百十回目『名前』
ファーレント王国並びにファーレンブルク神王国の二ヶ国同盟、アインガルドス帝国、更には世界中の国々がこぞって集う戦場。
様々な勢力が争う中、やはり戦う者たちは目の前の命の奪い合いに集中していた。
だが、戦場に立つ全ての者がピタリと手を止める出来事が起こる。
――否。
突然動かなくなったのだ。何も筋肉痛やら疲労やらの蓄積によるものではない。
思考は働くが、それ以外が働かないだけだ。とは言え、想像するとわかるだろうが、焦るには充分すぎる条件だ。
自分に降りかかった謎の現象に困惑する者たちに語りかける声があった。まるで雨のように、天からの捧げものの如く、彼らに動揺する隙を与えない何かを感じた。
「(戦場に出でし勇敢なる者たちよ、その耳を傾けよ。私はレイディア・D・オーディンである。貴様ら今、己が身を動かせないことに恐怖を感じているだろうか。何も心配することなど無い。全てはこの私が話を聞かせるためだけに行っているだけだからな、それが終われば自由になるさ)」
阿鼻叫喚……ではなく、罵倒の嵐を巻き起こしたい者たちだったが、何しろ口すら動かないのだから叫ぶことは叶わない。
自分たちがこうなっている理由はわかった。しかし原因まではわからない。予想もつかない。探ろうにも指一本、舌先一つ動かせない。詠唱もできない。つまり魔法も使えない。
今もし、攻撃されることがあれば、炎に投げ入れられた小枝のように軽く屠られてしまうことだろう。
こういった状況かで彼らが抵抗しなかった理由は三つある。
一つは身を任せたのである。
二つ目は機会を探るため。
そして最後の三つ目は――諦めたからだ。
彼らの身が浴びるは、魔力による奔流。
彼らが目の当たりにするは、一人の青年。
彼らが感じるは、全てを呑み込みし絶望。
この戦争が始まって、命を落とした者は千の単位を越え万に値する。それでも生き残った騎士たち、戦ってきた者たち――数にすれば五十万を越える数なれど、そのほぼ全てが抗うことを放棄する。
もし身体が動いたのならば半分以上が戦場を離脱していることだろう。
団長クラスの猛者たちは冷静に分析した。
なぜならそこに立つは人間の姿なれど、その者はもはや――人間にあらず。
強力な魔神族たちの長――『魔神王』として覚醒し、前線にて戦っていた最中に動けなくなったアイバルテイクでさえ、額に汗を浮かばせた。
「(私が仕えし主であり、ファーレンブルク神王国の現王――ソフィ・エルティア・ファーレンブルクは……私が殺した。よって、ファーレント王国と交わした同盟も無効となる。だが私は、このままでは神王国側の落ち度によるものと判断されてしまう。故に告げる。私と共に戦いし者たちよ、この戦争は、私が全て引き受ける。王を殺めた者としての落とし前を、こんな形でしかできない私を恨むが良い。なれど、ソフィが信じた者たちの命を、これ以上散らすわけにはいかんのだ)」
わがまま。
もしくは懇願か。
「(勝手だが私の話が終わると同時に転移魔法が発動し、帝国を囲う結界の外に転移する。さらばだ、我が王と共に戦いし者たちよ……感謝する)」
彼の者が話を終えた合図として、指を鳴らした瞬間、帝国陣営以外の者たち全ての視界が閃光に包まれる。
光が落ち着く頃合いには、転移は完了していた。
「これで私の魔力は尽きた……。今頃怒っているか、それとも――」
「貴様はこれで良かったのか?」
地に足をつけるレイディアの周りでは戦いに参加していた帝国の騎士たち、天帝騎士団員は意識を失いバタバタと倒れていく。
その中を迷いなく歩み、孤独な背中に語りかけるは最後の天帝の使い、騎士王――マリアン・K・イグルス。
「おや、私の心配をしてくれるとはさすがは騎士王だ。しかしな愚問だよ、マリアン。私はなぁ……もう止まれんのさ」
「そうか。ならば、わたしが直々に止めてやろう」
「決着をつけようか、騎士王」
「その申し出、受け入れた」
待ち望んでいたのか、どこか嬉しそうな雰囲気を纏いつつレイディアは体の正面を向ける。やはり苦笑してしまうのは仕方あるまい。
