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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第十章 アインガルドス帝国皇帝
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百十二回目『ともだち』

 レイディアの同盟側への撤退の指示が出たのは正直助かった。

 あのままだと心身共にまずかった気がする……レイとエインのだけど。


 なぜこんなことになったのかは言うまでもないけど、簡単に説明すると僕の右腕をミーシャが見たことがきっかけだった。

 再開して抱きついてきたまでは良かった。そのままのテンションで気付かなければ助かった……二人が。


 すっかり油断してた僕も悪かった。

 てっきり怪我をした僕が怒られると思っていた。だけど予想は外れ、一緒にいたレイとエインが標的になった。


「――どうしてミカヅキにこんな大ケガをさせたの!?」


 と、凄い顔だったらしい。宥めようとする僕も一喝で蚊帳の外へ追い出される始末。

 レイは何度か経験があるからか堂々としていた。だが、エインは訳もわからずミーシャにお怒りの対象となり、借りてきた猫のようになってしまった。次第に見てられないほどしおしおになりそうな頃合いで、レイディアからの指示があったと言うわけだ。



 そして、訳もわからない間に帝国を囲うように展開する結界の外に追い出された。いつ張られたのかすら検討がつかない結界の外にだ。

 そもそもだ、と前置きを置いて思考を始める。


 ――これほどの規模の転移魔法を、特有魔法無しでどうやって発動したんだ?

 レイディアの特有魔法は転移なんかじゃない。と言うか転移の欠片も無い。じゃあ、どうやって僕たちを……。


 考え事に集中してしまっていた僕は、ミーシャの声で我に返ることとなる。


「ねぇ、ミカヅキってば!」


「え、あ、なに、どうしたの?」


 言い淀むミーシャの視線を追うと、そこには見覚えのある少女が立っていた。


「シル、エット?」


 レイは意外そうな表情を浮かべ、エインは誰だと今にも訊きたそうだ。

 レイディアの妹として行動を共にしたこともある人物が彼女なのだ。唖然とする男たちを尻目にミーシャは首を傾げる。


 どうしてここにいるのか?


 付け加えるならどうやってここまで来たのかもだ。神王国にいたとしたら、前線に着くまでにそれなりの時間はかかる。などと当然の疑問を抱いた。


「ここにいるみなさまに伝言と、ミーシャちゃんに……えと、言っておかなきゃいけないことがあって……」


「レイディアからの……」


 さすがに彼らの視線には耐えきれないらしく、シルエットは俯き気味にそう言った。

 そんな彼女にいつものようにミーシャは微笑みを浮かべる。しっかりしていると思われがちでも、彼女にとってシルエットはおっちょこちょいな一面もある可愛い友人なのだろう。


