せてほっと一息。


 言葉通り回復魔法をかけながら地上に降りて、僕を地面に寝かせて本格的に治療を施してくれた。おかげで痛みはすぐに消えて、話せるくらいに回復した。だからこう言った。


「ミーシャ、セリスの傷も治してほしい」


 じとーっとした目をされたあとにため息をついて、


「ハァ……しょうがないわね」


 渋々ながらセリスにも回復魔法をかけてくれた。


 気付いたらセリスは子どもの姿に戻っていた。たぶん魔力で大人の姿を維持してて、倒されたことによってそれが解かれたんだと思う。


 なんだかんだ言いつつも優しいミーシャはたぶん、『ツンデレ』だと思う。今度教えてあげよう。――ちなみに後日実際に言ってみたら、三日間完全無視されることを僕はまだ知らない。


「!?」


 突然、世界の情報が頭に流れ込んできた。地震だったり地割れだったり竜巻だったりがあちこちで発生していた。


 さっきの僕の攻撃で世界の核が壊れたんだ!


 早く何とかしなくちゃいけない。このままじゃ世界が崩壊する。足に力を入れて立ち上がろうとしたその時、災害の全てがピタリと停止した。


 何がと確認する前に視界が真っ白になっていつの間にか帝国の玉座の間に移動していた。

 こっちもこっちでだいぶ大変だったのが部屋の状態を見ればすぐに理解できた。


「どうやら無事に終わったようだな」


 アイバルテイクさんが笑いかけてきたおかげで、戻ってきたことを改めて認識する。

 マリアンさんとバルフィリアさんも傷だらけだけど元気そうだ。笑いあって何かを話している。


 無事にセリス、ミーシャ、レイの三人も戻ってきたみたいだ。


「こんなことしてる場合じゃないっ、早くしないと世界が――」


「――壊れるってか? セリスとの勝負で頭をやられたとは……何とも嘆かわしいなぁシクシク」


 最後の方は完全な棒読みで微塵も悲しんでないでしょとツッコミたくなった。声がした方に文句の一つも言ってやるべく振り向いたら、言おうとした全ての言葉が消え去ってしまった。


「レイ……ディア?」


 誰もいない。空耳……にしてははっきりと聞こえたし、もしかして僕をまたからかっているのかと周囲を見渡してもやっぱりどこにもレイディアはいなかった。


 それは僕だけじゃないようで、みんなも辺りをキョロキョロとしていた。背中を向けて俯き気味のシルフィさん一人を除いては……。


「残念だったな、いくら探しても私はそこにはおらんよ。もはや動けん(・・・)のでな、代わりをそっちにやったから案ずることはない」


 手のひらサイズの一つの光の玉がふよふよと僕らの前に漂ってきて、ある程度の距離まで近付くと光を強くして姿を変えた。そう、透けるレイディアの姿に。


 まるで立体映像かホログラムみたいだと思った。


「お主らにはまずこの言葉を送ろう――お疲れさま。世界のためによく戦ってくれた心から感謝しよう」


「感謝って……レイディアがいたおかげだよ」


「おい、人の話は最後まで聞けい、阿呆が」


「うっ……ごめんなさい」


 素直に伝えたいことを言っただけなのに怒られてしまった。今の僕は借りてきた猫のようだろう……。


「世界を裏から操っていたセリスは倒れ、真の意味で歴史が紡がれ始める。お主らによって、な。それが勝者である人間(お主ら)の責務だ」


 勝った僕たちに背負う責任。

 確かに今まではセリスが頑張ってくれたおかげで何とかやってこれたんだ。『世界の記憶を記せし者(アカシックレコード)』のおかげで僕はそれを知っている。


「まぁ、そんな堅苦しく考える必要は無い。そうだろう、セリス?」


「え!?」


 僕たちは唐突に出てきた名前にバッと勢いよくミーシャの治療を受けるセリスの方を向いた。


 視線が集中して恥ずかしいのか気まずいのかばつが悪そうな顔をしながら一言。


「……やっぱり、ボクはキミが嫌いだよ」


「貴様になど好かれてたまるか。――で、そんな大嫌いな私に訊いておきたいことがあるのではないか?」


 ホログラム姿のレイディアは言いながらセリスへと歩み寄った。

 道中で僕たちみんなとスキンシップのような行動を取った。


 セリスは不機嫌そうな表情をするも、観念したのかため息をついてから素直に従った。


「ボクは……間違っていたのか?」


 セリスは問いかけた。

 他の誰でもない、唯一勝てないと判断したレイディアにだ。


 なんだか僕じゃないのが少し悔しく感じた。けど表に出しては男の恥だと思って微笑んだ。


 レイディアはセリスの気持ちを汲み取ったのか、まるで少しでも“対等”になるようにしゃがみこんだ。


「貴様の行いは間違いだ――などと誰が決めれよう。貴様は確かに多くの命を奪った……だが、人を愛する気持ちは決して偽りではなかった。貴様の行動の根幹には必ず“人間を守る”と言う信念があった。たとえ外道と蔑まれようとな。そんな決意を“間違い”だと否定することは私とてできん」


「……」


 セリスは何も言わずに噛み締めるように聞いていた。かくいう僕もその一人なんだけど……。最初の「間違いだ」を聞いた時は声が出そうなくらいすごくビックリしたのは僕だけの秘密にする。


 でもそんな紛らわしい言い方にいつも通りだなと思う辺り、慣れてしまっているのかな。


「それでもな、これだけは言える。貴様は今、思ったはずだ――他に方法があったのかもしれない。私の返答はつまりそう言うことだ。人が誰しも抱く感情を、貴様も抱くことができたんだ。善きことかは知らんが、悪いことではあるまい? 誰よりも人間を愛している貴様なら、な」


 ――意思の瞳には、人間と過ごした日々が走馬灯のように流れる。本当に長い歴史のたくさんの出来事が通りすぎていく。


「今のは……?」


 恐らくセリスの見ていたであろう光景が僕の中に流れ込んできた。これも『世界の記憶を記せし者』の力なのか?