目だけ動かして周囲を見回すレイディア。天帝騎士団の者たちが気を失っているか否かを確かめるためだ。
本当はそんなことをする必要は無いのだが、バレるわけにはいかないと演技してみた。
「不要なことをしなくても良い。貴様の目については気付いている」
こうなることを察しつつもやってしまうのがレイディアである。
軽く相槌を打ち、心の中で密かに称賛する。倒された者たちの数を把握し、マリアンの方へ改めて意識を向けてため息をつく。
転移させたのは生存者だけでなく、死者も所属する国、または組織に行くようにしておいたのだ。
――あの数相手に息切れも無しかよ。
レイディアの心臓の鼓動が一度、大きく脈打つ。おやおや、と呟きながら左手を胸に添える。
――ったく、残された時間は僅かってことか。もう少しだ、もう少しだけ保ってくれれば良い。
マリアンは微かに目を細める。
以前戦った時にはあった右の空の鞘が無い。小細工無しの真剣勝負なのだと察した。
レイディアは腰に携える刀が納められた左の鞘を抜いて、居合いの構えを見せる。
対してマリアンは背中に携える身の丈ほどの大剣を軽々と持ち上げて体の正面に構える。
風が流れる音のみが聞こえる静寂の中、互いの視線が交錯する。
残された地面に刺さる一本の剣が倒れる。それが開始の合図となった。
ザッと地面を蹴る音が二つ鳴った、次の瞬間――二人の刃が交わる。構えていた時の距離は到底一歩で詰めれるようなものではなかったと言うのに、結果は見ての通りだ。
二人の間には派手な技など無い。そこにあるのは己が鍛え上げた純粋な“業”のみ。
聞こえるは二人の呼吸の音、金属同士が衝突する音、風を斬る音だけである。否。時折もう一つの音が追加される。それは、
「はあぁぁぁぁあ!!!」
「ふん!!」
雄叫びのような掛け声じみた声だ。
常人には見ることすら叶わない領域の戦い。
驚くべきは音が二人の刃の速度に置いていかれ始めているところだ。
一際大きい音が鳴り、二人は距離を取る。
息切れするレイディアに対し、依然として平静を保っているマリアン。
「こんなに斬り合ってるのに斬れないとは……使い手の力か、剣の力か、はたまた両方か。伊達にあの剣の仮の姿と同じなわけだ」
「やはり貴様は知っているのだな。この剣の名を」
「もちろんだとも。その名を覇者たる剣。この世界では我が身よ剣とならんと同等、あるいはそれ以上の剣」
レイディアの言う通り剣聖に選ばれた者が所持するソハヤノツルギと同等以上の力を持つとされる剣。だが、残念ながらこちらは伝承にも残されておらず、とある一家が古来より語り継いでいるのみである。
力と言っても魔法のような特殊なものではない。単に斬れ味が良く、決して錆びることが無いだけだ。
単純故に強力……と思われるが、実際は剣の大きさ、重さで扱いが非常に難しく、扱える者は過去にも存在しなかった。
そんな千年の歴史の中で誰一人として使いこなせず、持つことさえ許されなかった剣に選ばれた者が現れた。
その者こそが、金色の髪を風に靡かせ、同じ色の瞳を持つ者――マリアン・K・イグルスである。
対してレイディアの剣……いや、刀の名は月光。
彼がバンカー・D・バンダルトと言う偏屈な加治屋に作らせた特注品、形あるものなら何でも斬る一振り。
まさに矛盾の状態。
形は違えど、二本の刃。その斬れ味は、一瞬の気の迷いで死へと誘ってくれる。
「もう、迷いは無いようだ。以前とは気迫も、刃に乗る覚悟も違う」
「そりゃあ、嬉しいね。その余裕もここまでだけどな。ようやくこの戦い方にも慣れてきたところだ」
レイディアは目が見えていない。瞼を上げても下ろしても見えるのは暗闇だけだ。光を感じることさえできない。
ならどうやって戦ってきたのか。彼は魔力を自分の周囲に円形状に展開し、その範囲内の全ての動きを感じ取っていた。表情も、呼吸も、筋肉の躍動、風の軌道さえも。
だがレイディアの魔力は既に尽きている。展開するのは自分の魔力であるが故に、今の彼ではそれが不可能である。
