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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第十一章 世界アルデ・ヴァラン
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百四十二回目『お前に託す』

 大切な人(ユフィ)が守った人間を、長い年月をかけて観察してきた。みんながユフィのように素晴らしい心の持ち主なのだろう、と。


 だが少年の淡い期待は容易く屠られることとなった。

 人の負の一面を数多く、あまりにも多く見てしまった彼は疑問を抱いた。そう……抱いてしまった。


 ――本当に人間は守るべきなのだろうか?


 銃弾の込められていた銃が火を吹いた瞬間だった。


 放たれた弾丸は止まることなく進み続ける。弾丸の意思とは関係なく、何かに当たるか力を失うまで止まれない。


「なら障害物を用意するだけ。まさに見物だ。千年の時を経て歪んでしまった愛か、真っ直ぐで純粋(馬鹿)な信念か。どちらが勝つか非常に楽しみだ」


 未だに戦いが終わらない帝国の城の方を向いて、同盟側の作戦本部にて白髪の青年は呟く。


「私ってば、いつの間に待つ側になってしまったのかねぇ。待つのは大嫌いなんだが――」


 ピシッ。


 乾いた音が耳に届き、青年はいつもの如くため息をついた。音の原因は見なくてもとっくの昔に把握している。それが意味するのは、彼に残された時間はあまり長くないと言う避けられない事実。


「ったく、早くしないとふわぁぁあ……寝てしまうだろうが。ミカヅキなら止められるだろ。まぁ、止めてもらわなくては私が困るからな」


 欠伸をしながら彼は退屈そうに待っている。何故ならそうなるのを選択したから。――強い志を抱くミカヅキに託してみようと。


 もちろん参謀たるこの青年は、どのような状況でも対処できるように準備している。だとしても、早く結果を知りたいのは人としての好奇心と言うものだ。


 さすがに立っているのが面倒になったので、近くの丁度良い高さの石に腰掛けた。


 彼は――レイディア・D・オーディンは待っている。希望が輝く(未来を掴む)その瞬間を……。




 ーーーーーーー




 喜怒哀楽の感情が混ざったような表情でセリスは――。


「キミならわかってくれると思ったボクが甘かった。似ていた(・・・・)から、ボクの手を取ってくれるんだって。でもようやくわかった。似ているからこそキミは――」


 僕らの方を向く手に魔力が集まっているのがわかる。さっき城の天井を消し飛ばしたあの闇と同等の魔力だ。


 あんなものくらったらひとたまりどころか欠片も残らないのは考えなくてもわかる。

 だからって諦めたわけじゃない。思考を放棄せずにちゃんと頭を使っている。簡単な話だ、魔法が使えないなら魔法以外で何とかすればいい。


「……その()、こんな状況でも諦めないんだ。ミカヅキだけじゃなくて他の仲間たちまでもが同じ瞳をしてる。希望を掴み取ろうとする強い意思を宿した瞳」


「当たり前だよ、僕は宣言した……君を倒すと。迷ったり悩んだりするけど絶対に諦めない。気持ちから負けるなんて、僕の師匠は許してくれないだろうから」


「もしかしたらボクも……。名残惜しくないと言えば嘘になる。それでも脅威になるキミたちにはここで死んでもらう。――さようなら」


 最初の方が小声で聞き取れなかった言葉を最後に、セリスの手からついに闇は放たれた。


 諦めない。絶対に諦めてやるもんか!


 僕が拳を握りしめるのとマリアンさんが脱兎の如く僕たちの正面に移動し、聖剣を構えるのは同じタイミングだった。


 確かに光の一閃を目の当たりにした聖剣の力は今でもよくわからない。魔法のような別の何かのような釈然としないのが正直な感想だ。魔力は感じている。……いや、正しく言い表すなら魔力“みたいな”ものだ。