 また今度考えようと首を振った。


 セリスの瞼がゆっくりと下ろされる。


 そして――、


「――ありがとう。嫌だけど感謝しておくよ。それと……ミカヅキ」


 名前を呼ばれて気付いたら僕は駆け寄っていた。

 スライディングじゃないかと言う勢いでレイディアと横にしゃがんだ。


「キミもありがとう。身に染みるくらい覚悟を見せてもらったよ。レイディアがさっき言ったように、これからはキミたち人間の歴史だ。ボクはそれをいつまでも見守るとするよ」


「うん、しっかり見てて。僕たちみんなで世界を変えるから、時間はかかるかもしれないけど……絶対にやり遂げてみせる」


 できるだけ思いが伝わるようにガッツポーズで宣言した。するもセリスは安心したようにゆっくりと瞼を閉じる。


「ミカヅキがいるなら安心、だなぁ……」


「……セリス? セリスっ!」


 嫌な予感がしてセリスの身体を揺すっても返事がない。これってまさかっ……と息を呑む僕をレイディアが止めた。


「安らかに休ませてやれ。少なくとも本人は(・・・)そう思って(・・・・・)いる(・・)のだから」


 含みのある言い方に首を思わず首を傾げてしまう。知っている。魔法なんて使わなくてもわかる。この言い方のレイディアには絶対何か企みがあると。


「何をする気?」


「既に済ませた」


「へ?」


「おいおい、そんな阿呆みたいな顔するな。……あ、もともとか」


 納得するレイディア。いや、納得しないでもらえるかな。さすがの僕も怒りたくなるんだけど。


「ちょっと、さっきから好き勝手言ってっ! ミカヅキのことをバカにしていいのは私だけなんだから」


 フォローはありがたいけど最後のは嬉しくない!


 僕は苦笑を浮かべているのだろう。


 そんなどうしようもない空気を壊すべくレイディアが企みを教えてくれた。


「ふっ、お熱いこって。セリスを存命させた、単にそれだけだ。どっかの阿呆が全力で向かってきたこやつに、阿呆真面目に全力で応えたからな。散々ほざいてきた信念が果たせなくなるかもしれないのにだ」


 何も言い返せなかった。

 あの時確かに全力を込めていたのは反論しようのない事実。


 落ち込む僕の頭にポンと手が乗せられた気がして顔をあげると、ホログラムレイディアが本当に僕の頭を撫でていた。


「それでもよくやった」


 ずるい。ずるいよ。そんなことされたら、泣きそうになるじゃないか。


 僕の気持ちなんて知ったことかと言わんばかりに、撫で終わるとアイバルテイクさんやレイ、バルフィリアさんとマリアンさんを集めて何かを話し始めた。


 理由はわからないけど普段なら絶対見られないであろう団長の方々の表情がコロコロ変わる様子をなんとなく眺めていた。


「セリスの様子は?」


「レイディアの言うとおり眠ってるだけみたい。時間はかかるかもしれないけど、じきに目を覚ますわ」


 レイディアのことを疑う訳じゃないけど一応確認しておいたけど無用な心配だったらしい。とりあえず一安心して胸を撫で下ろすのと、


「――レイディア!」


 レイディアの名前を呼ぶ大きな声が聞こえたのは同時で心臓が止まりそうになって焦った。視界の隅でシルフィさんが振り向いたのが見えた。


 何事かと団長会議の方に目をやると、ホログラムレイディアの姿が切れかれの電球のように明滅していた。


「どうやら、時間切れのようだ。伝えるべきことは伝えた。あとはお主ら次第だ。あとは頼んだぞ――」


 聴覚に全意識を集中させて耳をそばだててギリギリ聞こえたかと思いきやレイディアの姿は今度こそ完全に消えてしまった。


 複雑そうな表情、辛そうな悲しそうな表情。いろんな、でもどれも落ち込んでいるような表情を浮かべるレイたち。考えればすぐにわかる理由なのに、僕はどうしてそんな顔をしているのかわからなかった。……ううん、違う。わかろうとしなかった。わかりたくなかったから……。


 理解を拒む僕に一人の人物が声をかけた。


「――ミカヅキさん。お兄さまの居場所、わかりますか?」


 いつも優しい表情をしていたシルフィさんが、何も感情が読み取れない冷たい無表情で尋ねてきたのだ。


 僕は不思議と驚かずに落ち着いて返答した。


「うん、わかる。案内する。ミーシャも一緒でも良いかな?」


「はい、いいですよ」


 訳がわからないと言った顔をするミーシャに苦笑して、この場を離れる前に団長会議を邪魔するのは悪いけどレイを呼んだ。


「レイディアのところに行ってくる。だから、セリスをお願い」


「……わかった。こっちは任せろ、行ってこい」


 何か言いたそうな顔をしたかと思ったらすぐにニコッと笑顔になって承諾して見送ってくれた。「ありがとう」とちゃんと笑顔で伝えてから、僕はミーシャとシルフィさんと一緒にレイディアのもとへと転移した。

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