しかし、このような緊急事態を想定しないほど瞬速の参謀たる彼は馬鹿ではない。打開策として、耳だけで対応する戦い方も準備してきたのだ。
そう。今のレイディアは、耳が捉える空気の振動。つまり――音だけで周囲の状況を把握し、騎士王と呼ばれるマリアンと相対しているのだ。
彼にとって予想外なことがあった。それは耳に意識のほとんどを集中させることによる身体的疲労。
これが原因で、肩で呼吸をするレイディアと、平然とするマリアンの構図が完成してしまったわけだ。
――マリアンはその事実に気付いている。いつもの騎士王なら、ハンデを与えていることだろう。今だって目を閉じたのをレイディアは見抜けない。
しかしそれは、相手が望んでいたらの話だ。
レイディアのように、真剣勝負を望む者には全力で応えるのが騎士道と言うもの。たとえ、力の差が広がってしまおうと、マリアンは迷わず相手を己の全身全霊で斬り伏せる。
それこそが、騎士王であるマリアンの騎士道なのだ。
「はぁー。なあ、マリアン。お主は何故、剣を振るうんだ?」
「決まっておろう、守るべき民のためだ」
「即答か、まぁ、お主なら当たり前か。いやなに、こんな質問をしたのは、カケルにあることを訊かれたからでな。“僕たちはどうしてこの世界に来てしまったのでしょうか”って」
刀を鞘に納めながら更に続けた。
「私はもちろんはぐらかした。答えは自分で導き出すものだと……。恐らくこの疑問は、異世界からの転移者なら自然と抱くものだろう。当然私もその中の一人だ。確かに我々異世界人は世界に大きな影響を与えてしまう。本人の意図していようといなくともだ」
「即ち、そのような異端者を誰がこの世界に招いたか、であろう?」
その通り、と言わんばかりに指を鳴らしてグッジョブポーズのレイディア。さすがのマリアンもそんな姿を見せられては口角が上がる。
「だから、この戦争を裏で操っている者こそが黒幕だと私は考えている。ラスボスは――皇帝とは別にいる、とな。さすがの私とて目的まではわからんが……この世界の住人では成し得ないが故に異世界人が呼ばれた、だな」
「面白い推測だった。最期の語りとしては充分すぎるほどに」
「お褒めいただき光栄だ。さてと、私はまだまだ戦えるが、お主はどうか?」
レイディアの言葉にふっ、と笑った。
「失礼した。言葉を返そう、愚問だと。わたしは貴様を斬るまで倒れぬとも」
「そうこなくては面白くないってもんよ」
ニヤりと笑うレイディア。
微笑みを浮かぶマリアン。
「天帝騎士団、天帝の使いが一人、騎士王――マリアン・クロノス・イグルス」
「……レイディア・ドルフェギア・オーディン」
レイディアが名乗るはある血筋の名前。約束の証。
頭を過るは過去の出来事なれど、片時も忘れたことが無い――惨劇。
ーーーーーーー
レイディア村にて、時刻は真夜中である。
「あれからもう、二年近く経つんだよな。……早いもんだよ」
レイディア・オーディン。初めは咄嗟に考えて名乗った仮初めのものだったが、今では大切な名前になっている。
レイディア・D・オーディンとして生きる。ここはそう決めた場所だ。
私が約束を守れなかった場所。でも、皮肉なことに力を手に入れるきっかけになった。あの時、ここで失わなければ、私はこうして過去を振り返ることはできなかっただろう。
「イリーナ・ヴィ・ドルフェギア」
彼女は戦闘能力が人間としての領域を越えている血筋、ドルフェギア家本家の唯一の生き残りだった。
――ドルフェギア家の血筋は生まれつき人間としての全能力が高く、所謂天才が当然のように生まれる一家だった。特徴的なのは月のように綺麗な銀色の髪をしていることだ。
しかし、いかに能力が優れていても、数の暴力には勝てずにそのほとんどが奴隷にするために派遣された各国の騎士たちによって捕らえらた。
反乱した者は見せしめに殺されたり、拷問されたりと服従させるためならどんな方法も使われたと言う。
そんな扱いを受けて長く生き残れるはずもなく、ドルフェギア家の血筋の者は年を重ねるにつれて数を減らしていった。