 セリスのことで頭がいっぱいだったから今まで気にしてなかったけど改めて考えてみると疑問ばかりが浮かんだ。


「ハァアッ!!」


 僕が神妙な面持ちで思考を巡らせている間に、マリアンさんは迫り来る闇に聖剣を振り下ろし、左右に分かれさせて僕たちを攻撃から守ってくれた。


「聖剣とは闇を断ち斬る剣だ。だが……長くは、()たんっ」


 言葉通り、少しずつ剣越しにマリアンさんが後ろへと押されていた。

 当たり前だ。あの威力の魔法を斬っているだけでもすごいのに、それを維持しているんだ。相当な力を受けているに違いない。


 でもこれではっきりした。聖剣の光は魔法じゃない。だけどわかったところで僕たちはここから動けないんじゃ何も始まらない。


「――名を呼べ。貴様が受け継いだ武器(覚悟)を!」


 ほぼ意味がなくなってしまった扉を破壊する音と同時に聞こえた言葉に促され、気づいたら僕は一番馴染んだとある名前を口にしていた。


創造せよ(来いっ)――竜聖棍イングリアス!」


 魔法は使えないなんて百も承知だ。なのに僕は名前を呼ぶのを迷わなかった。


 手を翳してその手に収まるものを待った。――そして、光と共に“それ”は僕の声に、思いに応えて創られた。


 オヤジから受け継いだ、僕の相棒だ。


「よし、成功したな。次は姫様、あなたの番だ」


 背中越しに聞こえた声だけで誰なのかわかった。間違いなく心強い味方だ。――アイバルテイク団長。


 どうして棍棒を創れたのかとか、どうしてここにいるのかとか、色々聞きたいことはあったけど、今はとりあえず指示に従う方を選んで身を引いた。


 恐らく僕と同じ疑問を抱いているであろうミーシャにも話があるらしい。


「無事でなにより……? そちらも色々あったようですね。それより、この状況を打開する方法があるのですか?」


 ミーシャが困惑気味の声に後ろを振り向きかけるも、


「また邪魔が増えた!」


 セリスがアイバルテイクさんを排除しようと急接近してきた。させてたまるか、と心の中で叫びながら間に割って入る。


「感謝する。あなたは本来なら魔法を行使できる、枷を外せばの話だが……まだ未熟なあなたが耐えられる保証はない」


「ミカヅキの……いえ、世界の民のためならなんだってするわ」


「わかった。ならば外そう」


 本心では止めたかった。守ると誓ったミーシャが危険な目に合うなら僕は止めるべきなのかもしれない。


 “枷”。それが何なのか、誰がそんなものを取り付けたのか。僕は知っている。この世界に来てからまだ日が浅い頃、ふとミーシャについての知識を得たときの話だ。


 ミーシャに施されたそれは『封印』だった。


 なら誰が?


 ――ミルダさんだ。封印魔法によって、『再生神』の力を最小限だけ行使できるように封印したらしい。神なんて呼ばれる存在の力の全てを甘んじてその身に受けたのならば幼いミーシャが耐えられるはずがないと判断したからだ。


 でも、ミーシャが自分の意志で決めた覚悟を邪魔するなんてできなかった。だから僕は僕にできることをやるんだ。

 そしてミーシャならもう大丈夫だよ。そう信じているから。


「まさかっ、アイバルテイク、貴様ァァ!!」


「お姫様を守るのは騎士の役目ってね」


「最善策はこれらしいな」


 怒りの叫びを上げるセリスを前に、僕の両隣にレイとヴァスティが剣を構えて寄り添ってくれた。


 マリアンさんはさっきの攻撃を防いだ影響で膝をついている。バルフィリアさんがついているからたぶん大丈夫だと思う。


「なっ、バカな! どうして棍棒が造られているんだ!?」


「僕自身もはっきりとはわからない。でも、これでやっと戦える」


 たとえ武器が無かったとしても僕はセリスを止めるために戦うことを選んだだろう。だから手に馴染む棍棒を握る感触に心地よささえ感じた。


 レイとヴァスティも一緒なら百人力だ。


 どこからでもかかってこいと構えていた僕らを前にして、セリスは後ろに下がって距離を取った。


「使いたくなかったのに……キミが悪いんだ」


 セリスの表情を見て寒気が身体を駆け巡る。


 なんだ、この嫌な感じは?


