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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第十一章 世界アルデ・ヴァラン
142/151

百三十八回目『ミカヅキ・ハヤミ』

 これは僕が闇に呑まれてから、愛のビンタによって目覚めるまでの出来事である。



 気がついたら見知らぬ場所にいた。

 いや、知らなくなんてない。今までも何度か訪れたことがある場所だ。


 ――何も無い、ただ延々と色が存在しない白い世界。


 そこには、見たことが無い三人の人物と、もう一人がいた。


「キミが今の(・・)……なかなか面白いですね」


 白衣を着た医者のような男の人。穏やかと言う文字が擬人化した、そんな印象を持つ人だった。とりあえず白衣の人と呼ぼう。


「うむ、貴殿が言うのなら間違いないのでしょう」


 豪華だけど、どこか昔の装いをしている男の人。微笑んでいるけど、何故か目を閉じている。この人は……うん、微笑みの人だな。


「我は認めん。こんな矮小な人間など!」


 背中に黒い翼が六枚ある男の人?

 て、天使?

 んーでも、翼が黒いから堕天使かな……?


 前の二人もそうだけど、三人とも砂浜みたいに肌が白くて男の僕でも見惚れてしまいそうなほどの美形(イケメン)だ。

 一般人な僕がなんだかひもじくなってしまう。


 もとの世界なら有名人になっているんだろう、なんて考えてしまうほどに。


「良いではないですか。キミだって最初(・・)ではないのでしょう?」


 と白衣の人。


「燃やすぞ、貴様」


 と、手に黒い炎を灯しながら眉を潜めるてん……堕天使……さん。


「心を穏やかに、ですよ」


 二人を宥める微笑みの人。

 見た目から一番年上はこの人だろう。まぁ、見かけで人を判断するな、って良く言うけどさすがにね。


「じゃあ僕はそろそろ……」


 三人に共通するものに僕は耐えきれずに退却しようとした。けど、素直に返してくれるはずもなく……。


「貴様、話は最後まで聞け!」


「は、はいぃ!」


 思わず返事しちゃったけど、誰なんだろうこの人たちは。

 初めて見る人たち……いや、そうじゃない。いや初めてなんだけど、声は聞いたことがある。


 堕天使さんの声を、僕は聞いたことがあるんだ。


「あの、堕天使、さん?」


「「あ」」


 呼んだ堕天使さんじゃない二人が明らかに“それだけは言っちゃいけないよ”の表情で、ものの見事に同時に声を漏らした。


 え?

 ヤバイ?

 まずいこと言っちゃった!?


 冷や汗が頬を伝う感触があった。


「貴様ァ……まあ良い。我が何者かわかるか?」


 僕より早く二人が安堵の息を漏らす。

 さっきの反応もそうだけど、たぶん僕がするべきなんじゃないかと……って言ってる場合じゃないな。


 何者かぁ……。翼があるから天使。でも翼が黒いから堕天使。うん、やっぱりそうだよ、間違ってないよ。


 自分の中で納得のいく結論を出して何度か頷いてから堂々と胸を張って言った。


「堕天使です」


「はあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 返ってきたのは盛大なため息。ほんと、あのため息魔のレイディアのより凄かった。

 堕天使さんは腰に手をやり項垂れてしまった。普通は黒く綺麗な翼と来たら堕天使しか思い付かないと思うんだけどなー。


 今度帰ったらみんなに聞いてみよう。……堕天使ってみんな知ってるのかな……?