どうもドルフェギア家の血筋同士でなければ、能力は人並みになってしまうらしく、その血が薄まる混血などは普通の子どもとして生まれた。
故に国によっては、親や兄弟と子どもを作らされたりしたらしい。
今ではドルフェギア家の血筋の者は生き残っていない、つまり絶滅したとされている。が、密かに隠し持っていたり、人が寄り付かないような場所でひっそりと暮らしていたりと、生き残りは確かにいる。
だが、ドルフェギア家本家。言うなれば一番才能に恵まれる血筋の生き残りはイリーナだけだった。
「私のお嫁さんになるって、よくシルフィと言い合いになってたっけ。譲らないだの何だの……私を放って、好き勝手言ってくれたもんだぜ」
幾つもの墓を見ながら、もう戻らない日々を思い出していた。
ここは私が、他国から奴隷として売られていた者たちを集め、住まわせていた村だ。その中にはまだ年若い子どもたちもいた。
だからまっとうな生き方ができるようにと、みんなの居場所になれば良いとこの村を作ったんだ。
最初は国から物資を送ってもらったが、途中からは自給自足でなんとかなるようになっていった。
「楽しかったな……。“平和”ってのはこういう日々のことを言うんだなって思ったよ。汗水垂らして食べ物を育てて、時に稽古して、採ったものを料理して食べる。そして寝る。ずっと続くと思っていたんだよ」
そんな甘い考えなど、叶わないものだと思い知らされた。この村が襲撃され、皆殺しにされた時に。
こんなことなら、私がずっとこの村にいればよかった。
いや……こんなことなら、村なんて作らなければよかった。
こんなことなら……私は、希望を持たせることなんてしなければよかった。
そう思った。それを口にしたら、ソフィに思い切りビンタされたよ。すげー痛かった、首が折れるかと思った。ズペシィンッて盛大な音だったのを今でも覚えてる。
「――あなたは、この子たちに“生きる”ことを教えた。それをあなたが否定してどうするのっ! そんなこと、この子たちが懸命に、ここで生きようとしたことが無意味だったってことになるじゃない! それは絶対に許さない!」
初めてだった。ソフィがあんなに怒るのを見たのは。ソフィにあんなに怒られたのは、あれが初めてだったんだ。
思えば、怒られたのはあの一度きり。
あれからかなりの無茶をしてきたが、怒ることは決してなかった。
今ならわかる。涙を必死に堪えながら、私を勇気づけようとしてくれた優しさが、強さが手を差し伸べてくれたんだって。
なのに私はその手を取ることはできなかった。勇気が……無かったんだ。
だから私は復讐に捕らわれてその場を後にした。
戻った時には、アイバルテイク団長にものすごく怒られたっけ……。ついでにヴァンにも。あー、いや、騎士団員全員に怒られた気が……まぁおかげで、それだけのことをしたんだって思い知れたよ。
――結局ソフィの提案で、もう一度村を作ることにした。
今度は護衛もしっかりして、以前よりかは色々とうまくやっているはずだ。
それでも覚悟はしているし、村のみんなにも伝えてある。「何が起こるかはわからない」と。
そしたら「そんなの当たり前だよ」って返ってきた。確かにそうだなと私の方が納得させてもらった。なんせ彼らは、私なんかでは想像ができないほどの今まで過酷で大変な環境だったのだろうから。
何が起こるかなんて、わからないんだ。だからその時その時を大切にするんだ。
一人でニヤけていると、後ろから足音が聞こえた。
ここに来る人物は決まっている。と言っても可能性は二つあるんだけど……。
魔力で誰なのかすぐにわかった。
「――シルフィ。眠れなかったのか?」
背中を向けたまま話しかける。だいたい予想はついているがね。
理由は別にある。と言っても大したものじゃない。ただ、視界がぼやけて見えるだけだ。
「……眠れないからって、ここまでは来ません」
「あははぁ……」
確かにその通りだ。
私のような物好きで無ければ来ないだろうな……。と言うことは、私に何かあるわけか。
戦いについてではないだろうし、別の何かか……?