 全身が闇に包まれたような、まるで世界から孤立したかのような恐怖を僕は確かに感じたんだ。


「奴は何をする気だ」


 レイが険しい表情で呟いた。

 同感だ。それは何であれ、確実に僕たちにとって良くないことに違いない。


「――ッ! どうやら攻守交代みてぇだ」


 今度はヴァスティがニヤりと口角を上げると、何とも言えない感覚を味わった。

 ヴァスティの周りで電気がバチバチと弾け出したおかげで、すぐに何が起きたかを理解する。


「魔法が、使える!」


「理由はわからないが、そうみたいだな」


「穿てッ――雷槍・ライトニング・レイ!!」


 いち早く行動に出たヴァスティが、一切の躊躇なくセリスに雷槍を放った。空気の抵抗を突き抜けて一直線に進んだ。


 だけど、これで終わりにはならなかった。セリスを薄黒い球体のようなものが覆い、雷槍を取り込むように消滅させる。


 球体の中ではセリスの身体が闇に包まれていく。このまま放置するのは危険だと直感した。


「レイ!」


「わかってる。同時に行くぞ!」


「了解。創造の力――七聖棍(しちせいこん)


 僕の周りに七本の棍棒を造り出して展開させる。


 みんなの力を合わせた一撃を与えれば、いくらセリスの闇といえども吸収しきれないはずだ。――正直この時の僕は焦っていたのかもしれない。だから、僅かに見えた希望を前にして選択を誤ってしまったんだ。




 ーーーーーーー




 レイの剣を援護する形でミカヅキの棍棒が展開する。


「光と影が交わりし時、我が前に立ちはだかる壁を絶ち斬らん――光覇絶影閃!」


「――ダメ!!」


 突如シルフィの声が部屋を駆け抜けた。恐らく彼女はこの後何が起こるのかを察していたのだろう。


 だが時既に遅し。


 レイの剣が振り下ろされ、光と影の両方を帯びた斬撃がセリスへと放たれ、ミカヅキの造り出した棍棒も追従した。見事にセリスが籠もる球体に直撃。両断するかと思いかや、斬撃がぐにゃりと形を変えてまさかの球体に取り込まれた。


 あり得ない、と驚くのも束の間。


「だっ、うわっ!」


 ミカヅキが何者かに蹴飛ばされ床を転がる。体勢を立て直して犯人は誰なのかと確認した少年は思わず息を呑む。


 急に飛んできたミカヅキに視線を移し、違和感を感じて顔を上げると信じられない光景を目の当たりにした。


「ヴァス……ティ?」


 先ほどセリスの球体へと放った斬撃が、あろうことか先ほどまでミカヅキがいた場所に移動しており、そこにはヴァスティがいて――両断されていた。


「ヴァスティ!!」


 名前を叫んですぐさま駆け寄るミカヅキ。ひと目で理解できた。――この傷は助からない。


 それでも諦めるわけにはいかない。何故ならヴァスティは自分を助けてこうなってしまったんだから。ミカヅキは再びミルダに施したのと同じ方法を試そうとする。

 マリアンさんやバルフィリアさんの治療ができたんだ。今だってヴァスティを治せるはずだ。いや、必ず治してみせる。


 そう心の中で強く決意し、両手を翳す少年にヴァスティは最期の力を振り絞ってこう伝えた。


「なにを、してんだ……おめぇはよぉ……。お前には他に、やるべきことが……あるだろうがっ……」


「今はヴァスティを助けるのが、僕のやるべきことだよ!」


「ふざけんじゃねぇ……ふざんけんじゃねえよ!」


 もはや話をする行為など死を加速させるだけと知りながらも、ヴァスティは声を大にしてミカヅキを睨みつけた。


「見誤るな、ミカヅキ。お前はなにを誓った? お前はなにを守ると決めた? なんのために戦うと決意したんだ? 俺はそれを奪おうとした“敵”だ。そして……お前にはまだ、倒すと決めた相手がいるだろ」