「違うんですか?」


「我の聞き方が悪いのか。ならば、誰だかわかるか?」


「わかりません」


 即答した。だって本当のことだし。こういう場合は大抵変に考えたり嘘をついたりしちゃいけないってこの世界に来て学んだし。

 数々の学びが頭を過った。自分でもわかる、思わず苦い表情になってしまっている。


 僕の即答は予想していなかったのか、三人とも呆気に取られている。と言うかたぶん呆れられている気がする。


「姿は二人も含めて見たことがありません。でも、あなたの声だけは聞いたことがある気がします」


 こういう空間はもとの世界なら空想や幻想の類いとして、頭がおかしい人扱いされる。

 今見ているものは記憶の欠片で、頭の中のどこかに隠されていたりする願望だったり……いわゆる現実じゃないものと判断されただろう。


 だけどこの世界じゃ考えは違う。現実の可能性があるのだ。


 ――だから僕は確かめなくちゃいけない。そんな気がした。


「僕は――ミカヅキ・ハヤミです。あなた方の名前を教えていただきたい」


 堕天使さん……じゃない人なのかわからない方が苦笑して残念そうに、


「残念だが、まだその時では無い。故にこれだけは教えてやろう。我々は貴様であり、貴様は我々である。この意味がわかるか?」


 僕の目をまっすぐと見据えて訊いてきた。全身が金縛りにでもあったのかと思うほど動かなくなる。


 二人とは全く違う鋭い眼差し。睨まれただけで殺されそうな目力だった。眼力かな?


 ともかく僕を見据える紫色の瞳を覗きながらそんな感想を抱きつつ、問いの真意を考える。

 三人とも僕で、僕は三人だっていきなり言われてもなぁ……。


 もしかして――。


「まったくもって遅い。ようやく入り口に至ったようだ」


「良いではありませんか。そう言った鈍さも若さの特権です」


「私としてはもう少し教えてあげても良いと考えます。何せ彼には私たちと違って最初の記憶(・・・・・)が無いのですから」


 やっぱりそうだ。今の言葉ではっきりとわかった。この人たちは僕の前世なんだ。どこの誰か全くわからないけど、普通の人たちじゃない。もしかして歴史上の偉人とか?

 僕ってそんな凄い人たちの転生した先ってこと?


 なんだろう、ちょっとテンション上がってきた。


 でも何か大切なことを忘れている気がする。とても大切なことを、やらなきゃいけないことがあるはずなんだ。だけど靄がかかったようにうまく思い出せない。


「貴様の言うことも一理ある。それに己の置かれた状況にも薄々勘づき始めているようだしな、少々急ぐとしよう。聞け、ミカヅキ」


「むぅ……んん……」


「ここで串刺しにしてやろうか。聞けと言っているのだっ、貴様の大切な人をその手で殺したいのか!」


 靄が一気に晴れる。


 ああそうだ。僕はセリスの攻撃を受けて真っ暗な中に閉じ込められて、それから……それからどうなったんだっけ?


 首を傾げる僕に鬼のような形相で堕天使さんが話してくれた。


「貴様は今、闇の魔法で悪意が全面に出た状態で暴れ、それを仲間たちが抑えている。このまま長引けば貴様らは全員死ぬだろう」


「じゃ、じゃあ早く戻らなきゃ――」


「最後まで聞けと何度言わせるか。ここで貴様を死なせる訳にはいかない。故に貴様だけを助けることは容易だが、皆もとなると難しい。中途半端な精神(覚悟)では消え去るだろう。さて、どうする? ミカヅキ・ハヤミよ」


 答えなんてこの世界に来て、ミーシャを守ると誓ったその時に出している。だからそんな自分の気持ちを真っ直ぐぶつけるために、怖くても僕は堕天使さんの目を真っ直ぐと見つめて返答した。


「決まってます。僕はミーシャを、みんなを守ります」


「つまらん」


 え、そんなことを言われてもこれが僕の本心なんですが、この場合僕はどうすれば良いんでしょうか。

 予想もしてなかった言葉にあたふたしてしまう僕を見て白衣の人がクスッと笑った。


「大丈夫落ち着いて、キミは合格ですよ」


 白衣の人が優しく教えてくれた。緊張していたからなのか、その言葉を聞いてドッと疲れが押し寄せてきた。

 そう言えばずっと戦ってばっかりだもんな、いくら稽古したからって疲れないわけじゃないしこうなるのも仕方ないよね。


「これからキミがすべき行動はわたしが説明します。キミは今からキミを覆う闇から抜け出してもらいます。たったそれだけ、至極単純です……が、簡単ではありません」


 白衣の人が言うには、闇はセリスの負の感情も込められているため、怒りや憎悪などの中を僕は通り抜けなくちゃいけないらしい。例えるなら竜巻に生身で挑むようなものだと。


 もし負の感情に心が呑まれてしまったら、僕は永遠に闇の中を彷徨うのが確定する。


「やってみせます。必ず僕はみんなのもとへ帰ります!」


「ええ、その意気です。ではまたお会いできる日を楽しみにしていますよ――」


 手を振る白衣の人と、他の二人がどんどん遠くなっていく。合図も無しのいきなりの出来事に思考が追いつかない。まるで何かに吸い込まれるように移動し、気付いた時には僕一人だけになっていた。