 添い寝した時に何度も聞かせてくれた。ほぼ毎日……。


「大丈夫だった? ケガはない?」


「うん、大丈夫……ありがとう」


 ミーシャの後押しのおかげでシルエットはいつもの調子に戻り、僕たちに伝言を伝えた。

 誰からなのかは想像に難くない。皆もそれは察しているようで、先ほどより幾分か顔が引き締まって見える。


「あっ、えっと、伝言はお兄さまからです」


 言い忘れていたことにやっと気付いたのか、頬を赤らめながら付け加えた。


 彼女のふんわり、ほんわかとした雰囲気は、自然と気を張っていた僕たちの心に余裕を持たせた。

 両手で抱き締めるように持つ中身が無い鞘を持ってはいるが……。

 レイディアがいつも携えているものだと気付いた。


 しかし、不思議な感覚だった。まるで風鈴のように聞き手の心を落ち着かせる透き通る印象の声。


「これを聞いているのは、ミカヅキ、ミーシャ、レイに……エインってとこだろう。そうだ、レイよ。アルフォンスに伝えていないのはわざとだな?」


 なのに――ううん、そうじゃない。だから、が正しいかな。口調はレイディアのものなのに全く刺々しさも感じず、逆に川のせせらぎのように自然と耳に届けられる。

 心地よすぎて、僕たちはここが戦場だと言うことを、思わず忘れてしまいそうだった。


 が、レイディアはそれすら見据えてか、レイの名を指して行動を指摘した。案の定、不意を突かれた彼は「えぇ!?」と間抜けな声が出てしまう羽目になる。


 そのすっとんきょんな声のおかげでハッとなる。危ない危ないと首を何度か横に振った。

 端から見れば、猫じゃらしを目で追う猫たちのように、タイミングが合っていたのは意図してか、はたまた偶然なのか……。


「心配せずともあやつは貴様の考えを既に見抜いている。あえて何も言ってこないのだよ。とまぁ、前置きはさておきだ。ミカヅキと共にそこにいる者たちはどうせ、私のもとへ来ようとしてるんだろ?」


「バレてる……」


 レイ以外の全員が苦笑する。レイディアの推測通り図星らしい。


 彼らは確かめたいことがたくさんあった。その中でもやはり断トツで気になるのは、ソフィについてだ。気になってはいても、『脳内言語伝達魔法(テレパシー)』で訪ねるのもどうかと思い渋った結果、直接訊くしか無いと決意したのだった。


 恐らく僕たちの疑問は、レイディアの話を聞いたほぼ全ての者たちが抱いている。


 出過ぎた真似かもしれないが、少なくともミカヅキは自分で確認したないといけないと考える。

 何故かと問われても、彼には確立した理由はない。


 ――そうしなきゃいけない気がする。僕が、行かなくちゃいけないんだ。


 ミカヅキを突き動かすは何なのか、彼自身も理解していなかった。


 一息つき、シルエットは話を続ける。


「だがな、貴様ら全員の力でも私の結界は破れん。時には諦めることも必要だぞ、ミカヅキ。右腕が無い貴様が来たところで、無駄死にするだけだ。――伝言はこれで終わりです」