「でもっ、でもっ……ヴァスティを僕を助けてくれたじゃないか! だからもう敵じゃないよっ!」


 ミカヅキは焦っているのか、理由は定かではないがヴァスティを治療できなかった。

「どうして治らないの!?」と声を荒くしてポタリポタリと涙を流しながら諭しを拒む少年の頬に優しく手を添えた。


「……報いを受けるときが来たんだ。助けるためとは言え、俺は……多くの命を奪った。その報いは、罪への罰は受けるべきなんだ。だがな、お前は俺とは違う。本当の意味で誰かを助けることができる……俺はそう信じれる」


 添えられた手を握りしめて泣き顔でしかと言葉を胸に刻む。


「だから……だから俺の夢を、お前に託す。ミカヅキ、お前ならどんな困難も乗り越えて……必ず成し遂げられる……。なにせ、お前は……おれ、のじま……ん、の――」


 ミカヅキの頬に添えられていた手から力がスッと抜けて、咄嗟に掴もうとするも歪んだ視界のせいでそれは叶わずバタリと床に落ちる。


 魔力で辛うじて生命を維持していたのだろうが、重症を負った状態でそんな無茶をすれば長くは保たない。それでもヴァスティは確かにミカヅキに伝えれた、託せたのだ。


 悔いはないとヴァスティの最期の表情は語っていた。




 ーーーーーーー




 目を開けると真っ白な空間にヴァスティは立っていた。ここが何処なのか不思議と彼は理解していた。これからどうするべきなのかも……。


「お待たせ」


 後ろを振り向いて、ずっと前からそこで待っていた“二人”に声をかける。誰なのか問うなど愚問以外の何者でもない。

 会ったことのない、会うはずだった(・・・・・・・)二人を見ると、とめどない感情が胸に溢れるのを感じた。


「心配しなくても大丈夫だって、あいつはまだ来ないから。俺がちゃんと助けたんだから来ても追い返すさ」


 してやったぜと口角を上げるヴァスティに微笑みを返す二人。

 今度は自分の番なのだと嬉しそうに彼も笑みを浮かべる。


「おっと、そういえば忘れ物があったんだ。二人は先に行っててくれ、すぐに追いつくからさ」


 ヴァスティの言葉に同意を示して頷く二人。


「少しは遅くなっていいのよ」


「そうだぞ。その分、ラブラブできるからな」


 どこか懐かしい声を聞いただけで目頭が熱くなる。こんな可能性もあったのだなと、ただその事実を確認できただけで彼にとっては充分だった。


 滴を頬から落として彼は二人に背中を向けた――。




 ーーーーーーー




 ヴァスティの死を目の当たりにして、レイは複雑な感情を抱いていた。自分の父親と多くの仲間を殺した張本人なのだから、彼の心情は当然だろう。


 だが彼は首を振った。――殴るのは俺が死んでから、あの世に行ってからでも遅くはない。その時は仲間たちとメッタメタにしてやる。


 物騒なことを胸中に抱いて気持ちを切り替え、セリスの様子を窺うべく視線を上げて彼は驚愕する。


「――誰だ?」


 球体は黒さを増してもう中は視認できない。それよりもだ、目を見張るものが別にあった。球体の上には見知らぬ男がミカヅキらを無表情で見下ろしていた。


 言うなれば男がそこにいるだけなのに、そこだけ世界から切り取ったような異質さを感じさせた。男の雰囲気は禍々しくはない、むしろその逆で凛として静か。しかしそれがより一層不気味さを増す要因となりやがて恐怖へと到達せしめた。


 男が何者なのか、答えは意外にあっさりと判明した。


「――セリス。どうしてヴァスティを殺した」


 倒すべき相手の名を口にするミカヅキの声は、男と同じ静けさを漂わせつつも確かな怒り秘めていた。


 名前を聞いてレイはハッとなる。落ち着いて魔力を感じ取ってみると、多少の変化はあれどセリスのもので間違いなかった。――やけがまわったのかな。


 我ながら自分の不甲斐なさに軽く落ち込むレイ。


「よくわかったな。貴様の団長殿は時間を要したと言うのに」


 子どもの姿の時とは打って変わって、大人の男性に相応しい低めの声でミカヅキに言葉を返す。


「僕が訊いているのは、ヴァスティをどうして殺したかだ!!」


「違うな、全く持って違う。殺したのは我ではない、貴様だミカヅキ。貴様が結果を焦りさえしなければ、ヴァスティは死ぬずに済んだのだ」


 的確にミカヅキの心を突く言葉で何も言い返せなかった。確かにセリスの言う通り少年は焦っていた。だとしても、自分ではなく他者が犠牲になってしまった事実に悔しと憤りを禁じ得ない。