 何処までも暗闇の中。地面は見えないけど、どうやら歩けるみたいだ。

 行く宛もないから真っ直ぐ進むことにした。実際は進んでいるのかどうかすら怪しい。だって前後左右上下の感覚が全く無いんだもの。本当にここには何もない。


 だけどこの方向で間違いないと既に知っているかのように確信していた。


「聞こえるかい?」


「はいぃっ!?」


 突然どこからか声が聞こえてビックリしてしまった。おかげで二度は出せない変な声も出たし……。でもこの声は白衣の人のものだ。


 いったいどこにいるんだと周りをキョロキョロしても相変わらず何も見えない。


「残念だけど、探してもわたしはそこにはいませんよ。それにしても良い反応でした、まるで子猫のような」


「猫を知っているんですか?」


 ふと気になって訊いてみた。答えが返ってくるかどうかわからないけど、訊くだけならタダだろうし。すると意外にも求めていたものはあっさりと手に入れられる。


「ええ、もちろん知っています。あなたと同じ世界の住人ですから。そういえば名前を言ってませんでしたね、わたしは――テオフラストス・フォン・ホーエンハイム。錬金術師パラケルススの方がわかりやすいですか」


 今さらっと凄いことを聞いたような……。


 錬金術師パラケルスス――たしか内容は覚えてないけど三原質を見つけたり、錬金術、後に化学と呼ばれるようになったものの医療への転用などの業績を残した人物。


 歴史の授業で習ったことがこんなところで役に立つなんて、学校の勉強ってやっぱり凄いな!


 うんうんと僕は頷いて感心した。


「一応言っておきますが、わたしは偉人でも何でもありません。偶然名を残せただけに過ぎません。他のお二方の偉業に比べれば足元にも及ばないのです」


 寂しい。そんな一言が頭に浮かんだ。


「……ご謙遜を、なんて僕には言えませんが、少なくとも人々が歴史に残すべきだと判断したからこそホーエンハイムさんの名前は後世に伝えられているのだと思います。僕も本当に凄い人だなって尊敬しますし」


「……フフ。キミは不思議なお人です。キミに言われると本当にそう思えてきます。未来に生きる人だからでしょうか……と、お話はここまでのようです、目的地が見えてきました」


 白衣の人――もといホーエンハイムさんが言う通り、進む先に何かどす黒い球体が浮かんでいた。


「あれは……?」


 禍々しい雰囲気を漂わせる球体を見ると足が自然と動きを止めた。正直、これ以上進みたくない。


「感じたようですね。恐れるのも無理はありません。あれはセリスの心の一端です。キミはあれをどうしますか?」


「ど、どうすると言われましても……」


「壊すか、取り込むか、見て見ぬふりをするか。選択肢はたくさんある。だが選ぶのはキミだ、ミカヅキ・ハヤミ」


「壊すなんて……うぅむ。僕は――」


 恐怖しながらも球体の目の前まで歩みより、僕は無数に広がる可能性、つまり選択肢の中から一つを選んだ。後悔しないように今の僕のできる最善の選択をした。


 ――あぁ、そうか、だから選んだんだね。


 怒り、憎悪、恨み、負の感情一色の中で僕は見たんだ。セリスの心を、本心を僕は見たんだ。




 ーーーーーーー




 ポタリ。


 何だろう?