「……っ」


 唇を軽く噛み、握る拳に力を入れる。

 レイディアは彼の考えを、状態を見透かしている。故に包み隠さずにはっきりと言った。


「ミカヅキ……」


 ミーシャは静かに悔しがる僕の拳をそっと両手で包み込む。

 手はほのかに温かさを感じさせ、心を落ち着かせてくれる。


「大丈夫か、ミカヅキ」


 次にレイが肩に手を乗せて笑いかける。

 いつでも俺たちがいるからと心配してくれる。


「ちょっと、ボクより先に肩に手を置かないでもらえる。……でも、オーディンの言うことは正しいかもね」


「……うん」


 エインはなかなか胸に刺さることを言う。そんな彼を睨むミーシャとレイだったが、僕は頷きを返した。


「だけど、ううん。だからこそ、君はどうするのかな?」


「…………。行くよ、たとえ拒まれたって放っておけないもの。レイディアは僕の……僕たちの大切な仲間だから!」


 ミーシャ、レイ、エインは微笑みを浮かべる。


 そして一度大きく深呼吸をしてから顔を上げた。


「シルエット、レイディアからの伝言、伝えてくれてありがとう」


「いいえ。感謝なんて……」


 感謝の言葉に対して、鞘を持ちながらいえいえと両手を振るシルエット。


「でも、レイディアには悪いけど、僕たちは行くよ。だって、レイディア一人に背負わせる訳にはいかないもの」


「そうね、ミカヅキの言う通りよ。シルエット、私たちは結界を壊してでもレイディアのところに行く」


「だな。あいつは何でも一人で背負いやがる。時には俺たちを頼れっての」


「ボクはハヤミくんが行くなら行くまでだよ」


 ミーシャがサラッととんでもないことを口にしたが、それほどレイディアのことを心配している証拠だ。気にしないことにしよう。


 と、意気込んだところで、あることを思い出す。


「……そう言えば、シルエットはミーシャに話したいことがあるって言ってなかった?」


「あ…………ち、ちゃんと聞かなきゃだね、うん」


 言いながらミーシャに目配せする。すると、ミーシャは慌てたように胸を張る。

 これは忘れてたなぁ……。内容が内容だったし仕方ないと思うけどね。


 その様子に「ふふ」と笑い、シルエットに視線を移した。


「ありがとうございます。――ミーシャちゃん、ずっと言えなかったわたしの本当の名前を言うね」


 名を呼ばれたミーシャと共に、僕とレイも驚きを隠せなかった。エインだけ何のことやらと取り残されている状況である。


 ――シルエット・オーディン。

 彼女はずっとミーシャ、ないき僕たちに名乗っていた。本当の名前は別にあるのではないか、とミルダさんが見抜いたがその時は“まだ言えない”と頭を下げたらしい。


 ミルダさんは事情があるのだと察し、深くは追求しなかった。もちろんミーシャも同意した。


 こうして今まで言えなかった本当の名前を、ようやく彼女は口にする。

 主にミーシャに向けてのはずなのに、外野の僕もなんだか緊張してしまう。


「わたしの本当の名前は――シルフィ。シルフィ・エルティア・ファーレンブルク」


「それって……」


「まさかっ、しるえ……じゃなくて、シルフィのその名前は、ソフィの?」


 困惑に困惑を重ね、もはや何が何だかわからない。それを身を持って体現する僕とミーシャ。仲が良いと、行動まで同調するとは……。我ながら驚きである。嬉しいけども、レイの目が妙にニヤけている気がする。


 そして、レイは片目を閉じてやれやれポーズ。

 エインはお目目のパチクリを繰り返している。


 当然の反応だ。

 薄々気付いていたとは言え、ソフィ様に妹はいないとされている、更に両親も亡くなってしまった。つまり、もう肉親はいないと公言されていたのだ。


「黙っててごめんなさい!」


 ぶわっと音がしそうなほど勢い良く頭を下げるシルエット――もといシルフィ。


「でも待って……。じゃあ、レイディアはシルフィのお姉さんを――」


「ミーシャ!」


 最後まで言ってしまう前にさすがに止めた。名を呼ばれたことで自分が言おうとしていたことの内容にハッとなり、手を口で押さえる。


 シルフィは微笑みを浮かべ、「大丈夫です」と少し悲しげな雰囲気を醸し出した。少なくとも、ミーシャにはそう見えたのだ。


「先ほど、わたしがお兄さまにお会いした時、お兄さまの目の下は真っ赤に腫れていました。きっとたくさん泣いたのだと思います……」


 シルフィさんの言葉を聞いて、皆が目を伏せる。


 思い当たる節があった。

 レイディアが本当は、ソフィ様を殺したくなかったと心の奥底の叫びが聞こえた気がした。


 戦場にいる全員に発せられたレイディアの宣言。

 一年以上の時間を共に過ごした僕たちだけではなく、まだ会って間もないエインでさえも違和感を感じたくらいだ。


「あなたはレイディアを信じているのね、シルフィ」


「はい」


 ミーシャは再び俯き気味になるシルフィさんに微笑みを浮かべた。


 シルフィも気持ちに応えるべく微笑み返す。


「あと、私は全然気にしないからね。私はファーレント王国の王様よ。簡単には友だちを見捨てたりしないわ」


「……ありがとう、ミーシャちゃん」


 抱き締めてお互いの気持ちを確かめあう少女二人。変な意味ではなく、純粋な気持ちで微笑ましく思う。


 個人的にはシルフィさんのおかげで納得する案件があった。なぜシルエットのことを『知識を征す者(ノーブル・オーダー)』で知れなかった件だ。――本名じゃなかったから知れなかったのだ、と。