 これが半ば八つ当たりなのだと重々承知の上だ。――ほんと、間違ってばっかりだ。


 己自身の選択に後悔しながら、混濁する頭の中をリセットするために深呼吸をした。


「すーぅ、はぁー。よしっ! 決着をつけよう、セリ――」


「まぁた一人で行こうとしてるんだから。協力って言葉を覚えるのをオススメするよ」


 力の開放が終わったミーシャが皮肉を言いながらミカヅキの隣に立つ。


 大丈夫なのかなどと心配の声をかけたい気持ちはあったがぐっと堪えるミカヅキ。この状況では野暮というものだと判断したのは正解のようで、実は密かに睨みつける準備をしていたミーシャだった。


 横目でチラリと確認すると、城で暴走状態だった時と同じ姿をしており若干ドキリとしつつも堂々とした表情をしているので胸を撫でおろす。


「姫さんに同意だな。ヴァスティ(あいつ)の仇討ちなんてまっぴらごめんだが、俺たちはお前さんを倒すぜ」


 レイも吹っ切れたような清々しさを感じさせる声を聞かせる。最後は声をあえて低くして強調させた。


 そんな三人を見て大人の姿となったセリスは口角を上げた。


「本当に群れるのが好きだな。だが我の『何処にも在らず(ロスト・エレメンツ)』を無力化したことは褒めてやろう。いや、貴様らではなく、あの参謀を褒めるべきかな?」


 実は城に入る直前にレイディアがミカヅキたちに撃ち込んだ弾丸の効果の中に、一定時間受け続けた魔法の効果を無力化すると言うものも含まれていた。時間はかかってしまいながらも、そのおかけでミカヅキとレイは魔法を行使が可能となったのである。


「さて、こちらとしてもそろそろ決着をつけたいところだが、ここでは邪魔者が多い。場所を変えよう。聞こえているのだろう、レイディア・D・オーディン。貴様の策に我が自ら乗ってやる」


 ミカヅキたち三人から視線を外してバルフィリアやアイバルテイクらを見渡してから正面を向いてレイディアの名を呼んだ。


 ほどなくしてレイディアの声が何処からともなく届けられた。


「(なるほど、やはり知性も向上したわけだ。良いだろう、最後の戦いの舞台に案内しよう)」


 レイディアがそう言うとミカヅキとミーシャにレイ、そしてセリスの足下に魔法陣が展開する。それが光り思わず顔を覆い、次に彼らが目を開けた時には既に転移は完了していた。


 彼らが転移したそこは、三大国の中心に位置する森だった。

 だが何かが違うとミーシャは思い、答えはまさかのセリスが語った。


「世界から隔絶された空間。それもこれほどの大きさは、容易に作れるものではない。方法はわからないが……大したものだ、思わず称賛してしまうほどに」


「ここが決着の舞台」


「やはり我が考えは間違っていなかった。一番警戒すべきはあの男で間違いなかった。疑問なのは自ら戦えばいいものを、なぜ貴様らに戦わせるのか」


 ミカヅキは思わず口角を上げた。そんなのは決まっているじゃないか。どんな思惑や作戦があるにせよ、レイディアがこの場面を用意したのはミカヅキたちを信用しているからだ。


 故に彼らは応えるのだ。自分たちを信じてくれた者への信頼に。


「ミーシャ、レイ。僕に力を貸してほしい。一緒にセリスを倒そう!」


 一人では弱いかもしれない。でも三人ならば、届くかもしれない。高い高い空であろうと、その先まで行けるかもしれないのだから――。

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