 ポタリ、ポタリ。


 何かが……。


 ポタリ、ポタリ、へシッ。


 頬に温かい感触を感じて、いつの間にか閉じられていた瞼をゆっくりと上げる。


 暗い中にいたせいか、目を開けるのに時間がかかった。するとそこには涙を瞳を揺らすミーシャの顔があった。――また心配かけちゃったな。


 でもこの状況で目を覚ますと中々大変なことになるんじゃ……と思って策を考えていたらある人物がまさかの発言をした。


「おやー、寝た振りは良くないのではないかなー?」


 やりやがった、やりやがりましたよ、この声は聞き間違えるはずがない――レイディアだ。本当ならもう少し時間を稼ごうと思っていたけど仕方ない。


 罪悪感とか申し訳なさから逃げるわけにはいかないもんね。


 泣いてほしくなくて、どうにか安心させたくて、手に力を入れて頬を伝う涙をそっと拭う。


「――泣か……ないで、ミーシャ。僕は……大丈夫、だよ……?」


「み、み、ミカ、ヅキ……ミカヅキ!」


 更に強く泣きながら抱きしめられる。だから僕も抱きしめ返すけど、身体に思うように力が入らず添えるようになってしまう。


「見せつけてくれるぜまったくよ。その様子だと話せたみたいだな」


 ミーシャに抱きしめられながら返答した。


「うん。って、レイディアが何で知ってるの?」


「んー、まぁ気が向いたら教えるわ。それで、名前はなのってもらえたか?」


「えっと一人だけ聞けたよ、テオフラストス・ホーエンハイム」


「ほぉ、あのパラケルススか。となると残りはあの二人か」


 いつもの一人言が始まったけど、口振りからして他の二人のことも知っているみたいだ。うぅむ、聞いて良いものか、堕天使の人には「まだその時ではない」みたいに言われたし、でも好奇心には簡単には抗えないし。


 頭を抱えて唸る僕を不思議そうな眼差しで見つめるミーシャ。我に返って気を失っていた間の出来事を話した。そこでレイとヴァスティの無事な姿が見れて胸を撫で下ろした。


 二人からは「次操られたら迷わず斬る」とものの見事なハモりを睨まれながら突きつけられました。

 二度と操られないようにしようと心に誓った。



 ――話が終わり、ずっと気になっていたことがあったので聞いてみた。


「ねぇ、セリスはどこに行ったの? マリアンさんもいないみたいだけど……」


「ミカヅキは闇に呑まれてたから知らないのか。騎士王ならバルフィリア団長と次元の向こうでセリスと戦ってるはずだ」


「次元の、向こう」


 今度はレイが僕が闇に呑まれている間の出来事を説明してくれた。訳のわからない誰かが僕を助けたければ早くした方が良いと忠告されたことも。


 たぶんその“誰か”は、あの堕天使さんだと思う。何となくだけどわかるんだ――話し方とか雰囲気とかまるっきりあの堕天使さんじゃん!


 と、一人でボケとツッコミを心の中で繰り広げているとレイディアが口を開いた。


「ミカヅキ。軽くだが、ここでお主の正体について説明しておこう」


「ミカヅキの正体?」


「実は魔物だったりしてな」


「貴様らやかましい。簡潔に言うと、魔法が使える何処にでもいるような単なる人間だ」


 凄い前フリのわりに凄く反応に困る言葉が出てきたんだけど、みんなも「え、それが正体?」みたいな顔になってるんですけど!


 気にせず話を続けるのはさすがレイディアだよ。


「ただ、お主自身はごく平凡な一般人だとしても、お主の前世(・・)はそうじゃない。ミカヅキ・ハヤミは結果として特殊な力を持たない人間になったに過ぎない、がそれ故に今までの数多の可能性(前世)の終着点であり――到達点だ」


 何を言いたいのか全くわからない。いつもよりかは言葉自体はそんなに難しくないんだけど、前世が何に繋がるのかが全くわからないんだよなぁ。


 今僕はいったいどんな顔をしているのか鏡で見てみたいよ。周りが凄い顔をしてるから……。ただ一人を除いて。


「お兄さま、つまりミカヅキさんはいずれ……」


「ああ、いつかは行使できるようになるだろう」


「いったい何が行使できるようになるの?」


 レイディアは僕の質問に不思議そうな表情を浮かべたかと思ったらくいっと口角を上げて答えてくれた。


「前世の者たちの力さ。まぁその者たちの代表が、あの三人ってことよ。とにかく可能性の塊ってのがミカヅキの正体、どうだ驚いただろう」


「驚きすぎて実感があまりないよ」


「だろうよ。ミカヅキは普通だからな」


 レイディアはそう言いながら僕の腕時計に目をやった。


 そういえばあんなに戦ったのに外れたり壊れたりしてないなんて、本当にこの時計って何なんだろう?