 しかし同時に疑問もまた増える。

 “シルフィ”さんについても知ることができない点だ。ソフィ様については知れたのに、レイディア同様知れない人物と言うことだろう。


 彼の特有魔法と言えど、知識を得ることができない人物が存在する。

 原因はまだわからない。


 それに人物に限った話ではないことも注目すべき部分だ。


 また今度にしよう、と途中で考えるのをやめた。

 首を何度か横に振り、気を取り直してシルフィさんに話しかけようと口を開いた途端、レイが横から割って入った。


「ソフィ様の妹君なら、俺たちは畏まった方がよろしいですか?」


「い、いえいえ、今まで通りで……できれば変わらず接していただけると嬉しいです」


「そうよ。シルフィはシルフィなんだから。ん……あ、じゃあ次の神王国の王様はシルフィになるの!?」


 レイに対してふんぞり返るミーシャは、とあることに気付くと先ほどまでの堂々とした態度は何処へやら、「どうなの!?」と戸惑いながら目を丸くした。


「まだ決まってないんだ。お姉さまもお兄さまも、ほとんどわたしには教えてくれないから……」


「よし、じゃあ確かめなきゃだね」


 シルフィの背中を押すように言う。


 ミーシャたちは僕の意見に賛同してくれているようで、各々うんうんと頷いた。


「なおさらレイディアを一人にはしておけない……けど」


「結界の中への入り方がわからない、と」


「うぐっ……その通り」


 せっかくの意気込みが弱まったところにエインが追い討ちをかけて、ガッツポーズで上げられた拳は徐々に地面との距離を縮める。


 何となくレイディアみたいた言葉の鋭さを感じる。たぶん、エインもドSなんだ、絶対そうだ。


「そこが難問だな。中の状況もわからないし、天帝の使いもまだ倒していないとなると……」


 僕たち一行が唸り悩む中、シルフィさんがおずおずと口を開いた。


「あの……、えと……」


 だけど、この時の僕は申し訳ないことに考えることに意識を集中させていたせいで、聞くことができなかった。加えてあることを閃いてしまったのだから本当に申し訳ない。


「ねぇ、シル……フィ。一つ訊きたいことがあるんだけど、良いかな?」


「は、はい、大丈夫です」


「その刀は、もしかして『闇夜月』なの?」


「はい、お兄さまの『闇夜月』です」


 ミーシャにどうして訪ねたのかと理由を訊かれたので、簡潔に説明した。


『闇夜月』――レイディアが持つ二振りの刀の内の一刀。夜でも見えるほど綺麗な刀身の『月光』が形あるものを全て斬れるのに対して、この刀は視認することすらできず、形のないものを全て斬る性質を持つ。


 レイディアから一度だけ教えてもらった刀の情報だった。

 もちろん全容ではないことくらいいくら僕でも理解している。けど、嘘はついていないと確信していた。


 形のないものを全て斬ることができるなら、魔力の塊みたいな存在の結界なら斬れるんじゃないか。


「レイディアって本当にすごいな。本人も強ければ、使う武器も強いってことか」


 レイが苦笑しながら呟いた。この場にいる皆が同じ気持ちだった。


 レイディアのことを知る度に、人間離れしていると思わざるを得ない。僕だって人間離れ、とまでは思わないけど、実力はたぶん同盟側でも一番だろう。


 それにレイディアは“無駄なことはしない”っていつも言ってたから、無意味なのにわざわざシルフィさんに渡すわけが無いのだ。


 だから率直に、かつ簡潔に尋ねた。


 すると、シルフィさんはニコッと微笑みを浮かべて、


「――ミカヅキ様、確かにこの刀なら、お兄さまの結界も断ち斬ることができます。ですが、申し訳ありません。この刀はお兄さま以外の方では、本来の能力を発揮することはできないんです」


「僕の棍棒みたいに、武器が主を認めないと駄目ってことか」


 一刀両断されて、二つに分かれてしまった棍棒を見つめる。


『龍改棍イングリス』は師匠であるオヤジも昔使ってて、言うなれば形見なんだけど、こんなにしてしまって怒られるかな。

 斬られた影響なのか、魔法を打ち消す能力も消えてしまった。


 でも、まだ武器としては使えるから、もう少しだけ付き合ってもらうよ。


「良い案だと思ったがなぁ」


 レイが聳え立つ巨大な結界を見ながら遠い目をする。


 単なる結界なら破壊すれば良いんだけど、“レイディアが用意した結界”となると話は全くの別物になる。


 再びお悩みの時間の到来だ。

 うーむ、本当にどうしたものか……。


「君は……シルフィと言ったか。もしかして君は知っているんじゃないか――結界の中への入り方を」


「……」


 エインがふと口を開き、気になったことを尋ねると、シルフィさんがここに来て初めて言い淀んだ。


 この反応……もしかして本当に知ってる?