なんて、少し調子に乗ってみると、
「お兄さまは、その――どうして泣かないのですか?」
予想だにしない発言に目を見開いた。
シルフィがそんな言い回しをしたことではない。それを言ったこと自体にだ。
「何のことかわからんな。これでも私は感動ものに弱いのだよ?」
「すぐそうやって誤魔化します……」
頬を膨らますシルフィには悪いが、可愛いと思ってしまうのは仕方ないことだろう。
つついても良いかな……うん、確実に怒られるな。
「お兄さまと初めて会ったあの日。わたしに泣いても良いと言ってくれたあの日。お兄さまがわたしのお兄さまになってくれたあの日。わたしは救われたんです。だから、あの日のお兄さまのようにしてみたいと思います」
唖然とする私を差し置いて、シルフィは微笑みを浮かべて両手を広げる。
「良いのか? その先を言ってしまっては、後戻りはできんぞ」
「ふっふー、愚問ですよ、お兄さま」
ドヤ顔のシルフィ。私は妹であるシルフィが何を言おうとしているかは、簡単に察することができた。だからこそ止めようとしたのだが……必要無かった、余計なお世話だったようだ。
そして、再び優しい微笑みを浮かべて、今度こそ続きの言葉を紡いだ。
「――泣いて良いですよ。わたしが許します」
ああ……私はこの言葉を待っていたんだ。ずっと誰かに言ってほしかった。守ることができなかった私には泣く資格など無いと馬鹿みたいに決めつけて、圧し殺して圧し殺して圧し殺して……それでも耐えきれないがためにここに来ていた。
そんな私に許しを、シルフィは与えてくれた。
恥も何もかもをかなぐり捨てて、私は涙を流した。
失った悲しみを、守れなかった後悔を、二度と見ることの叶わない笑顔を胸に刻みながら、私の声は夜空に浮かぶ光に満ちた月へと捧げられた――。
一時間近く泣いていれば、さすがに村の子どもたちにバレてしまい、目を張らしているのを夜の暗さに隠しつつ、シルフィと一緒に誘われるまま眠りについた。
眠る前にシルフィがこっそりと話しかけてきた。
「イリーナちゃんが言っていた約束、覚えてますか?」
「約束……あの――結婚してレイディアには“ドルフェギア”って名乗ってもらうんだ、ってやつだな」
「その……結婚を許したわけではありませんが、名乗るくらいなら、えと、良いかなーと」
指をもじもじさせながら、更には顔を赤くして言うシルフィに微笑みを返す。
「名案だ。だがそれは少し先になってしまうけど、良いか?」
「決めるのはわたしではなく、お兄さまです。何か考えがあってのことでしょうし」
「さすがは我が妹よ、賢くてよろしいっ……しかしあれだな、遠いな」
村で一番大きな家。ここはみんなで一緒に寝る用の家である。
二人の左右には子どもたちが抱きついている影響で、距離ができてしまっているわけだ。
撫でたいのに残念ながら手が届きません。
まぁ、子どもたちを振り払うわけにはいかないから、起きたら撫でるとしようではないか。
と夜の帳に身を任せて、夢の中へと誘われるのだった。