「――いずれわかる」


「え?」


「その時がすぐにやって来る。と小難しそうな話をしたが最終的にはお主自身がどうしたいかが一番重要だ。あ、ちなみに一番最初の前世のお方の名前は――神官ダアト」


「神官……ダアト」


 その名前を聞いた時、口にした時、確かに僕の心臓は大きく脈打った。まるで待ちわびていたかのように。


「ん、どうやら長話し過ぎたようだ。――戻ってきたぞ」


 レイディアの表情が先ほどまでとは一転して真剣なものになったと思ったら、悪寒を感じて身体が震えそうになりそうな禍々しく恐ろしい魔力を感じた。


 そして、頭上を黒が通過したのを目の当たりにした直後、僕らは言葉を発することを忘れた。


 だって今、ついさっきまであったはずの天井が無くなっている。見上げると夜空を照らす綺麗な星々が見えた。


「次元の歪みを自ら作りやがった」


「団長と二人がかりでも……!」


 聞き覚えのある声が耳に届き、そちらに視線を向けると膝をつくバルフィリア団長さんとマリアンさんがいた。二人とも全身ボロボロで傷だらけだ。


「ミーシャ、僕たちで治療を」


「ええ!」


 二人の視線の先、そこには空中に開いた巨大な穴。たぶん、あの先が次元の向こう側なんだろう。なら中にいるのはバルフィリア団長さんとマリアンさん、あともう一人。


「――いやいや、人間にしては良くやった方だよ」


 穴から出てきたのは予想通り――セリスだった。


 目を疑ったのは二人がボロボロの傷だらけに対して、セリスは擦り傷程度しか負ってない。この世界の最強各の二人を同時に相手にしてあれだけの傷しか受けなかっただなんて信じられない。


「世界の意思と名乗るだけはある」


 レイディアが僕たちの前に立った。まるで僕たちを庇うように。


「キミ、まだ“生きてたんだ”。いや、でもボクの作戦は半分くらいは成功したみたいだ。だってそれ、本体(・・)じゃないもんね」


「一目でバレるか。いやはや、これはこれは面倒くさい」


「正直キミがボクにとって一番の課題だった。全力を出したとしても引き分けが良いところだったろうからね。だからキミの力を削ぐために色々と仕掛けさせてもらったよ」


 セリスの話を聞いて盛大なため息を返すレイディア。


「おかげでキミは力を消費して託すしかない状態となった。でも無理だと思うなぁ。だってキミ以外の人間にボクが負けるわけないじゃん」


「それはどうかな? 貴様は人間を甘く見ている。そのせいで貴様は敗北するのだよ」


「やれるものならやってみなよ。その前にうるさいキミには消えてもらおう」


 ヤバい――と僕が思ったときには既に遅し。レイディアはセリスの指先から伸びた黒い線に貫かれて煙のように消滅した。


「これでうるさいのはいなくなった。さあミカヅキ、ボクと遊ぼう。そして死んでくれ」


 これがこの戦争の最後の戦いだ。僕たちが負ければセリスの野望が現実となる。それだけは絶対に阻止しなくちゃいけないんだ。


 ちなみにレイディアは本当に無事だとシルフィ……さんが教えてくれた。別のやらなければいけないことがあるらしい。内容は聞けなかったけど……。


 駄目だ駄目だ集中しなきゃ!


 深呼吸して今は少しでもバルフィリア団長さんとマリアンさんを治すのと、セリスの攻撃に注意しないと。



 ――レイディアがこの時何をしていたのかを知るのは、この戦争が終わってからの話である。

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