 言おうとしない、じゃなくて言わないように止められてるのかも。

 無理やり聞くのは心が痛い。

 でも、ここで引き下がったら後悔する気がした。


 深く息を吸って全身に酸素を送り、気を引き締める。


 たぶん僕たちの中で、一番シルフィさんの心に言葉を届けることができるのはミーシャだ。


 思い立ったら即行動。耳打ちしようとしたけど、ミーシャが一歩前に踏み出したことによって実質躱わされる形になった。


「お願い、シルフィ。あなたほどではないかもしれないけど、私たちもレイディアのことを大切に思っているの。それに、ソフィのことにしても、理由が絶対にある。だってそうでしょ、レイディアはいつもみんなのためを思って行動しているもん。ね、ミカヅキ」


「えっ……こほん。うん、僕もミーシャと同じ気持ち。文句は良く言ってるけど、結局みんなのためになってるんだ。それってみんなのことを大切に思ってるからこそだよ。僕たちはいつも助けられてる。感謝しきれないほどにね」


 そうだよ。レイディアは私利私欲で行動するような人間じゃない。僕の親戚の人たちとは決して違うんだ。


 意を決したのか、シルフィさんは僕の目を見てから、ミーシャと目を合わせて言った。


「お兄さまが信頼するのも納得です。だからこそ、最後に確認させてください。あの結界の中で、みなさまが最初に対峙するのは恐らく、天帝騎士団団長――バルフィリア・グランデルト様でしょう」


「だね、ボクも同意見だよ」


 天帝騎士団団長の名前が出て、少し物怖じする僕たちを尻目にまさかのエインが話に乗っかった。


 よくよく考えれば自然なことだけど。だって元天帝騎士団員だし。

 じゃあ、知っていることがあるのではと思い訊こうとしたが、見事に先読みされた。


「残念だけど、団長がどんな戦い方をするのかは、天帝の十二士だったボクでもわからない。滅多に戦わないから」


「俺が聞いた噂では、あの騎士王が認めるほどだとか」


「うん、その通り。イグルス様は仰っていたよ。――全力のレイディアに勝てるのはこの世界で団長ただ一人だけだ、って」


「だけだ、ね。完全に言い切ってるな」


 僕はいったいどれだけ凄い人の背中を追いかけているのだろうか。うっ、頭が……。


「お兄さまは今頃、騎士王様と相対しています」


「バルフィリアがフリーってことか。ん? だとしても天帝騎士団員はまだかなりの数が残ってたから、突破するのは難しいぞ」


「レイ様、ご心配には及びません。数名を除いて、お兄さまが気絶させていますから」


「え? 気絶?」


 思わず聞き返してみたが、あのレイディアならやりかねないと納得してしまう自分がいる。


 たぶんレイも同じ気持ちなんだろう。複雑な表情をしつつも、何度か頷いた。渋々納得したんだろうなぁ……。


「と、とにかくっ、たとえどんな相手が待っていても、レイディアを見捨てる理由にはならないよ!」


「……覚悟は伝わりました。では、お兄さまのところへ行きましょう」


 シルフィさんがニコッと穏やかな笑みを浮かべる。

 木漏れ日のように、こちらの心を和ませる優しい微笑みだった。


 ちょっとドキッとしてしまったのを、ミーシャにバレないようにしないと……。


「みなさま、ミカヅキさんの近くに集まっていただけますか?」


 シルフィさんの指示で僕たちは身を寄せあうほどに集まった。

 それから手渡されたものは、この世界には存在しない銃の弾丸。


「これは!」


「お兄さまが用意されたものです」


 全部お見通しってことか。

 小さな弾丸を見ながら苦笑する。


 ――覚悟が無いなら来る必要はない、邪魔になるだけだ。って言ってそうだよ。


 期待に全力で答えてやるよ、レイディア!

 今から僕たちもレイディアのところに行くから。


 弾丸を握りしめて強く念じる。


 ――レイディアのもとへ!


 すると、手から弾丸の感触が無くなり、代わりに僕たちの足下に魔方陣が浮かび上がる。

 そして次の瞬間、僕たちの視界は白一色になり、魔方陣から空へと昇る光に包まれた。

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